また、改正農地法施行後の2222法人の内訳を見ると、業務形態別では、食品関連企業が22%と参入比率が、農業・畜産業に次いで高く、営農作物別では、野菜への参入が42%を占める状況となっている(図1、図2)。
食品関連産業の農業参入として、平成15年には株式会社阪急百貨店(現株式会社阪急阪神百貨店)、20年には株式会社セブン&アイホールディングス、株式会社東急ストア、21年にはイオン株式会社、22年には株式会社ローソンなどの大手小売業が参入している。
一方、食品関連産業のうち外食企業では、平成14年にワタミ株式会社(以下「ワタミ(株)」という)が、19年に株式会社モスフードサービスが参入したほか、株式会社リンガーハット、株式会社モンテローザ、株式会社吉野家、株式会社サイゼリヤ、株式会社ラムラ、株式会社エーピーカンパニーなどの外食企業の参入が相次いでいる。
本稿では、居酒屋業界の現状などを踏まえた後、外食産業界で比較的初期段階で農業への参入を実施し、農場を所有したワタミ(株)の野菜調達の現状などについて報告する。
2 居酒屋業界の現状
(1)市場規模
公益財団法人食の安全・安心財団(以下「(公財)食の安全・安心財団」という)の附属機関である外食産業総合調査研究センターが推計した平成27年の外食産業市場規模は、前年より2.2%増加し、25兆1816億円となった。そのうち、「居酒屋・ビヤホール」を見ると、前年より2.8%増加し1兆672億円となっており、外食産業全体の4.2%の割合となっている。
図3で「居酒屋・ビヤホール」の市場規模の推移を元年から見ると、売上高のピークは、4年の1兆4629億円であり、その後しばらくは1兆4000億円台であったが、10年は1兆3911億円と1兆3000億円台に、翌年の11年には1兆2884億円と1兆2000億円台、13年は1兆1883億円と1兆1000億円台、10年は1兆899億円と以降22年までは1兆円台で推移し、東日本大震災後の23年は9928億円、24年は9780億円と、1兆円の大台を下回り長期低落傾向となっていたが、25年には再び1兆円台に戻り27年は1兆672億円と、ここ3年間は、前年実績を上回って推移している。
前述したように、居酒屋の市場規模は、平成24年の9780億円を底に3年連続拡大基調となっているが、4年のピーク時からは、約27%、4000億円の縮小となっており、チェーン居酒屋企業や幅広いメニューを提供する総合居酒屋を中心にして低迷している。
要因としては、まずは人口構成が変化し、居酒屋業界を支えてきた団塊の世代が65歳以上となったこと、そして、人口が減少していることである。団塊の世代は居酒屋を含む外食産業自体が拡大してきた要因でもあった。その団塊の世代が65歳以上になったことで大きなマーケットを失ったことが大きい。また、若年層のアルコール離れも影響している。
次に飲酒のシーンが多様化したことである。最近ブームとなっている「ちょい飲み」や「宅飲み」に代表されるように従来、食事主体の外食企業がアルコールを提供することやつまみをコンビニで購入したり、宅配で注文し自宅で飲酒するといったように、消費者の飲酒シーンが多様化していることなどが挙げられる。
このような状況を踏まえて、従来、居酒屋中心に展開していた企業が、M&Aにより居酒屋以外の業種・業態を取り込むことで、グループ全体としてアルコール主体から食事主体にシフトしている例も出てきている。
一方で、提供メニューを絞り込んだり、メニューや食材の物語性を消費者に訴求し、注目されている居酒屋も出てきており、居酒屋業界で企業間格差が出てきている。
(2)野菜仕入額の推計
外食産業では、売上高に占める食材仕入額の割合(食材率)は、経験則で平均30~35%といわれている。すなわち、食材率を高くすると客は増加するが利益が取れなくなり、逆に低くすると、食材の質が悪くなり客が来なくなる。
その食材率を最も低い30%と仮定した場合の27年の外食産業全体の食材仕入額は、7兆5545億円(25兆1816億円×0.3)と推計できる。農林水産省の「外食産業原材料需要構造調査」によると、食材仕入額のうち、「野菜・その加工品」の割合は11.7%であることから、外食産業全体の野菜仕入額は8839億円(7兆5545億円×0.117)と推計できる。
では、居酒屋の野菜仕入額はどのようになっているのか推計すると、食材率は前述した30%と仮定した場合、平成27年の居酒屋・ビヤホールの市場規模が1兆672億円であることから、居酒屋・ビヤホールの食材仕入額は3202億円となる。そのうち野菜の仕入額割合は聞き取り調査により約8.5%ほどであったことから、居酒屋・ビヤホールの野菜仕入額は最も低く見積もって272億円と推計される。
3 農業生産法人 有限会社ワタミファームの概要と事業内容
(1)ワタミグループ
ワタミ(株)は、「和民」など、居酒屋業態を中心に展開する外食企業である、平成4年に1号店となる「和民」を東京都渋谷に出店して以来、最近では、「ニッポンまぐろ漁業団」や焼き鳥に特化した「三代目鳥メロ」、旨唐揚げと居酒メシ「ミライザカ」といったある程度、メニューに専門性を持たせた業態も出店している。全体として、国内で18業種・業態、海外で「Watami Japanese Dining」など6業種・業態を展開している。
同社は、以上のような居酒屋を中心とした外食事業のほかに、宅食事業、農業・環境事業の4本立てでワタミグループを形成している(図4)。
以下、同社の農業部門を中心に報告を行う。
(2)農業生産法人 有限会社ワタミファームの概要
ワタミグループの農業部門を担っているのがワタミ(株)の完全子会社である農業生産法人 有限会社ワタミファーム(以下「ワタミファーム」という)である。
ワタミファームを設立する前は、北海道の帯広大正農業協同組合との契約栽培で野菜などを調達し、社員も派遣して農業研修の場としていた。
しかし、平成15年の構造改革特別区域法による規制緩和を見越し、14年4月にワタミファームを設立し、千葉県山武市に山武農場を開設、翌年9月には農業生産法人として認可された。外食産業界での自社農場の保有は、ワタミ(株)が先駆的であった。
ワタミファームは、「消費者に安全で安心できる食材を提供したい」という理念のもと、有機・特別栽培農産物(注)の生産・販売を行っている(写真1)。
ワタミ(株)は、農業生産のワタミファーム、食品加工としての手づくり厨房、食事の提供とサービスの外食・中食といった1次産業から3次産業までの6次産業化モデルを構築している。そしてその外側に廃棄物の再利用や食品リサイクル、森林再生事業と環境作りまでを考えた中でワタミファームを位置付けている(写真2)。
ワタミフアームは、山武農場、佐原農場、育苗センター、北総集荷センターと全国の牧場・農場を統括する千葉北総地区の千葉統括農場を中心に、事業提携や経営サポートの農場を含めると全部で12カ所で生産を行っている(図5、表2)。
注:有機農産物は、農薬や化学肥料などの化学物質に頼らず、自然界の力で生産された農産物。特別栽培農産物は、その地域で行われている慣行レベルと比較して、農薬・化学肥料の使用回数が50%以下で栽培された農産物。以下、ここでは野菜を中心に述べるので有機野菜・特別栽培野菜という。
農業部門は、ワタミファームの25名の社員が携わっている。農業部門は、平成28年3月期の農業部門の売上高が10億8500万円となっており、従来介護部門にも食材として野菜を供給していたが平成27年に介護部門を売却し、その介護部門への供給がなくなったことで、大幅に減少している。ただし、今後は、宅食部門への提供などで売上高が拡大する要素もある。
農地は、自己所有とリース方式(耕作放棄地の借り上げなど)で利用している。リース方式の場合、所有者との交渉が10年単位でかかったり、土地を集約して借りられず飛び地になってしまうなどの苦労があるとのことである。
野菜の生産は、ワタミファームのみならず、農家との契約栽培を行っている。契約栽培は、ワタミファームが設立される前の、10年のワタミ(株)での特別栽培野菜の導入時から始まった。ワタミファーム独自の生産は100%有機栽培、契約栽培は、有機野菜または、特別栽培野菜の生産となっている。
契約に関しては、以前は作付計画に関する文書を各農家と取り交わしていたが、現在は口頭での約束事になっている。また、野菜の購入金額は、有機野菜と特別栽培野菜とで差をつけているが、文書を交わさず口頭での約束事になっている。千葉北総地区の場合、現在契約しているのは120~130人で、農家とは信頼関係で結ばれている部分が多いという。
(3)ワタミファームのポジショニングと役割
ワタミファームや契約農家で生産された野菜の集荷、配送は、ワタミグループ企業一覧で環境活動を担うワタミファーム&エナジー株式会社(以下「ワタミファーム&エナジー(株)」という)が行っている。ワタミファームが納入した野菜だけではワタミグループ全体の需要を確保できないため、ワタミファーム&エナジー(株)は、JAや市場などから調達する。ワタミファームからの納入量は全体の約40%で、残りの60%は、JAや市場から調達しているとのことである(図6)。
ワタミファーム&エナジー(株)は、各店舗の営業が終了した午前2時から午前5時ごろまで発注を受け付け、その日の午後3時までに店舗に届くように、ワタミ手づくり厨房(集中仕込みセンター・製造工場)に野菜を供給する。また、一部であるが、量販店などにも外販している。
ワタミグループの食材調達において、ワタミファームは、JAや市場と同じポジショニングになっており、せっかく、有機野菜を生産してもワタミファーム&エナジー(株)の時点でJAや市場からの慣行野菜と混合してしまい付加価値が取れない場合も出てきている。これは、メニュー展開は、全国またはブロックなどの単位であり、メニューで差別化するだけの有機野菜や特別栽培野菜を調達できないためである。
ただし、有機野菜や特別栽培野菜に特化したメニューを提供したい場合などでは、ワタミの手づくり厨房からワタミファームに対して逆に注文が入る場合がある。今まで、提供したメニューとしては、葉物野菜を多く使うごちそうシーザーサラダなどの例がある。
平成28年12月で国内のワタミグループの国内外食店舗での野菜使用量のうち有機野菜や特別栽培野菜の使用割合は、きゅうり、だいこん、ベビーリーフ、長ねぎ、みずな、かんしょ、はくさい、たまねぎが100%で大葉が54%、リーフレタスが49%となっている(図7)。また、ワタミグループの有機野菜や特別栽培野菜の仕入量比率は、図8の通りである。ワタミで使用する有機野菜や特別栽培野菜は、すべてワタミファームと契約農家から調達されている。
ワタミファームとしては、今後、外食部門だけでなく、成長が期待される宅食部門での有機野菜や特別栽培野菜の使用を考えているようである。
4 まとめ
以上のように、自社農場所有の外食企業の野菜調達の現状をワタミファームを中心にみてきた。
ワタミ(株)は、なぜ、農場を持ち有機野菜の栽培を始めたのか。
「お客様においしくて、安全で安心な料理を食べていただきたい、そのため野菜は有機野菜にしたい」という考え方と、「将来の農業のあり方」への模索が根底にあったからという。平成12年当時、有機野菜は国内野菜生産の0.17%にすぎなかったこともあり、有機野菜の市場が成立していない状況では、取引コストから考えても自社での内製化、すなわち自社農場を所有することが必要となっていた。
また、ワタミ(株)は、農業生産のワタミファーム、食品加工としての手づくり厨房、食事の提供とサービスの外食・中食といった1次産業から3次産業までの6次産業化モデルを構築している。そしてその外側に廃棄物の再利用や食品リサイクル、森林再生事業と環境作りまでを考えた中での自社農場所有となっているといえる。
今回のヒアリングで、担当者は、自社農場のメリットは、食料を作っているという安心感や食料が確保できる強みがあるという。ワタミファームでは、一般の方の農業体験や食育教育のほか、社員の農業研修
の受け入れなどを含め農場見学者は年間600人になるという。このような地道な活動が消費者や利用者の安全安心につながっているものと思われる。
野菜の生産拡大を進めていくためには、自社所有農場の場合、単収を上げるか、農地を拡大するかである。農地を拡大していくためには、農家からの貸借がスムーズにいく必要があるが、今回のヒアリングでも耕作放棄地でも貸借するためには長い年月がかかる場合があることが確認された。それを解決する方法は農家との信頼関係の構築が重要であるといえる。
ワタミ(株)は、売上高が低迷した時期であってもワタミファームを経営し続けてきた。農場所有にリスクがある中、農業の将来や理想的な農業を考えての理念から生まれたものと考えられ、最終的には「利用していただく消費者のため」のほかに「将来の農業のあり方」のモデルづくりも考えたものであるように思われる。
最後に、お忙しい中、調整と現地を案内いただいたワタミ(株)広報・CSR部担当課長 菅則勝氏、現地でのヒアリングに対応いただいたワタミファーム&エナジー株式会社WF仕入統括 小熊康智氏、有限会社ワタミファーム千葉統括農場長 岡田拓也氏に御礼申し上げる次第である。
参考資料
(1) ワタミグループ ホームページ https://www.watami.co.jp/
(2) Watami Corporate Profile 2016(ワタミ株式会社 会社案内2016)