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調査・報告(野菜情報 2017年2月号)


野菜の消費行動から見えるもの~2016年野菜・果物の消費行動に関する調査結果の概要~

一般社団法人JC総研 経営相談部 主任研究員 青柳 靖元

要約

 一般社団法人JC総研では2016年12月、「2016年野菜・果物の消費行動に関する調査」(全国2217名を対象に7月下旬に実施したWeb調査)の分析結果を公表した。
 「野菜・果物を食べる頻度が減少したこと」と「鮮度・国産・旬より、低価格志向が強まったこと」が大きな特徴であったが、野菜については『毎日(ほぼ毎食+ほぼ毎日食べる)』が59.4%(前回60.9%)と初めて6割を切り、特に40代で『毎日』が大きく減少したことは、働き盛りの世代であるがゆえに気掛かりな傾向となった。
 2016年秋には天候不順により野菜価格が高騰したが、調査時点ではその影響は見られなかった。

1 はじめに

野菜は、健康な食生活を営むために必要不可欠な食べ物であることに異論を唱える人は少ないであろう。野菜を食べる(消費する)ことで、がん、脳卒中、心臓病などの生活習慣病のリスクが低下することは、広く知られている。

例えば、ほうれんそう、こまつな、にんじん、ピーマンなどの緑黄色野菜に含まれるビタミンはがん予防に効果があるとされ、ごぼう、だいこんなどの淡色野菜に多く含まれる食物繊維は便秘や大腸がんに予防効果があると言われる。さまざまな疾病を予防し、健康を維持・増進するためにも、多種多様な野菜を組み合わせ、毎日・毎食十分に摂取することが欠かせない。ところが、実態はどうであろうか。以下で述べる通り、野菜の消費は減少傾向を続けている。

一般社団法人JC総研(以下「JC総研」という)では、2009年以降「野菜・果物の消費行動に関する調査結果」を毎年公表してきた。本稿では2016年の調査結果から、野菜に焦点を当てて主要なポイントを紹介する。なお、表に2015年以降の属性・年齢層別の調査数を示した。

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2 野菜の摂食頻度:減少傾向続く、特に単身男性と40代で大きく減少

は、野菜を食べる頻度(手作りの野菜ジュース含む。摂食頻度)について尋ねたものである。トータルでは、『毎日』(「ほぼ毎食」+「ほぼ毎日」)は、59.4(前回60.9)と前回(2015年)調査に続き減少して割以下となり、「週に日未満食べない」は14.4(同13.8)と微増した。属性別に見ると、単身女性は『毎日』が50.7(同51.8)と減少し、「週に日未満/食べない」は17.3(同16.3)と増加した。単身男性は、『毎日』が31.7(同36.9)と大きく減少し、「週に1日未満/食べない」は22.5(同22.4)と微増した。

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年齢層別では、20代以下は『毎日』が35.0(同35.2)と微減にとどまり、「週に1日未満/食べない」も18.8(同23.5)と減少した(図2)。また、40代は『毎日』が49.9(同59.1)と大きく減少し、70代以上も74.3(同75.3)と減少した。一方、30代・50代の『毎日』は、それぞれ49.3(同47.8)・56.9(同55.6)と増加したが、『毎日』は年齢層が上がるにつれて高まる傾向がうかがえる。

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3 市販のカット野菜を食べる頻度:サラダ用、料理用ともに男性層とすべての年齢層で増加

は、市販のサラダ用カット野菜を食べる頻度(摂食頻度)について尋ねたものである。トータルでは『週に日以上』 (「ほぼ毎日」+「週に4~5日」+「週に2~3日」+「週に日」)が28.8(前回25.6)と増加した。逆に「全く食べない」は41.1(同45.0)と減少した。属性別には、『週に日以上』が既婚男性で34.6(同29.2)、単身男性で38.5(同32.2)と大きく増加した。年齢層別では、すべての年齢層で『週に日以上』が増加し、特に70代以上は26.0(同19.2)と大きく増加した。

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市販の料理用カット野菜は、トータルでは『週に日以上』が21.3(同18.3)と増加したものの、サラダ用に比べて摂食頻度は少ない(図)。属性別では、『週に日以上』がすべての属性で増加し、特に単身男性で30.3(同19.2)と大きく増加した。年齢層別では、『週に日以上』がすべての年齢層で増加し、特に50代は24.5(同17.6)と大きく増加した。サラダ用、料理用ともに、男性層とすべての年齢層で摂食頻度の増加が目立つ結果となった。

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4 野菜を食べる量や頻度に対する満足度:既婚女性は、満足度減少

野菜を食べる(摂食)量や頻度に対する満足度について尋ねた。

の通り、野菜はトータルで「満足」と「まあ満足」を合わせると、63.9(前回63.7)と微増した。属性別では、「満足」と「まあ満足」を合わせると、既婚女性で64.1(同67.2)と減少した以外、既婚男性71.8(同69.3)、単身女性47.5(同41.7)、単身男性46.6(同44.9)と、いずれも増加した。

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一方、野菜を「もう少しもっといっぱい食べたい・食べる必要がある」は、トータルで36.0(同36.3)と微減した。属性別では、「もう少しもっといっぱい食べたい・食べる必要がある」は、既婚女性のみ36.0(同32.7)と増加した。

今回調査の特徴点としては、唯一、既婚女性の満足度が減少したことが挙げられる。

5 野菜を食べる量・頻度増加の条件:「価格が安くなれば」が大きく減少

野菜を「もう少しもっといっぱい食べたい・食べる必要がある」と回答した人に、どういうきっかけがあれば食べる量や頻度が増加するかについて尋ねた。

の通り、トータル上位位の順位は前回と変わらないが、トップの「生鮮野菜の価格が安くなれば」は46.4(前回52.0)と大きく減少した。属性別では、既婚女性で53.4(同66.8)と13.4ポイントも大きく減少したのをはじめ、すべての属性で減少した。

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月下旬の調査時点においては野菜の価格が安定しており(注、高くなかったことが影響したのであろうか。位の「手間をかけずにいっぱい食べられるレシピが分かれば」は、トータルで27.9(同26.7)と増加したが、単身男性のみ11.7(同15.5)と減少した。位の「自分の食習慣が変われば」は、トータルで24.8(同24.3)と微増したが、単身男性のみ19.8(同38.8)と19.0ポイントもの大幅減となった。

注1:主要卸売市場の野菜(総量)前年同旬比価格は、7月上旬101%、7月中旬96%、7月下旬92%、8月上旬90%、8月中旬87%(農水省調べ)。

6 「野菜不足」を感じる程度:『野菜不足(不足気味)』が5割を超え増加

は、日ごろの食生活の中で「野菜不足」を感じる程度について尋ねたものである。トータルでは、「野菜不足だと思う」が14.8(前回14.4)と微増し、「野菜は不足気味だと思う」も36.6(同36.0%)と微増した。両者を合わせた『野菜不足(不足気味)』は、依然として割を超え増加している。属性別では、『野菜不足(不足気味)』は、単身女性で63.0(同65.9)と減少した以外、ほかの属性では増加した。特に、単身男性は69.7(同65.8)とポイントが一番高い。一方、「野菜不足ではない」「野菜は不足していない方」を合わせたポイントは、既婚層が単身層に比べて高い傾向にある。既婚層の方が単身層に比べて野菜をたくさん食べている、ということであろうか。

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は、年齢層別に見たものである。『野菜不足(不足気味)』は、50代は57.5(同58.7)と減少、60代も39.2(同44.5)と大きく減少した。一方、20代以下は75.0(同74.1)、30代は66.3(同61.6)、40代は63.3(同59.9)、70代以上は33.3(同29.3)と、『野菜不足(不足気味)』が増加した。総じて言えば、20代以下から40代のいわば「育ち盛り・働き盛り世代」の『野菜不足(不足気味)』が気掛かりである。

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7 「野菜不足」の解消方法:「家庭の食事で量を多くしたい」が約4割に増加し、群を抜きトップ

は、「野菜不足だと思う」「野菜は不足気味だと思う」と回答した人に、不足をどのように解消したいかを尋ねたものである。トータルでは、「家庭の食事で野菜料理や使用する野菜の量を多くしたい」が39.0(前回37.8)と増加し、群を抜きトップを保った。位は「市販の野菜ジュース等を飲むようにしたい」で16.2(同18.9)と減少したが、特に単身男性は13.8(同22.0)と大きく減少した。位の「カット野菜をもっと利用するようにしたい」は12.1(同10.8)と、じわりと増加した。一方、「サプリメント(主にビタミン類)を飲むようにしたい」は8.5(同8.9)と微減し、特に単身男性は13.1(同20.3)と大きく減少した。

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また、「対処の必要性は感じるが、特に何もしないと思う」は26.1(同25.3)と増加した。

8 野菜の買い物1回当たりの購入金額:5割以上が『500円以下』で増加、1回当たりの平均購入金額は30円ダウン

は、野菜の買い物回当たりの購入金額を尋ねて得た具体的な金額を、つの区分に割り振ったものである。ここでいう「野菜」とは、カット野菜も含んでいる。トータルでは、位「301500円」32.5(前回30.4)、位「8011000円」22.3(同22.3)、位「300円以下」19.9(同20.4)と、順位は前回と変わらない。割以上が『500円以下』(「301500円」+「300円以下」)で、52.4(同50.8)と増加した。一方、『1001円以上(「10011500円」+「15012000円」+「2001円以上」)』は、13.7(同16.6)と減少した。

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属性別では『500円以下』が、既婚男性で46.9(同49.3)と減少した以外、すべての属性で増加し、既婚女性48.2(同45.0)、単身女性67.3(同63.4)、単身男性73.8(同72.8)となった。これは、低価格志向が依然として続いていることの証左であろうか。

は、野菜の買い物1回当たりの平均購入金額(すべての回答者の金額を合計し、回答者数で割った値)を示したものである。トータルでは802円(同832円)で30円ダウンした。属性別にも全属性で減少し、既婚女性は858円(同884円)で26円ダウン、既婚男性は869円(同903円)で34円ダウン、単身女性は638円(同681円)で43円ダウン、単身男性は495円(同510円)で15円ダウンとなった。

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9 野菜購入時の重視点:「販売単価が安い」が前回同率、「鮮度がよい」 「国産品である」が減少

図10は、野菜を購入する際に重視している点を尋ね、年次別に示したものである。トータルでは、前回に続き位は「鮮度がよい」で61.4(前回61.9)と微減し、位は「販売単価が安い」で53.5(同53.5)と前回同率、位は「国産品である」で35.1(同38.6)と減少した。「国産品である」は2014年以降減少し、国産品へのこだわりが薄れつつあるのが気掛かりである。次いで、位「旬のもの」は30.7(同28.8)、位「特売で安い」は30.6(同28.1)と、それぞれ増加した。以降、位「味・食味がよい」は20.4(同18.4)、位「ちょうど良い量」は16.0(同15.4)、位「見た目がきれい、形が整っている」は13.4(同12.7)と、いずれもポイントが増加した。

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図11は、年齢層別に見たものである。「鮮度がよい」は、年齢層が上がるにつれてポイントが高くなった。「販売単価が安い」は、50代以上で前回を上回った。「国産品である」は、70代以上では50.9(同48.8)と増加したが、60代42.8(同43.7)、50代31.7(同35.7)と減少した。さらには、40代25.9(同35.7)、30代20.5(同26.4)、20代以下15.3(同25.8)と年齢層が下がるにつれて大きく減少した。換言すれば、若い世代ほど国産品へのこだわりが少ないという結果となった。

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10 機能性野菜の購入経験と購入意向価格:「購入したことがある」が約1割に増加

図12は、機能性野菜(注の購入経験の有無について尋ねたものである。トータルでは「購入したことがある」は9.8(前回6.8)と増加した。「全く知らない」は37.2(同39.8)と減少、「名前を聞いたことがある程度」は41.5(同40.6)と増加するなど、認知度は少し向上したと思われる。属性別では、「購入したことがある」は全属性で増加したが、既婚女性13.2(同9.3)、単身女性13.2(同9.1)と、女性層でポイントが高い。

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図13は、購入意向価格について属性別・年齢層別に尋ねたものである。トータルでトップの「通常の野菜と同程度の価格なら買う」は43.9(同42.7)と増加した。一方、『通常の野菜に対して、割以上(1~2割、3~4割、割以上の合計)高くても買う』は18.2(同17.7)と微増した。年齢層別には、20代以下で『割以上高くても買う』が23.9(同18.5)と大きく増加した点が注目されるが、付加価値がつけば多少高くても購入する意思があるということであろうか。

注2:機能性野菜とは、本来は全く含まれない、もしくは微量にしか含まない成分を何らかの技術を用いて増やすなど改良し、機能性を高めた野菜。例えば、高リコピンのトマト、β-カロテンのにんじんなどがある。

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11 おわりに

今回調査した2016年月下旬は、秋口以降から年末にかけての全国的な野菜の小売価格高騰期ではなかったにもかかわらず、健康を維持する食生活に欠かせない野菜を購入する頻度が減少し、特に40代の働き盛り世代で10ポイントも減少したことは気になる傾向である。野菜を食べる量や頻度が少なくてもそれなりに満足し、「もっと食べたい食べる必要がある」とはならない消極的な消費者像が浮かび上がる。

それでも、野菜不足を感じる程度に関する設問では、『野菜不足(不足気味)』と回答した人が割を超えて増加した。また、野菜購入時の重視点を問う設問では、鮮度・国産以上に販売単価の安さを求める人が増加し、「家庭の食事で量を多くしたい」が4割近くに増加するなど、生活防衛意識の表れだろうか、低価格志向が強まる状況がうかがえる。

現状では、機能性野菜の購入は約割、通常の野菜より高くても買うと回答した人は割弱にとどまったが、機能性野菜の認知度と購入経験はじわりと増加している。健康の維持・増進を主な目的の一つとしてスタートした機能性表示食品(注制度(2015年月)が注目されるが、これを消費拡大のチャンスと捉える産地が出始めたことは、生産者サイドに立てば朗報である。野菜ではないが、2015年月に静岡県のJAみっかびが「三ヶ日みかん(β-クリプトキサンチンを含む)が骨の健康保持に役立つ」として、消費者庁に機能性表示食品の申請を行い受理された。これは、同時に受理された株式会社サラダコスモの「大豆イソフラボン子大豆もやし」とともにわが国の生鮮食品では初めてのケースである。

一方、生鮮野菜の代替としてカット野菜や100野菜ジュースなどを利用する簡便化志向は、依然として進んでいる。食生活が多様化し、億総活躍社会が期待され、女性活躍推進法が施行(2016年月)された今日、この傾向は当分止まらないだろう。

とはいえ、家庭の食事で野菜の使用量を多くしたいとする生活者(消費者)がさらに増え、さまざまな野菜の価値が見直されることを期待したい。鮮度の良い野菜を「毎食・毎日」食べて健康家族を築き、健康長寿社会に貢献する基礎食品としての存在価値をさらに高めたいものである。

注3:機能性表示食品は、安全性の確保を前提として科学的根拠に基づいた機能性が事業者責任(消費者庁への届出制)で表示できる。588件の受理件数(2016年12月現在)のうち、生鮮食品は5件(みかん2件、大豆もやし3件)にとどまる。



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