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〔特集〕野菜農業における担い手の育成・確保に向けた取り組み(野菜情報 2016年12月号)


長野県の里親支援制度による新規就農者の定着支援

長野県農政部農村振興課
担い手育成係 原 啓一郎

要約

 長野県では、農家子弟以外の新規就農者(新規参入者)の独立自営就農を支援するため、里親として登録された農業者が技術習得だけでなく、地域への紹介や農地・住宅・中古機械の確保、就農後の相談役としての応援を行う新規就農里親支援事業を平成15年度から行っている。平成27年度までに466人がこの制度を使って研修を開始し、これまでに332人が夢の実現に向けて就農している。

 長野県農業の概況

本県は雄大な山岳、豊かな森林や清らかな水、南北の広がりと標高差といった変化に富んだ気象条件を有しており、この豊かな自然環境を生かして園芸品目を基幹として多様な品目がバランスよく生産され、農畜産物の総合供給基地としての役割を果たすとともに、農業は地域の基幹産業としても貢献してきた。

平成26年度の農業産出額は2820億円で、そのうち野菜が848億円で約30.1、果樹が544億円で約19.3、花きやきのこ類を含めると72.1が園芸品目である(図)。

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本県農業を支える担い手については、高齢化と減少が続いており、新たな担い手の確保と育成が急務となっている(表)。近年は、ふるさと回帰志向や農業への関心の高まりにより、青年(40歳未満)の農家子弟以外の新規就農者(以下「新規参入者」という)は増加傾向にある(図)。

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 長野県における新規就農者数の推移

本県における40歳未満の新規就農者数は平成になってから150人前後で推移してきたが、そのほとんどが農家子弟であった。しかし、11年以降、新規参入者が増加傾向にあり、27年には129人となり、新規就農者数の半数を超える状況になっている(図)。

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 新規参入者の増加と里親支援事業

本県農業を支える農業者の減少と高齢化が進むにつれ、農業の担い手確保・育成については農家子弟に限定せず、広く農家子弟以外の就農希望者の就農を進める必要性が高まってきた。しかし、地域とのつながりや経営基盤を持たない新規参入者の就農には大きなハードルがあるため、新規参入者が円滑に就農し、その後の経営安定につなげるために存在する課題の洗い出しを行い、施策の体系化を図った(表)。

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「経営者」となる新規参入者本人が行うべき準備が多いのは当然だが、それぞれのステップにおいて、県(主には農業改良普及センター)と市町村、JAなどの関係機関それぞれがすべき必要な支援について行う体制づくりを進めた。特に県外から慣れない長野県に移住してくる場合は、研修中の住宅確保や生活面の支援も必要である。

農作業経験のない新規参入者にとっては栽培や飼育、経営管理など農業技術の習得が重要である。このため、原則年間里親として県に登録された農業者の元で研修を行い、就農前の準備や就農後の技術・経営面のフォローまでを行う制度として、「新規就農里親支援事業」(以下「支援事業」という)を平成15年度から実施している(図)。

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地域で実際に農業経営を行っている里親農業者のもとでの研修は、独立就農するために必要な実践的な技術習得のみならず、見知らぬ土地での地域への紹介や、農地、住宅、中古機械の確保(市町村・JAなどの支援もあり)、就農後の相談役としての支援が期待でき、新規参入者の定着に大きく貢献してきた。制度開始から27年度までに332名が就農している(図)。

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就農相談で情報を収集した相談者については約年間十分な準備期間をとり、就農体験研修への参加や、就農のための準備資金をできるだけためていただく。この間に希望する品目や就農予定地を決め、該当する地域の農業改良普及センターを通じて研修先として適当な里親の選択とマッチングを行う。並行して住宅など生活面の準備も行って、年間の研修を開始する(年間のうちの年目のみ、研修生から里親への謝金月額万4000円と県から里親への謝金月額万9000円の支給がある)。

支援事業は、国の青年就農給付金(準備型(以下「国事業」という))の対象研修として位置付けられており、要件が合えば給付を受けながら研修を行うことができる。

 里親研修生の状況

平成27年度までに里親研修を開始した466人の年齢層は30代が48.1と最も多く、次いで20代が26.2である。国事業の給付要件が45歳までに就農(起業)することになっているため、40代以上の割合は小さい(図)。

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また、出身地については関東が46.8と最も大きく、次いで長野県内の28.1となっており、長野県の非農家出身者の就農希望も目立つ(図)。

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品目別では野菜が48.7、次いで果樹34.5、花き9.2%の順で、就農支援を行う関係機関の指導もあるが、農地の権利取得ができにくい新規就農者にとっては小面積であっても収益が得られやすい園芸品目での就農希望が多い(図)。

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 里親研修を経て新規就農した事例

平成27年に上水内郡信濃町へ新規参入した新井裕貴氏(32歳)を紹介する。

(1)研修実施までの背景

新井氏は長野市出身で、県内外の高原野菜農場などに勤務し、農業を経験した。平成26年月に、野菜での独立就農を希望して農業改良普及センターで就農相談を行った(写真)。

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里親登録農業者とマッチングする中で、大規模にキャベツ・はくさいの出荷を行う里親の元での研修が決まった。

(2)里親研修の内容

栽培の流れを覚えるだけではなく、農地や住宅の確保についても里親が支援を行った。また里親は、市場出荷と契約栽培を行っており、研修を通じて出荷先への顔つなぎを行った。大型特殊車両などを運転する大型特殊免許も、この研修中に取得した。

(3)独立就農の状況

はくさいを中心に信濃町で約ヘクタールの作付けを行っている。里親と出荷先を共有し、研修を終えて独立した先輩農業者と協力して野菜の運搬などを実施した。また豪雪地帯である信濃町では、冬季の耕作が難しいため、千曲川河川敷でレタスを栽培し、春先の収入源としている。就農直後の年間は、夏季の多雨や日照不足による病害で苦戦していたものの、作付時期を見直しながら、安定収入の確保に向けた努力を続けている。

今後も、本県では新規就農者を増やすために、支援を行っていきたいと考えているので、支援事業についてさらに詳しく知りたい方は、以下までお問い合わせください。




長野県農業大学校研修部 就農コーディネーター
 〒384-0807 小諸市山浦4857-1
 電話0267-22-0214 Emailsyunou@pref.nagano.lg.jp
長野県農村振興課担い手育成係
 〒380-8570 長野市大字南長野字幅下692-2 
 電話026-235-7243 Emailsyunou@pref.nagano.lg.jp


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