[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

今月の野菜

産地紹介:鳥取県 JA鳥取中央 ~産地の希望ねばりっこ~

鳥取中央農業協同組合 北栄営農センター 果実園芸課 増田 尚之


1 産地の概況

鳥取中央農業協同組合(以下「JA鳥取中央」という)は、鳥取県の中部に位置し、1市、4町(くらよしささちょうほくえいちょうはまちょうことうらちょう)で構成され、砂丘地帯、水田平野、大山山麓の中山間地帯の3地帯に大別される(図1)。土壌は平たん地では砂質土と黒ボク土が、中山間地は黒ボク土と砂壌土が中心である。年平均気温は15度で、春から秋にかけては比較的温暖な気候である。平たん地ではほとんど積雪がない地帯もあるが、山間地では1メートルの積雪となる地帯もある。

032b

JA鳥取中央の令和元年度の総販売額は、168億円であり、果実29億円(17%)、園芸69億円(41%)、米穀類20億円(12%)、畜産37億円(22%)、店舗直販13億円(8%)となっている。園芸のうち、ながいも・ねばりっこ(注)は、販売額が4億円あり園芸の5.8を占める品目である。

注:ながいも・ねばりっこは、今月の野菜(やまのいも)の分類でナガイモに属する。

2 ながいも・ねばりっこの生産概要

鳥取県中部地域の海岸部には東西12キロメートル、南北2キロメートルにわたり北条砂丘が広がり、戦後に河川を水源としたスプリンクラーかんすい設備が整備され安定的な灌水が可能となり、北条砂丘の中心にある北栄町では砂丘地の特性を活かした品目が広く栽培されている。

ながいも栽培は明治中頃から始まったとされ、明治45年には栽培面積2.8ヘクタール、生産量28トンであった記録が残されている。昭和初期の大恐慌による米や養蚕の価格暴落で野菜栽培が盛んとなり、北条砂丘ではすいかやだいこんと共にながいもが栽培された。昭和10年に京阪神市場に初出荷され、終戦後の食糧難時期に関西市場の需要増加により、25年頃から本格的な栽培が始まった。

鳥取県産のながいもは砂丘地の特性を生かした早堀栽培で、他県産に先駆けての出荷と芋の外観の美しさから「砂丘ながいも」のブランドで有利販売を進め、40年代半ばには栽培面積は250ヘクタールに達した。しかし、50年代は他県産地の作付面積拡大や冷蔵貯蔵施設の整備による周年出荷体制が進み、京阪神市場への出荷量も増加したことから、同市場を主な出荷先としていた砂丘ながいもの市場性に陰りが見え始めた。市場価格の低迷で栽培面積は急激に減少し、28ヘクタールまで落ち込み産地存続が危惧されたが、平成17年に鳥取県園芸試験場育成のながいも新品種「ねばりっこ」が導入され、在来ながいもから徐々に切り替わり、栽培面積もわずかずつではあるが、上昇に転じている(写真1)。

033a

30年は、ながいも栽培面積34ヘクタール(生産者戸数117戸)のうち、「ねばりっこ」が27ヘクタール(生産者戸数102戸)となり、北条砂丘のながいも産地でほぼ全面的に栽培されている。

3 ねばりっこの誕生と品種特徴

以前より、もう少し粘り気を強くして、折れにくく取り扱いのしやすい短い品種が欲しいという要望があった。しかし、ながいもは雄株だけしかなく、多品種との交雑によって種子が形成されないため、新品種の育成が不可能であった。そこで、鳥取県園芸試験場では、やまいも類の中で粘り気が強く、ながいもとは逆に雌株だけしかないイチョウイモに着目した。平成2年からバイオテクノロジー技術を生かして、ながいもの花粉をイチョウイモに交配し試験管培養によって20余系統の幼植物を育て、その中から形状が良く、粘り気の強い系統を選抜し、育成したのが「ねばりっこ」である。

ねばりっこは「砂丘ながいも」に比べ、2~3割小ぶりで短く、折れにくい。そして粘りが強く、肉質が緻密、果肉が白いのが特徴で、アクが少なく、味はながいもより甘味とコクがある。

4 ねばりっこの種苗の生産・供給体制

ねばりっこの種苗は、平成15年に全国農業協同組合連合会鳥取県本部(以下「全農とっとり」という)が県と通常利用許諾契約を締結し、生産をJA鳥取中央に委託して種苗用のむかごを供給していた19年以降はJA鳥取中央が県と通常利用許諾契約を締結し、ながいも生産部員に限定して種苗供給を行っている。これに伴い、JA鳥取中央は種苗生産の受託を中止したため、現在、全農とっとりはねばりっこの種苗供給は行っていない。各生産者にはむかごの形態で供給され、1年間かけて子芋を育成し種芋として利用する(図2、写真2、3)。2年目以降は各生産者がむかごを自家採種し、子芋育成による自家増殖で対応する。

034a

034b

035a

現在、ねばりっこの通常利用許諾契約は全農とっとり、JA鳥取中央のほかに、民間事業者1件がねばりっこの自社生産のために締結している。また、種苗の増殖、販売は行わず、生産物の販売のみを目的とする場合は、第三者に種苗を譲渡しない念書を県に提出し協議の上で、県園芸試験場からむかごを購入することも可能であるが、供給事例はない。なお、利用許諾契約では種苗の販売先は県内に住所を有する者に限り、原則、県外への販売は認めていない。

5 ねばりっこの生産販売状況

ねばりっこは平成17年から栽培が始まったが、ながいもと異なり切り芋繁殖ができないため、むかごから1年養成した子芋を種芋として栽培する。従来よりも栽培に手間を要するため、当初はあまり広がりが見られなかった。しかし、市場価格が在来のながいもの1.5倍から2倍と高単価で取引されること、収量が安定していることから、20年頃から栽培面積が増え始めた。かつては販売額10億円品目であったながいもは、1億2000万円まで落ち込んでいたが、ねばりっこ導入後、4億5000万円まで回復し、救世主的存在となっている(図3、4)。販売は当初から外食産業チェーンなどへの一定の需要が確保されていたが、生産拡大には更なる知名度向上による消費拡大の必要があった。JA鳥取中央では23年から27年にかけて「北栄町ながいもチャレンジプラン」を策定し、販売面では県補助事業を活用しながら「ねばりっこチップス」の商品化、試食販売などの販売促進強化に取り組んだ。現在は、関東、信州、関西、中国、九州に出荷している。

035b

036a

6 今後の生産の方向性と課題

ねばりっこはながいも栽培の主流品種となったが、栽培面積の拡大とともに品種特性に応じた栽培技術や規模拡大に必要な技術課題がいくつか残されている。

(1)切り芋繁殖性品種の育成

ねばりっこは産地に定着したが、むかごから子芋を養成して作付けするため、2年間の栽培期間が必要となる。成芋の栽培と同時に毎年、子芋育成管理の手間が必要なため、在来のながいもと同様に切り芋繁殖が可能な優良品種の育成が望まれている。県園芸試験場では、さらにねばりっことながいもを交雑し、ねばりっこと同等品質切り芋繁殖が可能な系統を育成し、品種登録に向け栽培現地での実用性検討を行っている。

(2)生育障害、ネコブセンチュウ対策

ねばりっこの栽培面積が広がる中で、在来のながいもと比べ、ネコブセンチュウ被害や芋の黒変や亀裂などの障害が多いことが明らかになっている。これらは、出荷ロスの要因となっているため、対策確立が急がれている(写真4)。ネコブセンチュウは土壌消毒の徹底とともに、種芋感染を防ぐため植え付ける子芋の温湯処理技術が開発されている。

037a

(3)収穫作業の省力化

在来のながいもよりも折れにくく、収穫しやすくなっているが、現行のトレンチャーによる作業体系では芋の堀上に時間を要し、規模拡大の制限要因にもなっている。生産拡大には1戸当たりの規模拡大が必要で効率的な収穫方法としてパワーシャベルによる収穫検討が進められている(写真5)。

037b

一言アピール

当地域のねばりっこ(ながいも)はねばりが強く、食味、甘味が良いのが特徴です。是非、一度ご賞味して頂き、他のながいもとの違いを感じていただけたら幸いです。

お問い合わせ先

担当部署:鳥取中央農業協同組合 北栄営農センター 果実園芸課
 住  所:〒689-2224 鳥取県東伯郡北栄町妻波1725-2
 電話番号:(0858)49-1147 FAX番号(0858)49-1018
 ホームページ:http://www.ja-tottorichuou.or.jp


今月の野菜
元のページへ戻る


このページのトップへ