(野菜情報 2017年2月号)
産地紹介:栃木県 JAかみつが~高品質なにらを周年出荷~
上都賀農業協同組合
南部営農経済センター園芸特産グループ にら担当 大橋 優佑
1 産地の概要
上都賀農業協同組合(以下「JAかみつが」という)は、栃木県の西北部に位置し、鹿沼市、日光市、栃木市西方地区(旧西方町)を管内とする(図1)。管内には日光や鬼怒川など、知名度の高い観光地があり、年間を通じて多くの観光客が訪れる。北部と西部は山岳地帯や中山間地帯であり、南部から東部にかけては平たん地で、水田地帯や畑作地帯を形成している。管内の総面積は19万7000ヘクタールと広大で、耕地面積も1万3000ヘクタールと、県全体の10%を占めている。鹿沼市の年間平均気温は12.6度、年間降水量は1618.8ミリメートルであり、比較的温暖だが冬期は寒冷な内陸性の気候である。
JAかみつが管内の平成27年度の農業生産物販売高は85億3700万円で、野菜44億4500万円(52.1%)、米20億2600万円(23.7%)、畜産物15億7100万円(18.4%)などとなっている。野菜に果樹と花きを加えた園芸品目の合計が55.7%を占めており、主な品目の販売額は、いちご24億9400万円、にら11億1900万円、トマト5億6300万円、花き1億9800万円などである。
2 上都賀農業協同組合鹿沼にら部の概要
JAかみつが管内におけるにら栽培は、昭和40年代前半に冬期の換金作物として導入されたのが始まりで、約50年の歴史を有する。管内には3つのにら生産組織があるが、ここでは鹿沼市のにら生産者で組織される上都賀農業協同組合鹿沼にら部(以下「鹿沼にら部」という)について述べる。
鹿沼にら部は、全国第2位のにら生産県である栃木県の中で約3割を占める生産量を誇り、県内の主力産地であるのみならず、全国的にも有数の産地となっている。
かつては200戸以上の生産戸数を誇り、近年は高齢化により減少傾向となっているものの、販売数量や販売金額は比較的安定している(図2、3)。今後は、出荷量の拡大を図りつつ、品質のさらなる向上に取り組み、質量ともに他の追随を許さない生産地を目指している。
鹿沼にら部の1戸当たりの平均栽培面積は38アールだが、近年は3ヘクタールを超える大規模生産者も現れ、後継者が確保されている生産者や雇用労力を導入した生産者では、規模拡大が進んでいる。平成28年度は、生産戸数140戸、作付面積55ヘクタールとなっており、主に京浜市場に周年出荷している。
3 栽培の特徴
鹿沼にら部の基本的な作型は、図4の通りである。収穫開始時期をずらし、夏にら専用品種を組み合わせることで、年間を通して切れ目のない出荷を実現している。
播種はハウス内または小トンネル内で行い、成苗を用いた半自動定植を行う生産者が大部分である。一部では、省力化を図る目的でセル育苗による全自動定植機も導入されている。周年どりの場合、11月までが株養成期間となり、11月以降に順次保温を開始し、その後は収穫期間となる。なお、株の生育をそろえるため、収穫前に捨て刈りを行う。
にらは刈り取った後の株から次々に新葉が伸びるため、収穫は2年間に6~8回行い、10アール当たりの収量は平均7トン程度になる。中には10回以上の収穫を行い、収量が10トンを超える事例も見られる。
品種は、ミラクルグリーンベルト、グリーンロード、タフボーイを主体に、夏にら専用品種のパワフルグリーンベルトが導入されている(図5)。出荷数量の安定を目的に、収量と品質が低下しにくい品種を選定している。新品種導入の際は、若手生産者で組織するにら栽培研究会が取り組む有望品種の栽培試験の結果を参考にしている。
周年どりの場合、定植後は11月まで株養成を行うが、その期間に充実した株に仕上げることが重要である。また、圃場にある期間が長いことから、土作りのため有機資材の投入と深耕を行っている。さらに、にらに使用可能な農薬が非常に少ないことから、土壌改良資材の利用や輪作なども取り入れ、病害虫に強いにら栽培を推進している。
収穫開始期は厳寒期に当たるため、二重被覆パイプハウスに小トンネルを組み合わせた三重保温を行い、保温開始後35日程度で収穫している(写真1)。充実した株を用いて生育日数をかけるため、葉幅が広く厚みがあり、味の良いにらが収穫される。収穫回数が増えて株疲れとなったら収穫を休止して株養成を行い、葉幅の回復状況に応じて収穫を再開する。栽培面積が多いため、ほとんどの生産者が生育に応じて収穫と株養成とを組み合わせている。
近年は、小トンネル保温の省力化と生育停滞を防止する目的で、厳寒期のウォーターカーテン保温を導入する生産者が増加している。ウォーターカーテン保温は、地下水の比熱を利用した保温方法であり、散水管で地下水を二重カーテン上に散水することで、小トンネルを用いずに厳寒期のハウス内温度を8度程度に保つことができる。栃木県内ではいちご栽培を中心に広く普及しているが、にらへの導入率は高くない。鹿沼にら部では、省力化と高品質安定生産を両立する栽培技術として、積極的に導入推進を図っている。
4 集出荷体制と販売戦略
収穫は気温が低い早朝や夕方などの時間帯に行い、箱詰め後は予冷庫を利用して鮮度保持に努めている。収穫調製作業は全作業の6割を占めると言われるが、生産者はさまざまな工夫をし、調製作業を素早く行っている。また、大規模生産者を中心に自動結束機が導入され、省力化に威力を発揮している。
出荷形態は、100グラム束が10束入った1キログラム大袋包装が主力で、大袋が4袋入った4キログラム段ボール箱で出荷される(写真2)。小束包装は、市場を介した注文数に応じ、集荷場内のパッケージ施設でパート雇用を活用して対応している。
にらは葉茎菜類で、かつ根元を切って出荷するので、鮮度が命の野菜である。栃木県のにらは雨除け栽培されていることもあり、棚持ちがよいことから高い評価を得ている。鹿沼にら部では、他産地に勝る高品質なにらを出荷するため、生産者自身が出荷規格を厳守するとともに、調製精度をさらに高めることを目的に、目揃会や出荷調製講習会を定期的に行っている(写真3)。また、集荷場での検査に際しては、検査員全員の検査基準を共通化・厳格化し、品質の安定を図っている。さらに、自主的に残留農薬検査を定期的に抜き打ちで実施し、販売店や消費者が安心して購入できるにらの出荷に努めている。
鹿沼にら部では、毎年2月から3月ごろに東京都内や神奈川県内、岩手県内の量販店で店頭販売促進会を実施している(写真4)。産地ならではの食べ方として「おひたし」の試食や、レシピの配布も行っている。最近では、メディア出演(取材対応)にも力を入れており、平成27年にはテレビ11本、ラジオ2本への出演に加え、新聞などにも2本掲載された。その結果、新たな取引の提案や要望が増えている。また、1年間を通して安定供給できる産地を目指し、各生産者が連日出荷を心掛け、要望に応えられるよう努めている。
近年、加工・業務用の需要が高まり、産地としてもそうした需要に対応できるように、新たな出荷形態だけではなく集出荷方法などさまざまな局面を想定し、実証試験を行っている。現段階では、1キログラム大袋包装にバラで詰め、4袋入った4キログラム段ボールで出荷を行っているが、将来を見据え、通いコンテナなど新たな形態での出荷・販売にもチャレンジしたい。
◆一言アピール◆
にらは独特のシャキシャキ感が人気で、調理が簡単であったり、栄養的にもビタミンAが豊富であることから、忙しい現代人にもおすすめの野菜である。生産量だけでなく品質も全国トップクラスにある鹿沼にらは、幅広く肉厚であり、深みのある香りと甘みが特徴である。ぜひ、ご賞味いただきたい。
◆お問い合わせ先◆
担当部署:上都賀農業協同組合 南部営農経済センター 園芸特産グループ
住 所:〒322-0528 栃木県鹿沼市奈佐原町584-1
電話番号:(0289)75-3821 FAX番号:(0289)75-3820
ホームページ:http://jakamituga.jp/