(野菜情報 2017年1月号)
産地紹介:愛媛県 JAうま~新品種「伊予美人」による産地の活性化~
うま農業協同組合 営農経済部営農販売企画課
販売担当 妻鳥 芳紀
1 産地の概要
うま農業協同組合(以下「JAうま」という)は、愛媛県東部のかつては宇摩地域と呼ばれた四国中央市と新居浜市別子山地区を管内としている(図1)。管内は、法皇山脈を境として北部(嶺北)と南部(嶺南)に分かれる。嶺北はさといも、水稲、かんきつ、そして採卵鶏や養豚などの畜産が盛んで、嶺南ではお茶や樒が栽培されている(図2)。
JAうまの平成27年度の販売額は14億1513万円であり、その内訳は畜産8億4406万円(59.6%)、野菜4億6412万円(32.8%)、米・麦・大豆・雑穀7254万円(5.1%)、果樹2086万円(1.5%)、花き1355万円(1.0%)となっている。野菜はさといものほかに、やまのいもなどが生産されている。
特産のさといもの作付面積は約180ヘクタールで、うち四国中央市の土居地区が90ヘクタールを占めている。管内は、日本三大局地風(注)といわれる「やまじ風」が強く吹く地帯である。さといもは強風に強い作物として、約400年前の江戸時代初期の栽培記録があるほど歴史ある作物である。先人の苦労と知恵によってさといもは定着し、現在まで栽培が継続されている。さといもは、水稲、やまのいもとの輪作による安定生産が確立しており、収穫期間が長く、収益性が高いという特徴を持つ。種いもの植え付けは、3月に行う。夏には草丈が2メートルにもなり、収穫は9月中旬に開始する(写真1)。
愛媛県のさといもは、作付面積では全国9位(384ヘクタール)であるが、10アール当たりの収量は全国1位(2180キログラム)である(農林水産省「平成27年産野菜生産出荷統計」)。これは、生産者の高い技術と新品種導入による成果といえる。四国中央市(JAうま管内)では、その約70%を生産している。
全国的に担い手の減少や生産者の高齢化、農業所得の伸び悩みが続く中、JAうまでも「もうかる農業、新たな仕組みづくり」が緊急の課題となっている。そのため、生産部会や各関係機関と連携し、特産品であるさといものブランド化による農業の活性化に取り組んでいるところである。さといもの生産者は約1000戸である。
注:日本三大局地風(悪風)とは、清川だし(山形県庄内町)、広戸風(岡山県津山市~奈義町)、やまじ風(愛媛県四国中央市)をいう。
2 新品種の開発
昭和18年ごろに導入し、約70年間栽培してきた主力品種である女早生の品質にバラツキがでてきたため、県の研究機関である愛媛県農林水産研究所が新品種の開発を進め、平成16年に「愛媛農試V2号」が誕生した。これは、JAうまや全国農業協同組合連合会愛媛県本部、部会員が、6年から研究所と一体となって開発に取り組んだ成果である。愛媛農試V2号は、従来品種より収量が3割多く、孫いもが丸く大きくて秀品率も高い。また、色白で肉質はなめらかであり、粘りが強いという特徴を持つ。
新品種へ更新するため、JAではまず愛媛県農林水産研究所から原原種子を受け入れ、1年目はプラグ苗による大量増殖を行い、原種圃場に植え付けた(写真2、3)。2年目は、収穫した原種を採取圃場で優良いもとして増殖し、3年目に生産者へ配布した。その後は、増殖のサイクルを繰り返して生産者へ毎年配布するとともに、優良系統の選抜を行い品質の安定化を図っている(図3)。
開発された新品種は戦略品種として位置付け、JAうまや生産者、市が一体となり、産地活性化への取り組みを開始した。生産・流通・販売の一体的な取り組みを基本に、「省力化や栽培技術などの生産対策」「ブランド化、販路拡大」「新たな流通チャネルの開拓」「農業の6次産業化」の4つを目標として掲げている。
3 栽培の省力化
さといもは栽培が夏場にかかることから、「重い」ことと「暑い」ことの解消が課題となる。そこで、各関係機関と農機具メーカーが一体となって2年間の実証を行い、耕耘・施肥・畝立て・成型・マルチの機械化一貫体系を確立し、徹底的な省力化を進めた(写真4)。同時に、移植機や掘り取りと分割ができる収穫機の改良や実用化を進めた(写真5)。その結果、作業時間は通常のマルチ栽培の約6割まで短縮することができ、3ヘクタール以上を栽培する農家も誕生した。JAうまの平成27年度のさといも出荷量は1431トンであり、28年度は1920トンを目標としている。
4 出荷、販売先
収穫は9月中旬から4月ごろまで、各生産者が収穫機を使って掘り起こす。その後、選果場で調製・選別して箱詰めされ、市場などへ搬送される。貯蔵されたものも含め、出荷は4月まで行われる。出荷先は主に京阪神の市場で、最近は関東地方の市場にも出荷している。
大規模農家も誕生し、新たな販売戦略として「愛媛生まれの白くて丸い芋」「里芋を食べて体の中から美人へ」をキャッチフレーズに、平成18年に新品種を「伊予美人」と命名した(写真6)。また、同じ18年に愛媛県のブランドである「愛あるブランド」認定も取得した。
さらに、伊予美人をアピールするため、市場や量販店、各種イベントなどで試食による販促活動を年間約10カ所で行っている。会場に大鍋を持ち込み、消費者に伊予美人のおいしさを味わっていただいている(写真7)。
新たな流通チャネル開拓の取り組みとしては、管内6カ所に配置していた選果場を2カ所に集約し、選果の効率化と品質の均一化を図った(写真8)。選果場で秀品、優品、規格外品の3種に分け、秀品や優品は市場向けや贈答用に、規格外品は加工業者に供給するなど、注文に応じた出荷を実現している。
5 今後の展望
今後は、将来の産地を支える仕組みづくりとして、優良種子の供給体制を今以上に充実させたい。また、株式会社JAファームうま(農作業受託などを行うJAうまの子会社)による農作業支援の充実、消費者ニーズを訴求した販売チャネルの開拓、6次産業化による加工品づくり、産直市を核とした販売の拡大、独立起業家の育成などを推進していく。そうしたことにより、新たな付加価値を生み出す地域ビジネスが展開できればと考えている。
◆一言アピール◆
丸々として形がそろっている伊予美人は、色白で粘りが強く、甘味もある食味で味にくせがなく、どんな料理にも相性が良い。百聞は一見にしかずで、実際に一度食べていただいたらその良さがわかるので、ぜひご賞味いただきたい。
◆お問い合わせ先◆
担当部署:うま農業協同組合 営農経済部 営農販売企画課
住 所:〒799-0422 愛媛県四国中央市中之庄町1684-4
電話番号:(0896)24-2311 FAX番号:(0896)24-2622
ホームページ:http://www.ja-uma.or.jp/