(野菜情報 2016年12月号)
産地紹介:三重県 JA多気郡~300年の歴史を誇る三重の伝統野菜、伊勢いも~
多気郡農業協同組合 営農経済部多気営農センター 伊勢いも担当 世古口 力
1 産地の概要
多気郡農業協同組合(以下「JA多気郡」という)は、三重県の中部に位置し、多気郡(大台町、多気町、明和町)を管内としている(図1)。伊勢神宮との関わりが深い土地柄で、特産の伊勢いもや次郎柿、伊勢茶をはじめ、水稲やいちご、松阪牛など、多様な農畜産物が生産されている。
JA多気郡の平成27年度の総販売額は21億3447万円であり、その内訳は米・麦・大豆6億1362万円(28.7%)、野菜2億5585万円(12.0%)、果樹1億8363万円(8.6%)、茶・花き1億3800万円(6.5%)、畜産9億4337万円(44.2%)となっている。伊勢いもは野菜の販売額で例年上位を占めており、26年度は第1位、27年度は第3位であった。
伊勢いもの原産地である多気町は、伊勢湾から続く平野部と大台ヶ原などがある大台山系との中間地帯にある。一級河川である櫛田川と宮川に挟まれた管内は比較的温暖で、年平均気温15.5度前後、年間降水量2000ミリメートル弱と多くの農産物の栽培に適し、さまざまな品目を生産している。中でも水稲が最も多く、それを基本に各種の複合経営がなされている。
品目としては、特産の伊勢いも、いちごをはじめ、比較的近年になって導入されたなばな、はくさい、白ねぎ、トマト(ハウス栽培)などが挙げられる。また果樹では、柿、みかんおよびなしが、小さいながらも有数の産地となっている。さらに、畜産では「松阪牛」で有名な和牛の肥育経営が多い。
2 伊勢いも栽培の概要
伊勢いもはやまのいもの一種で、やまといもまたはつくねいもとも呼ばれ、握りこぶしのような形をしている。栽培の由来については、伊勢の守護であった北畠氏の家臣が大和国(奈良県)から種いもを持ち帰ったなど、諸説があるが、当地では300年前から栽培されていたといわれている。明治時代になると栽培が一般農家へと広がり、主産地が津田地区であったことから「津田芋」と呼ばれていた。明治17年には「松阪芋」と改称し、さらに33年に現在の「伊勢いも」と命名された。34年から大正6年まで米国に輸出されていたが、7年に米国が病害虫防除の観点から輸入を禁止したことから、その後は名古屋市場への出荷が中心となった。
大正時代から昭和25年まで、伊勢いもの栽培面積は10~20ヘクタール程度であったが、40年代半ばに始まった減反政策に伴い、多気町では伊勢いもを転作野菜の主力として位置付け、40ヘクタール程度が作付けされるようになった。現在は、連作障害による生産量の減少や生産者の高齢化により、栽培面積は20ヘクタール前後となっている。
多気町の土壌は耕土が深く、水はけも良いため、伊勢いも栽培には最適の土地柄である。現在でも、櫛田川沿岸の肥沃な圃場を持つ津田地区を中心に栽培されている。
伊勢いもは、前年に収穫した親いもを種いもとし、種いもから形成された子いもを肥大化させたものである。収穫時の収量は親いもの3~4倍程度であり、効率の悪い作物といえる。そのため、収穫時に大きないもが顔を出すと、一年の疲れを忘れるほどである。
種いもの植付けは、3~4月ごろに行い、その後に元肥として専用の配合肥料を施し、わらを敷いて支柱を立てる(図2)。気温が20度前後になる5~6月には地上部に芽を出し、つるが急速に伸び始める。芽は何本か出るので、その中で元気のある芽を1本残し、ほかは基部よりかき取る。追肥は、専用の配合肥料を7月下旬ごろに施す(写真1)。このころ、種いもの下に子いもが形成される。子いもの首部からは栄養根が発生して土中の水分や養分を吸収し、8~9月に急速に肥大する。このころの土壌条件が重要で、乾湿の差が激しすぎると形状や肥大が悪くなってしまう。そのため、スプリンクラーによる散水などを行っている。その後は、次第に中身が充実してくる。
ハダニの防除を中心に、7月ごろより月2~3回の農薬散布を行う。秋になって気温が下がると葉や茎が黄変し、収穫期となる(写真2、3)。10アール当たりの収量は、1000キログラム前後になり、このうち、次年度用の種いもとして10アール当たり300~400キログラムを個人で貯蔵している。
3 伊勢いも産地の維持・拡大
伊勢いもは、あくが少なく強い粘りと濃厚なこくが特徴で、栄養価も高く、贈り物として最適である(写真4)。また、独特の粘りと時間がたっても変色しにくい性質から、日本料理店や和菓子店でも高級食材として高く評価されている。
JA多気郡の伊勢いも部会員は27戸であり、1戸当たりの栽培面積は10~90アールである。部会では、数年前より部会員全員で栽培履歴書の記帳を実施するとともに、共同選果により品質、規格の統一を徹底してきた(写真5)。近年「食の安全・安心」に対する関心が高まる中、なおいっそう消費者に安心してもらえるように、「みえの安心食材表示制度」に取り組んだ。その結果、できる限り化学農薬の使用を控え、有機質肥料を中心に栽培することにより、平成20年度からは「みえの安心食材」に認定された。また、19年には「美し国みえの伝統野菜」にも選定されており、消費宣伝活動では、「みえの安心食材・伝統野菜」としてアピールしている。伊勢いもパウダーを使用した伊勢いもアイスの商品化などにも取り組み、さらなる知名度の向上を目指している(写真6)。
しかし伊勢いもは、連作障害や生産者の高齢化などによって、年々栽培面積が減少しているのが実情である。このようなことから、JA多気郡の農業生産法人(平成29年度設立)にも呼び掛けた結果、栽培への準備が開始された。また、伊勢いも産地の維持・拡大を目指し、生産者、県、町およびJAが一丸となって26年に「伊勢いも振興プロジェクト」を立ち上げた。そこでは、新規就農者への支援として、種いもの植付けから収穫まで自分たちで管理する圃場を設置し、栽培から出荷まで一年を通した研修を行っている(写真7)。伊勢いもは土中に育つものなので生育の状況を把握しにくく、栽培には高度な技術(経験)が必要である。さらに、伊勢いも栽培に適した圃場のあっせんなど、新たに伊勢いも栽培を始めやすいように、栽培環境の整備も進めている。
◆一言アピール◆
伊勢いもは、多気町の恵まれた気候風土と農家の丹精込めた栽培により、300年もの昔より受け継がれてきた。粘りの強さはやまのいも類の中でも一番とされ、こくのある味わいと栄養価の高さも特徴である。食の安全が問われる昨今、自然食品として、そして長く愛されてきた伝統野菜として伊勢いもを再認識し、産地一同が生産に力を入れている。ぜひ一度、ご賞味いただきたい。
◆お問い合わせ先◆
担当部署:多気郡農業協同組合 営農経済部 多気営農センター
住 所:〒519-2172 三重県多気郡多気町四神田340-2
電話番号:(0598)39-3150 FAX番号:(0598)39-3151
ホームページ:http://www.ja-takigun.or.jp/