(野菜情報 2014年12月号)
産地紹介:熊本県
~熊本のいちご、「ひのしずく」の生産状況~
熊本県経済農業協同組合連合会
園芸部園芸指導課長 南 一尚
熊本県は、最近、世界農業遺産や世界ジオパークに認定された阿蘇地域や、天草に代表される美しい島々からなる海岸島しょ地域を有し、素晴らしい自然にあふれている。また、菊池川や球磨川など阿蘇山や九州山地に源を発する一級河川や、豊富な地下水など、水資源にも恵まれている。
三方を山に囲まれているため、天草地方を除き、全体的に内陸性気候であり、年平均気温は熊本市で17度前後、阿蘇地方で13度前後となっており、年間降水量は平地で約2000ミリ、山間地で約3000ミリとなっている。
このような豊かな自然の恵みを背景に、園芸部門ではトマト、すいか、宿根カスミソウなど、全国に誇れる品目のほか、多彩な農産物が栽培されている(図1)。
熊本県のいちご栽培は、昭和40年代に品種「はるのか」の導入で産地化が図られ、その後60年代より「とよのか」が全県下に普及拡大し、平成14年のピーク時には系統の作付面積が336ヘクタールとなり、栃木県、福岡県に次ぐ、いちごの生産県となった。
14年以降は、とよのかの栽培面積が減少し、16年以降は、「ひのしずく」および「さがほのか」が導入された。多様な品種が栽培されるようになり、現在は、ひのしずく、さがほのかのほかに、「紅ほっぺ」の3品種で、全体の8割を超える構成となっている。
いちごの作付面積、出荷数量、10アール当たりの収量の推移を見ると、作付面積は、高齢化や他品目への転換などにより減少傾向となっているものの、10アール当たりの収量は増加している(表1)。
いちごは、平たん地から中山間地までさまざまな地域で栽培されている。早い産地では11月より出荷が始まり、5月まで出荷が続く。主な出荷先は、関西を中心に、関東、中京、中四国、県内向けとなっている。
最近は、各地で品質、収量性、耐病性などの面から各道府県育成オリジナルのいちごの品種開発が進んでいることから、熊本県育成品種のひのしずくについて紹介する。
本県は、平成7年に品種開発に着手し、13年に草姿、果実の着色、食味の優れた優良系統を選抜し、14年に生産力検定などを実施した結果、品質、食味、作業性などで良好な結果を示し、有望と認められたことから、「熊研い548」として、種苗法に基づく品種登録出願を行った。
なお、ひのしずくという名称は商標登録であり、熊本県の水がきれいというイメージと、いちごのみずみずしいイメージから命名された。
15年の熊本県農業研究センター内での特性検定試験、地域での現地適応性試験を経て、17年には全県下で本格的に栽培されるようになり、系統の栽培面積は37ヘクタールとなった(写真1、2)。
ひのしずくの特徴は、大果形、香り、糖度が高く食味が良いなどの長所があるが、収穫開始が遅く、年内収量が少ないなどの短所もある(表2)。
なお、ひのしずくは県外での栽培は許諾していないことから、熊本県内のみの栽培となっている。
JA熊本経済連は栽培開始当初より、ほかの品種よりワンランク上のいちごとして、果実専門店や百貨店向けに販売先をしぼり、ブランド価値を高める販売を実施している。
また、平成23年度より熊本県とJA熊本経済連で連携し、ひのしずくを全国に通用するトップグレード品としての販売体制を確立するため、プロジェクトを実施した。
このプロジェクトの活動目的は、まず、第一に収量・品質向上に向けた技術指導、第二としては、認知度向上である。この活動目的に沿った活動として、第一の技術指導について、初年度、県内の生産者200戸の栽培管理記録を基に、地域の課題や重点指導事項について検討するとともに、品質の高位安定を図るため、全戸生産者の食味(糖度)調査を実施し、優良農家の糖度要因分析を行った。また、2年目以降は、地域の課題や重点指導事項を重視して、地域からの要望に応じた指導を実施している。
第二の認知度向上についてでは、ワンランク上の販売推進として、高級果専門店県内外6店で、2L以上の一段平パックの試食宣伝などの販売促進を行っている(写真3、4)。
現状では、ひのしずくの栽培面積が伸び悩んでいるので、一定程度の栽培面積の確保や、収量の向上、効果的な販促資材の開発などを行い、さらなる商品性の価値の発揮と認知度向上を図っていきたいと考えている。
JA熊本経済連では、新鮮で食味のよいいちごの生産に努めています。特にひのしずくは、果実が大きく、糖度と酸味のバランスが良い食味であり、食感にも優れているので、店頭で見かけたら、ぜひご賞味いただきたい。
熊本県経済農業協同組合連合会 園芸部園芸指導課
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