(野菜情報 2014年2月号)
産地紹介:茨城県
JA茨城旭村蔬菜部会 小松菜部
~高い品質で周年供給を行うJA茨城旭村産こまつな~
茨城旭村農業協同組合 営農指導課 課長 小泉 洋二
JA茨城旭村(以下、「JA」という。)は、茨城県のほぼ東南部にあり、平成17年10月に旭村、鉾田町および大洋村が合併して誕生した鉾田市のうち、旧旭村地域を管内としている(図1)。
JAが立地する鉾田市は、人口約5万人、総面積208.18平方キロメートルで、東は鹿島灘、北は涸沼に面し、自然に恵まれた地域である。気候は、年間平均気温は13.8度、年間降水量平均は1,575ミリとなっている。管内は、関東平野の小高い平坦地にあり、温暖な気候と、水はけが良く、酸素を多く含んだ土壌が特徴の土地であるとともに、海沿いに位置していることから、昼夜の温度差が大きく、果実およびそ菜(JAでは、ほうれんそうやみずななどを中心とした野菜を指す)を栽培するのに適した土地の条件が整っている。また、大消費地である首都圏に隣接していることから、重要な食料供給基地として、低い流通コストで鮮度の高い農産物を供給できるという、農産物産地としては、好条件の地域である。
管内(鉾田市)の総農家数は1万8309人(3,459戸)で、うち8,233人が専業農家である。耕地面積は8,311ヘクタール(うち、JA管内は2,371ヘクタール)となっており、生産農家は、畑作を中心した都市近郊農業地帯で、基幹作物であるメロン・そ菜を中心とした施設園芸農家と、かんしょを中心とした土地利用型農家に大別されている。
基幹作物の中心であったメロンは、パイプハウス栽培で行われており、茨城県の銘柄産地第1号でもあったが、約40数年の作付けの中で、連作障害、消費者ニーズの変化、高齢化の問題等が顕著になってきたことにより、約10年前から、年々作付けが減少してきた。
メロン作付けの減少を受け、メロンに変わる品目を模索していた中で、パイプハウスをそのまま利用でき、かん水設備も整っていることを生かし、メロンからそ菜への転換として、複数品目の栽培に取り組んできた。それまでも、基幹作物の中心であるメロンを補完する目的で、そ菜も栽培はされていたが、そ菜は、出荷の安定性がなかったことから、積極的な販売には至らなかった。しかし、メロンに代わる基幹作物として、そ菜の作付けが拡大されてきたことから、JAは、平成17年に「蔬菜部会」を設立し、本格的に販売強化に乗り出した。設立当初は、「水菜部」「ほうれん草部」および「パセリ部」の3部とその他で構成され、小松菜部は設立されなかった。平成20年に「パプリカ部」が作られ、その後、平成22年に、こまつなの生産拡大により、新たに「小松菜部」が作られて今に至る。
蔬菜部会設立当時は、周年栽培により安定生産が可能な、みずなおよびほうれんそうがいち早く導入および拡大された。特に、手軽に食べられるみずなは、急激に消費が伸びたことから栽培面積が拡大され、安定した販売が行われるようになった。現在では、出荷量が2,500トン、販売高が約9億円と、蔬菜部会の中心となっている。一方、ほうれんそうの生産は、なかなか定着できなかった。その要因は、近年の異常気象で、特に夏場の猛暑により肥培管理が難しく、周年栽培ができず、冷涼な秋から春が栽培の主流にならざるを得ないことと、連作障害が出やすいことなどであった。しかし、部会およびJAの作付推進等により、現在では、出荷量が850トン、販売高が約4億円と、活発な生産が行われている。
今回紹介するこまつなについては、蔬菜部会設立当時から栽培は始まったものの、他の品目に比べ、年間の時期別価格の変動が大きかったことから、再生産に見合う時期を限定して栽培が行われていた。平成19年、東京青果(株)より、「食味の良い冬季限定(12~3月)で、『ちぢみ小松菜』があるから試作してみないか」と提案され、試作を行った結果、市場、量販店および消費者はもちろん、生産者からも「食味の良いアクの少ないこまつなだ。このまま栽培を続け、販売する量販店も限定し、宣伝活動を続ければ必ずリピーターがつく」との意見により栽培を継続させた。このちぢみ小松菜については、既存のこまつな(以下、「普通小松菜」という。)とは異なる専用の種子であるとともに、収穫期に合わせては種期も限定しており、厳冬期に生育させることで、糖度は7度以上と甘みが強いこまつなである。現在では、70名の生産者により、期間限定栽培(12~3月の4カ月)で、栽培面積が約20ヘクタール、出荷量が500トンと、市場等からの需要に対して、安定した対応が可能な産地として成長した。
ちぢみ小松菜が高い評価を得たことにより、普通小松菜についても、市場より「JA茨城旭村は、こまつなの周年栽培が行われ、年間安定供給が可能な産地である」と評価された。ちぢみ小松菜栽培が軌道に乗りだした平成21年度からは、普通小松菜も徐々に生産が拡大されるとともに、翌22年度に、増加するこまつな生産の指導および販売の強化を目指し、前述の蔬菜部会小松菜部が設立された。なお、こまつなの生産面積および販売高の増加については、市場評価の高まり以外に、前述の通り、夏場の猛暑により、ほうれんそう栽培が難しくなったことと、みずなの連作障害の発生による、こまつなへの生産シフトがあげられる。さらに、夏場にも強いこまつな品種が開発されたことなどで、部会およびJAによる、品種選定の適正化(図2)が進められたことにも後押しされたことから、生産環境が整い、周年で普通小松菜を栽培する生産者が増えたと考えられる。
平成25年度における、こまつなの出荷および販売については、普通小松菜は、出荷量が約1,000トン、販売高が3億円、ちぢみ小松菜は、出荷量が500トン、販売高が2億円となり、こまつな全体としての販売高は、5億円を突破する見込みである(図3、4)。
こまつなの販売躍進により、小松菜部を含む蔬菜部会は、設立後わずか9年で、JAの青果物販売において重要な部会に成長し、平成25年度の部会販売高は、23億円を超える見込みである。
周年安定出荷体制を確立するためには、土作りが重要である。小松菜部およびJAでは、物理性、化学性および生物性の3分野を「健康な土」の基本とし、「健康な土は、病気に強い健全な作物を作る」を目標に掲げ、全ほ場で土壌診断を年間最低1回以上実施している。また、連作ほ場については、標準的な土壌診断以上の診断メニューである、精密土壌分析を行うよう、ほ場巡回等で指導している(写真1)。
健康な土作りの3つの分野として、物理性では、土を柔らかくし、酸素を多く含むほ場にするために、完熟たい肥を投入している。化学性では、土壌診断により、肥料バランスと微量要素を重視した、植物体が持つ病原菌に対する自己防御のための抵抗性を高める施肥および肥培管理に心掛けている。生物性では、連作障害、土壌バランスの崩れ等が病害虫を助長する要因であるため、有効微生物菌により連作障害の軽減を図るとともに、バランスを調整し、作物残さの処理では、有効微生物資材と合わせてほ場にすき込むことにより、常に良好な土の状態を保つことに心掛けている。
収穫後の調整および出荷については、流通時の品質維持対策として、鮮度保持フィルム材を箱の上部に入れることにより、商品に直接風が当たらないようにして、しおれ等の対策を講じている。また、商品の水分蒸発を防ぐための対応について、目揃え会で指導を行うとともに(写真2)、各生産者は、それらの対策を徹底しているところである。
今後も、そ菜類の生産拡大が予想されることから、平成25年度中に、JAの受け入れ体制整備として、真空予冷機を従来の2基より4基に増設し、選果場自体をコールドチェーン化することで、荷受け段階から品質管理の徹底を行っていく。特に、夏場の品質向上が有利販売につながることから、一層の施設整備が重要な課題となっている。これにより、品質面で他産地との一層の差別化ができ、現在の評価に甘んじず、今以上に信頼される産地作りと品質安定供給を目指していく。
JA産のこまつなは、東京市場を中心に出荷され、多くの量販店で取り扱われている(写真3)。部会およびJAでは、ただ生産するだけでなく、より多くのお客様に消費していただけるよう、販売促進等の機会を多く設け、直接お客様にPRをしていきたいと考えている。
今後、こまつなに限らず、国産野菜の消費拡大のためには、マスメディア等を活用したイメージアップ戦略の展開が重要であると考えられる。部会およびJAでは、レシピ提案(写真4)など、関係機関等との連携を密にし、国産野菜の消費拡大につなげる努力を行い、さらなる産地拡大を今後も続けることにより、こまつなを中心とした地域農業振興に努めてまいりたい。
恵まれた自然環境の中、土作りの徹底されたほ場で生産され、高い水準の鮮度保持でお届けしているJA茨城旭村のこまつなを、ぜひ食していただきたい。また、ちぢみ小松菜は3月までの限定出荷なので、店頭で見かけた際は、普通小松菜と食べ比べていただきたい。
JA茨城旭村 営農指導課
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