[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ
(野菜情報 2013年11月号)

長崎県 JA島原雲仙


~ブロッコリーは鮮度が一番~



島原雲仙農業協同組合西部基幹営農センター 営農指導課 課長 林 和昭



 

管内の概況

 JA島原雲仙(以下、「JA」という。)は、島原半島の島原市、雲仙市および南島原市の3市を管内としている。島原半島は、土壌、気象など自然条件に恵まれ、土地生産性および労働生産性が高く、耕地面積は長崎県全体の24パーセント、農業粗生産額は40パーセントを占める、県下随一の農業地帯である。島原半島は、長崎県の東南に位置する周囲138.3キロメートル、面積459.36キロメートルの半島で、総面積は、県全体の11.2パーセントを占めている。普賢岳(1,359メートル)を中心とした雲仙山系と、それに連なる東西約24キロメートル、南北約32キロメートルの緩やかな丘陵帯および海岸沿いに広がる平野部からなっている。農地の分布は、平地に乏しく、傾斜地で細分された耕地が分散している。年平均気温は16度と温暖で、海岸沿いには無霜地帯もある。年間降水量は2,000ミリで、年間日照時間は、2,200時間と気象条件に恵まれている。
 管内の総農家戸数は10,099戸で、うち28.6パーセント(2,890戸)が専業農家(県比率18.9%)で、第1種兼業家は1,687戸、第2種兼業農家は 2,690戸となっている。また、耕地面積は1万2500ヘクタールで、耕地率は27.2パーセントとなっており、県全体の12.6パーセントに比べ高くなっている。耕地面積の内訳は、畑地の割合が62.0パーセントと、県全体の52.5パーセントに比べ高く、畑作中心の農業地帯といえる。
 農業粗生産額は550億円で、県全体の約41.2パーセントを占めている。特に、いちごをはじめとする施設園芸と、ばれいしょなどの露地野菜、畜産の粗生産額が高い。
JAのブロッコリーは、 雲仙市吾妻町(図1および2)を中心に栽培されている。吾妻町は、山沿いには豊かな牧草地帯および畑作地が、平野部には水田地帯が分布しており、温暖多雨な気候条件に恵まれ、水稲、野菜、畜産など多様な農業が展開されている、生産性の高い地域である。近年、畑地基盤整備により、ブロッコリーの大規模経営が行われており、産地化が進んでいる。

雲仙ブロッコリー生産の経緯

 今では、知らない人がいないほど、食生活に密着したブロッコリーも、40年前は、それほど注目される存在ではなかった。雲仙市吾妻町におけるブロッコリー栽培は、1970年代に開始された。当時は、ブロッコリーをはじめ、はくさい、かぼちゃ、カリフラワー等、複数品目の栽培に取り組んだが、その中でも価格の回復が早く、安定しているブロッコリーは、栽培面積が増加した。1998年に畑地基盤整備事業(山田原基盤整備事業)が始まると、それまで狭く生産性が悪かった丘地の整備が進み、ブロッコリーの産地化が進められた(表1)。
 また、従来のブロッコリー栽培は、年内から年明け収穫を中心とした栽培体系で、4~10月に出荷することは難しいとされていた。特に、春どり栽培(4~5月どり)を導入するためには、厳寒期(1~2月)に定植する必要があり、低温時期の育苗および栽培方法の確立が必要であった。その後、生育温度を確保する方法として、マルチおよびべたがけ資材を導入することで定植に成功し、春どり栽培を可能にした。
 現在、雲仙ブロッコリー部会(以下、「部会」という。)の部会員数は38名で、面積は約125ヘクタールとなっている。1戸当たりの平均面積は3.3ヘクタールと、品目の栽培面積としては規模が大きい。1戸当たりの平均販売額も1142万1000円と、施設栽培に匹敵する農業経営を実現している。

ブロッコリー専業農家の育成

 今では、後継者も多く育っている部会も、発足当時は、ブロッコリーを複合経営の中の一部として位置付けた生産者が多く、計画出荷および計画販売が難しい状況で、安定した価格での販売に結びつかず、農業経営の中で、魅力ある品目とは言えない状況にあった。このため、ブロッコリー専業の農家を育成して産地化を図るため、JAと部会が一体となった取り組み始まった。
 専業化へのカギは、「省力化および規模拡大」だった。セル苗育苗と半自動移植機を導入し、山田原畑地基盤整備事業の着工に合わせ、畦内部分施用機や成形機、マルチャー等の機械を導入することにより、機械化栽培体系を確立した。また、春どり栽培を始めたことで、長期出荷ができるようになった。これらにより、労力の分散による農家の省力化と、価格のリスク回避を可能にし、経営の安定化につながった。
 2001年には、それまでの3キログラム段ボールの縦詰めから、6キログラム段ボールの横詰めに切り替えたことにより、大幅な出荷調整作業の省力化が可能となり、一層の規模拡大が進んだ。現在は、全量JAでの共同選別となり、生産者は、生産および収穫作業に専念するだけの栽培体系になった。
 2012年の実績で見ると、上位出荷者15人の平均栽培面積は5.2ヘクタール(部会平均は、約3.3ヘクタール)で、部会体の出荷量に占める出荷割合は80パーセントとなっており、専業化が進んでいる。また、上位出荷者以外の生産者についても、個々の経営に占めるブロッコリーの割合が確実に伸びていることで、部会の販売実績も大きく伸びている(図3)。

環境に優しい生産(栽培の特徴)

 部会では、環境に配慮したブロッコリー栽培(写真1)に力を入れており、2001年に、部会員全員がエコファーマーを取得した。特に、夏場に定植する年内どりおよび春どり栽培では、害虫対策が課題となるが、フェロモントラップをほ場に設置し、予察による適期防除と、適正量の農薬散布により、農薬使用を抑えている。また、べたがけ資材の活用により、農薬に頼らない害虫被害の軽減および鳥類の食害防止対策を行っている。
連作障害対策(根こぶ病)、土づくりおよび表土流亡防止として、ブロッコリー作付け終了後に、緑肥(ソルゴー)の作付けを毎年実施している。春どり栽培においては、廃プラ対策として、生分解性マルチを使用し、栽培終了のマルチゴミの減少に対して、部会全体で取り組んでいる。
 このような「安全・安心」に向けた取り組みを徹底させるため、毎月1回の定例会と品種ごとの目揃え会を行い、販売面では、秋冬および春作の年2回、取引市場との販売検討会を開催している。2011年から、JAよる全量共同選別(写真2)を開始することにより、生産者が生産に専念できる体制を築き、さらなる規模拡大への環境を整備することができた。共選体制は、販売面でも品質の均一化が図られ、産地評価の向上に大きく貢献している。なお、ブロッコリーの作型については、図4の通りである。

鮮度保持対策と販売戦略

JAおよび部会では、ブロッコリーの品質評価は、鮮度にあると考えている。「鮮度=産地の信頼」をモットーに、徹底した鮮度保持対策および品温管理に努めてきた。生産者個々の予冷庫の整備をはじめ、収穫から出荷までの品温上昇を防ぐため、会員がテクミラーシート(断熱被覆シート)を使っている。段ボールの内袋についても、さまざまな鮮度保持袋を使用してきたが、2006年に導入したMA包装技術による鮮度保持フィルム「P-プラス」で、ブロッコリーの鮮度保持が飛躍に向上し、遠隔地販売が可能になった。
 しかしながら、4月以降の暖候期においては、輸送中における黄化など、品質事故の発生がなくなることはなく、消費地での評価を落とす場面に直面することもあり、暖候期の品質保持対策が課題となった。この状況を打開するため、2011~2012年に、国庫補助事業を活用して低温流通施設を整備し、製氷機(写真3)を導入した。氷詰めによるブロッコリーの出荷(写真4)は、それまで行っていたどの対策よりも品質が飛躍的に向上し、鮮度を保ったまま消費地に届けることができるようになった。これにより、他産地との差別化が図られたばかりか、契約販売など、さらなる販路の拡大ができた。現在、関東市場を中心に、関西および中国地区の市場を含め9社との取引を続けている。暖候期ばかりでなくシーズンを通して氷詰め出荷することで、市場および販売店のニーズに応え、鮮度感をアピールし、さらなる顧客確保に努めていきたいと考えている。
 安全・安心の取り組みはもとより、「事故ゼロ」を目指し、部会員一同、鮮度の高いブロッコリーを消費に届けるよう日々努力しているところである。

今後に向けて

 JAおよびブロッコリー部会では、規模拡大と専業農家の育成に向けた取り組みを続けており、後継者の育成も順調に進んでいる。後継者を中心にした勉強会や、産地研修会を行うなど、部会全体の技術力向上に取り組んでいる。また、消費地に出向いての販売促進(写真5)や、料理番組への出演(写真6)など、ブロッコリーの消費拡大に向けた積極的なPR活動を行っている。また、女性部においても、忙しい作業の合間を縫って、交流会や視察研修会を開催し、会員同士の親睦と情報交換を行っている。
 ブロッコリーは、北海道や長野から夏作の出荷が行われることで、1年を通して国内産を供給できるようになった。今後は、各産地との産地間交流を深め、国産ブロッコリーの産地リレー出荷による有利販売を実現し、消費者に対して、常に「安全でおいしい国産のブロッコリー」を供給したい。

一言アピール
<雲仙ブロッコリーのかき揚げ>
 「ブロッコリー=サラダか料理の付け合わせ」は、もう古い。今では、ブロッコリーが主役となる、さまざまな調理方法が考案されている。雲仙市吾妻町では、同町特産のたまねぎをスライスしたものと、ブロッコリーを一緒に揚げた「雲仙ブロッコリーのかき揚げ」がたびたび食卓に登場する。
 これからの季節は、ブロッコリーのフリッターやグラタンなど、メインディッシュの食材として雲仙ブロッコリーをご活用いただきたい。
 

問い合わせ先
 
JA島原雲仙 西部基幹営農センター
 〒859-1104
  長崎県雲仙市吾妻町古城名133-2
  TEL:0957-38-2121 FAX:0957-38-3344
http://www. ja-shimabarauzen. or. jp/
E-mail:ja-seibu@carrot. ocn. ne. jp

 
今月の野菜「ブロッコリー 

今月の野菜
元のページへ戻る


このページのトップへ