~「神様」の遺志を受け継ぎ、土づくりにこだわるセルリー(セロリ)産地~
茨城県県西農林事務所 坂東地域農業改良普及センター 瀧澤 利恵
茨城県坂東市は茨城県の南西部・利根川北岸に位置し、平成17年に岩井市と猿島町が合併して誕生した市です。総面積123.18平方キロ、首都圏から50キロ圏内にあるおおむね平坦な地域で、中心部は猿島丘陵といわれる洪積層の畑地および平地林が占めており、川沿いに広がる沖積低地には水田が開けています。
年間平均気温15度、年間降雨量1,300ミリ前後の比較的温暖な気候と首都圏への地理的条件を生かした生鮮野菜の栽培が盛んで、特に夏ねぎ、レタスは全国1位2位の生産量を誇っています。
スーパーなどでは「セロリ」という呼び名で出回っているセルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)は、昭和30年代ごろ日本国内に普及した比較的新しい野菜で、涼しい気候を好むことから、主に夏~秋は長野県などの高冷地、冬~春は静岡県などでハウス栽培されています。
ねぎ+レタスの経営体系をとる生産者が大半を占める旧岩井市の中、利根川に面した田園地帯である長須地区でセルリー栽培が始まったのは、もう40年以上も前のことです。きっかけは、セルリー栽培の先駆者であり「セロリの神様」といわれた故・伊藤仁太郎氏のもとへ、同地区の生産者が研修に出かけたことでした。日本一おいしいと評される先輩農家のセルリー栽培を学んだ「神様の教え子」たちは地元に戻り、その後「前進会」というグループを作りました。現在は6戸の生産者が参加して、作付け面積約9ヘクタール、1月~6月の間に約6万ケースを出荷しています。
栽培は、ハウス促成・半促成栽培です。7月から種をまき、2~3ヵ月の育苗期間を経て、翌年1月から収穫が開始されます。セルリーは野菜の中でも肥料をたくさん必要としますが、根が養分を吸い上げる力が弱く、また、乾燥にも弱いので、小さな苗で畑に植えてしまうと、十分に根が張らず大きな株に育ちません。育苗期間中に1~2回、徐々に大きな育苗ポットへ植え替えをし、大きな苗に育て上げてから畑に定植するため、育苗期間が長く手間のかかる作物です。
岩井洋菜前進会のセルリーは、中間種(もっとも一般的に流通している茎が薄緑色の品種。さわやかな香りが特徴)の「コーネル619号」と、緑色種(茎まで緑色で香りの強い品種)の「サミット」を栽培しています。
生産者全員がエコファーマー認定を受け、環境に負荷をかけない農業を心がけています。特に土づくりにはこだわっており、牛ふんや落ち葉を原料とした堆肥を積極的に施用して、セルリーの生育に最適な土づくりを30年以上続けています。毎年作付前には、坂東地域農業改良普及センターにおいて土壌診断を会員自ら実施し、診断結果をもとに全員で検討して、土壌の状態にあわせて有機質肥料を中心に施肥量を決定します。
病害虫防除については農薬の使用を最低限にとどめ、セルリーが植わっていない夏場には、ハウスを閉めきって太陽熱土壌消毒を実施することで、土壌病害虫・雑草の発生を抑えています。
外葉・枯葉をのぞいて根切・葉切し、全長53センチに仕上げて一株ごとにポリエチレンなどの透明な袋に入れます。袋には丸と「進」のマークをつけ、前進会のセルリーだとわかるようにしてあります。段ボール箱に規定株数をつめ、JA岩井野菜予冷センターを通して、北海道や東京などに出荷しています。
農協出荷以外に、生産者各人のハウスで直売や宅配、ネット販売も行っています。また、土づくり勉強会や会員全員でのほ場巡回を実施し、情報を共有化することで「前進会のセルリー」の安定した品質を維持しています。
香りなどにややくせのあるセルリーの消費拡大を図るため、セルリーの料理レシピを作成し、配布も行っています。
◆一言アピール◆
歯ごたえがよく、さわやかな香りと甘みが味わえるおいしいセルリーを、自信を持って提供しています。茎を食べるのが一般的なセルリーですが、葉の栄養価も高く、免疫力を高めるビタミンCや疲労回復効果のあるビタミンB1・B2、血液サラサラ効果の期待できるビラジンなどが、茎よりも多く含まれています。葉は「佃煮」にすることでおいしく食べられますので、ご賞味ください。
◆問い合わせ先◆
担当機関・部署:茨城県県西農林事務所 坂東地域農業改良普及センター
住所:茨城県坂東市岩井5205-3
TEL 0297-34-2134
FAX 0297-34-3291