~白神山地の恩恵を受けた「白神ねぎ」の産地~
あきた白神農業協同組合
営農経済事業本部 営農経済課 佐藤 重樹
JAあきた白神は、秋田県北西部に位置する能代市・藤里町の2市町からなり、世界遺産として名高い白神山地を背に、東西に伸びる地形となっています。その面積は、708.73平方キロメートルで県全体の約6パーセントを占めています。地形的には米代川下流の平野部と北東部の山岳丘陵地帯、日本海沿岸部などからなり、土壌分布も黒ボク・グライ・砂質土壌と変化があり、農家経営内容は米を主体とした複合経営が中心です。
複合作物としては、ねぎ・みょうが・キャベツ等の土地利用型野菜が主流となっているほか、近年は県・市・町の支援を得ながらハウス栽培も積極的に行われ、トマトやチンゲン菜、冬期間の収入を目的とした促成アスパラガス、山ウド等の作目導入も進められ、周年的な農業の振興を図っています。
地域でねぎが栽培されるようになったのは、昭和25年頃、能代市近郊・郊外の集落で手間のかからない野菜栽培が盛んになり、その中でねぎが冬期間の現金収入として導入されたことに始まります。
昭和30年頃には、7桁農業を目指し、野菜の作付面積が大幅に拡大しました。当時は青果市場が地元になく、市内の卸売業者へ出荷していました。そのため、出荷量が多くなると価格安で売れ残り、大変苦労したそうです。その後、作付面積の大きかった河戸川・須田・四日市の3集落を中心として出荷組合が設立され、県外市場への共同出荷が始まりました。
昭和45年に県の畑作パイロット事業で、畑地の100ヘクタール造成を機に農地流動化の促進と同時に灌水設備も整い、本格的なねぎの栽培に取り組むようになりました。その後、国営農用地開発事業で更に畑地が造成されると、ねぎの作付面積は益々拡大しました。
昭和47年には、国の野菜指定産地となったことから、各集落に野菜集出荷所、防風網、ねぎ管理機械等が導入され、作業の効率化が図られました。翌年には能代市農協蔬菜部会が設立され、共同出荷のための規格統一、品種、作付体系、病害虫防除などの技術体系協定を行い、現在のJAあきた白神ねぎ部会の基盤ができました。
近年では根葉切り皮剥機やねぎ収穫機等の高性能な機械が導入され、ねぎ栽培における機械化一環体系が確立したことで、作付面積・生産者数が飛躍的に増加しています。
現在、管内では170人の生産者が約128ヘクタールを作付けしており、更に拡大傾向にあります。昨年度は、全国的にねぎの出荷が稲刈り後に集中したため価格が低迷し、農家にとって厳しい年となりましたが、出荷数量3,110トン、販売額7億6,300万円の実績を残すことができました。当部会の目標である、ねぎ単品販売額10億円の販売を目指し、部会全体で意欲的に取り組んでいます。
管内では越冬したねぎを出荷する春ねぎに始まり、夏・秋冬、そして冬期間出荷する囲いねぎと周年出荷栽培に取り組んでいます。
作期に幅があるため、適したは種・定植期の策定や品種の選定が重要となります。最近は、温暖化やねぎ輸入量の減少から夏ねぎの需要が高まり、7月中旬から8月盆前の高値時期の出荷を重要視しています。
夏ねぎは2月上旬には種し、4月上旬に定植します。当地は寒冷地のため、育苗に保温暖房のコストや労力が非常にかかります。春先は融雪が遅く、ほ場準備や定植作業がスムーズにできず、定植後の活着遅れや生育停滞を招き、7月の早期出荷に間に合わないことがあります。そのため、前年には種し、大苗で越冬させてから春に定植することで、春先の生育停滞を回避する作型を今年から本格的に導入し、7月中旬からの安定した太もの出荷に取り組んでいます。いまだ育苗技術や適応品種・病害虫防除等が確立しておらず、昨今の天候不順に影響されやすい作型のため、県や市の指導機関と連携を取りながら、作型を確立させていく予定です。
近年、温暖化の影響か過去にはあまり発生が見られなかった病害が多くなり、小菌核腐敗病やべと病・軟腐病・白絹病などの発生が多くなりました。
病害で特に苦労するのが軟腐病の防除です。軟腐病は、高温期の8月中旬から9月下旬頃に多発する、ねぎが腐ってしまう病害です。出荷する時は何ともなくても、市場・量販店に並ぶ頃に腐敗している事もあるため非常に厄介です。発生する要因は、ねぎの連作や排水不良に高温多湿が重なると発生しやすく、また、高温時に灌水することで発生が助長されます。腐敗すれば、治療できる薬剤がないので、廃棄処分するしかありません。そのため、定植前の排水対策や、ねぎ収穫後の緑肥栽培による地力増強、薬剤による予防防除、連作をしないで他作物との輪作等を行っています。
虫害はネギアザミウマが最も多く、ねぎを周年栽培しているためか、秋田県内でも発生量が多い地域となっています。ネギアザミウマは高温乾燥を好み、特に空梅雨や高温少雨の夏に発生が多くなります。成虫・幼虫が葉に寄生し、葉の表層組織を傷つけ、吸汁するため、加害部は白いかすり状の食害痕となります。被害がひどくなると商品価値が劣ってしまうため、定期的な防除が必要となります。また、雑草が発生源となるため、ほ場内外の除草を徹底し、予防に努めています。
温暖化の影響により、年々ねぎの生育や病害虫の発生が多様に変化している中で、部会員の技術や知識の習得のために、定期的な講習会や現地巡回・目揃い会・新規栽培者講習会等を開催しています。また、県や市の指導機関と協力し、ねぎの栽培カレンダーや病害虫防除暦を作成したり、市況や栽培情報等をファックスで一斉配信したり、生産者へ常に新しい情報を迅速に伝える体制を整えています。
「白神ねぎ」は5キロダンボール詰めが基本です。規格は2Lがバラで、L・M・Sが350グラム以上の束となっています。市場量販店の要望もあり、コンテナでの出荷や、根葉を付けた土ねぎ、直販用の袋詰めなど用途・要望にあわせた出荷を行っています。
集出荷については、能代営農センターが基盤となって行っています。近隣の生産者はセンターへ持ち込みし、遠方の生産者については、各集落の集荷所や個別に集荷を行っています。
当センターでは、平成14年度の農林水産省補助事業により、真空予冷機と大型保冷庫が稼働しています。夏場などの気温が高い時期は、出荷されたねぎが傷みやすいので、出荷されたら直ぐに真空予冷し、保冷庫で十分冷やしてから翌日各市場へ出荷します。
主に関東近郊を中心に出荷しており、東北・東海地方や地元市場への出荷も行っています。出荷市場を細分化することで、価格の大きな変動が少ないように出荷調整します。
また、市場へ生産者の声を直に届けるため、年2回ねぎ部会役員が出荷先の各市場へ訪問し、互いの情報交換を行っています。
当地は販売量こそ県内トップの産地ですが、平成18年に東京の市場において、秋田県内のねぎを集めて品質の査定会が行われた際に、品質にバラツキがあると市場から酷評を受けました。以前より品質レベルが低いと評価されていたため、これを改善する対策として、部会による品質検査を翌年から実施しております。これは、部会役員による週一回の抜き打ち検査で、生産者の質より量の意識を改善し、品質の底上げを目指すための取り組みです。その結果、次年度以降の査定会では高評価を得ることができ、市場・量販店からも品質のクレームが少なくなりました。今後も高品質を維持するために、部会全体で品質検査に取り組み、更なる有利販売につなげていきたいと考えています。
ねぎはここ数年安定した収益を得られることから、全国的に産地化が進んでいます。そのため、市場でもネギの取扱数量が増加傾向にあり、価格が低迷しているのが現状です。現在ねぎの主産地である関東近郊が、秋冬ねぎから春ねぎを中心とした作付体系にシフトしてきており、端境期である夏ねぎの需要が年々高まっています。当部会では今後夏ねぎを主力に、越冬早取り作型の早期確立や、被覆資材の利用、適応品種の選定に力を入れていきたいと考えています。
これからも、高品質のねぎを安定供給できるよう、「白神ねぎ」ブランドとして販売展開を行い、更なる産地拡大へとつなげていきたいと思います。
◆一言アピール◆
雄大な白神山地の恵みをいっぱい含んだ「白神ねぎ」を、一度ご賞味下さい。
◆問い合わせ先◆
JAあきた白神 営農経済事業本部 営農経済課
住 所:秋田県能代市荷八田字石森台49-75
電話番号:0185-55-0777
ファックス:0185-54-9104