神奈川県農業技術センター三浦半島地区事務所
普及指導課 技師 荒木 麻友子
三浦半島は神奈川県の南東部に位置し、東に東京湾、西に相模湾、南は太平洋と、三方を海に囲まれています。気候は、黒潮の影響を受け冬が暖かく、年間平均気温15.5度、年間降雨量1,500ミリ、年間日照時間2,100時間以上で海洋性気候に属しています。
三浦半島の耕地面積は1,791ヘクタールで、そのうち畑(樹園地を含む)が98パーセント以上を占めています。温暖な気候条件を生かして、秋から春にかけてはだいこん・キャベツ、夏はすいか・かぼちゃ・メロン・とうがんなどを中心に、年2~3作の輪作(例 秋冬:だいこん→冬:キャベツ→春夏:すいか)が行われており、高い生産性を上げる農業が営まれています。農家数は1,682戸で、そのうちの専業農家率は41パーセントと高く、若い農業後継者が多いのも特徴の一つです。
産地形成の歴史
キャベツの栽培は、だいこんに次いで歴史が古く、明治25年頃に始まったといわれています。過去には、形が扁平で堅く結球した寒玉系の冬キャベツが栽培されていましたが、昭和40年代の前半に、冬どり作型に現在まで栽培されているやわらかくて甘い春系キャベツが導入され、早春キャベツと春キャベツの作型が確立されました。春キャベツは昭和40年から、早春キャベツは昭和55年から、国の指定産地となっています。
なお、最近では、早春キャベツや春キャベツだけではなく、加工・業務向けとして5月中旬~6月に収穫される寒玉キャベツの栽培に取り組む農家もいます。
早春キャベツは、春系の品種で、8月上旬~9月上旬には種、9月下旬~11月上旬に定植、11月下旬~3月上旬に収穫されます。真冬にできるキャベツなのにやわらかくて甘いのが特徴で、冬のキャベツ産地としては全国有数の規模となっており、関東以北の市場への大きな供給地となっています。平成21年度の作付面積は345ヘクタール、総出荷数量は約15,000トンです。
春キャベツは、9月下旬~10月中旬には種、10月下旬~2月中旬に定植、3月上旬~5月上旬に収穫されます。早春キャベツよりさらに甘くやわらかいのが特徴で、サラダなどの生食向きの品種です。春どり栽培は、キャベツにとっては生育適期の栽培となるので、病害虫の被害が少なく、薬剤散布の回数も少なくてすみます。春キャベツの後、5月中下旬には中早生キャベツも出荷されます。平成21年度の作付面積は795ヘクタール、総出荷数量は約40,000トンです。
キャベツの育苗段階で問題になる病害に、根朽病・苗立枯病があります。この病害を予防するため、一般には薬剤を使用しますが、三浦半島の一部では、環境への負担が少なく省資源的な方法として太陽熱を利用した土壌消毒法に取り組んでいます。
太陽熱消毒法は、施肥をしては種ができる状態に整備した苗床をビニールで被覆することにより、地温が上昇し、高温に弱い菌を死滅させ、雑草を抑制することができます。使用するビニールは、夏にメロンやすいかの栽培に使っていた古ビニールを用いますので、コストがかかりません。また、ビニールで被覆することで、土の表面が十分に湿った状態を維持できるため、は種条件として大変良好になります。
ほかのキャベツ産地では、セル成型育苗が主流になりつつありますが、三浦半島では地床での育苗が主流です。地床育苗は、セル成型苗と比べると土壌消毒などの病害虫対策が必要になり、手間がかかります。しかし、特別な施設や資材を必要としないので低コストで作ることができ、セル成型苗では活着できない厳寒期に定植する春キャベツも育苗することができます。また、定植適期が長いため、台風や天候不順などにより、前作の収穫が前後しても、定植することが可能です。
写真2 地床育苗
三浦半島は、年2~3作の輪作が行われ、ほ場の回転率が非常に高い地域です。この輪作体系を維持し、出荷を前倒しにするために、一部の春キャベツ栽培で「間作」が行われています。間作は、前作のだいこんもしくはキャベツの畝間を通常より広めに設定し、前作の収穫前に畝と畝の間で春キャベツを定植します。春キャベツの前作となるだいこんは、12~1月に収穫されます。春キャベツの定植時期はそれより以前の11月中旬頃のため、キャベツは前作のだいこんが収穫される前に、だいこんの畝間に間作されています。また、早春キャベツの間作として春キャベツを定植する例もあります。
収穫は、十分に結球し、結球部を上から押して固くなった株から、順次行われます。大きさがLサイズまで成長するのを待つため、3回程度に分けて行われます。収穫した株は、10キログラム段ボール箱(8個入りLサイズ中心)に詰め、集出荷場に運びます。農協の担当職員が荷受・検査を行った後、特産・三浦野菜生産販売連合が市場別の出荷数量を決め、市場に輸送します。
三浦半島内には、三浦市農業協同組合とよこすか葉山農業協同組合の2つの農業協同組合がありますが、出荷量を増やし有利販売を行うため、この2農協は連携して平成6年に特産・三浦野菜生産販売連合という組織を発足させました。連合は市場との窓口となり、全農神奈川県本部の指導・協力のもと、関東地域を中心に広く販売しています。
GAP手法(農業生産工程管理手法)は、全国の主要な産地で導入が進んでおり、農産物の安全・安心を確保するための手法として認識されています。三浦半島では、GAPの普及・実践に取り組むため、平成20年に農協・市町・県関係機関が協力してGAP推進専門部会を結成しました。専門部会はGAP手法を普及するための講習会を開き、平成21年秋以降はだいこん・キャベツ生産について各生産者にチェックシートを配布し、GAPを実施しています。また、生産現場での取り組み状況を確認するため、専門部会で現地確認を行い、年度ごとに生産者の意見などを参考にチェックシートを適宜修正し、新たに取り組むべき項目を追加するなどの改善を図っています。
海に囲まれ、太陽の光をふんだんに浴び、有機質肥料を中心に使用して育てた三浦半島のキャベツは、冬でもやわらかく、味が良いのが自慢です。秋冬にかけ栽培されるため、病害虫の発生が少なく、農薬の防除回数も少なくなっています。甘くて美味しい、安全・安心な三浦半島のキャベツをぜひご賞味ください。
神奈川県農業技術センター三浦半島地区事務所
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