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静岡県 遠州夢咲農業協同組合(いちご)

~「安全・安心・新鮮」をテーマに品質向上に努めています~

遠州夢咲農業協同組合営農部営農販売課 主任 水島 武人



 

1. 産地の概況

(位置)
 遠州夢咲農業協同組合(以下、「JA遠州夢咲」)は、静岡県の中西部に位置し、菊川市、掛川市の南部、御前崎市の西部を区域としています。
 管内は、南は遠州灘に面し、東は茶畑が広がる牧之原台地、西は小笠山山系、北は南アルプスの支脈栗ヶ岳に囲まれ、ほぼ中央の平野部を菊川が貫流しています。
(気象条件)
 冬には「遠州のからっ風」が吹きますが、年間を通じて温暖な気候であり、年間の平均気温は15.8度、年間降水量は1,936ミリ、日照時間も長く農産物の生産に適しています。
(土壌条件)
 管内の土壌は、南の遠州灘海岸付近には砂丘未熟土(砂地地帯)、その北側の菊川流域の平野部には灰色低地土やグライ土、東の牧之原台地には赤黄色土の地帯がそれぞれ形成されています。
(水利条件)
 管内は早くから牧之原台地の東側を流れる大井川から取水した「大井川用水」が整備され、現在もパイプライン化の整備事業による水利の整備が進められています。
(出荷)
 当産地は、静岡市と浜松市のほぼ中間に位置しており、ともに車で1時間圏内の距離にあります。さらに、名古屋へは2時間、東京へは3時間前後と大消費地へのアクセスもよく、物流環境も整っています。
 いちごは、大半が市場向けに出荷され、県内市場向けと京浜市場向けにほぼ同量を出荷しています。販売は10月後半から翌年7月前半までの期間行われ、期間中には販売会議を2回、統一目揃い会を年3回行っています。また、いちごは特に新鮮さがおいしさを左右するため、早朝の収穫、予冷庫を利用した果実の引き締め、厳しい選別および品質のチェック、保冷車による輸送など、鮮度を守る工夫がいくつも施されています。

2. 産地の歴史と栽培品種

(1)産地形成の歴史と組織の現況

 管内におけるいちご栽培の歴史は、昭和9年に遠州灘沿いの砂地地帯にて「福羽(ふくば)」という品種を栽培したのがはじまりといわれています。その後、昭和30年代後半には高冷地育苗技術が普及しはじめ、促成栽培が可能となったことにより、作付けは一気に広がりました。
 平成4年3月の農協合併を機に、大城、菊川、小笠、浜岡の4つの旧いちご部会も合併し、現在の「JA遠州夢咲いちご委員会」(以下、「いちご委員会」)が誕生しました。合併当時は、会員数は266名、栽培面積は60ヘクタールの規模でしたが、平成15年頃から徐々に高齢化などによる生産者数の減少が見られるようになりました。
 平成21年度の実績では、会員数は173名、栽培面積は44.18ヘクタール、出荷量は1,586トン、販売金額は約16億1千万円となっています。

(2)栽培品種の変遷

 平成4年の合併当初の栽培品種は、「女峰」が中心でしたが、平成7年頃から果実が大きく、多収性に優れ、果実の形のそろった「章姫(あきひめ)」が普及しました。その後、「章姫」を種子親として、果実の硬さに優れ、果肉が緻密で濃厚な食味を有する「さちのか」を花粉親として交配して誕生した「紅ほっぺ」が平成18年度より普及しはじめ、平成21年度には作付けの80パーセントを占めるほどになりました。
 「紅ほっぺ」は収量性に優れ、名前のとおりほっぺが落ちるほどおいしいといわれるくらいコクがあります。また、果心部まで鮮やかに赤いという特徴があり、ケーキなどの洋菓子にも良く合う人気のいちごとなりました。

3. 栽培概況

(1)栽培カレンダー

(2)高設栽培の普及による栽培の省力化への取り組み

 平成10年頃より管内でも高設栽培が普及しはじめました。作業にかかる負担が少なく、生育スピードも速いため、毎年少しずつではありますが、高設栽培の割合が増え、平成21年度には高設栽培の面積が全体の約38パーセントを占めるようになり、72名の生産者が導入しています。

(3)摘花による果実品質の向上

 「紅ほっぺ」はその品質上、摘花(つぼみや花を摘み取り、着果を促進すること)の有無により果実の糖度が異なるため、果実の肥大のみを目的とした摘花ではなく、果実の品質を考慮した摘花を行うよう、生産者にもそのことを理解していただくよう努めています。

(4) 環境に優しい栽培への試み

(土づくり)
 シーズン終了後には、次期作の土づくりの一環として、生産者に緑肥作物の青刈りを推進しています。平成21年度産終了後の夏には、サラダはくさいの植付けを行い、土壌の塩類集積の軽減を図りました。また、施肥前には各ほ場にて土壌診断を行い、個々のほ場に対応した施肥設計を施し、肥料の投入量を減らす試みも行っています。
(害虫防除)
 害虫防除の取り組みは、平成14年度の補助事業(野菜構造改革促進特別対策事業)を活用して、防除用黄色蛍光灯を1,700台導入しました。黄色蛍光灯は、夜間に点灯することにより、夜蛾類の交尾抑制や飛来抑制など、光学的な害虫抑制作用によって害虫被害を減らす効果があります。また、平成17年頃には、天敵を利用した害虫防除も開始し、毎年生産者を集めて講習会を開くなどして普及に努めています。ハダニ類の防除では、11月上旬からミヤコカブリダニ、1月下旬からはチリカブリダニをそれぞれ天敵として放飼しています。うまく定着すれば11月から収穫終了までの期間、ハダニ類の防除のための農薬の散布は、無散布もしくは1回程度に減らすことができます。同様にアブラムシ類の防除についても、天敵のコレマンアブラバチを導入するなどして、化学農薬の散布量削減に努めています。
(花粉交配用ミツバチの増殖)
 また、いちごの生産に欠かすことのできない花粉交配用ミツバチの不足が報道される中、いちご委員会では「野菜・花き産地高度化緊急支援事業」(農林水産省)を活用し、ミツバチの増殖を図りました。1シーズン中に管内に必要な2,638群のミツバチを確保するため、当事業を利用して増殖用巣箱、給餌器を400セット購入し、それらの資材を主な養蜂家に貸し出すとともに、養蜂家との間でミツバチのリース契約を結んでいます。また、生産者に対してもミツバチの生態や飼育管理方法に関する講習会を開催し、ミツバチの効率的な利用を推進し、延命措置に努めています。

4.共販活動

(1)安全・安心と消費拡大への取り組み

 選果場に持ち込まれたいちごは、選任検査員によって品質などの検査が行われています。いちご委員会では「安全・安心・新鮮」をテーマに、生産履歴の記帳およびその確認はもちろんの事、収穫後の予冷や年3回の統一目揃い会を通じていちごの品質向上に努めています。
 販売促進活動としては、全栽培農家参集による販売対策会議を年2回、消費地まで出向いた消費宣伝活動を年4回行うなど、夢咲いちごの認知度向上、ブランド化、消費拡大を目的とした活動に取り組んでいます。特に、女性部によって行われる消費宣伝活動は、いちごをほ場で摘んで収穫箱に入れた状態のままで店舗へ直送し、お客様の前で会話をしながらパック詰めする方式で、消費者からは、新鮮さや安心感があるとの評価を得ています。

女性部によるパック詰め実演販売の様子

パック詰め方法を統一するための目揃い会

(2)生産性向上と販売力強化への取り組み

 いちごはその特性上、年間の出荷の約半分が3月~4月に集中することから、出荷調製作業に負担がかかり、生産性を損なうことがあります。そのような状況を改善すると同時に、事前の商談内容をもとにさまざまな出荷形態の要望に対応した荷造りを可能とし、販売力を強化するために、平成21年12月に農協施設として「パッケージセンター」を新たに設置しました。現在、いちご委員会会員の約3割に当たる50名が「パッケージセンター」を利用し、年間出荷量の約1割に当たる146トンを出荷し、1億5千万円を売上げています。また、「パッケージセンター」の臨時雇用職員として新たに30名を採用し、地域雇用創出の一端も担っています。

ケーキなどの業務需要に対する出荷形態

パッケージセンターの様子

(3)安定供給

 「紅ほっぺ」の作付けが拡大したことに伴い、促成栽培の比率を高める必要が出てきたため、個人所有の夜冷施設以外に、農協の冷蔵庫を利用した株冷処理と長野県売木村での高冷地育苗を新たに開始し、末端実需者の要望に応えた出荷体系の構築に取り組んでいます。売木村での高冷地育苗では、いちご委員会の9戸の会員が1.7ヘクタールの農地を育苗圃として賃借し、促成栽培に取り組んでいます。

(4)地産地消と食育への取り組み

 平成21年度より「地産地消」や「食育」の一環として、農協青年部が主体となって、地元の菓子製造・販売会社の若手社員20人を対象に、いちごの苗の定植作業や管理作業、収穫方法などの農作業を体験してもらうなど、いちごに対する理解を深めていただく活動を行っています。

5. 産地を維持するための取り組み

 産地の生産基盤を強化し、作付規模を維持していくには、高齢化による作付面積の減少以上に担い手確保が急務との判断により、まず、取り組んだのが「ニューファーマー養成制度」(県事業)の活用でした。いちご委員会会員の農業経営士の方々に新規就農希望者の研修受入れをお願いし、育苗から定植・栽培管理や経営哲学に至るまで、研修生に指導をして頂いています。当初は1戸であった受入農家も現在では3戸に増え、管内に就農したニューファーマーは、平成22年末までには22名となり、栽培面積は約7ヘクタールとなりました。また、その就農地のほとんどが遊休農地、遊休施設の利用によるものであるため、農地の保全、有効活用に資する取り組みとなっています。
 また、後継者育成を目的に、研修生や新規就農者、就農5年未満の方々を対象に「いちご栽培スクール」と称した講習会を開催しています。肥料・農薬の基礎知識や時期別の注意事項、ほ場巡回、市場視察など、テーマ別に毎月1回、年12回開講し、若手のスキルアップを図っています。

青年部員によるいちごの管理指導の様子

6. 今後の課題

 いちご委員会においても、生産者の高齢化による作付面積の減少や、リタイアなど、産地規模の縮小が予測されます。そのため生産面では「ニューファーマー養成制度」を活用し、担い手の確保を図るとともに、環境にやさしい農業を推進し、持続性のある農業体系の確立を目指したいと考えています。また、販売面ではパッケージセンターを核とした実需者の要望に応える産地作りを目指すこととしております。
 最後に、今後もおいしいいちごを作り、提供することで、お客様に喜んでいただける産地になるように努力をしたいと考えており、その結果が生産者の所得向上につながり、後継者や新規就農者が増えるような、魅力のあるいちごの産地にしていきたいと考えています。

(参考)静岡県の「ニューファーマー養成制度」などに関するホームページ
http://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-320/index.html

中まで赤い「紅ほっぺ」

一言アピール

 静岡県には「ニューファーマー養成制度」などがあり、就農希望者は先進的な農業経営者のもとで一年間、栽培技術や農業経営を実践的に学ぶことができます。研修手当ての支給、農地情報の提供、就農時には資金面からの支援などのサポートが可能です。さらに、JA遠州夢咲管内のいちごの「パッケージセンター」を利用することで、パック詰め作業の負担を軽減することができるなど、労力面でも新規就農者をサポートできる体制にあります。
 JA遠州夢咲では、いちご作りにチャレンジしたい方をお待ちしています。

お問い合わせ先

遠州夢咲農業協同組合 営農部 営農販売課
住所 〒437-1416 静岡県掛川市三俣1187-1
   TEL 0537-72-2312 FAX 0537-72-5671
   URL http://www.ja-shizuoka.or.jp/yumesaki/

 

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