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福島県 すかがわ岩瀬農業協同組合 (きゅうり)

「パリッと新鮮でおいしい 岩瀬きゅうり」

調査情報部調査課 係長 高城 啓



1. 産地の概要
   ~夏秋きゅうりの収穫量日本一~

(1)須賀川市の概要

 福島県の中央に位置する現在の須賀川市は、市町村合併によって平成17年4月1日に人口8万人余りの市として誕生しました。東部には福島空港、中央部には東北自動車道があり、県内でも交通条件に恵まれています。また、阿武隈山系と奥羽山脈に囲まれ、中央部は平坦な地形で、阿武隈川と釈迦堂川を有する緑豊かな地域です。
 その地域を営業区域とする、すかがわ岩瀬農業協同組合(以下「JAすかがわ岩瀬」)は、須賀川市(岩瀬地域)の複数の農協が合併した組織です。
 管内の年間の平均気温は12度、年間降水量は1,300ミリと比較的温暖で積雪も少なく、きゅうり、トマト、なす、さやいんげんなどを中心に多くの品目が栽培される全国でも有数の夏秋野菜産地となっています。比較的高温で梅雨時期をはさんだ7~8月の夏の天候と、北西からの冷たい風による影響が比較的少ない秋の天候により、きゅうりの生育に適した地域で、夏秋きゅうりの収穫量は全国一です。毎年7月には、きゅうりのお祭り「きうり天王祭」があり、まさに「きゅうりの街」と言えます。

(2)産地形成の歴史

 須賀川市では、昭和29年からきゅうりの栽培が始まり、栽培に適した気候条件のもと、団地形成の動きが強まる中で出荷の効率化が図られ、昭和41年には夏秋きゅうりの野菜指定産地の指定を受け、昭和45年から現在にかけて全国最大の夏秋きゅうりの産地を形成しています。
 昭和45年以降、栽培方法の改良が急速に進み、現在では一般的となっている接ぎ木栽培やハウス栽培などが普及し、管内農協の品種の統一も行われました。
 平成4年には、出荷規格の合理化が進みましたが、バブル経済の崩壊の影響もあって、それまで順調に増加していた販売額は伸び悩み(平成4年度の販売額約37億円。前年度比87%)ました。しかし、翌5年には、冬春きゅうりについても野菜指定産地になるなど、1年を通じて出荷が可能な産地となっています。
 平成8年には、自動選果施設が稼働し、栽培農家個々の選果作業の集約化を図りました。また、同年、管内の農協の合併が進み、JAすかがわ岩瀬が誕生しています。
 以後もコスト削減などを積極的に進めてきましたが、近年の価格低迷、栽培農家の高齢化などもあって、平成6年度に17,664トンあった販売数量は、平成21年度には9,334トンまで減少しています。今年の露地物のきゅうりは、4~5月の低温などの影響から1週間ほど定植が遅れましたが、6月に入り気温が上昇し出荷量も増え、販売数量9,754トン、販売金額24億円が見込まれています。

表 JAすかがわ岩瀬管内のきゅうりの販売数量等の推移


注:主な年次を掲載。出典はJAすかがわ岩瀬資料。冬春きゅうりの販売数量等を含む。

2. 産地栽培の概要
   ~露地栽培の夏秋きゅうり~

 管内の夏秋きゅうりの一般的な栽培方法としては、従来より露地栽培(露地普通栽培)が採用されてきました。これは、気象条件に大きく影響されるものの、資材が少なくてすみ、栽培農家の約8割(約60ヘクタール)が採用しています。以下は、栽培の概要です。

(1)ほ場の排水対策

 きゅうりは土壌の過湿や通気不良を嫌うことから、ほ場の排水対策が重要です。具体的には、地域的に水田から転換したほ場が多いことから、排水溝をほ場の周囲に深めに掘り、水分を管理しやすいよう畝を高くします。畝と畝の間には排水用の直径50~60センチの暗きょパイプを埋め込み、畝には干ばつに備えてチューブ又はパイプを設置して、かん水を可能としています。

(2)ほ場の土つくり

 管内で良品多収の栽培農家は、秋冬期に土中たい肥又はライ麦のすき込みを行っています。土中たい肥は、稲わらを土中に埋めてたい肥化するもので、ほ場10アール当たり稲わら2千キログラム、石灰チッソ100キログラム、ようりん(※)60キログラムを材料とします。10センチ程度に細かく切った稲わらをほ場に散布してから散水し、石灰チッソとようりんを散布した後に反転すき込みを行います。石灰チッソとようりんは、たい肥が未熟の場合に発生する生育障害を防ぐため、稲わらの分解を促進することを目的に使用します。
 一方、ライ麦のすき込みは、緑肥とするために10アール当たり6~10キログラムのライ麦をは種し、ごく浅く覆土した後、翌春4月下旬にたい肥、苦土石灰、ようりんなどを散布してから耕すもので、連作障害を回避するために行われます。

(3)育苗と接ぎ木

 は種後10~12日目の本葉が出始めた頃、苗が弱いきゅうりの弱点を補うために「接ぎ木」を行っています。管内では、きゅうりの品種については、一定の労働量が確保できる場合、側葉発生が旺盛で収量の上がる品種が選択されます。この場合は、摘葉が遅れないよう注意します。一方、労働力が不足する場合は、省力型の品種が選択されます。また、ほ場で特定の病気が発生しやすい場合は、耐病性の品種を選択することがあります。同様に、穂木(上部の植物体。きゅうりの苗)との接ぎ木を行う台木(下部の植物体。かぼちゃの苗)の品種についても、ほ場の状態や穂木と相性を考慮して選択が行われます。
 接ぎ木によって生み出された苗は、育苗期間中にウイルスに感染することが多いため、ハウス内で育苗する場合は、開口部を防虫ネットなどで覆い、病害虫の侵入を防止します。この場合は、通気性が悪くなるので「べと病」などの過湿が原因となる病気が発生しないよう防除を徹底します。ハウスによる育苗期間は、約1カ月間です。

(4)定植

 定植の1カ月前までには、施肥および畝のマルチかけを行います。マルチは、雑草の生育を抑えるほかに、土壌水分の確保が目的です。本葉が3~4枚出た頃、根付きの良否がその後の生育に大きく影響することから、無風で暖かい日を選んで定植します。定植の直前には、苗を液肥に浸し、かん水を徹底することが重要で、病害虫対策としても薬剤を土壌に予め混和します。
 管内では、定植から収穫開始までは約30日が適当とされ、定植後に最も重要となる「根づくり」のため、定植後10日間に3回程度の株元(定植した苗)へのかん水を行って根の縦伸長を促し、気象条件の変化に左右されない強い苗を作ります。
 収量は、雌花の開花までの管理によって決まる「草姿」と関係があるとされています。理想的な草姿は側枝の発生が良いことで、そのほかに巻きひげは太く元気がよいか、葉色は光沢があるか、花が上を向いているかなど、日々のチェックが重要であり、生育状況に応じてかん水、摘葉、摘果や追肥などが行われ、は種後2カ月で収穫に至ります。
 なお、防虫ネット栽培の場合は、収穫期間が延びるという利点があります(図)。

(※)ようりん:熔成りん肥。りん酸、けい酸のほかに、鉄、銅などの微量要素を含んだもの。

 

 

図 栽培カレンダー (露地栽培の夏秋きゅうり)

3 生産・栽培上の特色
   ~防虫ネットできゅうりを守る~

 JAすかがわ岩瀬は、平成15年度から防虫ネット(1ミリ程度)を導入した夏秋きゅうりの栽培を推進しています。会津地方の取り組みを参考に、高温や冷夏など異常気象対策として導入されましたが、害虫の侵入を防ぐことで病気の発生を減少させる効果もあり、通常の露地栽培と比較して安定した生産が可能となりました。
 具体的なメリットは、保温効果や高温回避のほか、害虫による急性萎ちょう症(根が腐って急激に枯れるウイルス性の病気)の発生を減少させ、風の影響を受けにくいので定植後の根張りが良く、雹(ひょう)も完全に防ぐことができます。また、殺虫剤などの農薬の散布回数が3割程度減少し、減農薬栽培も可能となります。
 注意点は、葉の露の乾きが遅くなることから、換気不足などが原因である「べと病」・「褐斑病」の防除が必要となることです。この場合は、排水対策を充実したほ場の整備や防虫ネットと支柱の間隔を広くとり通気を良くすることが重要です。また、ネット内にはミツバチを放飼するのでハチへの影響が少ない農薬の使用が求められ、さらに、風が弱まり湿度が確保されることから、側枝の発生が旺盛となるので、こまめな摘葉が必要となります。
 注意点はあるものの、生育が促進されて草勢が安定することから、通常の露地栽培よりも単収とA級品率が向上し、収穫期間も延長するため、栽培農家の所得の向上にもつながります。
 防虫ネット栽培の農家は、平成15年度で24戸(約3ヘクタール)でしたが、平成21年度には全体の1割程度の114戸(約20ヘクタール)まで拡大しました。施設費の目安は10アール当たり約100万円で、JAすかがわ岩瀬としては、福島県などの補助事業の活用により、栽培農家を全体の3割程度まで拡大する予定です。

ネット内にミツバチを放して受粉

4. 出荷の工夫
   ~作業の自動化で家族団らん~

 JAすかがわ岩瀬では、出荷作業の省力化を図るため平成8年3月に、1日当たりの処理能力90トンの大型自動選果施設「きゅうりん館」の操業を開始しました。総面積57,138平方メートル(東京ドーム約1.2個分)の大型施設で、管内で収穫されたきゅうりの約4割が選別、出荷されています。施設の完成により、今まで行ってきた選果、箱詰め作業から解放され、家族団らんの時間が増えて慢性的な疲労も軽減されるなど、多くの農家に喜ばれています。

薄緑色の「きゅうりん館」

ピーク時には受入口は行列に

 出荷までの具体的な流れを見ると、まずはじめに農家は、収穫したきゅうりをバーコードによる生産管理システムが搭載された専用コンテナに詰め、施設1階の受入口に持ち込みます。コンテナは自動的に予冷庫で冷却された後に2階の選果ラインに運ばれ、1本ずつ専用カメラで大きさ・形などをチェックして、1秒間に3本の速度で8種類の規格に選別されます。その後、施設内で機械により組み立てられた出荷用の箱に24本2段(計48本)で自動的に箱詰めされ、作業員の目視確認を受けた後に手作業で2本を加え、1箱当たり計50本で出荷されます。

バーコード管理の専用コンテナ

きゅうりは1本ごとに選別

専用カメラで大きさ・形を判別

最終確認時に2本足し込む

 また、フケ(先端部が高温により大きく膨張する現象)を防ぐため、水分を含ませた吸湿紙を箱に被せるという独自の取り組みで品質を保持しています。さらに、バーコード管理により、箱ごとに「誰が何時に搬入したきゅうりか」が識別可能な仕組み(トレーサビリティシステム)となっており、品質の向上に努めています。

潤いたっぷりの吸湿紙

品質保持を第1に出荷

 今年、露地きゅうりの出荷のピークとなった7月下旬の「海の日」の前後には、通常70人体制のところ、100人体制で選別・出荷に当たり、主に京浜および関西地区に出荷されました。例年、7~8月の京浜地区で流通するきゅうりの2本に1本は、須賀川産と言われています。

5. 販売戦略
   ~アイデア商品が大人気~

 今年で7周年を迎えた直売所のファーマーズマーケット「はたけんぼ」では、新鮮な野菜・果物や手作りの加工品などを販売しています。青果については、生産者自らが価格を設定し、袋詰めから納品までを行います。販売時は「生産者の氏名」が明記され、誰が生産したかが一目で分かり、「直接買ってもらえることが嬉しい」と多くの農家が参加しています。運営はJAすかがわ岩瀬から完全に分離していて、直売所独自の豊富なアイデアが販売戦略に活かされています。

「第2 の田んぼと畑」が
キャッチフレーズの「はたけんぼ」

お客様から指名買いの場合も

 また、直売所には「食育ソムリエ」の資格を有するスタッフが常駐し、おいしい食べ方を消費者に提案しています。地元で一般的な「きゅうりの味噌汁」や、最近では濃い味付けの「きゅうりの佃煮」などを紹介しています。

食育ソムリエでもある深谷副店長

 さらに、ドレッシングやお酒など、きゅうりを使った数多くの商品が人気を得ています。今年7月には、新鮮なきゅうり汁を練り込み、もちもち感を増すために地元産コシヒカリの米粉を配合した「きゅう麺ぼ」という薄緑色の麺の販売を開始しました。口に含むと、きゅうりのさわやかな香りが広がり、市販の麺つゆのほか、この商品に合わせて開発された「特製の味噌だれ」もあって、多彩な食べ方がきゅうりの本場・須賀川から発信されています。
 これらの商品は、味や栄養は問題ないものの曲がっているなどの規格外品のきゅうりを原料としているため、資源の有効活用にも寄与しているところです。

手に取りやすい200グラムパック

色も香りも‘きゅうり’の「きゅう麺ぼ」

6. 生産者紹介
   ~きゅうり一筋・谷津光一氏~

 JAすかがわ岩瀬野菜協議会の会長を務める谷津光一氏は、きゅうり栽培に取り組む生産者で、防虫ネットを導入しています。
 谷津氏が防虫ネット栽培を始める平成15年度までは、普通の露地栽培を行っていたため、アブラムシなどの病害虫由来の病気に長年悩まされてきました。行政支援を受けることも可能であったことから、現在では全てのほ場(約25アール)で防虫ネットを導入しています。

うっすらと見えるネット内のきゅうり

強い夏の日差しがネットで和らぐ

 防虫ネット栽培によって、収量は約3割増加し、A級品率も上昇しました。また、以前は収穫期が10月中旬まででしたが、10月下旬まで収穫が可能となりました。このことについて谷津氏は、きゅうりへのストレスが減り寿命が延びたことを要因として挙げています。病害虫だけでなく、風、雨、日差しおよび気温差でも、防虫ネットによるストレスの軽減効果が有るとのことです。

ストレス少なめでノビノビ生育

緑の濃いきゅうりが収穫を待つ

 きゅうりは収穫までに手間がかかる野菜です。防虫ネットによって生育が良くなった分、風通しを良くするための摘葉の作業は欠かせず、今年のような猛暑の場合はきゅうりが暑さで疲れてしまうので、アミノ酸入りの液肥を使うなど、谷津氏は手間を惜しみません。谷津氏によると「手間をかけなければ収量は期待できない」とのことから、実際に労働時間とのバランスを取るため、栽培本数を2,500本から1,400本まで減少させました。それでも防虫ネット栽培によって、以前と変わらない収量を確保しています。
 また、谷津氏は現在まで品種を5回変更し、表面に白い粉(ブルーム)が出ないブルームレスきゅうりの栽培についても早くから取り組んできました。受粉についてはミツバチを使います。きゅうり果は、ハチによる受粉の方が大きくなり、良品の生産にはハチの働きが欠かせないそうです。

最盛期で大忙しのミツバチ

きゅうり栽培一筋の谷津御夫妻

 谷津氏は、幼少の頃から家業のきゅうり栽培を手伝ってきました。現在は奥様と二人で栽培を行い、忙しい夏の時期は1日中汗だくで作業しています。選果作業も自ら行い、出荷まで人の手が触れることが少ない「ワンタッチきゅうり」というブランドで出荷しています。手間を惜しまない谷津氏のきゅうりは、栽培農家の代表として多くのマスコミの取材を受けるなど、高く評価されています。

7. 一言アピール
   ~岩瀬きゅうりの魅力~

 日本一の生産量を誇る須賀川自慢の夏秋きゅうりの季節がやってきました。栽培には有機肥料を多用しており、バランスのとれた水分と堅さ、パリッとした歯ごたえと甘味が特徴の「岩瀬きゅうり」を是非、ご賞味ください。

「岩瀬きゅうり」は、福島県統一名称「パワーグリーン」として出荷

お問い合せ先

すかがわ岩瀬農業協同組合(営農部) 
〒962-0047 福島県須賀川市松塚字赤坂1- 1
TEL:0248-72-5213 FAX:0248-72-5222

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