埼玉県春日部農林振興センター 農業支援部 技術普及担当 舟田 一与
埼玉県久喜市は、平成22年3月23日に旧久喜市、旧菖蒲町、旧栗橋町、旧鷲宮町の1市3町が市町村合併して新たに久喜市として誕生しました。
その中で久喜市菖蒲町は、都心から約45キロメートル離れた埼玉県の東部に位置し、平成20年には大型商業施設が建設され、平成22年度には首都圏中央連絡自動車道の開通が予定されるなど、近年都市化が進んでいる地域です。
古くから都市近郊地域といった立地条件を生かし、梨やきゅうり、いちご、なす、トマトなどの果菜類の生産が盛んに行われてきました。その中でなすの生産は昭和30年代に露地栽培が始まり、昭和50年代にはビニールハウスが導入され、以後、半促成栽培(無加温栽培)による生産が行われてきました。
本稿で紹介する上栢間丸上園芸組合は、現在6名の生産者で栽培面積65アールのほ場にてなすを栽培している小さな組合です。平成20年度から独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所が開発した単為結果性なすの「あのみのり」を導入し労力軽減を図りながら品質の良いなすの生産を行っています。
毎年7月末頃に土壌消毒を行い、その後自家製の稲わらをほ場にすき込みます。
は種は生産者各自が自宅の育苗用ビニールハウス内で行います。9月中旬に第一回目のは種(台木用)が行われ、種をトレーにまきます。その後2日程度ずらして穂木用の種(挿し木用の赤なすの種)が同様にまかれます。
11月上旬頃に、ある程度成長した苗を直径9.5センチのポットに植え替えます。その後、12月20日頃には耐病性をもたせるため、先には種した台木と後からは種した赤なすの穂木の接ぎ木を行います。その後年明けの1月上旬から中旬の間に、一回り大きいサイズの直径12センチのポットに鉢替えを行い、定植に向けて成長を促します。
2月下旬にビニールハウス内のほ場に定植し、3月下旬から7月中旬にかけて収穫が行われます。出荷のピークは6月となります。
産地栽培カレンダー
ハウス内の様子
光沢のあるなす
「あのみのり」の導入は、平成18年に試験的に導入したのが始まりです。「あのみのり」は、ほかのなすに比べて収量はやや落ちますが、
○ 受粉しなくても果実が自然に肥大する性質(単為結果性)を持ち、授粉作業や着果促進処理(ホルモン処理)を施さなくても果実の生産が可能な品種であること
○ 側枝の発生がゆるやかなため、枝の整枝労力を大幅に軽減できること
○ 種が少ないため形もきれいで味も良いこと
といった特徴があります。
通常なすは、受粉しなければ果実は肥大しません。特に半促成栽培なすは、冬季の低温下による栽培のため花粉ができにくくなり、一花ごとに植物成長調整剤による着果促進処理が行われています。なす農家にとってホルモン処理にかかる労力は、作業全体の約30パーセントにもおよび、かなりの労力を必要としています。
同園芸組合の生産者の平均年齢は70歳と高く、さらに毎年5月中旬から6月中旬の間は稲作と作業が重なり、なすの栽培管理が不十分となり、品質の低下が見られることもありました。このような状況の中、「あのみのり」の導入は、生産者の労力とコストの軽減を図り安定生産を可能としています。
選別・箱詰めは生産者ごとに行われており、出荷・販売は農協を通じた共同販売であることから、生産者間の規格の統一と品質の個人差を平準化するために、定期的に規格・品質の目揃い会を開催しております。
また、埼玉県農林総合研究センター園芸研究所や埼玉県春日部農林振興センターの支援の基、定期的な巡回指導により生産技術の向上も図っています。
果実の外観が良好で、種が少ない品種のため、種子部の褐変などが少なく、果肉色が白いことから高品質な漬物などへの利用が期待できます。
そこで、実需者ニーズを探る取り組みとして、加工・業務用カット野菜の業者へのサンプルの提供や県内の漬物業者の利用なども現在検討中です。
埼玉県園芸研究所の技術支援
加工・業務用カット野菜の業者との連携
「秋なすは嫁に食わすな」ということわざの通り、本来の「なす」の収穫期は秋ですが、今では一年中店頭に並ぶようになりました。生産者は品種だけでなく、肥料や農薬を減らすための技術を導入するなど、より良い「なす」の生産に向け日々努力を積み重ねています。そういった生産者の気持ちが少しでも伝わればと思います。
生産量はまだ少ない「あのみのり」ですが、どこかで見かけましたらご賞味ください。
担当部署:埼玉県春日部農林振興センター
住 所:埼玉県春日部市大沼1-76
電話番号:048-737-6311
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