農林水産省 食料産業局 食品流通課 卸売市場室長 武田 裕紀
卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律が衆議院、参議院の審議を経て、本年6月15日に成立し、6月22日に公布されました。
食品流通においては、昭和46年に卸売市場法が制定された当時と比較して、加工食品や外食の需要が拡大するとともに、通信販売、産地直売等の流通の多様化が進んでいます(図1)。
こうした状況の変化に対応して、生産者の所得の向上と消費者ニーズへの的確な対応を図るためには、卸売市場について、取引の実態に応じて創意工夫を生かした取組を促進するとともに、食品流通全体について、物流コストの削減や情報通信技術の導入、品質・衛生管理の強化などの流通の合理化と、その取引の適正化を図ることが必要です。
このため、公正な取引環境の確保と、卸売市場を含む食品流通の合理化とを一体的に促進する観点から、卸売市場法と食品流通構造改善促進法を改正することとしたものです。
今回の卸売市場法の改正は、図2のとおりであり、その詳細は、以下のとおりです。
(1) 卸売市場法の改正内容
ア 卸売市場法の目的改正
卸売市場法の改正においては、目的規定を改正し、卸売市場が食品等の流通において生鮮食料品等の公正な取引の場として重要な役割を果たしていることと、そのことに鑑み、卸売市場の認定に関する措置等を講ずることを明記しております。
イ 卸売市場に関する基本方針
また、農林水産大臣は、卸売市場の業務の運営、施設等に関する基本的な事項を明らかにするため、卸売市場に関する基本方針を定めることとしています。
本稿を記述している時点ではパブリックコメント期間で、皆様が本稿をお読みになる時までには、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴いた上で基本方針が決定していることと思いますが、パブリックコメント時点での基本方針に定めている事項は次のとおりです。
① 卸売市場の業務の運営に関する基本的な事項
●卸売市場の位置付け
●卸売市場におけるその他の取引ルールの設定
●卸売市場における指導監督
開設者による指導監督、国及び都道府県による指導監督
② 卸売市場の施設に関する基本的な事項
●卸売市場の施設整備のあり方
流通の効率化、品質管理及び衛生管理、情報通信技術その他の技術の利用、国内外の需要への対応、関連施設との有機的な連携
●国による支援
③ その他卸売市場に関する重要事項
●災害時等の対応
●食文化の維持及び発信
●人材育成及び働き方改革
ウ 卸売市場の認定
卸売市場の開設に関しては、公正な取引の場としての一定の要件を満たす卸売市場について、今後ともその機能を発揮できるよう活性化を図るとの観点から、これまでの許認可制から認定制に移行しました。農林水産大臣又は都道府県知事は、生鮮食料品等の公正な取引の場として、差別的取扱いの禁止、受託拒否の禁止(中央卸売市場のみ)、売買取引の条件や結果の公表等の共通の取引ルールを遵守し、適正かつ健全な運営を行うことができる卸売市場を、基本方針等に即して中央卸売市場又は地方卸売市場として認定します。
差別的取扱いの禁止等の共通の遵守事項以外の遵守事項、すなわち第三者販売や直荷引き、商物分離、自己買付等についてのルールについては、品目や地域の実情に合わせて、卸売市場ごとに設定できることとしています。また、地方卸売市場においては受託拒否の禁止が共通の遵守事項とはしていないため、地方卸売市場において受託拒否の禁止を遵守事項とする場合には、この共通の遵守事項以外の遵守事項として設定することとなります。
共通の遵守事項以外の遵守事項を定める際、その遵守事項が共通の遵守事項の内容に反するものでないこと、出荷者、卸売業者や仲卸業者、売買参加者や買出人など取引参加者の意見を聴いて定められていること、その遵守事項と遵守事項が定められた理由が公表されていることを満たしている必要があります。
エ 卸売市場法改正により期待されるビジネスモデル
以上のような今回の卸売市場法の改正をもとに、今後は、図3のようなビジネスモデルが期待されます。
柔軟な取引ルールを設定できる制度を活用して各卸売市場において期待される取組としては、まず、生鮮食料品等においても規格化が進んでいることを踏まえ、商物分離を認める取引ルールを設定することが考えられます(産地直送)。この場合、卸売市場取引でありながら、物流は直送することにより、出荷者の物流コストを削減するとともに、食品の鮮度を保って消費者まで届けることができるようになります。
また、仲卸業者が産地から直接集荷できる直荷引きを認める取引ルールを設定した場合には、小ロットになりがちな有機農産物や地場野菜等を仲卸業者が直接し入れることが可能となり、消費者ニーズに合った品揃えを充実し、地域の生産者に販路拡大の機会を提供することができます(輸出促進)。
第三者販売を認めるルール設定をした場合には、開設者に個別の許可等の手続なく、別の卸売市場の卸売業者や仲卸業者への販売を通じて、迅速かつ円滑に農産物の過不足を調整することや卸売業者が直接加工業者や外食事業者に販売することが可能となりますし、また、各卸売市場の需給状況を踏まえて市場間での転配送も円滑に行うことができます(市場間ネットワーク)。
このような取組によって卸売市場の取引が活性化し、卸売市場の役割・機能を十全に発揮することを期待していますが、各卸売市場において、卸売市場の将来像を描きながら、開設者と取引参加者とが十分に議論していくことが何よりも重要であると考えております。農林水産省としても、全国の卸売市場や他の食品の流通の状況に関する情報提供なども含め、各卸売市場における議論・検討を積極的に支援していく考えです。
オ 卸売市場施設に対する支援
認定を受けた卸売市場に対しては、引き続き予算措置として3分の1以内で支援を行っていきますが、中央卸売市場に対する法律補助も引き続き措置しており、食品等の流通の合理化に取り組む中央卸売市場の開設者に対し、予算の範囲内において、その施設の整備に要する費用の10分の4以内を補助することができる旨の規定を法律に定めています。
(2) 改正食品流通構造改善促進法の内容
今回、卸売市場法とともに、食品流通構造改善促進法も図4のとおり改正を行いました。その詳細は、以下のとおりです。
ア 食品流通の合理化
農林水産大臣は、食品等の流通の合理化を図る事業を実施しようとする者が講ずべき食品等の流通の効率化、品質・衛生管理の高度化、情報通信技術等の利用等の措置を明らかにするため、食品等の流通の合理化に関する基本方針を定めることとしています。
この基本方針等に即して、農林水産大臣は食品等流通合理化事業に関する計画を認定することとし、認定を受けた者は、その計画の実施に当たり、株式会社農林漁業成長産業化支援機構(以下「A-FIVE」という)による出資、株式会社日本政策金融公庫による資金の貸付け等、食品等流通合理化促進機構(現;食品流通構造改善促進機構)による債務保証等の支援を受けることができます。
食品流通の合理化の取組はさまざまなものがあると思いますが、今回は特に青果物流通の代金決済における情報通信技術の活用についてご紹介したいと思います。国産青果物の代金決済は、卸売市場の代払組合、精算会社の存在によって早期決済が確保されていますが、これからは個々にシステムを構築して管理するではなく、与信管理等は個々に行いながらも、クラウドサービスを活用し、ブロックチェーンや取引データのアルゴリズム分析によって機密性確保と与信管理を効率的かつ低コストで行うことができるようになるかもしれません。
そのようなサービスのシステム構築に当たっては、コストの負担と受益の不一致や関係者の合意形成が課題となりますが、A-FIVEの支援の仕組みを活用することで、合意形成ができた関係者だけの投資とA-FIVEの出資を加えて、まずはスタートアップし、徐々に利用者を増やしながら、最終的には自立した事業とするといった事業展開が可能となります。このような新しい取組によって食品流通が合理化し、発展していくことが期待されます。
イ 食品等の取引の適正化
また、農林水産大臣は、食品等の取引の適正化を図るため、食品等の取引の状況等に関する調査を行い、当該調査の結果に基づき、指導・助言等の措置を講ずるとともに、不公正な取引方法に該当する事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を通知することとしています。
食品産業センターが行った「食品産業における取引慣行の実態調査報告(平成28年)」においては、小売業者と食品メーカーとの取引において、協賛金負担やセンターフィー負担、買いたたきについての調査結果が報告されていますが、今回の改正によって、食品流通における取引状況を調査し、その結果に基づいた対応を行うことで、食品流通における取引の適正化を図ろうとするものです。今後、調査方法の具体化に向けた準備を進め、早期に調査を実施していく考えです。
なお、食品流通構造改善促進法は、これらの改正に伴って、法律の題名を「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律」に改めました。
改正法案は平成30年6月15日に可決成立いたしましたが、参議院において附帯決議がなされています。この附帯決議には、国会の審議の中で議論となった主な論点を踏まえ、政府が卸売市場に対する指導・監督・検査・支援などの関与を適切に実施すること、各卸売市場の業務規程については全ての取引参加者の意見を公平かつ十分に踏まえ適切に策定されるようにすること等の7項目について記されております。
改正法は6月22日に公布され、食品流通構造改善促進法の改正は6カ月以内、卸売市場法の改正は2年以内に施行することとしております。全国の卸売市場において、それぞれ今後の市場像を描き、業務規程等の策定に取り組んでいただくことになりますが、私ども農林水産省といたしましても、附帯決議の趣旨を十分に踏まえ、各卸売市場の協議や検討などの取組を支援していきたいと考えていますので、今後ともよろしくお願いいたします。