農林水産省 食料産業局 食品流通課
1 はじめに
農産物の輸送の大部分を担うトラック輸送については、ドライバーの長時間労働や低賃金などの労働環境から深刻な人手不足となっており、産地から消費地までのトラックを安定的に確保することが難しくなっています。
こうした状況を改善するためには、今やトラック運送事業者の自助努力だけでは問題解決には及びません。農産物のサプライチェーンに携わる生産、流通、物流の関係者が連携・協力し合い、物流の効率化に取り組み、安定的・持続的にトラック運送機能が提供される環境を整えていくことが必要不可欠です。
2 農産物の物流の現状と課題
青果物などの農産物については、天候に左右されやすくロットも小さいなどの生産構造や、腐りやすいなどの特性、高い鮮度や豊富な品ぞろえなどの消費者ニーズに対応する必要があるため、全国の産地から集荷し、迅速にきめ細かく分荷していく流通形態が発達していますが、こうしたことがトラック輸送に大きな負荷を与える要因ともなっています。
例えば、産地では出荷量が直前まで決まらないため準備が整うまでの間、トラックが待機したり、消費地では荷下ろし先の入荷時間帯の集中により待機時間が発生するなど、ドライバーが長時間拘束されることがあります(図1)。
また、出荷時の荷積みや輸送過程における荷積み荷下ろしをドライバーが手作業で行うなど重労働を強いられるほか、突然の行き先変更や厳しい品質管理、厳格な到着時間など運行管理が難しいといった指摘があります。
既にトラックの確保が難しいという産地の声も聞かれはじめていますが、現状を放置したままでは、農産品の輸送がドライバーから敬遠されたり、断られる事態が拡大するおそれがあります。
今後とも食料の安定的・効率的な供給を維持していくためには、生産、出荷、流通、販売の各関係者が物流関係者と、双方の立場における課題を共有しながら、これまで以上に連携を図り、トラック輸送への負荷の軽減と物流の効率化に取り組んでいくことが必要です。
3 農産物の物流効率化、トラック輸送への負荷軽減に向けた取り組み
農産物の物流を効率化していくためには、大きくは、①パレットやフレコン(注1)の活用、②共同輸送、③鉄道や船舶へのモーダルシフト、④ICTシステムの活用、⑤商慣行の見直しといった取り組みが考えられます(図2)。
産地の所在地、輸送する農産物の品目やロット、輸配送先の場所・数や距離などに応じて、それぞれに置かれている実情や課題がさまざまあるなかで、サプライチェーン全体で効率化を図るためには、複数取り組みの組み合わせや、その実現手法について多方面からのアプローチを検討していく必要がありますが、ドライバーがダンボールなどを手作業で積み下ろしている場合が多い実情を踏まえると、早急に負担軽減につながるとともに、流通過程のいずれの段階でも必要になるものとして、パレットの導入・拡大が掲げられます。
注1:フレキシブルコンテナ(Flexible Containers)の略。粉粒体を大量輸送することを目的とした折り畳みができる柔軟性のある袋状のコンテナ(充填荷重0.5~3トン)。
4 農産物の一貫パレチゼーションの実現方策について
パレットの利用促進は、効率化の効果が大きいため、以前より検討がなされてきましたが、
ア 流通過程の途中で紛失などを防止するために、利用や管理のためのルールが必要であるが、関係者が多く合意形成が難しい
イ コストの負担者と効果の受益者が短期的には一致しないため、導入のメリットを感じにくい
ウ 調達費用や関連設備が必要、積載効率の低下に伴い輸送経費が割高となるなど、追加コストがかかるため取り組みにくい
といったさまざまな課題もありました。
このため、農林水産省としては、関係業界団体・企業の参画の下、経済産業省および国土交通省とともに検討を重ね、平成30年3月、現在限定的な取り組みにとどまっている農産物の一貫パレチゼーション(産地から輸送先まで、農産物をパレットに乗せたまま輸送する方式)を実現するためのモデル作りと全国的な取り組みへと拡大していくための方策として「農産物の一貫パレチゼーションの実現方策について」(農産品物流対策関係省庁連絡会議)をとりまとめました。
このとりまとめでは、
ア パレットの共同利用・管理による循環利用モデルの基本ルール
全国の産地、流通、物流の関係者が共同利用・管理のためのルールを策定し、循環利用が可能なモデル構築をすること
イ 運営体制
関係者が連携・協力しながら取り組みを推進・運営するための協議会を設立し、主体的かつ持続的な取り組みとすること
ウ 立ち上げから全国的な取り組みへの拡大の流れ
実証・効果検証を通じてモデルを構築し、対象品目や参加産地の拡大などを通じた規模の経済性や回収率の向上により、効率的な運用を行い、取り組みを全国的に広げていくこと
に関する方針を示しました(図3)。
(1) パレットの共同利用・管理による循環利用モデルの基本ルール
このモデルの対象範囲は農産物流通に係る全ての段階としており、使用するパレットは統一規格のレンタルパレットを用いることとしました。ポイントは以下の通りです。
ア 産地から輸送先までの間を一貫したパレチゼーションでつなげる
産地、卸売、小売・実需の各ポイントでは、パレットが活用されていたとしても、輸送過程でその都度、手作業による積み替えを行っていると、労働力や作業時間を要することになり効率的ではありません。産地から輸送先まで、可能な限り積み替えることなく輸送するためには、サプライチェーン全体で基本ルールについての合意形成をしたうえで取り組んでいくことが重要です。
イ 使用するパレットの大きさ・材質を統一、RFID(注2)付きのものとする
現状、農産物輸送に使われるパレットは、大きさ(11型や12型(注3)など)や材質(プラスチック製や木製など)などにいくつかの種類がありますが、異なる種類のものが併存していることで、出荷・流通過程の各段階で、種類ごとに管理や運用などを適切に実施する必要が生じ、非効率となるケースがあります。
パレットの規格などを統一することにより、複数産地・品目のトラック輸送やパレットが集まる卸売市場などの物流拠点における管理・運用などの効率化が見込まれるほか、ダンボールや折りたたみコンテナなどのサイズも集約化しやすくなるなどの波及効果も期待できます。
さらに、RFIDによりパレットの追跡を可能とすることで、紛失や流出の問題を解決しつつ、将来的には、積載する農産物とパレットの紐付け管理によるトレーサビリティの向上や検品作業の効率化などの取り組みにもつながります。
注2:Radio Frequency Identification の略。電波を利用して非接触で電子タグのデータを読み書きする自動認識技術。
注3:11型(1100ミリ×1100ミリ)のサイズのもの
12型(1000ミリ×1200ミリ)のサイズのもの
ウ レンタルパレットを複数の利用者が共同で循環利用する
産地が独自にパレットを調達する場合、調達費用や関連設備が必要となるだけでなく、紛失などによる損失を防ぐために、輸送先から自ら回収しなければならないなどの管理コストもかかります。
このため、レンタルパレットを用いて、産地で借りたパレットが輸送先で管理、回収業者により回収され、再び産地に貸し出されるという、循環利用モデルとしました。この取り組みに賛同する産地、卸売、小売・実需が増えるほど、規模の経済性が向上し、利用、回収、再利用の循環が効率的かつ低コストで行われることになります。
今回の取り組みを実現するためには、しっかりとしたモデルを固めるための実証を行い、効果を検証しながら、取り組みを全国に波及させていく必要があります。流通過程で紛失することなくパレットが回収されることが重要であり、本取り組みに参加する各流通段階において、パレットの等枚交換などが行われないよう、以下のような基本ルールに基づき、関係者が意識を統一して取り組むことが重要です。
○ 基本ルール
1 対象範囲:産地から卸売、小売・実需(製造、外食など)まで
2 モデルで使用するパレット:統一規格のパレット
(RFID付きT11型プラスチックパレット)
3 利用から回収・再利用まで
Ⅰ 発荷主(産地、卸売)がレンタルし、パレットで出荷
Ⅱ 物流業者が荷と共に運び、着荷主に引渡し
Ⅲ 着荷主(卸売、小売、実需)が保管・返却
Ⅳ 回収業者が一括回収し、レンタル業者が発荷主へ再びレンタル
4 パレット管理、紛失など防止
Ⅰ 出荷から各流通段階のパレット移動情報をRFIDで把握・管理
Ⅱ 当該パレットの使用は、協議会の会員間のみに限定
Ⅲ 非会員への転送・販売などは、卸売などが別パレットなどに積み替え
(2) 運営体制
現場の声を反映し、パレット化の取り組みを浸透させるためには、サプライチェーンに携わる業界横断的な関係者が集まり、情報を共有しながら連携を深め、互いに協力することが重要です。このため、農産物のパレット化を推進するための協議会を設立し、関係者が一丸となって主体的かつ持続的に取り組んでいく体制の構築が必要不可欠です。
協議会を運営する理事会のメンバーは、全国に取り組みを展開することができる各流通段階の全国組織などとし、この場に正会員として発荷主、賛助会員として物流業者や着荷主が集まることにより、一体的にパレットの共同利用・管理を行うこととしました。
協議会の構成は、以下の通りです。
○協議会の構成
1 理事会
構成:産地、卸、小売、物流などの全国団体
役割:推進方針の決定、各業界への普及・啓発、ルールの指導など
2 事務局
構成:関係業界からの出向者など
役割:協議会及びパレット事業の運営(料金収受、業務発注など)
3 正会員
構成:発荷主(生産者団体・法人、卸売業者、仲卸業者)
役割:パレットの利用、会費・利用料の協議会への支払など
4 賛助会員
構成:物流業者、着荷主(小売業者、実需者(製造・外食など))
役割:パレットの輸送、RFID読取り、保管・返却への協力など
5 オブザーバー
構成:農林水産省、経済産業省、国土交通省
役割:事業支援、関係業界の指導、調整など
(3) 立ち上げから全国的な取り組みへの拡大の流れ
まず、遠隔地などで統一規格のパレットの使用が可能な産地から開始し、出荷先の市場や販売先などがおおむね特定される品目などからモデル実証を行う方針としました。その後、会員の拡大に応じ、順次対象品目、産地を拡大し、統一規格以外のパレット使用産地は、機材の更新時などでの切替え、参加を誘導するなど、取り組みの和を広げていきます。
会員の拡大や取組熟度が上がることにより、パレット回収率が向上することで利用料の低減などにつながり、一層効率的な運用が見込まれます。最終的には、全国の産地、卸売、小売・実需をカバーする取り組みへと拡大することが期待されます。
5 一貫パレチゼーションの具体化・実現に向けた動き
平成30年5月には「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」(自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議)が決定されました。
この中においては、ドライバーの長時間労働の是正および負担軽減対策の一つとして、農産物輸送のパレット化による物流効率化の推進が明記されました。物流問題に関しては、個々の業者が別々に取り組んでも効率的な取り組みとはなり得ません。物流に関わる全ての方々が一体となって取り組んでいくことが求められます。
以上のような流れを受けて、30年8月、生産、流通、物流の関係者で組織する一般社団法人農産物パレット推進協議会(代表理事:全国農業協同組合連合会、理事:東京青果株式会社、一般社団法人全国スーパーマーケット協会、一般社団法人日本パレット協会、公益社団法人全日本トラック協会、日本パレットレンタル株式会社、監事:熊本大同青果株式会社)が設立され、本格的に活動を開始しました(図4)。
今後は、同協議会が主体となり、生産現場から消費地までを取り込みながら、パレットを共同利用・管理する循環利用モデルの構築と、参加会員の拡大などを通じ全国的な取り組みに広げていくための動きが具体化していくことになります。
6 さいごに
農産物の流通ルートや消費者ニーズが、めまぐるしく変化するなかで、それを取り巻く物流環境もまた日々変化し続けています。こうした変化に対応していくためには、共同輸送、モーダルシフト、ICTシステムの活用、商慣行の見直しなどの改善策をさまざまな角度から模索し続けていくことが必要となりますが、多くの取り組みは、パレチゼーションと組み合わせることで、より一層効果を発揮することができるものです。
いわば農産物における一貫パレチゼーションの確立は、農産物の物流効率化の取り組みを行っていくにあたり、将来の礎となり得るものであり、農産物の生産、流通、物流に携わる皆様に浸透し、課題解決に向け、一致団結して取り組みが拡がることを期待しています。