(1)輸出の動向
韓国は、農産物貿易の自由化に対応した施設園芸産業の育成と輸出振興を図ってきた。いちごは1980年代にも少量の輸出実績があったものの、本格的な輸出は90年代後半からであり、日本から導入した「レッドパール」を対日輸出したことで始まった。日本が2003年に食品衛生法を改正し、残留物質基準をそれまでのネガティブリスト(NL)
(注8)からポジティブリスト(PL)
(注9)に変更したこと、さらに「レッドパール」の許諾使用料問題などにより、同年の対日輸出量は261t(前年比65%減)と大幅に減少した(図7)。
(注8)原則として規制が無く、規制する物質をリスト化し(ネガティブリスト)、リストに記載された物質のみに残留基準を設定し、リストに記載がない物質については残留基準などがない仕組み。
(注9)残留を認める物質をリスト化し(ポジティブリスト)、それ以外は原則として規制する仕組み。
対日輸出量減少後は、国産品種の育成による輸出品種との置き換えや、香港、シンガポールなど輸出先の開拓と多様化により、06年以降は輸出量が増加に転じた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大前の19年には豊作で生産量が増加し、輸出量は前年比20%増の5259トンとなった。
20年以降は、22年には、栽培面積減少や天候不順などによる作柄悪化で輸出量は3000トン台に減少したが、その後は再び4000トン台後半に回復した。
(2)いちご輸出に対する政府などの支援
ア 手厚い補助事業の実施
国および地方自治体は、いちご輸出に対し、韓国農林水産食品流通公社(aT)を通じて輸出企業などに物流コストの一部を補助し(直近では2023年で終了したaTによる「輸出農産物物流コスト支援事業」
(注10)〈以下「支援事業」という〉など)、輸出意欲を高めてきた。また、韓国農林畜産食品部(MAFRA)は、aTを通じて、「優秀農業食品パッケージ事業」(以下「旧事業」という)により輸出組織育成と同組織のマーケティング強化を図ってきた。
支援事業は終了したものの、MAFRAは、24年から旧事業を再編・拡充した「農業食品グローバル成長パッケージ事業」(以下「新事業」という)を措置した。新事業では、旧事業の2メニューに現地化支援を加え、支援対象も物流効率化コストや市場化テストなど新たに17項目を追加した32項目とするなど、手厚い支援を行っている(表9)。
(注10)野菜、果実、菌茸、花き、キムチ、高麗人参、畜産物、酒類、ソース、茶、米加工品、穀物およびその他加工品の13種の農産物を輸出する企業などに対し、物流コストの15%(国:5%、地方:10%)を支援する単年度補助事業。同事業終了の経緯については、(注2)と同レポートをご参照ください。
イ 輸出統合組織K-Berryによる統一ブランド構築と品質の均一化
韓国における農産物の輸出に関しては、政府主導で一元出荷を行う輸出統合組織
(注11)の育成が進められており、いちごについても、2019年に生産者と輸出業者の共同でK-Berry(以下「KB」という)が設立された。
KBは25年現在、48生産者団体と38輸出業者が加入しており、輸出向けいちごの96%がKBを経由している。KBは、韓国産の品質均一化として、1)輸出先の農薬使用基準による防除指導、2)一元的トレーサビリティ管理、3)統一ブランド管理、4)ERP
(注12)システムによる全出荷団体の健全経営と競争力強化を目的とした一元的企画管理-を行っている。
23年の支援事業終了を受け、それまで各輸出業者が行っていた航空会社との輸送単価交渉をKBが一元的に行うことで、引き続き安価な輸送単価を実現している。
(注11)輸出業者が母体となった一元的な輸出組織。生産農家と相互拘束力のある契約を締結し、輸出統合組織が主体となり、指定品種、栽培・収穫、選別、包装、輸出、品質管理などの基準を定めるほか、輸出(販売)代金精算、農家教育などの付帯業務を実施することで、輸出農畜産物の競争力を高めて輸出拡大を目指している。
(注12)Enterprise Resource Planning(企業資源計画)の略。生産管理、資材購買管理、資材など在庫管理、出荷販売管理、会計管理などを一元管理し、有効活用すること。
ウ COVID-19による物流混乱時期にはいちご専用便の措置も
2020年の世界的なCOVID-19拡大は、ヒトやモノの移動にも影響を及ぼした。鮮度重視のいちごは航空便で輸出されるが、COVID-19拡大による移動制限で減便され、限られた航空便はワクチン輸送などを優先したため、輸出向けいちごの国内滞留が問題となった。これを受け、MAFRA、aTおよびKBは、大韓航空の協力を得て、同年12月から21年4月までの輸出最盛期に、シンガポール行きのいちご専用便を運航した(旅客機を活用して週4便運航、期間中に959トン輸送)。
21年も国際物流が停滞したことから、シンガポール行きに加え、香港行きの専用便も運航し、円滑ないちご輸出を支援した(シンガポール行きは週5便運航、香港行きは毎日2便、期間中に1584t輸送)。なお、国際物流の正常化により、25年現在は実施していない。
(3)韓国産いちごの主な輸出先
韓国産いちごは、2024年時点で26カ国・地域に輸出されている。中でもアジア、特にシンガポール、タイおよび香港への輸出量が多く、輸出量に占めるこれら3輸出先の比率は、17年までは約8割、18年以降は低下したものの、依然として7割前後を占めている(図8)。
23年以降、それまで第1位だった香港向けが減少したのに対して、第2位だったシンガポール向けが増加し、24年は香港向けがさらに減少して第3位のタイ向けが増加した。16年から輸出が始まったベトナムは、韓国との経済的、人的交流が盛んな国であり、24年には16年比で6.7倍の6985トンとなり、第4位と躍進した。タイやベトナムなどの東南アジア諸国向けが多い要因として、経済発展によるいちご消費市場の拡大に加え、韓国・ASEAN自由貿易協定や地域的な包括的経済連携(RCEP)協定による関税の引き下げや撤廃によるものが大きい。25年2月には、17年から始まったブラジルとの防疫交渉が妥結したことで、MAFRAは同国への輸出に向けた検疫ガイドラインの策定を開始するとした。
輸出先において韓国産は、日本産と併売されることが多い。KBの分析によると、日本産は少量高価格戦略による百貨店、日系量販店での販売が中心であるのに対し、韓国産は大型量販店で日本産より一段下の価格で販売しているため、競合しにくいとしている。このため、韓国産は日本産よりも米国産、中国産などの安価な輸入いちごや、輸出先の国内産と競合するとのことである(表10)。
(4)いちご輸出の課題
輸出量が伸長した韓国産いちごだが、2022年まで輸出先第1位だった香港では、安価で品質が向上した中国産が増加しており、中国産の品質がさらに向上した場合、韓国産の脅威になることが懸念されている。また、物価高の香港では、消費者が日本などの海外や中国本土で消費行動を行う「北上消費」と呼ばれる現象で域内消費が鈍化しているため、韓国にとって最も近い輸出先である香港への輸出依存度を下げることが求められている。
輸出量が増加している東南アジアでも、中国産が将来的に競合する可能性があること、また、ベトナムのように、国産いちごの生産量増加や品質向上から、輸出先におけるいちご消費市場の国産比率が高まることなどにより、韓国産いちごの輸入の縮小が危惧されている。
東南アジアは、経済発展で所得が向上しているが、KBなどは今般の不安定な世界情勢の影響がいちご消費鈍化につながることを危惧している。