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海外情報 野菜情報 2025年6月号

対日輸出依存から多角化戦略を進める韓国のパプリカ

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調査情報部

【要約】

 韓国産パプリカは、政府の支援による情報通信技術(ICT)を活用したスマートファームの普及により、対日輸出向けに作付面積および生産量を伸長させてきた。
 対日輸出中心のパプリカだが、国内流通量増加により値頃感が出たことなどで内需が伸長し、現在では生産量の過半が国内向けになり、日本以外の輸出先の開拓により、輸出量は少ないが新規輸出先国・地域への輸出も始まっている。
 韓国のパプリカ生産、輸出および国内販売の伸長は、積極的なICT活用やマーケティング活動によるものが大きく、生産が伸長しつつある日本のパプリカ生産および販売において、同国の取り組みは参考になるべき点が多いと思われる。

1 はじめに

 わが国におけるパプリカの流通は、1993年に大手量販店がオランダから輸入したことに始まるとされ、その後はサラダや加熱料理の彩りとして各種料理などへの活用が広がるにつれて輸入量が増加した。生鮮パプリカの輸入量は、貿易統計の対象となった2000年の1万326トンから16年には4万488トンと約4倍に伸長し、その後は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による物流停滞や、円安で推移する為替相場の影響などから減少傾向に転じたものの、22年は2万8763トンと2000年の約3倍となっている(図1)。
 輸入量が増加する中、日本国内でもパプリカの栽培が始まり、1998年に23ヘクタールであった国内の作付面積は、地域特産野菜生産状況調査報告のある2022年には約3.5倍の81ヘクタールに拡大し、収穫量も同1406トンから約5倍の7380トンに増加した。
 生鮮パプリカの輸入先を見ると、2000年に輸入量全体の60%を占めていたオランダが20年には8%に減少した一方、同20%であった韓国は20年に82%、22年には93%と大幅に増加している。
 隣国の韓国は、日本向け輸出に関して他の輸入先よりも地理的優位性が高く、その強みを生かした取り組みが行われている。本稿では、日本のパプリカ流通の大半を占める韓国のパプリカ生産と対日輸出の動向などについて報告する。
 なお、本文中の為替相場は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」2025年4月末TTS相場の1ウォン=0.1021円を使用した。
 
タイトル: p054

2 韓国におけるパプリカ生産の始まり

 韓国では、輸出主導型の経済発展政策を進めたことで1960年代半ばから高度経済成長を遂げ、その後も工業製品はもちろん、90年代からは加工品を含む農産物の輸出にも力を入れてきた。
 このような中で韓国のパプリカ生産は、94年にオランダ産種子を導入し済州ちぇじゅとう)のガラス温室で航空機の機内食向けとして栽培されたことに始まり、95年には、南西部の全羅(ぜんら)北道ほくどう)(現在の全北(ぜんほく)特別(とくべつ)自治(じち)(どう)金提(きんてい)()のチャムセム農協が対日輸出向けに本格的な栽培を開始した。当時の日本で輸入間もなかったオランダ産パプリカが高級な新顔野菜として人気を集めていたことから、韓国政府は高付加価値な輸出品目と位置付けて生産の振興を図った。
 高付加価値品目に位置付けられたとはいえ、施設園芸品目のため一定の投資を要するパプリカ生産が、韓国各地で普及した理由として、ガット(GATT)・ウルグアイ・ラウンド(UR)交渉(注1)とその後のWTO体制下での農産物貿易自由化に対応した農業構造の改革が挙げられる。UR交渉を受け、韓国は輸入農産物に対抗できる国内農業構造を確立するため、戦略的産業に位置付けて生産、流通、施設などの近代化を図ることで施設園芸産業を育成してきた(図2)。


(注1)1986~94年にかけて行われたGATT(関税および貿易に関する一般協定)の第8回多国間貿易交渉。農業分野では農産物の貿易自由化について協議され、将来的にすべての農産物の関税化を目的としたミニマム・アクセス(最低輸入量)の義務付けが決定された。

 このような中で、農産物貿易自由化対応のために韓国農林部(現在の農林畜産食品部)が指定した「園芸専門輸出団地」を起点に、道(日本の県に相当する地方自治体)による輸出団地の育成が徐々に進み、施設園芸の生産基盤が確立されてきた。これによりトマト、きゅうりなどの野菜やバラ、ユリなど花きの生産が伸び、国内向けはもちろん、輸出向けの生産を伸ばしてきた。しかし、日本市場における韓国産パプリカの評価が高かったことを受け、これらの品目からパプリカへの転作が進んだ。
 
タイトル: p055a

3 韓国のパプリカ生産

(1)栽培作型と主産地
 韓国のパプリカ栽培作型は、冬季が比較的温暖な南部を中心とした冬春作型と、夏季が比較的冷涼な北部を中心とした夏秋作型に大別され、リレー出荷体制が構築されている(表1、図3)。
 主産地は、冬春作型の(けい)(しょう)南道(なんどう)(以下「慶南」という)と夏秋作型の江原(こうげん)特別(とくべつ)()()(どう)(以下「江原」という)で、2022年の作付面積はともに262ヘクタールであり、両産地で全作付面積の7割以上を占めている。それぞれの産地の動向を見ると、慶南などの冬春作型産地は長期どりが可能なことに加え、後述するスマートファームの普及により作付面積が増加している。一方、江原などの夏作型産地はトマトへの転作、コスト上昇や労働力不足により作付面積はわずかに減少している。
 
タイトル: p055b



 
(2)スマートファーム普及による作付面積の増加
 機内食向けから始まった韓国のパプリカ生産は、対日輸出や内需の伸長などを受けて作付面積および生産量が増加している。2010年以降の推移を見ると、特に12~15年にかけて大きく伸長した(図4)。この要因は、対日輸出や内需の伸長のほかに、ICT(情報通信技術)を活用して作物の生育環境を遠隔・自動で適正に維持・管理できる「スマートファーム」の普及が挙げられる。
 
タイトル: p056b
 
(3)政府によるスマートファームの普及支援
 WTO体制下の韓国では、2000年に403万1000人であった農業生産者人口が、10年には24%減の306万3000人に減少するなど、農産物の貿易自由化と生産者の高齢化により農業の先細りが危惧されていた。このため政府は、限られた生産者数でより効率的な農畜産物の生産を行うべく、11年に農林畜産食品部が「ICT融合システム(先端生産技術開発)事業」、14年に農村振興庁が「韓国型スマートファームモデル事業」などを措置し、生産者への支援を行ってきた(図5)。これら事業により、パプリカ生産のスマートファーム化が加速した(「第1世代スマートファーム」と呼ばれる)。
 2部1庁で類似した関係事業を措置していたことから、推進活動の効率化を図るため、農村振興庁により21年に「スマートファームパッケージ革新技術開発事業」として一本化された(図5)。
 直近では、後述する第2世代スマートファーム化への改修や温室の新築を支援する「スマートファーム融合拡大事業」の公募を24年に実施した。本事業は、事業費に対して補助率が5割(政府が2割、地方自治体〈道市〉が3割)と手厚く、さらに、補助残のうち3割は国庫融資(返済が必要)の利用が可能であり、この融資が受けられれば、事業実施主体の当初負担は2割で済むことになる(表2)。
 
タイトル: p057
 
 農村振興庁は24年3月、第2世代スマートファームのコア技術「ARA(Agricultural Revolutionary Application)温室」(注2)の開発および公開について発表した。第2世代ではICTとAI(人工知能)の活用により異なるメーカー製の機器統合管理が可能となり、温室内の空調などの環境制御が最適化されることで、第1世代(現在営農しているスマートファームの8割相当)と比較して生産性が約4割向上、労働力が約1割低減できるとしている。これらはARA温室プラットフォームから最新ファイルをダウンロードし、生産者自らが第1世代制御機器に同ファイルをアップデートすることで、既存のスマートハウスでも第2世代化できるとしている(図6)。
 
(注2)空調などの温室内機器で個別に設定管理が必要だった第1世代スマートファームをバージョンアップできる技術。ARA温室ファイルを各機器にダウンロードすることで、第1世代スマートファーム内の個別機器間の設定管理を一本化でき、メンテナンスコストも低減できるとしている。ARA温室のプログラムは、農村振興庁の「農業用App Store」でダウンロード可能。また、農村振興庁はARA温室を活用した商品開発を促進するため、機器メーカーなどに対してARA温室プログラムを無償公開している。

 また、同庁は、スマートファーム内で使用される溶液の再利用技術として循環型水耕栽培技術も開発し、24年時点で16カ所のスマートファームで運用されている。同技術は、使用後の溶液を再利用するとともに、栽培品目、生育ステージごとに溶液希釈濃度が調整でき(2週間ごとに肥料設計を調整)、慣行栽培に比べて農業用水が1~2割、肥料が2~4割、それぞれ削減可能だとしている。
 さらに同庁によると、同技術は施肥量の適正化につながることから、トマトおよびパプリカでは6割、いちごでは3割の二酸化炭素排出量削減につながるとしている。
 
タイトル: p058
 
(4)需要に合わせた国産ミニパプリカ品種の開発
 韓国では、一般的に流通する大玉のベル型パプリカはオランダ産品種を中心としていたが、2010年代に入り需要に合わせた食べ切りサイズのミニパプリカを生産する産地が出てきた。
 このような状況を背景に農林畜産食品部は13年、国産種子開発による種子生産大国化を目指し、「ゴールデンシードプロジェクト(GSP)」を立ち上げた。これを受けて慶南の道立農業研究機関である慶尚南道農業技術研究院(以下「慶南研究院」という)は、同年からミニパプリカの独自育種に取り組み、15年に高糖度ミニパプリカ「ラオン」(16年品種保護登録)を発表した(写真1)。ラオンは同年から国内の大手大型量販店で販売され、翌16年には対日輸出も開始した。ラオンは食味が良いものの収量が多くなかったことから、より多収品種である「ニューダオン」や、輸出用品種「K-Mini」など、24年までに21品種が開発されている。
 
タイトル: p059a
 
(5)生産現場の状況
 対日輸出用パプリカを生産する慶南咸安(はまん)(ぐん)のジョ・グンジェ氏(韓国パプリカ生産者協会会長。以下「ジョ氏」という)の農場を訪問し、生産や課題などについて話をうかがった(写真2)。
 ジョ氏は1995年、WTO体制下で政府が輸出用の野菜生産の振興を行っていたことから、サラリーマンから転身してトマト栽培を開始し、01年からパプリカに品目転換した。
 現在のパプリカ作付面積は2施設合計で2万1488平方メートル(2.1ヘクタール)と、大規模な栽培を行っている。今回訪問した圃場(ほじょう)の面積は9900平方メートル(0.99ヘクタール)であり、農村振興庁の先端技術融合次世代スマートファーム技術開発事業を活用し、20年に新規取得したスマートファームである(写真3)。ジョ氏のパプリカ栽培作型は、慶南を含む韓国中部以南で主流の冬春作型である。栽培品種は韓国の独自育成品種であるミニパプリカ「レッドロマンス」で、8月から10月までの定植後、11月から翌7月まで収穫が続く。スマートファームが普及している韓国では、農場1人当たりのパプリカ栽培管理面積は330平方メートル(3.3アール)といわれており、スマートファームであるこの圃場では3人の雇用労力で栽培管理を行っている。
 枝葉の剪定(せんてい)や収穫などの栽培管理は雇用労力で担当しているが、スマートハウス内の空調および湿度管理、肥料である溶液濃度管理などは、栽培管理責任者であるジョ氏の長男が担当している。ジョ氏の圃場は第1世代後期のスマートファームであるが、同一メーカーで整備したため、空調・湿度・溶液管理など、すべての管理を1台の管理端末で行っている。
 ジョ氏のような第1世代のスマートファームで、仮に栽培管理機器の増設や他社製品を導入しても、ARA温室ファイルをダウンロードし第2世代化することで、統一管理が可能である(写真4)。
 
タイトル: p059b

タイトル: p060
 
 生産したパプリカの販売先は、8割がパプリカ輸出統合組織(注3)であるKOPA(注4)経由による日本向け、2割が大型量販店や卸売市場などの国内向けである。規格別に見ると、Mサイズは日本向け、Lサイズ以上は国内向けであり、ジョ氏によると、日本の量販店はMサイズを好むが、韓国などでは大きなサイズが好まれるという。
 今回訪問した圃場以外にも、ジョ氏の長女が管理するスマートハウス圃場がある。同氏は、「規模拡大による手取りの向上にスマートハウスは欠かせない」としつつも、総工費(13億5000万ウォン〈1億3783万5000円〉)の半分は国(3割)と地方(2割)からの補助で賄うことができるが、返済を伴う融資(3割)や自己資金(2割)での対応も必要となるため、誰でもスマートハウスを設置できるものではないと感じているという。このため、「融資を返済するために、一つでも多くの高品質なパプリカを生産することに努めている」と語っていた。

(注3)輸出業者が母体となった一元的な輸出組織。生産農家と相互拘束力のある契約を締結し、輸出統合組織が主体となって指定品種、栽培・収穫、選別、包装、輸出、品質管理などの基準を定めるほか、輸出(販売)代金精算、農家教育などの付帯業務を実施することで、輸出農畜産物の競争力を高めて輸出拡大を目指している。
 
(注4)2012年にパプリカ輸出業者である株式会社ラブパブと株式会社農産(のんさん)が農林畜産食品部の認可を得て設立した輸出統合組織。「KOPA(KOREA PAPRIKA)」ブランドで日本向けを中心にパプリカを輸出している。

4 韓国国内のパプリカ流通および消費

(1)流通
 2000年代以前、輸出品目として生産されていたパプリカは、輸出向けの他は、産地近隣の消費者向けに庭先や路面店などの伝統市場で販売されていた程度であり、卸売市場などを通じた全国流通は行われていなかった(写真5)。
 
タイトル: p061
 
 しかし、庭先販売などを通じて徐々に消費者への認識が広まったことを契機に、01年頃からピーマンの代替品目として国内でのパプリカの市場流通が始まった。市場流通開始当時は、対日輸出の規格に満たないものが中心であったが、国内でのパプリカの認知度が向上し、彩りと食味の良さから需要が伸長したことで、国内向け栽培に転向する生産者も現れた。10年以降は国内流通量も増加してきたことから(写真6)、消費者にとって値頃感のある野菜になってきた。
 
タイトル: p062a
 
 韓国農村経済研究院(KREI)が07年に行ったパプリカ流通調査によると、同年時点で流通量の56%が国内向け、44%が輸出向けであり(表3)、現地関係者によると、現在の国内向け比率はさらに高まっているとのことである。国内向けのうち、卸売市場経由が大型量販店(注5)経由を下回った理由として、大型量販店は仕入れ量が多いために卸売市場を介さず、産地、生産者から直接仕入れる傾向にあることが挙げられる。

(注5)韓国の量販店業態は、流通近代化の一環として1970年代から出現し、93年に国内資本(財閥系)の大型量販店が、96年からは国内流通市場の完全自由化を受けて外資系大型量販店が進出し、流通市場を席巻した。その後、外資系、財閥系および農協系の熾烈(しれつ)な競争を経て、現在は外資系の多くは撤退し、財閥系および農協系が流通市場の中心となっているが、産地農協や生産者との直接取引で卸売市場を介さない欧米型の青果物流通はそのまま残った。
 
 消費者のパプリカ購入先の約6割は大型量販店を含む量販店とされるが、COVID-19の感染拡大による購買行動の変化により、ECサイト(電子商取引)が伸長した。韓国農村振興庁によると、20年の農畜産物や食料品などの購入先は、大型量販店を含む量販店の比率が68.8%(前年比1.7ポイント減)であったのに対し、ECサイトは同5.9%(同1.1ポイント増)とされている。その後もECサイトの割合は伸長し、23年には13.6%を占めている。
 
(2)消費
 韓国農村振興庁が2024年5月に開催した「2024年農産物消費トレンドプレゼンテーションコンテスト」によると、国内流通開始当時は外食向けが中心であったパプリカは、現在、ほとんどが家計消費向けとされている。家計消費の機会が増加したことで1人当たり年間消費量も、10年の0.5キログラム(1玉150グラム換算で約3.3玉)から23年には約2倍となる同1.1キログラム(同約7.3玉)に増加している(表4)。
 また、30代以下、40代、50代、60代以上の各年代の嗜好(しこう)を見ると、各年代とも(1)購入動機は栄養価の高さ(表5-1)(2)購入時の考慮事項は鮮度の高さ(表5-2)(3)好みの形状は大型のベル型パプリカ(表5-3)(4)好みの色は赤色または黄色(表5-3)となり、年代別の差は見られなかった。
 COVID-19の感染拡大を経た韓国では、すべての年代で健康志向が高まっており、パプリカを含む野菜全般の需要が高まる中で、野菜の家庭内消費はサラダやスムージーなどの生食が中心となっている。パプリカの消費も生食が中心とされるが、加熱をしても彩りが失われないことから炒めものや加熱料理(グラタンなど)でも活用されている(写真7、写真8)。また、子どもや辛味が苦手な者向けに、とうがらし粉の代用品としてパプリカパウダーが利用されている。
 パプリカの国内流通開始から約20年が経過した現在、パプリカは流通量の増加により値頃感のある、栄養価が高い野菜として認知されており、健康志向の高まりによる野菜需要の増加などから、引き続き消費量の増加が見込まれている。
 
タイトル: p062b

タイトル: p063

5 パプリカの輸出動向

(1)対日輸出に依存したパプリカの輸出構造
 韓国産パプリカは1995年の輸出開始以降、そのほとんどが日本向けとなっており、日本以外の国・地域向けは全輸出量の1%に満たない。対日輸出戦略として、KOPAによる輸出窓口の一本化のほか、韓国農水産食品流通公社(以下「KATI」という)(注6)による市場開拓支援などが積極的に行われてきた(図7)。韓国は、オランダなど競合国に比べて圧倒的に日本への輸送距離が短いという地理的優位性を生かしつつ、これらの組織を通じた日本市場での積極的なマーケティングにより、日本の輸入パプリカ市場を席巻している(写真9)。日本を含む輸出先国におけるマーケティングの例として、まず輸出先国の各媒体による宣伝広告があり、具体的には(ア)商材のみを強調(イ)韓国人タレントの活用(ウ)輸出先国のタレントの活用―があり、輸出先国の消費者の動向(韓流ブームの浸透状況など)を鑑みて使い分けている。そのほか、商談会におけるバイヤーへの訴求活動、量販店などにおける販売イベント(特売、試食販売など)などが挙げられる。これらについてKOPAは、他国産や輸出先国産のパプリカも含め、まずは輸出先国の消費者にパプリカのおいしさを認知してもらい、輸出先国のパプリカ市場が醸成した上で韓国産パプリカを浸透させることを意識しているとのことである。
 
(注6)農林畜産食品部所管の公的機関であり、前身は1967年に設立した農村開発公団(86年に農水産物流通公団に改称)となる。2012年に穀物の国家貿易業務が追加されたことで現組織名に変更された。主な業務は農林水産物の価格安定、輸出の増加、流通の改善、食品産業の育成である。日本にも拠点を設置している。
 
タイトル: p064
 
タイトル: p065a
 
 韓国政府および地方自治体は、KATIを通じて、パプリカ輸出にかかる物流コストの一部を輸出企業などに補助し(注7)、これらの者の輸出意欲を高めてきた。
 しかし、2015年にナイロビで開催されたWTO閣僚会議(MC10)で農産物輸出補助金の撤廃が合意されたことを受け、これら事業を通じた補助金が23年末に廃止となったことで(注8)、24年以降はパプリカ生産者の手取り減少が危惧されている。
 
(注7)直近ではKATIによる「輸出農産物物流コスト支援事業」がある。パプリカを含む野菜のほか、果実、菌茸、花き、キムチ、高麗人参、畜産物、酒類、ソース、茶、米加工品、穀物およびその他加工品の13種の農産物を輸出する企業などに対し、物流コストの15%(国:5%、地方:10%)を支援する単年度補助事業(23年に終了)。

(注8)MC10の決定で農産物の輸出補助金は、先進国では即時撤廃(例外は2020年末まで)、開発途上国は18年末に撤廃(例外は22年末まで)、農業協定第9条第4項((1)輸出農産品についての市場活動費用を軽減するもの(2)輸出貨物の国内運送料金で輸出貨物を国内貨物よりも有利に扱うものに対する輸出補助金で、国内生産者に対する助成の削減に関する約束を回避するような方法で用いられない場合に限定)の開発途上国特例は23年末に撤廃(後発開発途上国は30年末まで)としている。WTOで韓国は開発途上国に該当し、物流コスト支援は農業協定第9条第4項に該当する輸出補助金に当たることから、23年末まで継続できた。


 2010年以降のパプリカの輸出動向を見ると、スマートファームの普及による作付面積の拡大や、積極的な輸出市場でのマーケティングにより輸出量は増加し、19年にはそれまでで最大の3万5325トンとなった。しかし、COVID-19の感染拡大が始まった20年以降は、国際物流の停滞などにより仕向け先を国内市場に転換したことに加え、韓国ウォンに対して円安で推移する為替相場の影響により日本向け輸出量は減少している。直近の23年の輸出量は、19年比39%減の2万1700トンとなった(図8)。
 このため韓国では、日本市場を重視しつつも日本に依存した輸出体系の見直しが本格的に求められるようになった。

 
 
(2)輸出先の多角化に向けた取り組み
 対日輸出を念頭に生産と輸出を拡大してきた韓国では、パプリカ輸出の99%以上を日本向けが占めており、残り1%が香港および台湾向けである。対日輸出の比率が高いことで、パプリカの輸出量や輸出額は為替相場や日本の景気動向に大きく左右されてきた。このため、パプリカ生産者の手取り安定に向け、韓国は輸出先の多角化を目指している。
 日本以外の輸出先について最近の動きを見ると、2019年までは香港および台湾向けが主体であったが、10年以上に及ぶ輸出検疫協議を経て20年に中国向け(協議開始は07年)、22年にベトナム向け(同08年)輸出も始まった。中でも中国との協議は、COVID-19の感染拡大で中国側の検疫官の訪韓が困難になったことから、農林畜産食品部による中国側への強い働きかけにより、対面での検疫に替えてオンライン形式の検疫を行うことで合意に至っている。農林畜産食品部は、オンライン形式の非対面による検疫は新たな検疫手段の確立であるとし、また、中国向け輸出の開始は輸出先多角化の第一歩としている(表6)。中国における韓国産パプリカは、高付加価値な差別化商材と位置付けられ販売されている。
 さらに24年には、14年から輸出検疫協議を重ねてきたフィリピンへの輸出も始まるなど、韓国産パプリカは少しずつではあるものの、日本依存型からの脱却を図りつつある。
 
タイトル: p066
 

6 おわりに

 輸出依存型の経済構造とされる韓国では、パプリカも各種の支援などを通じた日本向け輸出の増加に連動し、作付面積および生産量を伸長させてきた。また、生産量の増加には、政府の支援によるICTを活用したスマートファームの普及が大きく、現在も普及に向けた支援が続いている。
 一方、国内では、パプリカの流通量増加により値頃感が出たことなどで内需が伸長し、現在では生産量の過半が国内向けとなっている。日本向けに依存したパプリカの輸出についても、多角化を念頭に新たな輸出先を開拓しており、輸出量は少ないものの新規輸出も始まっている。
 韓国がパプリカの輸出多角化を進める要因の一つに、輸出量の9割以上を占める日本国内でのパプリカ生産量の増加を挙げている。これまで国産品と輸入品の併売が主体となっていた日本の量販店の売り場でも、国産品のみ取り扱う店舗も出てきた。日本ではCOVID-19による農産物輸入の停滞や為替相場の影響により、消費者だけでなく実需者においても国産回帰志向が高まっているとされ、引き続き国産パプリカへの安定的な需要を背景に、日本国内での生産の拡大が続くと思われる。
 韓国のパプリカ生産、輸出および国内販売の伸長は、積極的なICT活用やマーケティング活動によるものが大きく、生産が伸長しつつある日本のパプリカ生産および販売についても、同国の取り組みは参考になるべき点が多いと思われる。