(1)中国の主産地と生産概況
東南アジア原産のしょうがは世界的にも生産国が限られ、南アジアを含むアジア圏で全収穫量の7割以上を占めており、中でも中国はインドに次ぐ主産国である。
中国では、しょうが産地は沿海部や南西部に分布しており、2023年の作付面積は約34万ヘクタールとされる。主産地は沿海部の
山東省、南西部の
雲南省、
湖南省、
貴州省などがあり、最大の産地は山東省で中国国内作付面積の3割、同生産量の4割を占め、次いで雲南省となっている(表2、図6)。山東省の主産地は
済南市萊蕪区、沿岸部の
濰坊市、
青島市、
日照市、雲南省の主産地は標高の高い雲南高原に位置する
曲靖市、
文山壮族苗族自治州などがある。
山東省の生産状況を見ると、23年の作付面積は全国の3割を占める10万4000ヘクタール(前年比11.8%増)となっている(表3)。中国国内の内需拡大や、海外からの需要増加を背景に価格が上昇してきたことで多くの生産者が作付けしたため、21年は作付面積が13万4000ヘクタールに増加した。しかし、供給過多により22年は一転して大幅に減少したものの、22年産が不作で前年在庫が品薄になったことなどから価格が回復し、23年の作付面積は前年をかなり大きく上回った。単収は、10アール当たり5トン前後で推移しており、栽培管理技術の改善や天候に恵まれたこともあり、23年は前年を大幅に上回る同5.6トン(同19.1%増)となった。
雲南省の生産状況を見ると、23年の作付面積は全国の2割を占める7万4000ヘクタール(同21.3%増)となっており、その増減要因は、山東省と同様となっている(表4)。単収は、10アール当たり4トン以下で推移している。
(2)主産地の栽培暦、栽培品種および栽培コスト
ア 栽培暦
山東省のしょうが栽培は、露地栽培と施設(ハウス)栽培があり、このうち露地栽培の面積は全体の約90%以上を占める。露地栽培の植え付けは日本よりも10日程度早い3月下旬から開始し、収穫は日本よりも20日近く早く10月から開始する。早期出荷を目的とする施設栽培は、露地栽培よりも20日程度早い3月上旬から植え付けを開始し、秋季も露地より高い気温を維持できるため、収穫は9月中旬から11月中旬までと長期にわたる(表5)。
山東省よりも温暖な雲南省は露地栽培が主体で、植え付け時期は2月下旬から3月下旬と山東省より早く、収穫は7月下旬から11月下旬まで長期にわたり、10月が収穫最盛期となる(表6)。
イ 栽培品種
山東省の代表的な品種は、輸出向けしょうがの約3割を占める「
萊蕪片姜」である(表7)。萊蕪片姜は同省済南市萊蕪区で2000年以上栽培されてきた伝統的な大しょうが品種であり、中国国内では生食、調味料、酒類、健康食品原料のほか、漢方薬原料としても多く利用されている。萊蕪片姜は1985年に農業農村部品質製品賞を受賞し、2008年に国家地理的表示認証商標、17年に中国十大野菜ランドマークブランドに指定されるなど、中国国内で高い知名度がある。また、萊蕪片姜は近年、作付けが増加している萊蕪
大姜とともに、国内向けはもちろん、日本を含む各国に多く輸出されている。
雲南省の代表的な品種は、小しょうがの「雲南
小黄姜」である。雲南小黄姜は、強い香りに対して辛みが比較的弱いことから煮込み料理やしょうが茶などで利用されるほか、漢方薬原料としても利用されている。雲南小黄姜は西南部などを中心に国内流通するほか、ベトナム、タイ、韓国などへも輸出されている。
ウ 栽培コスト
2024年の山東省の10アール当たり栽培コストを見ると、最もコスト比率が高いのは人件費、次いで種苗費となっている(表8)。21年と比較して24年のコストは、種苗費が20%、肥料費が15%、人件費が11%上昇しており、栽培コスト全体で13%上昇しており、これらのコストが上昇した要因は、1)種苗費は生産者の栽培意欲増加による種しょうがの需要増加、2)肥料費はエネルギー価格の上昇や地域紛争など世界情勢の変化、3)人件費は若年層の農外流出による労働力不足-などが挙げられる。
山東省と日本の主産地の栽培コストを比較すると、最も比率の高い山東省の人件費は、上昇しているとはいえ日本の3割程度のため、全体のコストも山東省は日本の4割程度である。
雲南省も山東省と同様の傾向となっているが、山東省よりも賃金水準が低い分、栽培コストは低い(表9)。
(3)機械化や栽培技術の進展状況
中小規模の家族経営生産者は、資金力に乏しく機械化が進んでおらず、狭小かつ条件不利地での栽培を行っている事例が多い。一方、大規模栽培で「輸出基地」と呼ばれる大規模圃場で輸出向け栽培を行う農業企業は、高い資金力を背景に、優良農地の集約化による輸出基地設置や雇用労働力の確保、機械化を進めてきた。
特に機械化などは山東省の農業企業で進んでおり、最近は深耕、
畝立て、施肥、植え付け、覆土鎮圧およびかん水チューブ設置を同時に行える多機能植え付け機が2023年10月に同省
安丘市で実装されている。同機の植え付けの作業能力は1日当たり1.6ヘクタールとされている。また、掘り取り、泥の除去、トリミング、箱詰めなどが一貫処理できるとしている。これにより、慣行の収穫および調製作業に比べ、作業効率は著しく向上するとされている。これら機械の実用化と普及により、農業企業のさらなる生産能力向上が期待されている。
(4)産地による物流効率化の動き
産地が主体となり、選別、流通効率化や高付加価値化を進める動きも見られる。雲南省曲靖市の
羅平県では、県内の小黄姜関連産業発展を目的に2024年10月、「羅平小黄姜デジタル経済工業団地」(以下「デジタル団地」という)を開設した。デジタル団地は、小黄姜を含む同県産農産物の川上から川下までの産業チェーン指導とともに、産業デジタル技術を活用した同県農業および経済発展支援を目的としている。また、デジタル団地では、コールドチェーンの確立による物流高度化のため、「羅平県農産物コールドチェーン物流プロジェクト」を進めており、デジタル団地内にインテリジェント技術
(注4)を活用した自動温度管理などができる低温倉庫を設置した。
デジタル団地では今後、さらなる物流の高度化として電子商取引による国内外実需者の開拓、取引の活発化も目指している。
(注4)AI(人工知能)、ビッグデータ解析などのスマート技術を活用した問題解決、環境適応のための技術。
(5)しょうが栽培における課題
ア 作業者の確保と上昇する人件費
これまで、中国のしょうが栽培では安価な労働力を集中投下してきたが、近年は若者の農外流出などによる農村労働力不足や、内陸部からの出稼ぎ労働者が他産業に就業してしまうことなどから、農業企業などでは労働力確保が課題となっている。労働力を確保できても、年々上昇する他産業並みの賃金を労働者に支給できないと離職を招くことから、今後も人件費の上昇による生産コストの押し上げと収益性の低下が懸念される。
しょうが栽培は、収穫などで労働力を多く必要としており、収穫機など機械化の遅れが労働環境改善や人件費削減を難しくしているため、特に山間部などの条件不利地で栽培される雲南省では、小型収穫機の導入や圃場への運搬などの難しさが顕著な問題となっている。
イ 産地で均一化が図られていない栽培技術
農業企業や「品目合作社」
(注5)などは、高い栽培知識を有するフィールドマンによる営農指導の徹底と、比較的高い機械化比率により高い栽培技術を有している(写真1)。しかし、国内向けで家族経営中心の中小規模生産者は、営農指導や栽培技術に関する情報の入手が困難で、生産者の熟練度などにより栽培、選別技術に大きな差があることから、同一産地でも品質格差が生じる。中国国内の量販店などでは日本同様産地表示をして販売しているところが多いため、産地ブランド確立においては、産地の栽培技術、品質の均一化が課題となっている。
(注5)品目別の協同組合組織で、日本の専門農協に当たる。