(1)中国の主産地と生産概況
2024年の中国のにんにく作付面積は75万ヘクタール(前年比4.6%増)、生産量は1380万トン(同2.8%増)となった。(図6)。作付面積および生産量が増加した要因は、1)22年の安値による作付け意欲減少と低温・干ばつなどによる不作傾向で23年のにんにくの供給量が減少したために価格が上昇し、農家の栽培意欲が高まったこと、2)低温・干ばつなどの天候不順の影響も少なく栽培が順調に進んだこと-とされている。
同国のにんにく生産は国内各地で行われているが、輸出用にんにくの主な産地は、
山東省、
河南省や
江蘇省である(図7)。これらの省だけで、全国の生産量の5割を占めているとみられる。
山東省は、にんにくの生産が最も盛んな地域であり、
済寧市金郷県、
臨沂市蘭陵県などが主要な産地である。同省の作付面積は23年で17万5000ヘクタール(前年比7.4%減)、収穫量は328万トン(同7.6%減)であった(表2)。22年に作付面積が増加したことで供給過多となり、価格が下落した結果、農家の栽培意欲が低下した。また、山東省の一部地域では、低温・干ばつでにんにくの植え付け進度が遅れたり、発芽率が低下したことにより、収量が低下した。作付面積は前年の供給量や価格などの影響を受けて変動する傾向があるものの、単収は10アール当たり1.8トン程度で推移している。
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
山東省のにんにく栽培は露地栽培と施設栽培があり、このうち露地栽培の面積は全体の95%を占めている。露地栽培の植え付けは日本同様9月下旬から行われ、施設栽培の植え付けは露地栽培よりも約20日早く行われる(表3、写真1、2)。
山東省の主産地である金郷県では、紫がかった外皮が特徴の
金蒜3号および金蒜4号、金育3号が主に栽培され、近年は新たに開発された早生種の金蒜5号が増加している(表4)。一方、同省内で金郷県に次ぐ産地である蘭陵県では、金郷県とは異なる白色の外皮が特徴の三品種が栽培されている。それぞれの地域で生産されるにんにくは、金郷県では金郷にんにく、蘭陵県では
蒼山にんにくと呼ばれ、いずれも全国農産物地理標識製品
(注3)に認定されている。
(注3)農業農村部が定める地域特有の自然条件や伝統的な製法によって生産された農産物に与えられるものであり、その地域ならではの品質や特徴を保証することが可能となる。
(3)主要な経営形態
主な経営主体は、個人農家(以下「農家」という)、品目合作社
(注4)、農業企業で構成され、各主体が連携しながら、1)輸出向けは農業企業+農家、2)国内向けは農家+品目合作社または農業企業+品目合作社+農家-が主流となっている(表5)。中小規模の家族経営生産者は資金力に乏しいため機械化が進んでおらず、狭小かつ条件不利地での栽培を行っている事例が多い。一方、大規模栽培で「輸出基地」と呼ばれる大規模
圃場で輸出向け栽培を行う農業企業は、高い資金力を背景に、優良農地の集約化による輸出基地設置や雇用労働力の確保、機械化を進めてきた。
(注4)同様の産品を生産する農家、農業経営者などが協力して経済活動を営むための協同組合組織。
(4)栽培コスト
山東省における2024年の10アール当たりの栽培コストは、主産地の金郷県では合計3490元(7万9083円)となった(表6)。最も高い割合を占めたのは人件費であり、次いで種苗費、土地代が続いた。21年から24年にかけて、
灌漑費を除くすべての項目でコストが増加している。特に種苗費は55.6%増、人件費は14.5%増と、栽培コストの主要項目が大幅に上昇した。
種苗費の増加は、生産者が高品質なにんにくへの需要に応えるとともに、高収量を追求する中で優良品種の種苗を選択したためと考えられる。また、主産地では凍雨などの気象災害が種苗栽培にも影響したため、価格が上昇したとみられる。
人件費の増加は、農村部の労働力が高い賃金を求めて都市部へ流出し、働き手が減少した結果、限られた人材を確保するために、最低賃金の引き上げに加え、農外賃金同等の賃金を提示したことなどで高騰したと考えられる。こうした人件費の高騰を受け、近年では機械化も進展している。山東省の金郷県では、県農業機械センターの指導の下、24年の植え付けおよび収穫における機械化率は約70%に達し、中国野菜協会から「全国野菜機械化イノベーション成果」として評価を受けている。さらに、植え付け機の導入により、にんにくの植え付け深列間隔、株間隔が均一に保たれ、植え付けの均一化が実現している。農薬散布にはドローンが活用されており、迅速かつ均一な散布が可能となり、病害虫の防除効率が向上している。加えて、「水と肥料一体型施設
(注5)」と呼ばれる灌漑が普及しており、水資源と肥料の利用効率が高まり、これらの設備の導入によってにんにくの栽培技術は大幅に向上している。
(注5)配管システムを通じて水と肥料をにんにくの根元に供給し、灌漑と施肥の自動化・精密化を実現させている。
(5)輸出向け加工コスト
山東省金郷県における輸出向けにんにくの加工コストは、2024年で3170元(7万1832円)であった。うち人件費が1720元(3万8975円)の54%、包装資材費が810元(1万8355円)の26%と(表7)、これら2項目で約8割を占めていた。21年と24年の比を見ると、人件費が9.6%増、輸送費が6.7%増、包装資材費が6.6%増となった。
人件費の上昇要因は、国内の人口構造が変化し、若者が都市部に流出したことで農村部の労働人口が減少する中、労働力需要が堅調に推移していることに加え、物価高騰で賃金も上昇していることが挙げられる。輸送費の上昇は、原油価格の高騰および輸送業界における人件費の上昇が影響しているとされる。包装資材費については、包装材料の原料価格の高騰に加え、使用量の増加が影響していると考えられる。さらに、工業製品などでも多用されている段ボールをはじめとする梱包資材の価格上昇や、世界情勢の影響による軽油などの輸送費の高騰も、コスト全体が増加する一因となっている。
近年では、人件費削減のため、自動仕分け機などのスマート機器の導入が進むと予測されている。また、消費者の環境に配慮し、安全・安心な食品へのニーズが高まる中、加工企業もその要求に応えるべく取り組みを進めている。一部の企業では、化学的な鮮度保持剤の使用を削減し、代わりにガス調整貯蔵
(注6)などの物理的鮮度保持技術を導入している。
(注6)青果物の貯蔵環境中の窒素、酸素、二酸化炭素、エチレンガスなどの成分を調節することで呼吸を抑制し、代謝速度を低下させ、品質変化を抑制することができる。