(1)中国の主産地と生産概況
2022年の中国のにんにく作付面積は、49万6000ヘクタール(前年比2.3%増)となった(図7)。近年は、にんにくの国内販売価格が比較的安定していることから、地域によっては小麦やトウモロコシからの転作などが増加の一因とみられている。一方で、同年の収穫量は、21年11月頃の寒波の影響により単収が減少したことで、前年比2%程度減少したとされている。
同国のにんにく生産は、国内全土で行われているが、主産地は
山東省、
河南省および
江蘇省が挙げられ、この3省で全国の5割強を占めている(図8)。
山東省は、同国内で最もにんにくの生産が盛んな地域であり、
済寧市金郷県や
臨沂市蘭陵県などが同省内の主産地として有名である。そのうち金郷県は同省のにんにく作付面積の約26%を占めている。同省の生産状況を見ると、近年の作付面積は19年を除き18~20万ヘクタールで推移している(表1)。19年は、前年の豊作により価格が低迷したことで生産者の栽培意欲が低下し、作付面積が減少したと考えられている。また、22年には、作付け時期である21年9月下旬頃に水害が発生し、一部の地域ではにんにくの作付けを延期する必要があった。このような中で、被害のなかった地域では、これを商機と捉えて作付面積を拡大した生産者がいたことから、作付面積は前年から5.6%増加した。
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
同省のにんにく栽培はマルチフィルムを用いた露地栽培が主流であり、主産地域の金郷県では9月中下旬に播種が行われ、翌年6月に収穫されるのが一般的となっている(表2、写真1、2)。
また、金郷県では主に3品種を栽培している(表3)。そのうち、金蒜3号および金蒜4号が同県の作付面積の75%以上を占め、近年では金育3号も作付け規模が拡大している。また、同省内で金郷県に次ぐ産地である蘭陵県では、金郷県とは異なる3品種を中心に栽培し、そのうち蒲棵は蘭陵県のにんにく作付面積の8割以上を占めている。
(3)栽培コスト
山東省のにんにくは、作付面積の4割が企業経営、6割が家族経営で生産されているとされ、それぞれの経営に特徴がある(表4)。企業経営は家族経営の400~1500倍と大規模であり、収穫は機械化が進んでいるが、播種作業用の機械の開発が遅れていることから、播種期は一定の労働力の確保が必要な状況にある。一方、家族経営は手作業が中心であり、家族内の人手で十分対応できているとみられている。
栽培コスト(10アール当たり)を経営形態ごとに見ると、企業経営では2019年産および22年産ともに借地料が4割以上を占め、肥料費、種苗費と続いた(表5)。また、19年産から22年産の3年間では、その他雑費・水道光熱費を除くすべての項目で増加しており、特に種苗費が59.9%高、借地料が33.3%高、肥料費が20.0%高と、栽培コストの上位を占める項目が大幅に上昇した。借地料の上昇は、野菜が栽培可能な良質な土地が限られており、経済成長とともに沿岸部各省の不動産相場が年々上昇しているためとみられている。また、肥料費の上昇は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で肥料原料価格が高騰したためと言われている。
さらに、借地料などの上昇と併せて現地では、農村の若い労働力が都市部に移ることによる労働力不足が課題となっている。上述のとおり企業経営では播種作業に多くの労働力が必要となる。関係者によると、山東省で農業生産活動に従事するのは45~60歳の女性が主流で、新たな人手の確保に苦労しているとされている。省内での労働力確保が難しい際には、山東省周辺の河南省や河北省、安徽省など広域にわたって高賃金で募集をかけ、労働力の確保に努めているが、人手不足問題は短期的に解決することは難しいと考えられている。賃金の上昇について比較すると、1日・1人当たり1ムー(0.0667ヘクタール)の播種作業に対する単価が19年で150元(3050円)であったものが、22年には同180元(3659円)となり、3年間で30元(610円、19年比20.0%高)上昇している。
一方、家族経営では19年産および22年産ともに肥料費が4割以上を占めた(表6)。19年産から22年産の3年間では、その他雑費・水道光熱費を除くすべての項目でコストが上昇している。その中でも、19年比で最も上昇率が大きかったのは種苗費であり、337元(6851円、同59.9%高)と大幅に上昇し、企業経営と同様の傾向が見られる。しかし、企業経営でコスト全体に占める割合が上位である借地料や人件費については、家族経営の場合は生産者が保有する土地で家族や親戚の協力を得て栽培するため、背景が企業経営と異なる。また、収穫機の普及が進む企業経営と異なり、家族経営は播種も収穫も手作業で行うのが一般的であるが、生産規模が小さいため、労働力については今後も家族の協力だけで十分な状況にあるとみられている。
(4)調製コスト
山東省のにんにく1トン当たりの調製コストを見ると、2019年産および22年産ともに人件費が全体の6割以上を占めている(表7、写真3)。また、19年産から22年産の3年間で、設備の減価償却費および水道光熱費を除くすべての項目が上昇している。調製コストに占める割合は少ないものの、中国国内のディーゼル燃料値上げの影響を受けて、3年間で輸送費が6元(122円)上昇した。最も構成比の高い人件費も、209元(4249円)上昇している。これは、19年の賃金が1日・1人当たり平均180元(3659円)程度だったのに対し、22年には同200元(4066円)に上昇(19年比11.1%高)したことが要因となっている。生鮮にんにくの加工には、主に原料入荷・検収、不要部分のカット、皮むき、サイズ・等級別包装、検査、低温倉庫搬入といった作業がある。40フィートの冷蔵コンテナ1台分(約23トン)を処理する調製コストは7万6678元(155万8864円:22年)であり、80人の従業員で3日間程度を要するとされている。