(1)中国のねぎの主産地と生産概況
中国の対日輸出用ねぎの主な産地は、夏秋作型主体の
山東省と、冬春作型主体の
福建省となっている(図6)。山東省の主な産地は、
濰坊市
安丘、
済南市
章丘、
青島市
平度、
淄博市であり、濰坊市安丘は同省の作付面積の約50%、章丘は約25%、平度および淄博市はそれぞれ約10%を占めている。福建省の主な産地は
漳州市
漳浦で、同省の作付面積の約80%を占めている。
夏秋作型主体の山東省の作付面積は、中国のねぎ作付面積の16%程度を占める3万5000ヘクタール前後、収穫量は170万トン前後、単収は10アール当たり4.6トン前後であり、日本産の単収である同2.0トンの倍以上で推移している(表2)。
2019/20年度(10月~翌9月)に比べて20/21年度は、作付面積が増加したにもかかわらず、単収は前年度を下回った。現地関係者によると、天候不順による湿害とその後の高温による虫害発生による品質低下が影響したとされている。このため、20/21年度は不作により価格が上昇したことで、21/22年度は生産者の作付け意欲が高まり、作付面積は前年度から4000ヘクタール増加した。
冬春作型主体の福建省の作付面積は、中国のねぎ作付面積の2%程度を占める4000ヘクタール前後、収穫量は18万トン前後、単収は山東省同様、10アール当たり4.5トン前後で推移している(表3、写真1)。
現地関係者によると、福建省産の冬春作型ねぎは、販売価格が良いことから生産者の作付け意欲が高く、20/21年度以降の作付面積は伸びており、22/23年度は5000ヘクタール規模になると見込まれている。
ねぎの生産主体は個人農家(大規模農家を含む)、合作社
(注5)などのグループ生産、法人となっており、生産主体数は個人生産者が多い。仕向け先で見ると、輸出向けのねぎは輸出企業などの輸出野菜栽培基地
(注6)(以下「輸出基地」という)で生産され、国内向けは個人農家による生産、出荷が主体となっている。
(注5)農業生産の協同組合組織であり、日本の専門農協に近く、県(中国では県は市よりも規模が小さい自治体)単位、市単位、省単位で組織されている。日本の総合農協と異なり信用事業は兼営しておらず、信用事業は日本の信用農協に当たる信用合作社が運営している。
(注6)地域内の各農家の土地の利用権を集約した農地利用権集積者(農家の代表者)と輸出企業などが賃貸借契約および栽培契約を締結した栽培圃場。輸出先の農薬使用基準などにのっとった栽培を行っている。
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
山東省の作型および栽培暦は、夏秋作型の露地栽培と夏秋作型および冬春作型の施設栽培に大別される(表4)。施設栽培は、厳寒期から春期が収穫期となることから、保温のためにビニールなどの樹脂フィルムで被覆したハウスでの栽培となり、単収水準は通常の露地栽培に比べて20%ほど高い。作付面積比は露地栽培が約85%、施設栽培が約15%となっている。
一方、山東省より南に位置する福建省では、温暖な気候を生かした露地栽培による冬春作型が主体となっている(表5)。同省のねぎの収穫時期は1~4月に集中しており、1~2月の収穫量は全体の約60%、3~4月の収穫量は約40%となっている。
山東省、福建省などで栽培されるのは早生種の「天光一本」、晩生種の「長宝」など日本企業が育種した品種であり、このうち天光一本は対日輸出向けに栽培されている(表6)。この2品種が安丘の作付面積の85%以上を占めており、福建省では天光一本が同省の作付面積の80%以上を占めている。
(3)栽培コスト
山東省のねぎ生産の10アール当たりの栽培コストを見ると、企業による自社生産(経営規模67ヘクタール程度)の場合、借地での作付けとなることから地代がコスト全体の41%程度を占める。次いで肥料代および人件費(作業員)がそれぞれ14%程度、種苗代が12%程度と続き、これらでコスト全体の80%以上を占めている。2018/19年度と21/22年度のコストを比較すると、農機具費、光熱水道費およびその他以外のすべての費用が増加しており、特に人件費(
圃場管理者)が、18/19年度比で34%増と大幅に増加している。同じく作業員の人件費も増加しているが、施肥や防除などの栽培管理計画を策定する圃場管理者については、高度な営農知識が求められ、より有能な人材を確保する必要があるため、人件費の増加幅が大きくなっている(表7)。
個人農家(同20~33アール程度)についても多くの費目で18/19年度に比べて同様に増加しているが、農地の所有権は農家であることから地代は発生していない。また、家族経営で農家自らが作業員と管理者を兼ねるため、人件費も発生していない(表8)。
一方、福建省の企業による自社生産(同33ヘクタール程度)を見ると、人件費(作業員)が山東省に比べて大きく、増加幅も18/19年度比で43%増と大きくなっている。福建省では丘陵地が多く圃場の集約が困難なことから、機械化一貫体系の普及に限界がある。このため、山東省の企業による自社生産に比べて多くの作業員を要するため、人件費(作業員)が大きくなっている(表9)。ただし、人件費(圃場管理者)については、福建省の企業による自社生産規模は山東省の半分程度のため、圃場管理者は山東省の半分程度(2人)となり、山東省の8割程度のコストとなっている。
個人農家(同13~33アール程度)についても多くの費目で18/19年度に比べて増加しているが、山東省の個人農家同様、家族経営であることから人件費は発生していない(表10)。
近年の中国のねぎ生産を取り巻く状況として、他の品目と同様に上昇傾向にある栽培コストが課題となっている。また、依然として若年層を中心とした都市部への出稼ぎ労働者の増加も継続しており、労働力の確保に苦慮している点も同様である。
(4)輸出向け加工コスト
中国から輸出されるねぎは収穫後、輸出基地で泥を落とすなどの洗浄を行い、日本などの仕向け先が求める規格に選別し、段ボールなどの荷姿に梱包して出荷される(写真2)。山東省および福建省の輸出企業の洗浄、選別梱包などの1トン当たりの加工コストを見ると、栽培コスト同様、人件費がコスト全体の60%程度と最も多い(表11、12)。労働力不足による賃金上昇から、2022年の人件費は19年と比較して20%以上上昇している。