(1)中国のねぎの主産地と生産概況
中国の対日輸出用ねぎの主な産地は、夏秋どり作型の山東省と、冬春どり作型の福建省となっている(図5)。山東省の主な産地は、
濰坊市
安丘、
済南市
章丘、
青島市
平度であり、安丘は同省の作付面積の約35%、章丘は約35%、平度は約15%を占めている。福建省の主な産地は
漳州市
漳浦で、同州の作付面積の約83%を占めている。
山東省の作付面積(令和2年産<令和元年10月~翌9月、以下同じ>)は3万2000ヘクタールと全国の2割弱を占めている(図6)。単収は1ヘクタール当たり46~50トンと高い水準で推移しており、それほど大きな変化はない。同省では平成28年1~3月にかけて、前年産の不作などを背景に価格が高騰したため、生産者が平成29年産~令和元年産のねぎの作付面積を拡大したことで供給過剰となり、価格相場が低迷する事態となった。2年産は、価格低迷により生産者の作付け意欲が低下し、作付面積の縮小や他作物への転作が進んだことに加え、2年8月頃の持続的な降雨によって多くの地域で水害が発生した影響でねぎの単収が低下し、同省のねぎ生産量は前年産比21.1%減の150万トンと大幅に減少した。
なお、山東省での聞き取りによると、ねぎの生産主体の80%程度は個人農家(大規模農家を含む)、12%程度は合作社などのグループ生産、残りは法人となっている。また福建省においても、生産主体の大部分(60~70%)は個人農家が占めるといわれている。仕向け先で見ると、輸出向けのねぎについては、輸出企業などの輸出野菜栽培基地
(注1)で栽培され、国内向けは個人農家による栽培、出荷が主体となっている。
(注1)地域内の各農家の土地の利用権を集約した農地利用権集積者(農家の代表者)と輸出企業などが賃貸借契約および栽培契約を締結した栽培圃場。輸出先国の農薬使用基準などにのっとった栽培を行っている。
福建省の作付面積は、平成29年産以降4000ヘクタールで推移していたが、山東省や河南省でのねぎの作付面積拡大によって全国のねぎの価格相場が低迷し、生産者の作付け意欲が低下したことで、令和2年産は3200ヘクタールまで減少し、収穫量も前年産比20.3%減の14万5000トンとなった(図7)。福建省の単収も、1ヘクタール当たり45~46トンと高水準で安定して推移している。
(2)主産地の栽培暦および栽培品種
山東省の作型および栽培暦は、露地栽培と施設栽培に大別される(表2)。施設栽培は主にビニールなどの樹脂フィルムで被覆したハウスによる栽培となり、施設栽培の単収水準は、通常の露地栽培より20%ほど高い。作型ごとの作付面積比では露地栽培が約85%、施設栽培が約15%となっている。
一方、山東省より南に位置する福建省では、温暖な気候を生かした露地栽培が主体となっている(表3)。同省のねぎの収穫時期は1~4月に集中しており、1~2月の収穫量は全体の約60%、3~4月の収穫量は約40%を占めている。
山東省の主な産地である安丘で主に栽培される品種としては「天光一本」「長宝」などが挙げられる(表4)。この二種類で、安丘の作付面積の85%以上を占めている。また、福建省の主な栽培品種は「天光一本」で、同省のねぎ作付面積の80%以上を占めている。
(3)栽培コスト
山東省のねぎの栽培コスト(10アール当たり)を見ると、令和2年産においては地代が約半分を占めており、次いで肥料費、人件費と続く(表5)。平成29年産から令和2年産の3年間で栽培コストが増加したのは、地代、肥料費、農薬費である。この間の増加幅を見ると、地代で450元(7650円、平成29年産比25.0%増)、肥料費で66元(1122円、同10.0%増)、農薬費で7元(119円、同8.4%増)となっている。一方、人件費は、ねぎの
播種、移植、収穫などの作業の機械化が進んだことで710元(1万2070円、同55.6%減)、種苗費は、種の在庫量の増加に伴い600元(1万200円、同28.6%減)とともに大幅に減少した。
一方、福建省では、機械化の進展が遅れていることなどを理由として、主要な栽培コストとして人件費が約4割を占めており、次いで地代、肥料費と続く(表6)。平成29年産から令和2年産の3年間で栽培コストが増加したのは、地代、人件費、肥料費、農薬費で、増加幅を見ると、人件費で550元(9350円、同33.3%増)、地代で450元(7650円、同33.3%増)、肥料費で60元(1020円、同10.0%増)、農薬費で7元(119円、同8.4%増)となっている。種苗費は、山東省と同様、種の在庫量の増加に伴い600元(1万200円、同28.6%減)と大幅に減少した。
このように近年の中国のねぎ生産を取り巻く状況として、他の品目と同様に栽培コストが上昇傾向にあることが課題となっている。また、依然として若年層を中心とした都市部への出稼ぎ労働者の増加傾向も継続しており、労働力の確保に苦慮している点も同様である。
また、山東省ではねぎ生産の機械化が進んでいるものの(写真1)、福建省では丘陵地が多く
圃場の集約が困難な上、地元の農民が新しい技術を受け入れたがらない傾向にあることから、機械化が進んでおらず人件費の削減が難しい状況にある。
(4)調製コスト(注2)
山東省および福建省の生鮮ねぎの調製コストのうち、最も多いのは人件費であり、全体の約5~6割を占めている(表7、8)。直近3年間の増減を見ると、増加しているのは人件費や管理費といった労働経費であり、その他の調製コストに変動はみられない。人件費の増加は、調製工場の従業員の給与が毎年10%ほど上昇していることにあるが、段ボールなどの包装資材費や輸送費については長期契約を締結していることが多いため、その間の調製コストへの影響は生じていない状況にある。
なお、山東省および福建省の輸出加工企業によると、中国では、調製工場への搬入時に傷んだものや納品基準外品(外観形状やサイズなどの基準に達しないもの)が除かれ、産地でのトラック積載重量に対し、約90~95%が生産原料として納品されるのが一般的とのことである。また、加工段階では、カットなどによる加工ロスや形状などの不合格品が除かれることにより、最終歩留まりは約50%程度となる(写真2)。
(注2)ここでは、収穫後に輸出向けに整える工程である、生鮮ねぎの調製コストについて取り上げる。
中国には独自のGAP制度として中国良好農業規範(ChinaGAP)が存在する。同認証を取得する目的は、主に輸出先国が求めるねぎ輸出の製品基準を満たすためであるが、同認証は開始段階にあり、野菜輸出加工企業における同認証に対する認知度は高くないことから、同国のねぎ輸出加工企業によると、同認証を取得する企業は、依然として少ないということである。