(1)その他冷凍野菜の輸出
冒頭で、ベトナムからの冷凍野菜の輸入量が増加しているとしたが、この内訳を考察するため、輸入産品の分類を示す輸出入統計番号であるHSコードで検索すると、冷凍野菜として具体的品目が示されるものは限られる(表2)。そのため、その他冷凍野菜には、基本的にHSコードで分類される冷凍野菜以外のものが該当し、包含される冷凍野菜の品目は数多く存在するとみられる。
ベトナム商工省によると、近年、日本向けに輸出されるその他冷凍野菜には、冷凍なす、冷凍カットかぼちゃ、冷凍カットパプリカなどが多いとされている(表3)。また、主な冷凍野菜製造企業で製造される製品を見ると、その他冷凍野菜に分類されるものには、冷凍なす、冷凍かぼちゃなどのカット製品などが多い。さらに、単純に加熱、冷凍加工のみにとどまらない冷凍した野菜の天ぷらや、水産業が盛んなベトナムの主要水産品であるエビを加えた冷凍の野菜加工品も存在している(表4)。現地関係機関によると、これら製品は、日本向けはもちろんのこと、ベトナム国内でも需要が伸びているとされている。
近年のその他の冷凍野菜の輸出量の推移を見ると、2020年は3万1207トン(前年比0.6%減)でわずかに減少しているが、これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)に伴う外食需要などの減少によるものとみられている(図3)。ベトナムのその他冷凍野菜の輸出先は日本向けが中心であり、韓国、米国、豪州向けと続く。2020年の日本向け輸出量は1万9301トン(同15.2%減)とかなり大きく減少しているものの、ベトナム産に対する日本の需要は高いと考えられる。現地関係機関によると、日本からのその他冷凍野菜の引き合いは増加傾向にあり、この背景には、安定確保のため、中国への一極集中の解消に向けた取り組みではないかとの見方が出ている。また、ベトナム産の野菜は、冷凍・解凍を行っても食味の変化が少ないと評価されており、中国に比べて低い人件費は加工費を安く抑えることにつながるため、価格競争力があることも需要を伸ばす要因とされている。さらには、農産物加工企業でも、日本から技術指導員を招くとともに、最新の製造ラインを配置することで、日本の仕様や衛生の水準を満たした冷凍野菜の生産・加工が可能となっていることも一因とされている。
(2) 輸出までの工程と経費
農産物加工企業の自社農場または契約農場で収穫された野菜の場合、収穫日の翌日には自社工場で冷凍加工され、その日のうちに港湾付近の輸出企業の施設に出荷される。ここで製品をコンテナに搬入した後に輸出手続きを行い、日本向けに出荷される。工場出荷からベトナム北部最大の港湾都市であるハイフォン港(紅河河口。ハノイから約100キロ)経由で日本向けに輸出される場合、その期間は15~20日間、ホーチミン港経由では19~26日間程度となる(図4)。なお、この日数はいずれも直行便で輸送される場合であり、経由地がある場合はさらに日数を要する。
冷凍野菜は、一般的に500グラムもしくは1キログラム単位で袋詰めされ、10キログラムもしくは20キログラム用の段ボールに梱包された状態で、20フィートもしくは40フィートのリーファーコンテナ
(注3)(マイナス18度設定)で輸出される。
搭載される野菜重量は20フィートコンテナで約28トン、40フィートコンテナで約26トンとされている
(注4)。
(注3) 冷凍・冷蔵貨物の輸送に使用される特殊コンテナ。冷凍機を内蔵し、断熱材で囲うことで、コンテナ内部を一定の温度(プラス20度~マイナス20度)に保つ機能がある。
(注4) コンテナの自重は40フィートコンテナの方が重いため、積載重量は40フィートコンテナの方が少ない。
輸出に要する経費は、調査時点(2021年3月)では1コンテナ当たり1000米ドル台後半から3000米ドル程度(18万5085~37万170円)とされる(ハイズオン省出荷-ハイフォン港経由-横浜港着もしくはラムドン省出荷-ホーチミン港経由-横浜港着を想定。表5)。内訳を見ると、過半は海上運賃で占められる中、COVID-19に伴う物流の混乱などの影響から海上運賃の高騰が続き、現状ではさらなる上昇が見込まれる。
また、自社農場や契約農場以外での原料調達は、ミドルマンと呼ばれる産地商人
(注5)もしくは卸売市場から調達する場合がある(図5)。産地商人は、野菜の買い付けから工場への運搬のみならず、野菜生産にも深く関与しており、は種、定植、収穫などの作業管理や労働力の確保まで関わっている場合が多い。
(注5) 地域によってはコレクター、バイヤー、ブローカー、リーダーとも呼ばれ、農産物や農業資材の販売を職業としている中間商人を指すことが多い。
【コラム】 冷凍野菜製造企業の概要
~Dong Giao Foodstuff Export Joint Stock Company (DOVECO)~
Dong Giao Foodstuff Export Joint Stock Company (以下「DOVECO」という)は創業1955年の企業で、本社は同国北部地域のニンビン省にあり、野菜・果物の栽培、加工、輸出までを担う事業モデルを構築している。工場をニンビン省、ザライ省、ソンラ省の3カ所に所有し、総生産能力は年間当たり13万6000トンに上る。ニンビン省の工場は、主にねぎ、にら、パイナップルなど、ザライ省の工場は野菜全般、ソンラ省の工場はスイートコーン、マンゴーなどの加工を行っている。なお、日本からの需要が見込まれることで、今後は冷凍オクラの製造を計画している。同社は主に冷凍野菜の製造を行っており、多種多様な設備や製造工程を求められる天ぷらなどの総菜系の加工は行っていない。原料の調達ルートは契約農場からも行われるが、大部分は自社農場で生産された野菜を原料に冷凍野菜の製造を行っている。同社の自社農場としてニンビン省に5500ヘクタール以上、ザライ省に1万ヘクタール以上を有しており、同社の原料野菜の主要な供給元となっている。ねぎやにらなどの葉物野菜は、工場から約80キロメートル圏内で生産されており、ニンビン省、タイビン省、タインホア省での生産が多い。
同社製品の約9割が輸出向け、約1割が国内向けであり、主な輸出先は日本、英国、フランス、ドイツ、ポーランド、オランダで、53の国や地域に輸出している。日本向け輸出は約15年の実績があり、ベトナム産野菜に対する高い評価から需要が増加しており、製造が間に合わない状況になりつつあるとしている。