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海外情報 野菜情報 2022年5月号

ベトナムの冷凍野菜の生産および輸出動向

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調査情報部

【要約】

 アジア地域の主要な野菜輸入先の一つであるベトナムからの野菜の輸入量が増加している。ベトナムから輸入される野菜は主に冷凍されたものでえだまめやスイートコーンのほか、ねぎ、なす、かぼちゃなど、さらには天ぷらやエビ挟み揚げの加工をされた製品も多い。ベトナム産野菜は高品質かつ低価格であることから、顧客から高い評価を受けており、国内外ともに需要が伸びている。

1 はじめに

 日本が輸入する野菜は中国産が最も多いが、他方で、世界的な気候変動や自然災害などが頻発する中で、輸入先の多様化を図る動きもみられる。生鮮野菜については、中国以外の輸入先としてニュージーランドや米国などが挙げられ、冷凍野菜では米国やタイを中心に、アジア地域の中ではベトナムが輸入先の一つとなっている。日本では近年、高齢化や調理の簡便化、個食機会の増加などから加工・業務用野菜の需要が増加しており、これらの用途向けに冷凍野菜の輸入量が増加傾向にある。その中でベトナム産冷凍野菜の輸入量も増加しており、冷凍野菜輸入量に占める同国産の割合は小幅ながらも伸びつつある。輸入されるベトナム産冷凍野菜の品目を見ると、他の輸入先と比較して「その他の冷凍野菜」に分類されるものが多く、統計上は具体的品目が明らかにされていないが、後述するかぼちゃやなすなどがこれに含まれている(図1)。また、当該分類以外では、えだまめやいんげん豆などの豆類、ほうれんそう、スイートコーンなどが、輸入されるベトナム産冷凍野菜の主要品目となっている。

図1 ベトナム産冷凍野菜およびその他冷凍野菜輸入量の推移

 本稿では、近年、高い汎用性が評価されているベトナム産冷凍野菜について、その他冷凍野菜を中心に、委託調査結果をもとにその概要を報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=123.39円(注1)、100ベトナムドン(VND)
=0.53円(注2)を使用した。

(注1) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年3月末TTS相場。

(注2) 2022年3月末参考相場。

2 野菜生産の概況

 ベトナムは南北に長い国土を持つことで、北部は四季が存在する亜熱帯気候、南部は乾季と雨季が存在する熱帯モンスーン気候に属するなど、野菜生産においてもその多様性がうかがえる。同国における野菜の主産地は大きく3つの地域に分けられ、北部の首都ハノイ市を含む、ハイズオン省、フンイエン省、タイビン省を中心とした紅河デルタ地域、中部のラムドン省の省都ダラットを中心とした標高の高く比較的冷涼な中部高原地域、南部のメコン川下流域で、ヴィンロン省、ソクチャン省を中心としたメコンデルタ地域となる(図2)。紅河デルタ地域やメコンデルタ地域は河川流域に肥沃な土壌が広がり、コメの主産地であるとともに野菜の生産も盛んに行われている。中部高原地域は、標高を生かしさまざまな野菜の生産地であるとともに、主要都市であるホーチミンから北東約250キロメートルと比較的近郊に位置していることから、これらを活用した食品加工業も盛んである。また、いずれの地域でも生鮮向けのみならず、保管・輸送技術の発展とともに、冷凍向けの野菜生産も行われている状況にある(表1)。

図2 ベトナムの野菜の主産地


表1 その他冷凍野菜の主産地と主要品目

3 その他野菜の概況

(1)その他冷凍野菜の輸出
 冒頭で、ベトナムからの冷凍野菜の輸入量が増加しているとしたが、この内訳を考察するため、輸入産品の分類を示す輸出入統計番号であるHSコードで検索すると、冷凍野菜として具体的品目が示されるものは限られる(表2)。そのため、その他冷凍野菜には、基本的にHSコードで分類される冷凍野菜以外のものが該当し、包含される冷凍野菜の品目は数多く存在するとみられる。

表2 冷凍野菜HSコード表

 ベトナム商工省によると、近年、日本向けに輸出されるその他冷凍野菜には、冷凍なす、冷凍カットかぼちゃ、冷凍カットパプリカなどが多いとされている(表3)。また、主な冷凍野菜製造企業で製造される製品を見ると、その他冷凍野菜に分類されるものには、冷凍なす、冷凍かぼちゃなどのカット製品などが多い。さらに、単純に加熱、冷凍加工のみにとどまらない冷凍した野菜の天ぷらや、水産業が盛んなベトナムの主要水産品であるエビを加えた冷凍の野菜加工品も存在している(表4)。現地関係機関によると、これら製品は、日本向けはもちろんのこと、ベトナム国内でも需要が伸びているとされている。

表3 輸出実績のあるその他冷凍野菜とその加工について

表4 主な冷凍野菜製造企業と主要製品

 近年のその他の冷凍野菜の輸出量の推移を見ると、2020年は3万1207トン(前年比0.6%減)でわずかに減少しているが、これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)に伴う外食需要などの減少によるものとみられている(図3)。ベトナムのその他冷凍野菜の輸出先は日本向けが中心であり、韓国、米国、豪州向けと続く。2020年の日本向け輸出量は1万9301トン(同15.2%減)とかなり大きく減少しているものの、ベトナム産に対する日本の需要は高いと考えられる。現地関係機関によると、日本からのその他冷凍野菜の引き合いは増加傾向にあり、この背景には、安定確保のため、中国への一極集中の解消に向けた取り組みではないかとの見方が出ている。また、ベトナム産の野菜は、冷凍・解凍を行っても食味の変化が少ないと評価されており、中国に比べて低い人件費は加工費を安く抑えることにつながるため、価格競争力があることも需要を伸ばす要因とされている。さらには、農産物加工企業でも、日本から技術指導員を招くとともに、最新の製造ラインを配置することで、日本の仕様や衛生の水準を満たした冷凍野菜の生産・加工が可能となっていることも一因とされている。

図3 ベトナム産その他冷凍野菜輸出量の推移

(2) 輸出までの工程と経費
 農産物加工企業の自社農場または契約農場で収穫された野菜の場合、収穫日の翌日には自社工場で冷凍加工され、その日のうちに港湾付近の輸出企業の施設に出荷される。ここで製品をコンテナに搬入した後に輸出手続きを行い、日本向けに出荷される。工場出荷からベトナム北部最大の港湾都市であるハイフォン港(紅河河口。ハノイから約100キロ)経由で日本向けに輸出される場合、その期間は15~20日間、ホーチミン港経由では19~26日間程度となる(図4)。なお、この日数はいずれも直行便で輸送される場合であり、経由地がある場合はさらに日数を要する。

図4 収穫から日本の実需者本に届くまでの流れ

 冷凍野菜は、一般的に500グラムもしくは1キログラム単位で袋詰めされ、10キログラムもしくは20キログラム用の段ボールに梱包された状態で、20フィートもしくは40フィートのリーファーコンテナ(注3)(マイナス18度設定)で輸出される。
 搭載される野菜重量は20フィートコンテナで約28トン、40フィートコンテナで約26トンとされている(注4)

(注3) 冷凍・冷蔵貨物の輸送に使用される特殊コンテナ。冷凍機を内蔵し、断熱材で囲うことで、コンテナ内部を一定の温度(プラス20度~マイナス20度)に保つ機能がある。

(注4) コンテナの自重は40フィートコンテナの方が重いため、積載重量は40フィートコンテナの方が少ない。

 輸出に要する経費は、調査時点(2021年3月)では1コンテナ当たり1000米ドル台後半から3000米ドル程度(18万5085~37万170円)とされる(ハイズオン省出荷-ハイフォン港経由-横浜港着もしくはラムドン省出荷-ホーチミン港経由-横浜港着を想定。表5)。内訳を見ると、過半は海上運賃で占められる中、COVID-19に伴う物流の混乱などの影響から海上運賃の高騰が続き、現状ではさらなる上昇が見込まれる。


表5 ベトナム-日本間の冷凍野菜の輸出経費の例

 また、自社農場や契約農場以外での原料調達は、ミドルマンと呼ばれる産地商人(注5)もしくは卸売市場から調達する場合がある(図5)。産地商人は、野菜の買い付けから工場への運搬のみならず、野菜生産にも深く関与しており、は種、定植、収穫などの作業管理や労働力の確保まで関わっている場合が多い。

(注5) 地域によってはコレクター、バイヤー、ブローカー、リーダーとも呼ばれ、農産物や農業資材の販売を職業としている中間商人を指すことが多い。

図5 原料野菜および冷凍野菜の流通ルート


【コラム】 冷凍野菜製造企業の概要
~Dong Giao Foodstuff Export Joint Stock Company (DOVECO)~

 Dong Giao Foodstuff Export Joint Stock Company (以下「DOVECO」という)は創業1955年の企業で、本社は同国北部地域のニンビン省にあり、野菜・果物の栽培、加工、輸出までを担う事業モデルを構築している。工場をニンビン省、ザライ省、ソンラ省の3カ所に所有し、総生産能力は年間当たり136000トンに上る。ニンビン省の工場は、主にねぎ、にら、パイナップルなど、ザライ省の工場は野菜全般、ソンラ省の工場はスイートコーン、マンゴーなどの加工を行っている。なお、日本からの需要が見込まれることで、今後は冷凍オクラの製造を計画している。同社は主に冷凍野菜の製造を行っており、多種多様な設備や製造工程を求められる天ぷらなどの総菜系の加工は行っていない。原料の調達ルートは契約農場からも行われるが、大部分は自社農場で生産された野菜を原料に冷凍野菜の製造を行っている。同社の自社農場としてニンビン省に5500ヘクタール以上、ザライ省に1万ヘクタール以上を有しており、同社の原料野菜の主要な供給元となっている。ねぎやにらなどの葉物野菜は、工場から約80キロメートル圏内で生産されており、ニンビン省、タイビン省、タインホア省での生産が多い。
 
同社製品の約9割が輸出向け、約1割が国内向けであり、主な輸出先は日本、英国、フランス、ドイツ、ポーランド、オランダで、53の国や地域に輸出している。日本向け輸出は約15年の実績があり、ベトナム産野菜に対する高い評価から需要が増加しており、製造が間に合わない状況になりつつあるとしている。

コラムー表 DOVECOの主要冷凍製品、日本向け主要冷凍製品

コラム-写真1 DOVECOの日本向け製品(冷凍たけのこ)

コラム-写真2 DOVECOの日本向け製品

コラム-写真3 DOVECOの加工の様子(1)

コラム-写真4 DOVECOの加工の様子(2)

コラム-写真5 DOVECOの自社農場
 

(3) その他冷凍野菜の加工工程
 日本向け輸出の多いその他冷凍野菜の加工工程について、オクラを例に紹介する。オクラの冷凍加工は、主に大きさや形による仕分けや異物、汚れの除去などを行う原料選別の後、洗浄、へた取り、殺菌、ブランチング(蒸し)、冷却、再選別、急速凍結(マイナス40度)、梱包の工程が存在する。原料選別、洗浄およびへた取りの工程で5~7人の従業員が1つのチームとなって加工を行っており、ライン全体では10人ほどの従業員が配置されている。基本的に原料野菜を朝に入荷し、その日のうちに箱詰めまで終了させる(写真1、2、3)。

写真1 原料選別

写真2 洗浄

写真3 急速凍結(マイナス40度)

(4) その他冷凍野菜の生産動向
 近年、ベトナムでは、消費者の間で健康への関心が高まっており、食事の中にも野菜を積極的に取り入れるという意識が浸透しているため、ベトナムの野菜生産は増加傾向にある。消費者は野菜を市場から調達するほか、各個人の家庭農園で栽培するケースも増えている。また、日本、シンガポール、マレーシアなど国外向け冷凍野菜の輸出も増加しており、特に日本からの受注の増加が同国の野菜生産を伸ばず要因の一つと考えられる。その他冷凍野菜の原料となる野菜の中では、ねぎやにら、オクラ、なすなどの生産量が特に増加しており、これらの野菜は国内向け、海外向けともに需要が増加している(図6、7、8)。なお、日本ではこれらの品目において生産規模は横ばいもしくは縮小傾向である。(参考-図1、2、3)。

図6 ねぎの生産量と作付面積の推移 参考-図1 日本におけるねぎの収穫量と 作付面積の推移

図7 なすの生産量と作付面積の推移 参考-図2 日本におけるなすの収穫量と 作付面積の推移

図8 かぼちゃの生産量と作付面積の推移  参考-図3 日本におけるかぼちゃの収穫と作付面積の推移量

 その他冷凍野菜の原料となる主要な野菜の主な産地を見ると、一般的に野菜の主要産地とされる地域にも、その他冷凍野菜の主産地が分布していると考えられる(図9)。

図9 その他冷凍野菜原料の主な生産地

(5) その他冷凍野菜原料の価格
 その他冷凍野菜の主な原料となる野菜の価格については、定期的に整理された情報が乏しいためオンラインによる断片的な価格調査を行った(表6)。時期や需給状況によって価格の変動があるため断言はできないが、農家出荷価格と卸売市場価格との価格差は品目によるところが大きく、価格差の大きい野菜では10倍ほどの開きがある。ベトナムでは、たびたび産地商人の力が大きすぎることが問題となっており、販売ルートを持たない生産者は産地商人との対等な価格交渉ができず、安値での買い取りが行われていれる(注6)。生産者の収入が少ない一方で、産地商人による中間マージンの大きい実態が表6からも見て取れる。

表6 その他冷凍野菜原料の農家出荷価格および市場価格

 このため、冷凍野菜を生産する農産物加工企業は、卸売市場を経由して野菜を調達するルートではなく、自社農場や契約農場から直接野菜を調達することが多い。オクラを例にすると、卸売市場経由で調達した場合、1キログラム当たり2万5000ベトナムドン(133円)の費用が発生する。一方で、自社農場もしくは契約農場からの納入価格を農家出荷価格と同程度と仮定すると、3分の1以下の同4000~7000ベトナムドン(21~37円)の費用になる。このため、農産物加工企業は、産地商人や卸売市場ではなく、自社農場や契約農場から野菜を調達することで、大きなコスト削減が可能になっていると考えられる。2020年の日本向けその他冷凍野菜の輸出例を見ると、冷凍カットオクラは1キログラム当たり約2.2米ドル(271円)で取り引きされることが多く、販売価格に占める原料費の割合は卸売市場経由で約50%、自社農場や契約農場経由で約10%と推測される。

(注6) 『野菜情報』2017年12月号「ベトナムの野菜の生産、流通および輸出の現状」コラム1 生産・流通におけるミドルマンの存在 〈 https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1712_kaigaijoho02.html 〉を参照されたい。

4 まとめ

 本稿では、近年輸入量が増加しているベトナム産冷凍野菜の中でも大きな割合を占めるその他冷凍野菜を取り上げた。ただし、この中にはさまざまな品目が含まれているため、定量的な分析は困難であるが、現地関係者からの聞き取りを中心にその実態を調査することができた。前述のとおりベトナム産のその他冷凍野菜は、日本からの技術指導や製造ラインの整備など、高い品質を維持しつつも、比較的安価な人件費を背景とした低コストでの生産が可能であると高い評価を受けている。また、同国では地場野菜を使った天ぷらやエビ加工製品などの製造も行われており、冷凍技術の進歩に合わせて加工の高度化が可能であることも日本からの需要が高い要因と推察される。日本にとって最大の野菜輸入先である中国の生産コストが上昇傾向にある中で、野菜の安定確保の観点から、中国以外の有力輸入先として、その存在感が増す中、今後のベトナム産野菜の動向が注目される。