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〔特集〕加工・業務用野菜の生産拡大に向けた取り組み(野菜情報 2017年12月号)


ベトナムの野菜の生産、流通および輸出の現状

調査情報部 青沼 悠平、小林 誠


【要約】

 ベトナムの野菜の生産量は、同国の人口と輸出の増加に伴い年々増加している。日系企業は、中国への一極集中を回避し、野菜の安定供給先国として同国の動向を注視している。
 食品安全、品質および流通チャネルに課題は残るが、幅広い種類の野菜を生産でき、近隣諸国に比べ安価な人件費に期待した外資の進出は相次いでおり、野菜生産の潜在力は高いと思われる。

1 はじめに

ベトナムは、社会経済開発10カ年戦略において2020年までに工業国化の達成という目標を掲げ、1次産業から2次・3次産業へと産業を移行していくと計画しているが、農林水産業は、同国において、依然として国内総生産(GDP)の2割、労働人口の4割を占める重要な産業である。

最近5年間の人口は、都市部を中心に毎年97万人程度増加し、2016年では9270万人となっている。2015年の平均年齢は29.6歳と日本の46.5歳に比べ若く、若年層の占める割合が高い。こうした背景もあり、食品全体の消費量は増加しており、野菜の作付面積、生産量ともに増加している。

日本のベトナムからの野菜の輸入量は年々増加しているが、依然として、野菜輸入量の5割以上は中国が占めており、同国への依存体制は高い。しかし、日本の消費者の中国産野菜への安全性に対する不信感から、中国産を使用しないチャイナフリー運動がある上、中国の人件費の上昇などもあり、日本企業は、野菜の安定供給のため、ベトナムなど東南アジアにリスクを分散する動きが高まってきている。

本稿では、中国の代替、補完産地として注目を集めているベトナム野菜の生産、流通および輸出の現状について、2017年8月に実施した現地調査を踏まえて概観するとともに、今後の見通しについて報告する。

なお、本稿中の為替レートは、1ベトナムドン(VND)=0.005円および1米ドル114円(10月末日の参考相場:1ベトナムドン=0.00505円、TTS相場1米ドル114.16円)を使用した。

2 生産

(1)主要産地

2016年の野菜の作付面積は、90万ヘクタール、生産量は1597万5000トンと、2004年に比べ46.1%増、80.2%増といずれも大幅に増加している。(表1)。15年の地域別データを見ると、12年と比較して北中部・中部沿岸地域と中部高原地域の増加率が高くなっている。

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ベトナムは、地理的および気候的な環境条件から紅河デルタ地域、北部丘陵山岳地域、北中部・中部沿岸地域、中部高原地域、南東地域、メコンデルタ地域の6つの地域に分けられている。主な野菜産地は、①ハノイ市近郊の紅河デルタ地域、②ラムドン省ダラット市がある中部高原地域、③ホーチミン市近郊のティエンザン省、ソクチャン省などのメコンデルタ地域の3地域となっている(図1)。そのほかに今回調査したタインホア省がある北中部・中部沿岸地域も作付面積および生産量が増加しており、ハノイ市へ野菜を供給しているほか、一部の施設から日本向けに輸出されている。

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ア 紅河デルタ地域(ハノイ市近郊)

紅河デルタ地域は、雨季(5~10月)と乾季(11~4月)に分かれ、雨季は高温多湿で平均気温が30度近くまで上昇するが、乾季の気温は、20度前後である。雨季は、空心菜、からし菜などが栽培され、乾季は、キャベツ、カリフラワーなど冷涼な気候を好む野菜の栽培が行われている(図2)。同地域は、760万人近くの人口を擁する大消費地のハノイ市が近くにあることから、他の地域に比べて販売先の確保といった面で優位性がある。

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イ 中部高原地域(ラムドン省ダラット高原)

2016年のラムドン省の野菜の作付面積は、5万7049ヘクタール、生産量は193万868トンとなっている(表2)。

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特に、同省のダラット市は、標高が1500メートル程度の高原地帯にあり、年間を通じて気温が19度前後と安定している。また、年間の日照時間(2014年)は、ハノイ市が1168時間であるの対し、2118時間と2倍近くあり、温度、日照量ともに野菜の生育に適した地域である(以下この地域のことをダラット高原という)。

ダラット高原にも、雨季(4~10月)と乾季(11~3月)があり、月間雨量は、雨季が250300ミリメートル、乾季は5~20ミリメートルと大きな差がある。雨季は、ほうれんそう、かぼちゃなど多湿に弱い野菜の収量は低下することから、ほうれんそう生産者の約7割は乾季の露地栽培のみ行うなどの傾向にある。市内の中心部では、雨滴伝染性の病害の発生を抑制し、品質向上を図るため、ビニールハウスの上部のみ被覆した雨除けハウスを導入しているところも多い(写真1)。

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ダラット高原で生産される野菜は、主にホーチミン市やハノイ市、中部高原地域の他省、地場消費など国内向けであるが、輸出向け(2013年の輸出量は1万3646トン)の多くが日本向けとなっている。

ウ メコンデルタ地域

2015年のメコンデルタ地域の野菜の作付面積は、25万3000ヘクタールと、全国の約30%を占めている。ベトナム農業農村開発省(以下「MARD」という)の報告によると、主産地はティエンザン省とソクチャン省で、それぞれ4万6600ヘクタール、3万7700ヘクタールの作付面積がある。これらの地域では、空心菜、ちんげんさいなど葉茎菜類の生産が多く、次いで、トマト、かぼちゃ、きゅうりなど果菜類となっており、ホーチミン市やカントー市などに供給されている。

エ タインホア省(北中部・中部沿岸地域)

北中部・中部沿岸地域の野菜の産地としては、今回調査したタインホア省が挙げられる。同省の2016年の野菜の作付面積は、3万4136ヘクタール、生産量は、34万9463トンとなっている(表3)。主に葉茎菜類などの作付けが多く、これらは、同地域で消費されるほか、車で3時間程度という立地を生かしてハノイ市にも供給されている。

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省を挙げて農薬に汚染されていない安全野菜の生産、流通に取り組んでおり、54の安全野菜生産特区を設置しているが、そこでの作付面積は400ヘクタール以下と限定的である。2020年までに同面積を1万2000ヘクタールまで増やしたいとの意向を持っているが、目標達成への道のりは険しい。

同省の担当者によると、Tu Thanh社、Thanh Hoa社、Dong Xanh社が保有する加工調製施設において、年間1000トン以上の野菜や果物を加工処理し、主に中国、米国に輸出している。日本向けには、ライチ、ほうれんそうおよびスイートコーンの冷凍品を輸出しており、2015年の輸出額は、4412万2036米ドル(50億2991万2104円)で、このうち日本向けは86万3278米ドル(9841万3692円)となっている。

(2)経営形態

野菜生産者の経営形態は、零細・小規模生産者、協同組合、企業経営の3つに類型化できる。

ア 零細小規模生産者

野菜生産の大部分を占めているのが零細小規模生産者で、今回調査した関係者からの情報を踏まえて推測すると、1戸当たり平均経営耕地面積は、3050アール程度と考えられる。

イ 協同組合

協同組合は、組合員の相互扶助と平等原則の精神に基づき設立、運営されている法人で、加入するには一定額以上の出資金(土地など現物による出資も可)を支払う必要がある。そのため、大部分の零細・小規模生産者は、資金不足から組合に加入することができない。業務内容は、日本の農業協同組合に似ているが、信用、販売、共済事業を兼営しているところは少ない。多くが旧合作社時代の生産活動中心の経営を踏襲しているため、商品開発や新規顧客の開拓などマーケティング力が乏しいのが実情である(図3)。

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MARDによると、2016年の全国の協同組合数は、1万756組合(林業、水産関係など含む)で、その半数以上が米の主産地であるメコンデルタ地域と北中部中部沿岸地域に集中している。同年の1協同組合当たりの平均収益は11億VND(550円)、1月当たりの組合員の所得は150万VND(7500円)となっている。

ウ 企業経営

企業経営は、旧国営企業が民営化したもの、外資系企業、生産者が共同出資者を募り新たに生産法人を設立するものなど、種類は多いが企業数は少ない。外資系企業は、自社または出資子会社で加工施設を保有し、自社農場や契約生産者から調達した原料を加工し、本国などに輸出しているケースも多く見られる。

今回訪問したタインホア省にある「LAM SON SUGAR CANE JOINT STOCK CORPORATION」は、元々は製糖業の国営企業であったが、2000年に民営化し、13年からハイテク技術を備えたビニールハウス20棟(総面積25ヘクタール)でキンショウメロン(黄メロン)、トマト、ガーキンなどの生産を開始してハノイ市の量販店に販売している。日本への輸出も視野に入れているが、国内需要の増加により今のところ輸出するだけの生産余力はない。

(3)VietGAP認証

VietGAPとは、2008年にMARDが定めた安全生産管理基準で、農産物の安全性を保証するための規範である。野菜の栽培から収穫、流通までの各工程で遵守すべき基準を規定している。認定を受けるためには、栽培記録を付ける、重金属の含有量の検査を行うなど種々の条件をクリアする必要がある。認証は2年ごとに更新する必要がある。

2015年に同認証を受けた野菜の作付面積は、約3200ヘクタールと全国の作付面積の0.4%にすぎない。ラムドン省によると、現在の認証作付面積は1050ヘクタールと、全国の3割を占めるが、その普及は限定的であるとしている。

今回訪問した地方の各省や協同組合などで普及が進まない要因を尋ねたところ、認証野菜を適正に評価し価格に反映する量販店などはいいが、ミドルマン(注1)は、品質にこだわらず良品でも価格に反映しないため、生産者が認証野菜の生産にメリットを見出せないことを指摘している。

注1:ミドルマン(地域によっては、コレクター、バイヤー、ブローカー、リーダーとも呼ばれる)とは、農産物や農業資材の販売を職業としている中間商人を指すことが多い。

(4)生産振興政策

2014年にMARDは、農作物、畜産物、水産物の3分野において、再構築に向けての具体的な計画を発表した。生産振興は、従来、米が主体であったが、現在は以下のとおり野菜にも力を入れるようになっている。

・野菜生産者1戸当たりの作付面積を拡大するとともに、単収の向上を図る。

・生産性向上のためのハイテク技術を推進し、それに対する補助を行う。

・野菜生産に適した土地を選定し、海外の輸入業者からの発注に応じることができる産地の形成を図る。

・VietGAPを活用した安全安心野菜の生産に取り組む。

(5)生産事例の紹介

ベトナムは、地域や気候条件の相違に加えて、北と南に分断されていた歴史的な経緯などから農村の社会構造も多様であり、地域によって野菜の生産方式は異なっている。このため、現地調査を基に各地域の生産事例を以下に紹介したい。

ア 中部高原地域

(ア) ダラット高原TAN TINE協同組合

ダラット高原中心部から車で15分ほどの場所にあるTAN TINE協同組合は、2012年に設立され、野菜と花の生産と販売を行っている。現在の組合員数は19名、野菜の総作付面積は15ヘクタール(うち雨除けハウス面積は5ヘクタール)で、レタス、キャベツ、トマト、ほうれんそう、サラダ菜、コールラビなどおよそ30品目を生産している。

サラダ菜は、育苗床にしゅし、20日程度育苗(本葉4~5枚)した後定植し、20~30日で収穫する(写真2)。また、イスラエルの先進的な技術を取り入れ、サニーレタスの水耕栽培や袋培地を使用したトマトの低コスト栽培を行っている(写真3)。袋培地へのかん水や施肥は、ドリップ式かん水を用いて自動で行い、過剰な液肥の施用やかん水を抑えて草勢をコントロールしている。1袋(2株)当たりの収量は50キログラムで、1段目の開花から約6カ月間収穫できる。

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販売先は、主にホーチミン市やハノイ市のMetroスーパーなどの量販店や高級ホテルとなっている。顧客に安全な野菜を供給するため、ラムドン省の指導・監督を受け、農薬の使用回数と購入記録の記帳などを徹底し、収穫前には残留農薬、残留硝酸塩と残留重金属の含有量の検査を行っている。一部で有機野菜の生産にも取り組んでおり、防虫ネットを使用するなど物理的な手法を用いた総合的病害虫・雑草管理(IPM)技術を導入している。

国道から離れた谷間にじょうがあるため、傾斜地が多く、収穫機などの機械の導入は限定されるが、ミドルマンを介さない販路を確保できており、品質も高いことから、収益性は高いものと思われる(写真4)。

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(イ) ダラット高原TRAN DO協同グループ

協同グループは、協同組合とは異なり法人格を有さない組織で、野菜生産のほか、農薬散布などのサービスを提供する組織もある。同じ目的を持った3人以上の生産者が互いに協力契約を締結すれば設立できる。

TRAN DO協同グループは、ダラット高原中心部のハウス群の中にあり、生産者数は10名で、野菜生産を専門にしている。野菜の総作付面積は6ヘクタールとなっており、サラダ菜、ブロッコリー、キャベツ、トマト、パクチョイなどを生産している。

10名中7名がトマト、キャベツ、サラダ菜などでVietGAP認証を取得し、リーダーのTran Do氏は、サラダ菜で認証を受けている(写真5、6)。認証野菜は、ホーチミン市、ハノイ市、ダナン市などの量販店に販売し、認証野菜以外は、ミドルマンに販売している。

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同氏によると、ミドルマンは、品質より量の確保を重視し、原産地表示もしないため、品質の優れる野菜を生産しても品質の劣る他産地や中国産と同等に扱われ、買取価格は安価になる傾向にある。通常、ホーチミン市のビンディン卸売市場へのキャベツの販売価格が1キログラム当たり1万2000VND(60円)のところ、ミドルマンへの販売価格は5000VND(25円)と、2分の1以下となる。ミドルマンへの販売は極力避けたいと考えているが、鮮度維持のための保冷施設や保冷車を有していない現状では、収穫物当日に販売しなくてはならないため、ミドルマンに販売せざるを得ないとのことであった。

協同グループは、協同組合と比べて結束力や資金力が乏しく、新たな施設や資材の導入が限られるため、ミドルマンの支配から抜け切れていないように思える。

イ 紅河デルタ地域 ハノイ市:Van Duc協同組合

ハノイ市中心部から車で約30分の場所にあるVan Duc協同組合は、1997年に設立され、現在の組合員数は1200戸である。野菜の総作付面積は250ヘクタールであるが、1戸当たり平均作付面積は20アールと小さい。主に露地でキャベツ、カリフラワー、コールラビ、ほうれんそう、きゅうりを栽培しており、年間生産量は3400トンとなっている(写真7)。VietGAPの認証作付面積は、後述のとおり、マーケティング力不足のため販売価格に反映されないことから、2013年の50ヘクタールから減少し、現在は15ヘクタールとなっている。

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農業資材は、ミドルマンを介して購入している。種子の約9割は日本の種苗会社のものを使用しており、キャベツの種子は、1キログラム当たり1億VND(50万円)で購入している。

収穫物の80%をミドルマンに、残り20%を量販店などに販売している。ミドルマンは同組合から買い取ったキャベツ、カリフラワー、ほうれんそうを年間約1000トン韓国、日本、台湾へ輸出している。同組合は2016年に、ミドルマンを頼らず直接台湾の輸入業者に輸出を開始し、将来は日本への輸出も考えている。

大消費地のハノイ市が近くにあるものの、マーケティング力不足から多くをミドルマンに販売せざるを得ず、安く買い叩かれている状況にある。自主的な農産物の販売を行ってこなかった旧合作社の経営を踏襲してきたとみられ、経営陣もこのままでは良いとは思っておらず、新たな流通チャネルの開拓に踏み出している。

ウ 北中部・中部沿岸地域 タインホア省:Hoang Hop協同組合

Hoang Hop協同組合は、1999年に設立され、現在の組合員数は266戸、総作付面積は70ヘクタールで、主な品目は、キャベツ、コールラビ、カリフラワー、かぼちゃである。

2009年に、カナダ国際開発庁が03年から同国で実施している「食品と農産物の品質プロジェクト」に参加し、高品質な野菜の栽培と管理に関する指導を受けた。これをきっかけに、消費者に安全な野菜を提供することの重要さを再認識し、消費者に高品質の野菜を提供するため、VietGAP認証作付面積を現在の24ヘクタールまで増やしたとのことである。

同組合の販売先は、一部はミドルマンとなっているものの、上記の取り組みが功を奏してコープマートやビックCなどの量販店や地元のホテルなど多岐にわたっている。量販店などへの販売では、10日おきに販売先と値段交渉を行っている。その際は、同組合が市内の量販店の価格を事前調査して建値を設定するなど、販売先に主導権を握られないような体制作りを心がけている。

コラム1 生産・流通におけるミドルマンの存在

ミドルマンは、それぞれ管轄区域を持っており、そこに居住する生産者と商取引を行っている。大部分の零細・小規模生産者は資金力がないため、ミドルマンから借金をして種苗、肥料、農薬などの農業資材を購入し、出荷の際にその借金を相殺している。そのため、生産者はミドルマンを通じて野菜を出荷せざるを得ず、ミドルマンが多くの産地で野菜生産の実質的な実権を握っているとみられる。

協同組合の担当者によると、一部のミドルマンは、自身の利益を最大化するため、野菜の買い取り価格を低く抑えることが多い。

加工施設を有している企業は、自社農場のほか、ミドルマンと野菜の集荷契約を締結し、原料を調達している。ミドルマンは、企業の求める生産量に応じて自身の管轄区域の生産者に作付けを指示し、収穫の際は、生産者の圃場に赴き、自らのトラックに収穫物を積載し、企業の加工施設まで運搬する(コラム1-写真1)。

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また、ミドルマンは、播種、苗の植え付け、収穫の際の労働力を確保するため、日雇い労働者のスケジュール管理も行っている。日雇い労働者の1日当たりの給料は、約15万5000VND(775円)とのことである。

このような生産・流通形態は、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国にも一般的にみられる。タイにおいても一部のミドルマンの不適切な手数料は長年の問題となっており、通常、企業とミドルマンから買い取る価格は毎年協議されているが、ある生産者によると、生産者がミドルマンに販売する価格は、30年間変わっていないという例もあるという。

3 流通・販売

生産者が生産した野菜の流通経路は、地域によって異なっており類型化は難しいが、今回の調査を基に整理すると図4となる。生産者が自ら地元の市場に販売する経路と、ミドルマンがホーチミン市やハノイ市など大消費地の卸売市場などに流通させる経路が大半を占めている。

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今回調査したホーチミン市の量販店3店舗では、全てでダラット高原産と称する野菜が販売されており、このうち1店舗では、生産者名やVietGAP認証の有無を看板に表示して他産地との差別化を図っていた(写真8~11)。

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野菜関係者によると、南東地域、メコンデルタ地域において、消費者のダラット高原産野菜に対する評価は高く、安全野菜の産地として認知されているとのことである。ダラット高原産以外は、産地名などは記載されておらず、単にベトナム産と表示されているだけであった。国内、少なくともホーチミン市においてダラット高原産野菜は、ブランドとして認知されているもようである。

コラム2 ビンディン卸売市場(ホーチミン市)

ビンディン卸売市場は、ホーチミン市中心部から約20キロメートル離れた郊外にあり、総敷地面積12ヘクタールに、水産、食肉、野菜、果物、花きと部門ごとに建物が分かれている(コラム2-写真1)。現地報道によると、1日当たりの農林水産物の集荷量は約1750トン、取扱高は500億VND(2億5000万円)で、このうち水産が65%、食肉は22%、野菜は10%、その他3%と、水産の占める割合が高い。

今回訪問した野菜部門の敷地は2ヘクタールで、場内にはミドルマンなどから野菜を買い、小売店や飲食店の買い付け人(以下これらを「小売業者」という)に販売する仲卸売業者の店舗が288カ所ある。それぞれ取り扱う品目や集荷する産地で差別化を図っている(コラム2-写真2)。

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日本のような競りは行われておらず、全て小売業者と仲卸売業者との相対取引になる。仲卸売業者によると、小売業者へ販売する際の建値はミドルマンが決定しており、ある程度の値引き交渉はするが、ほぼ建値に近い価格で小売業者に販売する。仲卸売業者の販売価格の形成にもミドルマンが関与しており、ベトナムの野菜産業におけるミドルマンの影響力がうかがい知れる。

市場が最も活発になる時間帯は、午前に収穫された野菜を積んだトラックが到着する夜10時ごろから翌明け方である(コラム2-写真3)。仲卸売業者の若い従業員は、続々と到着する荷物を下ろすため、手押し台車を持って場内を忙しく走り回っていた。小売業者は、早朝に市場を訪れ野菜を仕入れ自身の店舗で販売したり、飲食店で材料として使用する。

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中には冷蔵トラックで輸入した中国野菜のみを扱う仲卸売業者もいる。市場関係者によると、中国産は、均一にそろっていてベトナム産より見た目がきれいであるが、農薬を過剰に散布して栽培管理すると聞いたことがあるので、残留農薬の問題に懸念を抱いているとのことであった。

4 貿易

(1)輸出

野菜の輸出は、野菜・果実輸出公社(VEGETEXCO)など複数の企業が担っている。VEGETEXCOの場合、かつては旧ソ連や東ドイツなどに輸出していたが、2015年の民営化以降、EU、米国、中国の3カ国で全体の約60%を占めている。同社は、全国に3カ所ある出資子会社の輸出向け加工施設において、缶詰、乾燥・塩蔵品などに加工後、輸出している。

2015年のベトナムの野菜輸出量は57万1008トンで、主な輸出先国は、中国、韓国、日本となっている(図5)。このうち、生鮮野菜は、6万5524トン、野菜加工・調製品は、4万9308トン、残りはキャッサバ類となる。

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(2)日本のベトナムからの野菜の輸入

ベトナムの日本向け品目別輸出量を把握することが困難なため、日本のベトナムからの輸入量をみると、おおむね増加傾向で推移しており、2016年は2万2545トンで、このうち冷凍野菜が51.5%を占めている。また、冷凍かんしょを含めると67.2%になる(表4)。

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これらの冷凍野菜は、日本において主に業務用に仕向けられ、レストランや居酒屋で使用されているほか、一般消費者も購入できる業務用のスーパーやオンラインショッピングでも販売されている(写真12、13)。日本の各食品メーカーは、実需者の用途に合わせて角切り、斜め切りなどにカットして販売しており、中には飾り切りしたものもある。

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ベトナムの冷凍加工施設では、日本の輸入業者の厳格な品質基準に基づき加工が行われているほか、トレーサビリティの確保やHACCP取得は必須となっている。加工企業は、前述のとおり、原料を自社農場、あるいはミドルマンから調達している。企業は、栽培指導員を雇用して契約生産者の圃場を巡回し、栽培方法や農薬の散布を指導したり、収穫前および工場搬入前に残留農薬のサンプル検査を行い、安全性を確保している。

(3)日本向けの輸出事例

日本向け輸出は、かつての国営公社を通じた独占的な体制から様変わりし、現在は、外資系企業のほか、新たに設立された輸出企業や協同組合も輸出事業を行っている。今回の調査を基に輸出業者の事例を以下に紹介する。

ア ダラット高原:ダラットジャパンフード社

1998年に日系企業の出資によって設立された冷凍野菜製造企業で、製造品は、約9割がさつまいも製品で、ほかにはかぼちゃ製品などとなっている(写真1415)。そのほとんどが日本向けに輸出され、年間生産量は2500トンとなっている。

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原料のさつまいもは、ミドルマンと契約を締結し集荷している(写真16)。社員が、定期的に生産者の圃場を巡回し、生育状況やかん水の有無などを確認するほか、農薬散布の指示や収穫前の残留農薬の確認を行っている。収穫前、工場搬入前に基準値を超える農薬が検出された場合は、買い取りは行わないとのことである。

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品種は全て日本の「ベニアズマ」で、定植から60日後と90日後の2回つる返しを行い、120~150日程度で収穫を迎える。収量は10アール当たり1.5トンになる。収穫時は、地表に繁茂している葉やつるを切り落とし、掘取機で掘り起こして、地表に出たいもを日雇い労働者が拾い集める。

加工室では、従業員が入室する際に、作業服のほこりの除去、手洗い、消毒など厳格な衛生管理が行われている。また、原料の鮮度維持のため、平均室温が22度程度になるよう1時間ごとの記録・管理が徹底されている。従業員は、工程ごとに服の色が分けられており、監督者による監視や指導の下に作業を行っている。

食品の安全・安心を確保するため、トレーサビリティシステム(TBS)を確立しており、仮に問題が生じた場合は、製造番号(TBSコード)から問題があった箇所を特定することができる。製造番号は、特に厳格に管理し、人為的なミスをなくすため、必ず管理担当者が二重の確認を行っている。

イ ハイズオン省ジャロック郡:HUNG VIET CO.,LTV

2009年に設立された青果物生産販売会社で、16年に約10億VND(500万円)を投資して、青果物の加工・調製・包装施設と11棟の冷蔵倉庫を建設した(写真17)。1棟当たり貯蔵能力は2000トンであり、11台の保冷車を有している。

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主にハイズオン省や近隣省のレストラン、ホテル、学校など国内向けに青果物を供給しているが、16年から輸出を開始した。主な輸出先国である中国、韓国、フランス、ドバイ、タイには直接輸出しているほか、日本、マレーシア、シンガポールにも、輸出業者を通じて輸出している。主な輸出品目は、キャベツ、にんじん、しょうが、カリフラワーで、顧客の要望に合わせて調製(カット)している。

社長によると、日本向けのしょうがは、日本の食品メーカーの原料として使用される。輸出の際は、ハイズオン省の農薬検査所の担当官が工場を訪れ、残留農薬のサンプル検査を行い、検査に合格すると輸出許可証を発行する。

野菜は、20ヘクタールの自社農場に加えて、4つの協同グループから集荷しており、年間集荷量は3700トンになる(写真18)。ジャロック郡は、零細・小規模生産者が多く、同社の設立以前は、個々の生産者が地元市場などに販売していた。現在は、生産者が集まって協同グループを設立し、グループ間で競合しないよう特定の野菜栽培に特化して生産している。輸出価格は、以前はダラット高原産より安かったが、現在は、品質の良さが顧客に理解され、ダラット高原産より高くなっている。

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社長は、同地域は、雨季は高温多湿なため作付けできる品目は限られるが、肥沃な土壌に恵まれているため、生産性は高く、輸出の割合を増加したいとの考えを持っている。そのための設備投資も着々と進めており、今後の輸出拡大が見込まれてる。

5 野菜生産・流通・輸出の優位性と課題

(1)優位性

ア 人件費

ベトナムは、人件費の安さなどから脚光を浴びているが、経済発展とともに最低賃金は近年上昇している(表)。とはいえ、隣国のタイや中国などと比べていまだに安い労働力に期待した外資の進出は相次いでいる。

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政府は近年の人件費の高騰を危惧しており、過度な賃金上昇を抑制するため、労働者代表の労働総同盟に対し、大幅な賃金水準の引き上げを抑制するよう促している。その結果、2017年の賃金上昇率は、1997年に最低賃金制度が開始されて以来最も低い7.3%となった。

イ 生産余力

野菜の加工産業は、ダラット高原に集中しているが、今回の調査では、紅河デルタ地域や北中部中部沿岸地域も原料の調達という意味ではポテンシャルが十分にあることを確認できた。ハイズオン省やタインホア省などは、肥沃な土壌、乾季の安定した気候、未利用地の存在など、野菜を生産する上で有利な点も多い。特に、ハイズオン省は、日系企業も新たな野菜の調達先として注目しており、また、ベトナム政府も新たな野菜産地の形成を検討しているため、ポストダラット高原としての発展が期待されている。

(2)課題

ア 安全性の確保

地方の各省や市の農業局は生産者に対し、定期的に農薬、殺虫剤、化成肥料などの使用量や散布時期などの指導を行うほか、農薬販売店に対する立ち入り検査を行っているが、基準値を超える農薬が依然として地方市場に出回る野菜から検出されている。この要因としては、以下のことが挙げられる。

・流通段階で基準値を超える農薬が検出されても、生産地や組合名、生産者名が表示されていないため、生産者を特定することができず、改善指導ができない。

・VietGAP認証を取得しても価格に反映されないことが多く安全な野菜の生産に対するインセンティブが働かない。

・消費者の食の安全に対する関心は、高所得層が暮らす都市部を中心に高まっているが、全国的には食の安全に対する意識が低い。

また、中国から輸入された野菜から残留農薬が検出されることがあるほか、ミドルマンが中国野菜をベトナム産と表示する産地偽装問題もあり、安全な野菜の流通には大きな課題が残っている。

イ 品質・衛生管理

零細・小規模生産者の多くは、組織化されていないため、栽培管理に関する情報共有や組合の営農指導員による指導を受けることができず、品質向上に課題が残っている。

このため、日本の厳格な品質基準をクリアできるベトナムの加工施設は、契約生産者に対する食品安全の指導・監督が行き届いたダラット高原を除いて少ないのが実情である。

ウ 流通チャネルの確保

零細・小規模生産者は、組織化されていないため、また、組織化されていてもマーケティング力が不足している組織が多いため、ミドルマン以外に販売する選択肢は限られている。特に、資金力のない零細・小規模生産者は、種苗、農薬などの農業資材から栽培管理、出荷までミドルマンに頼らざるを得ないが、概してミドルマンを介した取引は、生産者に適正な利益が還元されにくいことから、生産意欲を削ぐこととなっている。

コラム3 衛生管理や品質基準に関するタイの輸出企業の取り組み

品質や衛生管理については、日系企業との取引経験が長いタイの方がベトナムより一歩進んでいるように感じた。今回、タイの日本向け加工施設も数社訪問したので、衛生管理や品質基準に関する企業の取り組みなどを紹介したい。

(1)農薬ドリフトの防止の徹底

企業の担当者によると、残留農薬の主要因は、農薬ドリフト(注2)であり、その対策として、色紙を用いた生産者による申告システムを導入している(コラム3-写真1)。生産者は、近隣の生産者が農薬を散布した時は赤色、農薬散布機を近隣生産者と貸し借りした時はピンク色の色紙を出荷の際に提出するよう義務付けられている。

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こうすることで生産者に残留農薬に対する意識を持たせるとともに、日本向けの作物であることを認識させることに役立っているという。

注2:農薬散布時に散布対象の作物以外に農薬が飛散することをいう。

(2)コールドチェーン

タイでは、各社が冷蔵施設や保冷車を完備しており、その野菜に適した温度帯での運搬ができる。しかし、ベトナムの協同組合では、まだそのレベルまでには達しておらず、常温流通が主形態であり、鮮度低下による廃棄ロスは依然として高いレベルにある。

(3)モデル農場

ある企業では、原料の安定調達と品質管理のためにモデル農場を設立し、既存の契約生産者へ品質管理技術や農業資材の使用方法を示したり、新規参入者に対して栽培のノウハウを無償で提供している(コラム3-写真2)。また、有機栽培技術も紹介しており、有機野菜を通常の1.5倍の値段で買い取ることが、生産者の生産意欲の向上につながっている。

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6 おわりに

ベトナムの野菜の作付面積、生産量は、ハノイ市やホーチミン市など都市部を中心に人口が増加していることなどを背景に増加している。また、温帯から熱帯まで気候が多様で幅広い種類の野菜を生産できることに加え、近隣国と比べ人件費が安価で若年労働者も多いことから、野菜生産の潜在力は高いと思われる。

その一方で、国内市場に供給される野菜については、残留農薬問題やミドルマンによる産地偽装など、食品の安全性に関する問題が頻繁に発生している。今後、輸出を拡大していくには、輸出に耐える品質や安全性を確保するため、企業の取り組みによって現行の生産および流通体系を変える必要がある。

日系企業は、ドイモイ政策以降、積極的に外資が受け入れられるようになったことから、中国一極集中からのリスク分散として気候が安定し野菜生産に適したダラット高原に加工施設を建設した。その結果、日本の同国からの輸入量は年々増加している。

日本向け野菜を生産、加工、輸出できる地域は、今のところダラット高原に限られているが、今回の調査から、紅河デルタ地域や北中部・中部沿岸地域も原料の調達という点で潜在力は高いと感じられた。これらの地域は、比較的気候が安定し、土壌にも恵まれているため、多種類の野菜を周年で供給することが可能である。今後、品質および食品安全に改善がみられれば、ハノイ市やホーチミン市より安価な人件費を武器に、これら地域が加工野菜の新たな供給地となる可能性は十分にあると思われる。


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