調査情報部
ニュージーランド(以下、「NZ」という。)のかぼちゃ生産量は8~12万トンで、作付面積は7,000~8,000ヘクタールである。他の野菜と組み合わせて栽培されるほか、牧草地の転作体系に組み込まれる場合もある。生産者の集約化が加速しており、1999年の農場数が245農場であったのに対し、2012年は48農場に集約されている。平均作付面積は150ヘクタールで、1企業で1,600ヘクタールを栽培する例もある。
NZで生産されるかぼちゃは、ほとんどが輸出向けとなる。かぼちゃ生産企業は、輸出市場の拡大と品質管理に力を入れるため、NZかぼちゃ協議会を構成している。輸出国については、日本向けが7割であるが、近年では、韓国への輸出拡大が顕著となっている。NZで栽培されるかぼちゃの品種は、日本からの導入品種で、粘質のあるえびすが中心であり、味平、ほっこりえびす、くりゆたか、くりじまん等の粉質系も栽培されており、ミニかぼちゃの坊ちゃん等も一部で栽培がある。
近年の対日輸出における課題は、NZドル高のために出荷価格が上昇したことや、輸送コストが高騰したことがあげられる。このため、日本における輸入かぼちゃについては、メキシコ産にシェアを奪われつつある。国産かぼちゃの周年供給を考えていく上で、NZ産かぼちゃの生産体制の変化、韓国等のアジア市場の開拓が今後どのように展開するかについて、注目しておく必要がある。
日本国内における国産かぼちゃの流通時期は主に6月~11月であり、12月~翌5月は、国産の端境期となる。北海道などの貯蔵ものが一部流通するものの、量販店での販売主体は輸入かぼちゃとなる。平成24年の日本のかぼちゃ輸入量は、12万5000トンであり、うち5割がNZ産であった。
NZ産の日本向けかぼちゃ輸出は、1980年代に開始された。これは、端境期の国産かぼちゃの品薄を見込んで、日本の商社と現地の生産者、研究機関等が協力して、日本国内の量販店向けに市場開拓したことが起点となっており、現在のNZのかぼちゃ生産は、大半が輸出向けである。日本国内の消費者から見たNZ産農産物については、同政府観光局がグローバルマーケティングキャンペーンとして掲げる、「100%PURE New Zealand」のイメージ通り、他国の農産物よりも好印象で、国産農産物と同じように受け入れられている。
本稿では、NZのかぼちゃ生産および輸出の動向について紹介する。
NZのかぼちゃ生産(注1)は、日本の端境期において、量販店にかぼちゃを供給することを目的に、日本の商社が、えびすの種子を持ち込み、オークランド近郊のプケコヘで栽培指導を開始した1970年代末にさかのぼる。豪州でも試験栽培が行われたが、地中海ミバエによる植物防疫上の課題から、地中海ミバエの清浄地域であるNZが選択され、1980年代から日本向けの栽培が始まった。1990年代に輸出量が大きく伸展し、1990年代末には11万トン程度の生産量となった。その後、日本市場におけるトンガ産やメキシコ産のシェア拡大、輸入野菜の安全性懸念、NZにおける洪水・乾燥等の生産変動等の影響により、輸出量は横ばいとなり、現在の生産面積は7,000~8,000ヘクタール、生産量は、天候要因等に左右されることから、8~12万トン程度となっている(図1)。
注1:NZでは、パンプキン(Pumpkin)とかぼちゃ(Buttercup Squash)は異なる作物として捉えられており、本稿でのかぼちゃはButtercup Squashを指すものとする。パンプキンはWhangaparāoa Crown pumpkin等の品種を指し、平均で果実は直径30センチ、重さ4キログラム程度、果皮が灰色、果肉は鮮やかなオレンジ色である。2012年の生産量は3万1000トンで、生産面積560ヘクタール、貯蔵性が高く、ほとんど国内で消費され、輸出は数百トン程度と限られている。
かぼちゃの主要産地は、肥沃な土壌で気象条件に恵まれる、北島の東部に位置するホークスベイとギズボーンがあげられる(図2、表1)。これら以外では、オークランド/ワイカト、マナワツ等、北島を中心に生産されている。生産から出荷の流れは、は種から収穫までは95~100日程度であるが、南北の地域によって時期に差があり、8月~翌1月の間には種、12月~4月の間に収穫および出荷となっている(図3)。
現在、栽培されている主な品種は、えびす(NZではDelica)、味平、ほっこりえびすである。えびすは粘質系で、収量が高く、生産しやすいため、最も広く栽培されている。この他にも、くりゆたか、くりじまん、こふき等の粉質系、ミニかぼちゃの坊ちゃん等も、注文に応じて栽培される。大規模生産者らは、日本の種苗会社と共同で、より良い品種の開発や栽培技術の向上に取り組んでいる。
かぼちゃは、園芸作物専門の生産者が他の野菜等と組み合わせて栽培することが多い。一般的に、雨水を利用した露地栽培(写真1、2)であるが、農場によっては、補助的にかんがいを利用するところもある。NZでは、大規模で多様な商業用野菜栽培ビジネスが拡大し、生産者の集約化が急速に進んだ。このため、NZのかぼちゃ生産面積が、ほぼ横ばいであるのに対し、生産者数は、1999年に245農場であったものが、2005年に119農場、2010年に52農場、2012年には48農場へと、大きく減少してきた。1農場あたりの平均作付面積は、1999年に29ヘクタールであったが、2012年には150ヘクタールと、5倍になっている。
かぼちゃ生産の大手企業には、JM Bostock社、Brownrigg Agriculture社、Bearsley Farms社、Leader Brand社、Balle Bros社、Wai Shing社等があげられる。NZ園芸生産企業最大手の一つであるJM Bostock社は、ホークスベイを拠点に、かぼちゃの生産面積は1,300ヘクタール、生産量は1万2000トンとなっている。ここは、大手輸出企業のAozora社の株式を50パーセント有する(注2)。Brownrigg Agriculture社は、ホークスベイを拠点に、かぼちゃおよびとうもろこしを主体に生産しており、かぼちゃの生産面積は1,600ヘクタール、生産量は2万2000トンとなっている(注3)。Leader Brand社は、ギズボーンを主な拠点に、園芸作物全体で約3,000ヘクタール、Balle Bros社は、オークランド近郊を主な拠点に、園芸作物全体で3,150ヘクタールで生産しており、各社ともかぼちゃを主力品目の一つとしている。
NZでは、2012年実績で、生鮮かぼちゃの国内向け出荷額が、290万NZドル(2億5500万円:1NZドル=88円〈2月28日現在〉)と推計されているのに対し、生鮮かぼちゃの輸出額(FOB:本船渡し価格)は、6500万NZドル(57億2000万円)であり、国内市場向けは、ごくわずかとなっている(注4)。また、収穫されたかぼちゃの一部は、NZ国内でパウダーやチップ等へ加工されているが、それほど量は多くないと見られる。このため、NZで生産されるかぼちゃの大半は、生鮮での輸出向けであると考えられる。
かぼちゃの輸出量は、NZの園芸作物では、キウイフルーツ、りんご・なし類、たまねぎに次ぐ、4番目となっている。かぼちゃ輸出量は、洪水等の気象災害による生産変動で増減するものの、2007年には、11万4000トンに達している。しかし、2007年に、日本向け輸出単価が落ち込んだことから、その後の生産意欲が減退し、2007年から2010年にかけて輸出量は減少した。ただし、2011年および2012年は、韓国市場での健康志向による市場拡大と、それに合わせた積極的なプロモーション戦略によって韓国向け輸出が拡大し、輸出全体も緩やかな増加となった(図4)。
輸出価格(FOB)は、最近上昇傾向にある。日本向け輸出価格は、2012年にトン当たり595米ドルとなった(図5)。NZドル高、労働コストの上昇などが、価格優位性を確保する上で大きな課題となっている。また、輸出業者らは、輸送コストの上昇に加え、日本向けに輸出される乳製品に比べ、かぼちゃの輸出量が少ないことや、輸送頻度が限られることから、コンテナ当たりの輸送費が相対的に割高となると指摘し、輸出価格の引き上げ要因になっているとみられる。
NZにおけるかぼちゃ産業の業界団体は、1987年園芸作物輸出権限法(Horti-cultural Export Authority Act 1987)の下で設立された「NZかぼちゃ協議会」(以下、「協議会」という。)があげられる。協議会は、かぼちゃ輸出実績に基づき、各会員(生産者、選果業者、輸出業者)から賦課金を徴収し、それを財源として活動している。主な活動内容は、①海外市場への製品の品質・安全性を保証するための品質管理プログラム、②製品の栄養特性と生産から流通に係る研究開発プログラム、③主要市場における市場開拓プログラム等、である。
特に、トレーサビリティーの確保や、品質管理に最も力を入れており、日本向け輸出を支える基礎となっている。サイズの小さいものは未熟の可能性があるため、1個1キログラム以下の小型の果実は輸出しないよう徹底しており、違反した業者にはペナルティーを設けている。
市場開拓プログラムによると、日本はNZ産かぼちゃ輸出の約7割を占める主要なマーケットではあるものの、成熟市場であって輸出拡大の余地は小さい、と捉えられている。以前は、日本に置いていた事務所を、現在は撤退したが、これは新たな輸出拡大に向けたプロモーションの余地は小さく、安定的に輸出できる基盤は既に確立されたと見ているのであろう。最近は、韓国における輸出促進活動に対して、より力を入れるようになっている。韓国への輸出は、2007年NZの豊作時に日本市場での大幅な価格下落に直面した際、日本の代替市場として輸出をしたことに始まる。韓国は、健康志向の高まりで、かぼちゃへの消費者の関心が高まっており、販促活動の成果が具体的に得られやすいとして、ここ数年で、韓国語ウェブサイトを通じて、韓国の消費者にかぼちゃの栄養・機能性や、NZ産の特徴の紹介を行っている。また、広告代理店等に委託し、NZ産かぼちゃのPR活動や、スーパーマーケットでの試食、プレミアムシェフによるメニュー開発等のイベントを、精力的に実施している。まだ市場規模は小さいが、中国も、輸出拡大の可能性があると捉えられている。
NZ国内のかぼちゃ輸出業者については、2012~2013年の間、協議会の定める輸出基準をクリアし、認可された輸出業者は11社(注5)で、生産者の集約とともに、パッカーおよび輸出業者の集約化も進んできた。このうち、最大手4社で約8割の取り扱いとなっており、寡占化が進んでいる。輸出業者には、前出の大手生産者が組織している輸出企業(Leaderbrand NZ社、Brownrigg Agriculture Group社、Aozora社〈園芸大手のJM Bostock社が株式の50%を持つ〉、Balle Bros社、Bearsley Exports社、Wai Shing社)の他、大手パッカーのCedenco Foods社(オークランド、日本にも事務所を置く)、輸出専業企業のDelica社(NZ青果物最大手流通・貿易業者のTurners & Growers社傘下)、Integrow Marketing社(Delica社から独立)、Greenz Growlink社(果実大手流通・貿易業者Freshmax NZ社傘下)、The Freshfruit Company社、S C Murphy社、Kiwi Success Trading Company社、Wai Shing社がある。
NZ産かぼちゃの輸出時期は、1~4月に集中しており、コンテナ輸送で最短14日間かかるため、実際に日本が輸入する時期は、1月~5月となっている(図6)。日本の卸売市場への入荷時期は、東京市場が2月~4月を中心に5月まで、大阪市場は2月~5月が中心だが、6月~翌1月にも、量は少ないが若干の入荷がある(注6)。
日本向け輸出の課題としては、為替変動およびコスト高への対応、新たな競合輸出国への対応という点である。これは、NZドル高のために出荷価格が上昇したことや、輸送コストが高騰したためである。また、最近は、メキシコ産の台頭により、日本市場でのシェアを奪われつつある。
貿易統計によると、8割が神戸税関、2割が東京、横浜および川崎税関となっており、関西への出荷が多い。えびす等の粘質系品種が中心となっているため、粘質系を好む関西が主な市場となっている。競合するメキシコ産かぼちゃは粉質系が主体となっており、関東の消費者の好みに合うこと、また、かぼちゃ消費の増加する12月の冬至時期に間に合うように出荷できる等の利点があり、最近、メキシコ産がシェアを伸ばしている。
NZ産かぼちゃのうち、およそ8割が市場流通で、2割が市場外流通とみられる。量は少ないが、市場外流通のうちの一部は、加工業者向けにも販売されている。日本の輸入商社で、比較的取扱量が多い商社は、10社前後である。また大手および中堅の小売業者では、直接NZの輸出企業と取引を行っているところもある。
日本向け輸出は通常、船舶輸送で、40または20フィートのリーファーコンテナに 、木箱(550~575 キログラム)詰めで出荷される。日本での通関時に、害虫の付着等が発見された場合、くん蒸処理が必要になるケースがあり、害虫混入防止が課題となる。
日本に到着後、再度選果を行い、10キログラム段ボールに入れ替える。選果基準は3つの規格に分けられており、1果当たり重量で1.0~1.2キログラムがSサイズ、同1.3~1.5キログラムがMサイズ、同1.6キログラム以上がLサイズ、となっている。荷姿や規格については、主に量販店向けとなることから、国産かぼちゃに準ずるものとなっている。
NZのかぼちゃ生産は 日本と密接に関わりながら発展してきており、現在も、ほとんどが輸出向けの生産となっている。NZから見て、日本市場が最も重要な市場であることには変わりないが、日本市場が成熟した現在、輸出拡大が見込める韓国、中国等のアジア市場の開拓に軸を移している。最近、生産者は集約化および専業化が急速に進み、大手生産企業による寡占体制が確立し、品質管理やトレーサビリティーの確保なども強化されている。
北海道等における貯蔵技術の向上や、神奈川県や鹿児島県等における、端境期での供給に向けた作型の研究等、国産かぼちゃの周年供給体制確立に向けた動きが見られることから、今後は、すみ分けがされる産地としてのNZから、競合産地としてのNZになることが予想される。NZ産かぼちゃの生産体制の変化、韓国等のアジア市場の開拓が今後どのように展開するかについて、引き続き注目される。
注2:JM Bostock社ウェブサイト「http://www. jbgroup. co. nz/」
EPAにおけるプレゼン資料、2013年 「http://www.epa.govt.nz/Publications/11%20Tukituki_Transcript_03.12.13.pdf」
注3:Brownrigg Agriculture社 「http://brownrigg.co.nz/cropping/export-squash/」
注4:Fresh Facts 2012年版 「http://www.freshfacts.co.nz/」
注5:NZかぼちゃ協議会 認可輸出業者および連絡先一覧「http://www.nzkabocha.com/pdf/Kabocha_RegisteredExporters.pdf」
なお、2012/13年は業界関係者へのヒアリングで名前の挙がった大手の一つDelica社は、これには含まれていない。
注6:ALIC 今月の野菜 かぼちゃ 2013年7月「http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/yasai/1307/yasai1.html」