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海外調査報告


中国における野菜生産・輸出の動向(北部地域)と農産物安全対策

国際情報審査役付上席調査役  河原  壽
野菜業務第二部契約取引推進課 吉田 由美


 近年の目覚しい経済発展による所得の向上等により、野菜の生産地域は周年化が進展し、春季及び秋季の山東省等地域、夏季の河北省、黒龍江省、遼寧省等の北部地域、冬季の上海市、浙江省、福建省、雲南省等の南部地域における野菜産地の開発が進展している。このため、2007年7月下旬より8月上旬に、夏季野菜の主産地である河北省北部上(バシャン)地域、黒龍江省南部地域(牡丹江)、遼寧省中部地域(州)の調査を行った。本稿では、当該地域の夏季野菜産地の生産・輸出動向を考察する。

 また、中国の農産物や工業製品等の安全性が世界的に問題視される中、国務院、農業部、国家質量監督検査検疫総局等が、矢継ぎ早に安全対策政策を打ち出している。このため、近年の中国政府安全政策を考察し、中国野菜生産・輸出の動向と併せて今後の中国野菜産地の動向を考察する。

要  約

  1.  中国の主要野菜産地は主に日本輸出拡大を背景に拡大をしてきたが、今後の中国の野菜生産・輸出は、国内需要と東南アジア、台湾、ロシア、韓国などの諸国への輸出増加により成長が継続すると推測される。中国野菜の日本への輸出のウエイトは、相対的に減少するであろう。
  2.  輸出企業保護政策から労働者保護政策への転換により賃金や福祉関連コストが上昇し、また、エネルギー価格の上昇により流通コストも上昇している。今後もこのような上昇傾向は継続し、輸出価格も上昇すると予想されるが、賃金等が低い中国中部、西部、北部地域の野菜産地開発により、ある程度コスト上昇は抑制されると推測され、価格競争力の強さは継続するであろう
  3.  安全性に関する法令が整備され、監視・管理の権限・責任や国家品質検査総局などの監督部局の検査権限が明確にされ、輸出企業などの現場確認を実施する方向であるが、今後の最大の問題点は、その実施体制と管理体制の確立と推察される。
     当面の課題としては、安全性に関わる諸制度、特に2007年9月1日に導入された検査検疫表示ラベル等の運用・管理システムの確立が最重要課題であろう。当該システムの運用・管理システムの確立が、今後の中国輸出農産物安全性体制確立の鍵と思われる。
  4.  中国安全性問題は短期での解決は難しく、日本国内においては業務用需要が一部の品目において国産にシフトしている。中国の日本への野菜輸出は、日本国内の作柄にも影響され、残留農薬リスクにより品目でも異なるが、基本的に葉物野菜や豆類などの減少傾向が継続すると推測される。
  5.  過去、台風等の災害による日本国内の作柄不良が中国産の輸入増加・定着を招いてきたが、現在は、安全性問題が中国産輸入減少を招いている。
  6.  国内需要の安定には、業務用を主体とした生産振興が重要であり、今が、その大切な時である。

Ⅰ 野菜生産・輸出の動向

1 主要作物別播種面積
 中国の耕地面積は、中国国土資源部の資料によると2001年の12,762万haから2005年には12,208万haと減少傾向が続いている。これは、環境保護のための退耕還林政策(注1)の推進や農地転用などを背景としている。品目別に見ると、米、小麦、とうもろこしの食糧作物が需給の緩和基調が解消されたことから増加傾向に転じており、野菜は緩やかな増加傾向となっている。一方、耕地利用率は、野菜栽培における日光温室などの施設の増加などにより2005年127%と増加している。特に野菜生産の増加が著しい河北省では146.7%と野菜播種面積の増加とともに施設栽培の増加により耕地利用率の上昇が著しい。

 中国農業科学院蔬菜花卉研究所によれば、2005年施設導入面積は250万haにもなっており、その内訳は、ビニールハウス191万ha、日光温室50万、ガラスハウス1万haである。ビニールハウス導入面積では、遼寧省が51%を占めている。

表1 主要作物別播種面積
(単位:千ha、%)

資料:中国国家統計局『中国統計年鑑』、中国農業部編『中国農業発展報告』

注1:
退耕還林政策
自然環境の悪化を背景として、1998年の大洪水を契機に始められた「過度な開墾、干拓地を計画的に林、草地、湖に戻す」政策(農業部 農村経済研究中心 刘 光明 国際合作所長「中国における生態環境と調和した農業発展の模索について」より)


表 2  主要野菜面積・生産量
(単位:千ha)
(単位:万t)

注:「とうがらし」2003、2004年はピーマンを含み、2005年はデータ無し。
資料:中国農業部『農業統計資料』


表3 主要産地別野菜播種面積・生産量
(単位:万t)

(単位:万t)

資料:中国農業部『農業統計資料』


2 生鮮野菜の輸出動向
 2005年中国野菜輸出数量の50%以上を占める生鮮野菜の輸出先国を見ると、依然として日本及び香港への輸出が主体となっているが、マレーシア、インドネシア、ベトナム等の東南アジア諸国、ロシア、韓国、アメリカ等への輸出が増加傾向となっており、残留農薬問題等により輸出が不安定となっている日本のウエイトは減少傾向となっている。

 輸出先国の多様化は、台湾の中国産「ごぼう、かぼちゃ、だいこん、カラーピーマン」輸入解禁、アセアン中国FTAによる関税引き下げ、韓国輸入商社の買付増加、ロシアとの国境貿易の活発化等が背景となっている。

 河北省北部上(バシャン)地域では、台湾、マレーシア、韓国、ベトナム向け、黒龍江省及び遼寧省ではロシア向け輸出が活発であった。

表 4 生鮮野菜の主要輸出先国
(単位:t、%)

資料:中国海関総署『中国海関統計年鑑』


3 調査地域の野菜生産・輸出動向
 河北省北部上地域、黒龍江省南東部地域(牡丹江)、遼寧省中部地域(州)は、ほぼ青森県以北の緯度に位置し、冷涼で乾燥した気候であることから病害虫の発生が少ない。また、露地野菜の栽培出荷期間は4月~10月であるが日光温室やビニールハウスを利用した周年栽培も普及しており、価格が相対的に高い果菜類の栽培が多い地域である。



(1) 調査地域共通の特色
・緯度が高く、露地野菜栽培の収穫期間は4月~10月。
・病害虫の発生が少ない。
・中国国内の夏季における重要な野菜供給地域である。
・価格の高い果菜類の栽培が多い。
・施設の導入面積が多い。
・輸出産地の環境が整備されてきている。



(2) 河北省北部上(バシャン)地域
 当該地域は、大陸性モンスーン気候に属し、海抜1,400~1,500mの冷涼で乾燥した気候である。河北省西北部に位置する張北県の気象統計によれば、年平均気温は3.78度であるが、5月~9月の野菜生育期では、平均気温12.1~19.4度、最高24.9度、最低11.0度、降雨量339.9mm(年平均降雨量390.7mm)、日照時間1,276時間(1日平均日照時間は8時間以上)、無霜期間90~100日となっている。

 野菜面積は70万ム(4.67万ha)を上回る大規模野菜産地であり、夏季野菜では中国最大の産地となっている。河北省北部に接する内蒙古地域の上地域も含めると中国夏季野菜生産量の70%を占めるとのことであった。

 主要品目は、はくさい、だいこん、キャベツ、セルリ-、にんじんで、播種面積の60~70%を占めている(河北農業科技HP)。

 しかし近年では、ブロッコリー、結球レタス、オランダ豆、トマト、カラーピーマン、スイートコーン、かぼちゃ等の栽培も盛んであり、トマト、カラーピーマンは、2000年以降の国内需要の増加を背景に生産規模が拡大し、輸出も2004年から開始している。台湾への輸出は、ごぼう、かぼちゃ、だいこん、カラーピーマンなどが解禁されたことから、外資系企業が適地を選別、農家との契約栽培等による産地形成及び冷凍野菜輸出公司などの投資により生産・輸出体制が整備されている。また、韓国、マレーシア、ベトナムからの買付けも活発化している模様である。

【河北省西北部張家口市康保県冷凍野菜輸出公司 かぼちゃ ほ場】



  • 栽培面積:1,300ム(86.7ha)
  • 市政府の支援を受け集積されたほ場を確保
  • 品種:紅櫻(台湾品種300ム(20ha))えびす、栗じまん(日本品種1,000ム(66.7ha))
  • 単収:1.5トン/ム(規格品割合80%、2.25トン/10a)
  • 収穫:8月~10月
  • 山東省、浙江省、福建省の冷凍野菜公司で冷凍加工され日本へ輸出されている。2007年から自社冷凍工場で加工輸出の予定。
  • マルチ被覆と地下水に液肥等を加えた点滴灌漑(膜下滴灌)設備を備えたほ場。
  • 栽培管理は、緑色農産物(注2)の基準をベースに公司独自のマニュアルを整備している。
  • 韓国、東南亜細亜向けの輸出が好調で、生鮮ブロッコリーでは、コンテナ積載前の全額代金支払いを条件として輸出している。取引の有利な輸出先国の登場で、日本との取引を停止。

注2:
中国の安全性に係る基準
(1)無公害農産物(中国農業部)
 「無公害食品生産標準」で定められた残留農薬等の安全基準を満たした農産物。
(2)緑色食品(中国農業部)
 農業部が定めた、無公害農産物よりも厳しい安全基準が定められている。
 当該基準には、緑色Aと緑色AAの二つのクラスがあり、緑色AAは有機農産物と定められている。
(3)有機農産物
 国家環境保護総局傘下の有機食品認証中心が管轄する、有機農産物基準。


【河北省西北部張家口市崇利県野菜生産公司 カラーピーマン ハウス】



  • 当該地域は、米、麦、コーンの栽培地域であったが、県政府が8年前、貧困対策として価格が高く、めずらしい野菜の導入を決定し、ハウス投資を行い、カラーピーマン、トマト、レタスなどの海外の種子を導入し、地方政府の農業指導員の農家指導により拡大。 ・当該産地は、残留農薬が厳しくチェックされるオリンピック野菜供給準備選別基地に指定され、北京市、広東市等への国内販売を主体に、外資系輸出公司へも販売。
  • 当該産地は、残留農薬が厳しくチェックされるオリンピック野菜供給準備選別基地に指定され、北京市、広東市等への国内販売を主体に、外資系輸出公司へも販売。
  • カラーピーマン  
    栽培面積:4,000~5,000ム(266.7~333.3ha)  
    品種:イスラエル品種  
    単収:5,000kg/ム(黄色、赤)(7,500kg/10a)  
    収穫:8月上旬~10月上旬

【河北省西北部張家口市崇利県野菜生産公司 トマト ハウス】



  • 栽培面積:5,000ム(333.3ha)
  • 品種:イスラエル、米国品種
  • 単収:7,000kg/ム(10,500kg/10a)
  • 収穫:8月上旬~10月上旬
  • 栽培管理
     農薬は、収穫前、カラーピーマンで20~30日、トマトで3週間~30日は使用しない。栽培マニュアルは作成されていないが基本的に無公害を基準の栽培を指導。
  • 出荷施設
     120平米の冷蔵庫が2棟整備され、カラーピーマンは3~5度で予冷され出荷される。トマトは予冷せず、熟度調整により出荷(国内90%、台湾60%)

(3) 黒龍江省 牡丹江地域
 当該地域は、大陸性モンスーン気候に属し、年平均気温4.5度、最高気温22.5度(7月)、最低-16.3(1月)、降水量546.8mm、日照時間2,276時間、無霜期間115-152日である。

 ロシア貿易の拠点となっており、省内及び山東省などの省外から、たまねぎ、トマト、にんにく等が輸出されている。

 野菜生産量は、約100万トンである。
  主な出荷先
   省内:80万トン、省外:10万トン
   輸出:10万トン
   ロシア輸出8万トン(たまねぎ、キャベツ、トマト、ばれいしょ、にんじん等)
   韓国輸出2万トン(とうがらし等)

【河北省西北部張家口市崇利県野菜生産公司 トマト ハウス】




  • 品種:イスラエル品種60%、オランダ品種40%
  • 播種面積:3.3万ム(0.22万ha)(うちハウス1.8万ム(0.12万ha))
  • 単収
     露地:2,000kg/ム(3,000kg/10a)  
     ハウス:6,000kg/ム(9,000kg/10a)

(4) 遼寧省錦州市地域
 当該地域は、大陸性モンスーン気候に属し、夏季は短く高温多湿、冬季は長く乾燥寒冷、春季は風強く少雨、秋期は晴天の日が多い。年平均気温8.2度、年降水量604.8mm、日照時間2,871時間、無霜期154~164日である。

 当該地域の農業は産業構造調整が進んでおり、「北鎮モデル」と呼ばれる農業の産業化経営が行われており、東北地域の大規模な野菜生産基地の1つである。

 具体的には、1984年に栽培技術を共有する農民組織として設立された農民合作社(協同組合)が中心となり、栽培、販売、輸出を行っている。現会員数は、地元農民480人、周辺地域5,000人となっている。

 当該農民組織では、栽培方法等を統一した標準化栽培を導入し、無公害農産物(注2)以上の基準で栽培を目指している。
     
  • 緑色認定(注2)(17品目、10万ム(0.7ha))
  •  
  • 有機野菜1,000ム(66.7ha)が、6年の検査期間の後、認証取得の予定。
  •  
  • 400万元(約6,400万円)の投資により、会員農家への技術普及を行う師範基地500ム(33.3ha)を建設し、品種選定、有機野菜栽培と緑色食品基準の栽培技術向上・普及を行っている。
  •  
  • 野菜栽培面積45万ム(3万ha)
     施設32万ム(2.1万ha)
      うち30万ム(2万ha、17品目)が無公害農産物基準
     露地13万ム(0.9万ha)
     主要品目:きゅうり、とうがらし、トマト、なす、にら、メロン

【遼寧省錦州市北鎮市野菜生産公司 トマト露地栽培】



  • 品種:オランダ品種等
  • 播種面積3~4万ム(0.2~0.27万ha)
  • 単収:ハウス7,500kg/ム(11,250kg/10a)
  • 年2作
     収穫:3月中旬~5月下旬(ハウス)  収穫:8月下旬~10月中旬(露地)
  • 農薬監理
     栽培方法等を統一した標準化栽培が導入され、農薬使用のマニュアルを整備するとともに、農薬の一括購入する。
  • 国内需要が堅調で、国内への出荷が主体であるが、近年、独自に輸出を行うため、輸出公司を設立、輸出権を取得し、たまねぎ、トマト、カラーピーマン、ブロッコリー、とうがらしを輸出している。

(5) 調査地域における野菜生産・輸出動向
 山東省、上海市、浙江省、福建省等の主要野菜産地は、主に日本輸出拡大を背景に拡大をしてきたが、今回調査を行った河北省北部上地域、黒龍江省南東部地域(牡丹江)、遼寧省中部地域(州)は、中国国内の夏季における野菜需要の拡大及び日本以外の国への輸出増加を背景に、施設栽培を主体に野菜生産が拡大しており、冷凍野菜等の加工工場も増加している。

 今後もこの傾向は継続し、東南アジアや台湾、韓国などに需要が多い生鮮・冷凍野菜の生産・輸出が拡大すると推察される。
注3:
1ム≒6.667a(15ム≒1ha)


Ⅱ 中国における安全政策の概要と課題

  中国の残留農薬等の安全政策は、主な法律として「食品衛生法」「標準化法」「農産物品質安全法」「輸出入動植物検疫法」など、行政法規として「国務院食品等製品安全監督管理特別規定」「農薬管理条例」など、行政部門規則として「輸出入野菜検査検疫管理規則」「流通領域食品安全管理規則」「農産物産地安全管理弁法」「農産物包装表示管理規則」「輸出食品生産企業衛生登記登録管理規定」「無公害農産品管理規則」などに基づき実施されている。

 このうち、中国野菜生産・輸出にとって重要な、「農産物品質安全法」「国務院食品等製品安全監督管理特別規定」等をめぐる現在の中国政府の食品安全性対策を考察する。

1 無公害農産物行動計画から農産物品質安全法へ
 中国の安全性対策は、国民所得の向上、食糧需給の改善等による消費者の品質ニーズへの高まりを背景として農業部が2000年5月から開始した、播種から収穫までの生育期間の全過程における残留農薬等の安全性を高める「無公害農産物行動計画」の実施により本格的に始まり、2002年には農業部から「無公害農産物管理規則」が公布され、農業部が業務として行ってきた「無公害農産物行動計画」が政策として位置づけられた。

 しかし、当該弁法は生産地の環境基準及び栽培管理に重点をおいた生産における安全性に重点を置き、農業部が定めた安全基準に基づく検査を行う農産品安全センターの整備と無公害農産品制度の導入による無公害農産品生産の推進という農業部が定めた政策にすぎないものであったことから、2004年国務院23号文献にて関連部門の役割、責任等の調整を経て、2006年4月29日に「農産物品質安全法」が発布され、同年11月1日より施行された。

 当該法律により、県レベル以上の地方人民政府を実施主体として無公害農産物行動計画を推進するための法的根拠が明確にされた。

【2004年国務院23号文献に基づく安全性対策の各部局の役割及び責任】 生産段階

農業部
加工品

国家質量監督検査検疫総局(以下、国家質検総局(CIQ))
流通段階

国家工商行政管理総局
店舗・外食等

衛生局
食品安全の総合的監視、調整、重大事故の調査・処分

国家食品薬品監管局

 なお、農産物品質安全法については、野菜情報2006年12月号海外情報及び機構ホームページの国際情報ウォッチ・海外トピックスを参照されたい。

<野菜情報2006年12月号>
http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigai/0612/kaigai1.html

<国際情報ウォッチ>
http://www.alic.go.jp/kokusai/repnews/wto/old/repnews_wto_2006.html#2

(1) 「農産物品質安全法」を補完する行政部門規則
 その後農業部は、「農産物品質安全法」を補完する行政部門規則として以下の規則を公布した。

①2006年11月1日
「農産物産地安全管理規則」
安全基準に合致しない農産物(不安全農産物)の生産地域を農産物生産禁止区域と指定する。

②2006年11月1日
「農産物包装及び表示管理規則」
無公害・緑色・有機農産物と認証された農産物の包装義務や農産物表示内容を規定。
農業部は、「農産物産地安全管理規則」で「農産物品質安全法」で規定した生産禁止区域の指定の根拠・手順・責任を明確にし、また、「農産物包装及び表示管理規則」で生産段階における農作物品質安全の責任の所在を明確にし、安全政策の法体系を整備した。 

③2008年9月1日
「食品表示管理規則」
さらに国家質検総局は、2007年7月24日付けで国家規格・業界規格に基づく農産物表示内容を規定した「食品表示管理規則」を公表し、2008年9月1日に施行する。

 農業部の「農産物包装及び表示管理規則」による生産段階での表示、国家質検総局による「食品表示管理規則」により、加工段階での表示が明確に規定されることにより表示による安全性政策が整備された。

(2) 国務院食品等製品安全監督管理特別規定
 一方、国務院はこれまでの政府全関連部局の安全政策全体を補完するものとして、2007年7月26日付けで「食品等製品安全監督管理特別規定」(以下、「特別規定」)を公表し、同日付けで施行した。追加・補完された主な内容は、以下のとおりである。

①政府監督管理部門と地方人民政府の責任の明記

②農産物品質安全法第37条に規定された仕入検査制度の具体化
・商品販売者は、仕入先の連絡先等が記載された仕入台帳を、卸売業者は、販売先の連絡先等が記載された商品販売台帳を整備し、商品の仕入に当たっては検査機関の合格証明添付の義務化。

③輸出農産物に係る規定
・輸出農産物検査員の検査結果責任、輸出業者の検査結果の記録・公表。

④輸入農産物の販売先の明記

⑤違法行為記録制度

⑥人の健康に危害をもたらす不安全食品の回収制度の要求

(3) 「食品回収管理規定」
 国家質検総局は、国務院食品等製品安全監督管理特別規定に基づき2007年8月27日付けで「食品回収管理規定」を公表し施行した。

 当該規定は、人の健康に危害をもたらす、あるいは、もたらす可能性がある証拠・証明がある不安全食品の回収制度の整備である。

 食品生産者は、生産物が人の健康に危害をもたらす食品(不安全食品)と判明された場合、関係情報公開、販売者への通知、販売停止、消費者への消費停止、生産物回収が義務付けられている。

中国における安全政策の概要

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2 輸出農産物における安全対策
 以上の農産物品質安全法以後の法律法規は、基本的な農産物・食品の安全の法体系であることから、国内だけでなく輸出農産物に対しても適用され、さらに、輸出農産物・食品は、輸出国の安全基準に基づき検査・輸出される必要があることから、別途、規則等が定められている。

(1) 1モデル,十項目制度
 輸出農産物に係る安全政策は、2007年8月に国務院新聞弁公室から公表された「中国の食品品質安全状況白書」によれば、“防止を主とする、源泉の監視・管理、全工程管理(防主、源管、全程控)”の考えに基づいた輸出食品の監視・管理制度である「1モデル,十項目制度(一个模式,十項制度)」の整備により推進されている。

(2) 輸出野菜における安全規則
 一方、輸出農産物に係る安全政策は、十項目制度(十項制度)の生産段階の監視・管理制度に基づき、国家質検総局と農業部の「輸出入野菜検査検疫管理規則」(2002年8月12日施行)及び「輸出野菜栽培基地登録管理細則」により実施されている。

 当該規則により輸出野菜(生鮮、加工用)は、「検査検疫機関に登録した輸出野菜栽培基地」で栽培された野菜以外は輸出が許可されない。また、基地登録申請を行なう公司等は、「輸出野菜栽培基地登録管理細則」に基づき十分な栽培等の管理能力を持つ者でなければならない。

(3) 2006年以降の輸出農産物安全対策
 中国政府は、2006年の農産物品質安全法以降、農産物安全性対策に係る政策を関連部局から次々と打ち出したが、一方、輸出農産物においても、国家質検総局が2007年6月1日、「輸出食品検査検疫表示に関する公告」を公表し、《出入国検査検疫表示管理規則》(国家質検総局2000年第23号 5月31日)の改正により、9月1日以降に生産された食品は、9月1日から輸出食品の運送包装上に、従来からの生産企業名称、衛生登録登記記号、商品名、生産ロット番号、生産日付に加え、出入国検査検疫機関の検査検疫合格を示す検査検疫表示ラベルの添付を義務づけた。

 国家質検総局は、この検査検疫表示ラベルの目的を、ラベルに表示された「通し番号」による製品の遡及、回収であるとしている。従来は、INVOICEによる輸出企業の特定が限界であったが、この検査検疫表示ラベルの「通し番号」により栽培地域までの遡及が可能になり、これまでの管理体制をより強化することができるとしている。

【具体的な検査検疫表示の発給手続】
 申請する地域の国家質検総局に申請書類及び証明書を提出し、企業は輸出で使用した検査検疫表示ラベルについて、ラベル添付の時期、住所、規格、通し番号等を申請した地域の国家品質検査総局に報告しなければならない。
注4:
「1モデル」:“会社+(栽培)基地+標準化”モデル。会社が、村や郷鎮政府の仲介等により農民から借地したほ場で、安全基準をクリアした栽培技術により統一した栽培管理を行う。
注5:
十項目制度(十項制度):生産段階、加工段階、製品段階のおける監視・管理制度及び優良・不良名簿の公表


3 中国輸出野菜における安全対策の課題
(1) 日本における残留農薬確認の現状
 厚生労働省が公表した「平成18年度輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果」によれば、残留農薬に係る違反事例延べ件数455件のうち、中国が173件と38.0%を占めている。この要因は、以下のものが推測される。

①禁止農薬の不徹底
2006年8月しいたけ(フェンプロパトロリン)、2006年12月しょうが(BHC)の事例のように、現在も禁止農薬の問題がある。

②輸出産地登録の不徹底
「輸出入野菜検査検疫管理規則」に基づく登録面積の不備
面積過大登録等⇒登録基地外からの買付・輸出の可能性

③農薬管理の不徹底
規則等で規定された、農薬管理等の未実施

④野菜生産の周年化の進展による、政府及び地方政府の監督部局の全国的な産地管理体制の統一性の問題。

(2) 国家質検総局の具体的な対策
 2005年6月2日に「さらなる食品品質安全監視管理業務強化に関する通知」において、食品安全区域監視管理責任性を導入し、CIQ職員が地元政府協力員等と協力し、常駐または巡回による食品生産・加工企業の監視管理業務が開始され、現場確認の実施が行われている。

①2007年8月以降、150人程度の職員を動員した監督調査グループを各省・直轄市に派遣・駐在させ、3ヶ月間の各工場の監督・調査を実施。当該調査により、衛生状況、トレーサ状況、輸出登録の有無などを確認・指導。

②輸出産地の登録時における、CIQ職員のGPSによる面積確認、及び、産地登録用件等の確認。

③輸出会社の輸出量と輸出登録産地面積に基づく生産量の整合性確認

④2007年9月1日に導入された、検査検疫表示ラベル「通し番号」による、栽培地域までの遡及、及び、問題産地の輸出登録産地の解除。

(3) 今後の輸出農産物に係る安全検査体制
 安全性に関する法令が整備され、監視・管理の権限・責任や国家品質検査総局などの監督部局の検査権限が明確にされ、現場確認を実施する方向であるが、今後の最大の問題点は、その実施体制と管理体制の整備と推察される。

 当面の課題としては、安全性に関わる諸制度、特に2007年9月1日に導入された検査検疫表示ラベル等の運用・管理システムの確立が最重要課題であろう。

 当該システムの運用・管理システムの確立が、今後の中国輸出農産物安全性体制確立の鍵と思われる。

4 中国の今後の日本への輸出動向
(1) 東南アジア諸国などへの輸出増加
 山東省、上海市、浙江省、福建省等の主要野菜産地は、主に日本輸出拡大を背景に拡大をしてきたが、今回調査を行った河北省北部上地域、黒龍江省南東部地域(牡丹江)、遼寧省中部地域(州)は、中国国内の夏季における野菜需要の拡大及び日本以外の国への輸出増加を背景に、施設栽培を中心にして野菜生産が拡大しており、冷凍野菜等の加工工場も増加している。今後もこの傾向は継続し、東南アジアや台湾、韓国などに需要が多い生鮮・冷凍野菜の生産・輸出が拡大すると推察される。

 また、過年度の山東省、上海市、浙江省、福建省等の主要野菜産地の調査においても、日本への輸出が残留農薬等の安全性問題から不安定になっていることから、東南アジア、韓国等への輸出が増加している。さらに、比較的新しい野菜産地である甘粛省や雲南省においても、たまねぎ等が日本への輸出とともに東南アジア等の諸国に輸出されている。

 今後の中国野菜生産・輸出は、国内需要と日本や香港への輸出を主体にして、東南アジア、台湾、ロシア、韓国などの諸国への輸出増加により、成長が継続すると推測され、中国野菜の日本への輸出のウエイトは相対的に減少するであろう。

(2) 安全性問題による輸出減少

①中国製品全体に対する安全性の不安拡大、日本の中国野菜需要減
 品目により状況は異なる。たまねぎ、ねぎ、にんにく、しょうがなど、日本向け輸出の大規模産地が形成され、日本国内に一定の需要がある生鮮野菜は減少するも激減の可能性は低く、一方、葉物野菜、豆類などの残留農薬のリスクの高い野菜は減少傾向が継続すると推察される。

②中国輸出検査の強化により、輸出が不安定。
 残留農薬確認の場合、国家品質検査総局は全面的検査を実施するため輸出停止(検査停止)措置をとることが多く、不安定な輸出となろう


(3) 生産コスト及び流通コスト上昇、安価な生産費に基づく強い競争力
 労働者保護政策への転換により賃金や福祉関連コストが、エネルギー価格の上昇により流通コストも上昇している。今後も上昇傾向は継続し、輸出価格も上昇すると予想されるが、賃金等が低い中国中部、西部、北部地域の野菜産地開発により、ある程度コスト上昇は抑制されると推測される。

(4) 残留農薬監視・管理体制の整備
 現状では、短期的な監視・管理体制の整備は難しいが、中長期的には、主要産地においては整備されると推測される。

 現時点でも、野菜日本輸出の最大の産地では、輸出企業の輸出産地登録要件を厳しくすること等により輸出企業の絞込みが実施されている。





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