にらは中国西部原産の野菜です。東アジアの各地に自生していますが、にらそのものはヨーロッパにはない野菜です。
日本のにら栽培の歴史は平安時代の記録に記されるほど古く、古事記では「加美良(かみら)」、万葉集では「久君美良(くくみら)」として登場。「にら」という名は、おいしいという意味の古語「美良」(みら)が変化(子音交替)した言葉といわれています。
江戸時代には、薬用として利用されており、食用として利用されるようになったのは、明治時代に入ってからです。戦前は家庭菜園での栽培が主で、あまり店頭には並びませんでした。野菜として消費が増えたのは戦後。現在では、ビタミン豊富で栄養価の高いスタミナ野菜として健康志向を背景に消費が伸びています。
品種と栽培方法の改良で、北海道から沖縄まで全国的に栽培されるようになっており、一年中手に入りますが、1~5月の入荷量が比較的多く、旬は春先から初夏にかけてです。
にらは、葉を利用する葉にら、光を制限して軟白栽培する黄にら、つぼみのついた若い花茎を食用とする花にらに大別されます。葉にらの品種は、葉幅が広い大葉にらと、細葉の小葉にら(在来種)に分けられます。昭和28年に発売されて以降長い間流通の大半を占めていたのは、大葉にらの中でも葉幅が広く、やわらかさが特徴の‘グリーンベルト’でしたが、近年はさらに葉幅が10%程度広く収量の良い‘スーパーグリーンベルト’や収穫調製がしやすい‘ワンダーグリーンベルト’などが多く出回っています。
価格動向を見ると、中国製冷凍ギョーザ事件の影響で、国内産にらの引き合いが高まり、2月の価格は昨年同時期の2倍以上となり、2割増の高値が2月末から3月まで続きました。また、キムチ鍋やもつ鍋などで大量のにらを使用することから業務用需要が高まっており、現在もやや高値で推移しています。
野菜全体の生産量が減少傾向にある中、にらの作付面積は近年増加傾向にあります。周年生産が可能なことから収益性も良く、価格も非常に安定して作りがいのある野菜になっています。今後ほうれんそうとともに、機能性の面からもますます需要増加が期待できる野菜といえます。
もっとおいしく! オススメの食べ方
にらは、炒め物、鍋物、スープなどいろいろな料理に合います。肉やレバー、貝類、卵などの動物性食品と相性が良いので、卵とじや野菜炒め、にらレバ炒め、ギョーザ、春巻きなどがおすすめです。
おいしい“にら”を選ぼう!
葉の幅が広く、やわらかいにらを選びましょう。
根本の切り口が新しく、葉の色つやがよく、葉先までピンと伸びているものが新鮮です。
葉先が折れたりしおれているものや、葉に白い斑点があるものは避けましょう。
にらの栄養価はねぎ類と似ていますが、ビタミンAを豊富に含むのが特徴です。ビタミンAの含有量は、100g中3,500ugと緑黄色野菜の中でも多く、皮膚や粘膜を丈夫にして抵抗力を高める効果が期待できます。
そのほか、強い抗酸化力を持つビタミンEや止血したり骨を丈夫にするビタミンK、コラーゲンの生成や保持などの働きがあることから美肌効果や風邪予防効果のあるビタミンC、胎児の正常な発育に重要で認知症予防効果のある葉酸も豊富に含まれます。疲労回復に効果的なビタミンB1やエネルギー代謝を促すビタミンB2もバランス良く含むことから、にらはビタミンが豊富なマルチビタミン野菜といえます。
「五訂日本食品標準成分表」 にら(葉、生)より
30歳女性1日当たりの食事摂取基準を100とした場合における、にら(葉、生)100g中に含まれる主な栄養素の割合。(ただし、ビタミンA、C、葉酸は、推奨量の値を、その他は目安量の値を用いた。)
にらは強い香りがあるため、金曜日に売り上げが伸びる週末野菜とも言われています。
にらの強烈な香りは、アリシンというにんにくやねぎにも含まれる硫化物の一種によるものです。アリシンは、消化液の分泌を促し、内臓の働きを活発にする働きがあるため、食欲不振、胃もたれを解消する効果があります。また、自律神経を刺激して新陳代謝を活発にする働きがあるため、血行を良くして体を温め風邪に効くとも言われています。そのため、風邪をひいたときに「にらがゆ」を食べるのは効果的です。
そのほか、ビタミンB1の吸収を助けて効力を持続させる働きがあり、豚肉やレバーと合わせると消化吸収が良くなります。豚肉とにらの炒め物、にらレバ炒めなどは、栄養的にも根拠のある料理と言えます。
さらに、アリシンには血液を固まりにくくする働きもあります。血栓ができにくくなるので、脳や心臓に起こる疾病のリスクを低減する効果が期待できます。このように、にらの強烈な香りのもとであるアリシンは様々な機能性を有します。
にらの全国の収穫量は62,700トン(平成18年)で、生育適温は20℃前後です。
にらは、生命力が強く刈り取った後の株から次々に新葉が伸びるため(1か月で30~40cm)、年5~10回の収穫が可能です。
ハウス栽培やトンネル栽培、マルチ栽培(雑草を抑えるために黒いフィルムで土の上を覆う栽培方法)などの栽培技術の進歩により周年供給体制が整っている産地が多く、全国の市場出荷量も1~5月が比較的多くなりますが、1年を通してほぼ同じ量が安定して出荷されています。
その大半が、高知県、栃木県、茨城県、群馬県、福島県など東北南部・関東・西南暖地の限られた産地からのものです。水気がついていると腐りやすいので、調理前の水洗いは手早くしましょう。また、あらかじめ切っておくと、酵素の作用で、臭いがきつくなるので、調理の直前に切りましょう。
にらは葉先と根元で含まれる栄養成分が大きく異なるため、切り方を変えると栄養を効果的に摂取できます。根元の白い部分にはアリシンが豊富に含まれており、細かく刻むと、アリシンが増加します。
これに対し、葉先にはカロテンやビタミンEが豊富に含まれていますが、これらの栄養素は切ったり炒めたりする過程で失われやすいので、電子レンジで丸ごと加熱すると栄養を逃がさず甘くおいしくすることができます。
【保存方法】にらは傷みやすいので、買い置きは避け、早めに食べきりましょう。
冷蔵庫で保存する場合は、一度しおれると水につけても戻らないので、葉先が折れないようにラップできちんと包み、葉が重ならないように冷蔵庫の野菜室に立てます。
冷凍保存する場合は、洗った後適度な長さに切り、キッチンペーパーなどでよく水気を取ってからタッパーや保存袋などの密閉容器に入れて保存しましょう。