(1)利用農家は未利用農家より最大40%以上の増収
高知県農業技術センター調査によると、SAWACHI利用農家569戸と未利用農家998戸の出荷量比較(令和5園芸年度:令和4年9月~翌8月)では、全品目で利用農家が著しく優位だった。なす・ししとうは10アール当たり出荷量が40%以上、きゅうり・ピーマンは25%以上、にらは22%、いずれも利用農家の方が多い結果となっている(図2)。
高知県で栽培している野菜は、キャベツやだいこんなどのように定植後の収穫が1回のみという品目はほとんどなく、年間200~300日間収穫が続く果菜類などが中心である。これらの品目では、シーズンを通じて量・品質ともに安定生産を継続することが重要であるため、SAWACHIの活用により、日々の収量や等階級(A品率やLM比率など)の推移を確認しながら、時期や天候に応じた環境制御をデータに基づいて徹底することが可能となり、収量の増加と安定につながっている。
(2)農家毎のニーズに合わせたカスタマイズ
SAWACHIの基本画面は、定型的なUI(ユーザーインターフェース)が中心であり、特にハウスの温度、湿度、CO₂などのセンサーデータは1ハウスのみの現在値表示が基本となっている。複数のハウスを使っている農家も多く、その場合には、表示させるハウスを都度選択しなければ画面を切り替えられないという問題があった。
また、農家ごとに確認したい項目やその表示順序は異なる場合が多く、グラフや表の形式についても、見やすさや理解しやすさの組み合わせは個々に異なる。
こうした個別ニーズに対応するため、SAWACHIには、基本場面とは別に詳細分析画面が用意されている。一定の制約はあるものの、必要なデータを自由に組み合わせてカスタマイズできるようになっている。
写真に画面のカスタマイズ例を示した。
この例は、1戸で8棟のハウスを経営している農家が、それらのハウスの温度・湿度・CO₂の現在値・最高値・最低値を1クリック・1画面でチェックできるようにしたものである。離れた場所にある複数のハウスのチェックも、瞬時にできるようになった。
また、最大で28ハウスにセンサーを導入し、接続した大規模法人もある。各ハウスのボイラーの不稼働やカーテンの故障などによる異常値を簡単に検知できるようになったメリットは、労力面でもかなり大きいという。
(3)産地の実態を「見える化」してターゲット別にカイゼン
SAWACHIのもう一つの大きな特徴は、産地全体の実態をデータで把握した上で、農家一戸一戸の課題に寄り添ったカイゼン指導が可能である点にある。
高知県幡多農業振興センターによる高知県西部・幡多地域のきゅうり農家50戸(平均年齢58歳、10アール当たりの平均収量19.1トン)を対象とした取り組み事例を紹介する。
農家を、1)環境測定+CO₂施用実施、2)環境測定のみ(CO₂施用なし)、3)環境測定なし―の3区分とし、さらに年齢・収量の観点から分析することで、産地の全体像を可視化できるようにした。
平均収量以上の農家の大半は1)に分類され、とりわけ30~40代の若手農家は100%が測定装置を導入し、CO₂施用も実施しており、高い単収を上げている。一方で、収量が平均を下回る農家には、3)に該当する高齢生産者が多い(図3)。このような産地の「実態カルテ」をデータに基づいて容易に作成できるようになったことで、指導の優先順位や具体的対策を明確に示すことが可能となった。
この分析を基に農家を4グループに分類し、ターゲット別の指導を徹底できる。
(グループ(1)):30~40代で機器導入済みだが、収量が平均以下となっている農家では、JA以外への出荷分が反映されていないケースがあり、実際の収量を正確に把握することが重要となる。幡多地区の場合、指導員が調査したところ、グループ(1)の農家は、JA以外への個人出荷を組み合わせており、実際の収量はグループ(4)と同レベルで、栽培管理に問題はなかった。
(グループ(2)):50~60代前半でデータ測定未実施の農家は、ベテラン層であり、基本的な技術は有しており、今後 10年以上営農を継続できる層でもある。産地全体への普及に向けて重要なターゲットとなる。
これらの農家が、データ駆動型を導入しない理由として「労力がないため、これ以上収穫量が増えても困るだけだ」という声をよく聞く。高知の促成栽培では単価の高い冬場の増収こそが鍵であり、日射量の少ない冬場は逆に労力に余裕があるはずだ。他の産地も含めて、導入をためらっている農家を個別に訪問していくと、研究会や広報誌での報告などを通じ、「データを測定して管理すると収量が増やせることは分かっている」というところが多かった。また、小面積の古いハウスが複数あって、それらのハウスの天窓や
灌水装置などはほとんど自動化されておらず、手動で管理されているケースが多かった。
データ駆動型を導入しない真の理由は、「労力がないから」ではなく、古いハウスがたくさんあって、窓の開閉も水やりも手動なので、「収量が増えると管理しきれなくなる」というのが本音だと感じた。こうした農家には、CO₂施用より先に「自動化装置の導入による省力化」を優先して提案した方が効果的な場合が多い。省力化によって労力的な余裕ができて初めて、データを見て栽培管理を見直す意欲が生まれる。
(グループ(3)):70代中心で収量が平均以下の農家については、長年の経験と勘で栽培してきた層であり、新しい技術導入には慎重な生産者が多い。中には積極的にチャレンジしてくれる農家もあるが、データ駆動型を導入しても収量が平均を下回っている場合には、原因を分析し、カイゼン支援が必要である。過剰な負担とならない範囲で、省力化とデータ活用を組み合わせた提案が必要となる。
(グループ(4)):データ活用により成果が出ている農家には、さらなる技術導入によるステップアップ支援を行うことで好循環が生まれる。
幡多地域のある農家は、2017年に環境測定装置とCO₂発生装置を導入したところ、収量が13年の16トンから18年は23トン(約40%増)となった。手応えを感じた翌19年には日射比例灌水装置と点滴チューブを追加導入し、収量はさらに28トンに増加し、その後も安定した収量をキープし続けている。一つの技術導入で成功体験ができた農家は、次の装備・技術へと自発的にステップアップしていく好循環が生まれやすい(図4)。
現状のハウスのスペックと耐用年数、付帯設備の整備状況を把握した上で、環境モニターとCO₂発生装置の次にどのような設備と技術を導入するべきか、技術と経営の両輪でのコンサルテーションが重要となる。
こうした個別カイゼン指導は1)現状・課題の把握→2)目標設定→3)必要技術の特定→4)装備の決定→5)投資額と補助事業の確認→6)目標収量との整合性確認―という六つのステップで進めている。これまで最も時間を要していた1)・2)の工程は、SAWACHIにより出荷実績がリアルタイムに可視化されることで大幅に効率化された。
品目・栽培担当、経営担当、担い手担当がワンチームで取り組み、地域JAの営農指導員や市町村担当者、機器メーカーとも連携することで、より多くの農家へ効果的に訴求できる体制を整えることも大切だ。最大のポイントは、当事者である農家自身が主体性を持って積極的に考え、自らが責任とやる気を持って判断できるように取り組んでいくことだ。県には、それぞれの機器整備や技術導入に対して、どの程度の投資が必要で、どの程度増収につながるのかのデータがそろっていることも、データ駆動型農業を普及していく上での大きな強みとなっている。