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話題 野菜情報 2026年7月号

気象データを活用した野菜の相場予測とビジネスへの展開

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一般財団法人 日本気象協会 気象DX事業部 気象デジタルビジネス課 鈴木 はるか
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1 気候変動とともにある現代の農業

(1)近年の高温傾向と農産物流通への影響
 近年、地球温暖化に伴い、日本の夏の平均気温が上昇している。特に2023年以降の夏は記録的な高温となり、農作物の生育や出荷時期にも影響を及ぼしやすい状況が続いている。図1では、その一例として、アメダス(地点:東京)における1980年以降の日最高気温、日平均気温、日最低気温について、それぞれ夏季3カ月(6~8月)分平均した値の年々変動を示す。破線は気温の推移を線形回帰したもので、年々夏の気温が上昇していることが見てとれる。その中でも、最高気温の上昇傾向が相対的に大きく見られる。
 
 

 
 さらに、高温だけではなく、少雨による乾燥や極端な大雨など、農作物の生育や流通に影響を及ぼす恐れのある気象条件が発生しやすくなっている。その結果、農産物の流通に関わる意思決定は、平年並みを前提にした判断だけでは対応しにくくなっている。こうした極端な気象条件は、生育の前進・遅れ、規格の偏り、入荷量の大幅な増減を引き起こし、その影響は市場価格にも反映される。農家にとっては出荷時期や出荷先の判断、普及指導員にとっては生育状況と市況見通しを踏まえた助言、小売業者や加工業者にとっては仕入れや販売計画の調整が、以前にも増して重要になっている。本稿では、一般財団法人日本気象協会(以下「日本気象協会」という)が提供する、野菜の市場取引価格と取引数量を主要市場別に最大15週先まで予測する「野菜の相場予測情報」について、産地、加工・業務用、小売り、食品メーカーなどの各場面での活用方法を紹介する。
 
(2)各業界における気象データの活用
 気象データを経営判断に使う考え方自体は、新しいものではない。
 食品食品メーカー向け需要予測では、最高気温の推移が夏商材のアイスやビールの販売に強く影響し、同じアイスでも気温が上がるほどミルク系より氷菓の伸びが大きくなることがPOSデータを用いた統計解析からも明らかになっている。スーパーマーケットにおける来店客数では、少量の雨では影響が限定的である一方、まとまった雨では減少する傾向が見られる場合があり、発注時に考慮されることがある。花き分野でも、需要のピークに合わせた生産・出荷ができるかどうかについて、さまざまな気象条件下での前進傾向・遅れ傾向の対応を分析し判断に役立てるなど、すでに気象データとさまざまなデータを組み合わせて意思決定に活用する事例は存在する。
 これらはいずれも、気象データを販売・出荷・在庫調整に結び付ける取り組みである。
 野菜の場合は、需要だけでなく生育そのものも気象の影響を受けるため、気象データを相場判断に活用する意義はさらに大きい。

2 「野菜の相場予測情報」の開発

 これまでの野菜の相場予測情報は、1カ月先の傾向を定性的に把握するものが中心であった。日本気象協会が開発した「野菜の相場予測情報」は、約50品目について主要14市場別の取引価格予測と取引数量予測を数値で15週先まで示すものである。単に価格の上昇・下降といった方向感を示すのではなく、いつ、どの程度、取引価格と取引数量が動きそうかを、週別の定量値として把握できる点に価値がある。

(1)予測モデルの考え方
 予測モデルの全体像は、図2の通りである。モデルの構築には、農林水産省が公表する市場相場情報の過去実績に加え、日本気象協会保有の都道府県別の気温、降水量、日射量データを用いている。ここで重要となるのが、「産地を考慮した気象データ」という考え方である。東京市場の相場を見る場合でも、単純に消費地である東京都の天気を見るのではなく、その品目の主な産地の気象を、産地の寄与が大きい地域ほど強く反映する形で集約する。例えば東京都の市場で取引されるキャベツの主な産地は、群馬、愛知、千葉、茨城となるが、トマトは熊本、栃木、愛知、北海道となっており、主要産地の構成は異なる。取引価格や取引数量を左右しやすい気象条件も異なるため、この重み付けが予測の土台となる。過去期間には実績の気象データを使い、15週先までは独自の気象予測値を用いることで、週次の価格・数量予測を算出する。本モデルの特徴は、この産地重み付け気象データを説明変数(何かの原因となるもの)として組み込み、時系列モデルの中で市場実績と結び付けている点にある。これにより、産地の天候を考慮した豊作・不作の状況を定量化し、価格・数量を予測することが可能となる。


 
(2)予測精度
 「野菜の相場予測情報」では、予測結果の活用場面を具体的に示すとともに、予測が得意とする点や留意点も分かりやすく伝えることを重視している。
 予測精度については、過去データを用いた検証により確認した。予測値と実績値の変動を比較し、価格の上昇・下降の方向性をどの程度捉えられるかを評価した。図3には、東京都の市場における価格の上昇・下降方向について、品目別に整理した的中率の例を示す。検証期間は、2013年から25年までとした。検証の結果、直近4週の価格と比較した上昇・下降の方向性について、一定程度の精度で捉えられることを確認している。
 予測モデルについては、利用状況や検証結果を踏まえながら改善を続けていく方針をとる。農業関係者や流通・加工分野に関する公開情報、利用者からのフィードバックなども参考にしながら、品目ごとの特性や利用場面に応じた改善を進めていく。モデル解析値と実績値の差を確認しながら、「どの品目ではモデルが実績の動きを捉えやすいか」、「どのリードタイムなら判断材料にしやすいか」、「どの外部要因に注意が必要か」を整理していくことで、出荷、仕入れ、原料調達、販促計画などの実務に取り入れやすくなる。
 
タイトル: p004a
 

3 情報の活用

 「野菜の相場予測情報」は、単に価格の高低を確認したり断定したりするための情報ではなく、少し先に起こり得る変化を事前に把握し、生産、加工、流通、販売の各段階で、不確実性を踏まえながら早めに対応を検討するための共通指標として活用できる。予測情報の提供は、CSVファイルでのデータの連携や(図4)、PDFファイルによるレポート提供により行う(図5)。また、データ提供だけではなく、産地の天候解説や予測値の要因解説コンサルティングも実施する(図6)。以下では、(1)産地、(2)加工・業務用、(3)食品メーカー、(4)小売り―の各場面に分けて、価格と数量の予測の活用事例を整理する(図7)。


 









 
(1)産地での活用
 産地にとって、「野菜の相場予測情報」は各農家の収穫・出荷の段取りを検討するための判断材料になる。野菜は、天候によって生育が前進したり遅れたりしやすく、出荷が特定の時期に集中すれば価格が下がるなど、産地の収入への影響は大きい。数週間先の価格と市場への入荷数量の見通しを把握できれば、出荷順序、出荷先、荷姿、規格別の出し方、収穫作業や人員配置の優先順位を検討しやすくなる。
 特に、予測数量の増加が見込まれ、価格の低下が見込まれる場合には、販売先との事前調整や、加工向け出荷など販売先変更の可能性を早めに検討することができる。一方、予測数量の減少が見込まれる場合には、供給量が不足する局面として、生育状況を確認しながら、無理のない範囲で、出荷時期や出荷量を調整する判断材料となる。近年では、高温や渇水などによる生産の不安定化に対応するため、作柄安定技術や安定供給体制の構築が重要な課題として位置付けられ、「野菜の相場予測情報」は、こうした現場を支える定量的な補助情報として活用できる。
 
(2)加工・業務用での活用(カット野菜工場での場合)
 カット野菜工場では、原料野菜を安定的に確保しながら、歩留まり、製造量、販売先への供給量を調整することが重要になる。カット野菜は、家庭での簡便化志向や中食需要の広がりを背景に需要がある一方、原料となるキャベツ、レタス、にんじん、たまねぎなどの価格や入荷(収穫)量の変動を受けやすい。
 「野菜の相場予測情報」を活用すれば、原料価格が上がりやすい品目、数量が減りやすい品目を早めに把握し、調達先の分散、在庫可能な原料の前倒し確保、商品規格や配合の見直しを検討しやすくなる。例えば、キャベツの数量減少と価格上昇が見込まれる場合には、ミックス野菜における配合比率の見直し、代替原料の検討、販売先への価格・供給条件の事前説明などに活用できる。反対に、数量が増え価格が下がりやすい局面では、増産や販促提案に向けた原料確保を進める判断材料となる。
 
(3)食品メーカーでの活用
 食品メーカーにとっては、「野菜の相場予測情報」は、原材料調達、製造計画、商品設計、販売先への提案を検討するための情報になる。野菜を使用する食品メーカーでは、相場上昇が見込まれる品目について、調達時期の前倒し、複数産地からの調達、冷凍・乾燥・加工原料の活用、規格変更や商品設計の見直しを検討できる。例えば、トマト、たまねぎ、キャベツなどを使用する調味料、スープ、惣菜、冷凍食品、野菜飲料などでは、原料価格の上昇や入荷量の減少が、製造原価や販売計画に影響する可能性がある。15週先までの価格・数量の方向感を把握することで、短期の仕入れ判断だけでなく、数カ月先の販促計画、見積もり、取引先への提案に向けた説明材料としても活用しやすい。
 一方、相場が低下し、入荷量が増える見通しの品目については、国産原料の活用拡大や、期間限定商品の企画、量販店向けのメニュー提案、野菜摂取を訴求した販促企画につなげることができる。加工・業務用野菜では、国産野菜の活用拡大と安定供給体制の構築が政策上も重視されており、「野菜の相場予測情報」は、メーカー、産地、中間事業者が同じ見通しを共有し、調達と販売を連動させるための情報基盤として活用できる。
 
(4)小売りでの活用
 スーパーマーケットなどの小売業においては、「野菜の相場予測情報」は、仕入れ量、売価設定、販促企画、売場づくり、惣菜・関連商品の展開を検討する上で活用できる。野菜は日々の食生活に密接に関わる商品であり、価格変動は消費者の購買行動に反映されやすい。
 予測価格が低下し、入荷量が増える見通しの品目については、チラシ掲載、平台展開、まとめ買い提案、旬や産地を訴求した販促を組みやすくなる。特に、キャベツ、レタス、トマトなど日常的に購入される品目では、価格が下がりやすい時期を事前に把握することで、販売数量の拡大や関連商品の売場展開につなげやすい。一方で、価格上昇や入荷減少が見込まれる場合には、仕入れ数量の調整、代替品目の提案、カット野菜・冷凍野菜・惣菜などを含めた売場構成の見直しに活用できる。
 
(5)リードタイム別の活用
 「野菜の相場予測情報」を実務で活用する際には、予測対象とする期間に応じて使い方を分けることが有効である。
 1~3週先の情報は、足元の出荷・仕入れ・販売対応に活用しやすい。農家にとっては、現地の生育状況や収穫適期を踏まえながら、出荷時期の微調整、出荷先の配分、規格別の出し方、収穫作業や選果作業の優先順位を検討する際の参考になる。卸売業者や小売業者にとっては、入荷量や価格の方向感を早めに把握することで、仕入れ量、売価、売場展開、特売の可否を検討しやすくなる。
 4~8週先の情報は、目先の対応だけでなく、少し先を見越した準備に向いている。カット野菜工場では、原料野菜の調達先の確認、産地切替の検討、在庫可能な原料の前倒し確保、商品規格や配合の見直しなどに活用できる。小売りでは、チラシ掲載、平台展開、関連商品の売場づくり、代替品目の提案など、販促計画の検討材料として利用できる。
 9~15週先の情報は、中期的なシナリオとして利用可能である。食品メーカーやカット野菜工場では、原料価格の上昇や数量の減少が見込まれる品目について、複数産地からの調達、冷凍・乾燥・加工原料の活用、商品設計の見直し、販売先への説明や価格交渉の準備を検討するきっかけになる。
 このように、リードタイムが短い情報は現場の即応判断に、リードタイムが長い情報は関係者間の準備や調整に活用しやすい。「野菜の相場予測情報」は、農家、普及指導員、卸売業者、カット野菜工場、食品メーカー、小売業者が、少し先の変化について、これまでよりも早めに調整を始めるための共通材料である。

4 まとめ

 高温や少雨、大雨など、農作物の生育や流通に影響を及ぼす気象リスクが高まる中で、野菜の出荷判断や収益安定に向けては、経験を補う定量的な情報を活用することが重要である。
 「野菜の相場予測情報」は、産地の現場感覚、普及指導員の知見、市場実績、気象データをつなぐための情報として活用できる。気象を感覚値だけでなく数字として扱い、価格と数量の見通しを週次で確認できれば、農業者と支援者の対話はより具体的になる。さらに、卸売業者、カット野菜工場、食品メーカー、小売業者にとっても、原料調達、販促計画、価格交渉、仕入れ、売場づくりを早めに検討するきっかけとなる。
 1~3週先は出荷や仕入れの調整に、4~8週先は販促や原料調達の準備に、9~15週先は関係者間でのシナリオ共有に使うことで、予測情報の実務的な価値を引き出しやすくなる。気象変化に対応するため、複数の可能性を早めに把握し、関係者間で準備を始めることが重要になる。
 気象と市場を定量的に結び付けることで、産地から実需までが同じ見通しを共有しやすくなり、野菜の安定供給や収益確保に向けた対話を前倒しで進める上で、有効な情報の一つになると考えられる。
 
(参考)日本気象協会「野菜の相場予測」
https://weather-jwa.jp/news/topics/post8955
 
タイトル: p007
 
 
鈴木 はるか(すずき はるか)
一般財団法人 日本気象協会 気象DX事業部
気象デジタルビジネス課
 
【略歴】
三重大学大学院生物資源学研究科修士課程修了
「野菜の相場予測」開発者兼プロジェクトリーダー
小売・農業分野を中心に、データ解析や予測モデル構築に従事、気象データを活用した「屋根雪危険度指数情報」「蚊ケア指数」などの開発実績を持つ。