桂農場が規模を拡大する中で、最も強く意識してきたのは、「人を増やせば解決する」という考え方からの脱却です。農業現場では、経験豊富な人材に依存して生産を回している例が少なくありません。桂農場もかつては、同じ問題を抱えていました。
ブロッコリー栽培を始めた当初は、作業を覚えた「プロフェッショナル」を育成し、その人の判断や技量に依存する形で現場を回していました。しかし、このやり方では、個々の実力差が生産性の差となり、繁忙期には早朝作業や残業が常態化します。規模を広げようとすればするほど、現場の負担が増え、結果として人が疲弊していく構造でした。
そこで桂農場が選んだのが、「人に頼る」のではなく、「仕組みで回す」経営への転換です。作業を個人の感覚に任せるのではなく、すべてを分解し、数値で定義し、誰がやっても一定の成果が出る仕組みをつくることに力を注ぎました。
まず、ブロッコリー栽培に関わる作業を洗い出し、ある程度の習熟度が必要な工程と、比較的短時間で習得できる初心者でも可能な工程に分けました(表1)。
育苗や追肥、防除管理、圃場での収穫といった判断を伴う作業にはレギュラー人材を配置し、
播種、倉庫での箱詰め、出荷作業などは、マニュアルと基準を整えることで初日から対応できる業務として切り出しました。この分業により、習熟度の高い人材が本来注力すべき業務に集中できるようになり、人手不足の問題にも柔軟に対応できるようになりました。
この仕組みを支えているのが、KPIによる数値管理です。桂農場では「頑張ったかどうか」ではなく、「基準に達しているかどうか」を判断基準としています。例えば、倉庫でのブロッコリーの箱詰め作業(写真1)では、1人当たり1時間200個を標準処理量として設定しています。この基準を満たしていれば、問題はありません。下回った場合は作業手順の確認や配置の見直しを行い、それでも改善が見られない場合は、配置転換や契約の見直しを行います。感情で叱責するのではなく、ルールと基準で運営することが、人間関係の摩擦を減らしています。
圃場作業でも同様に数値基準を設けています。苗の移植作業では、移植機1台で1時間当たりセルトレイ50枚を目安とし、1台につき3人(機械操作、補植、苗運び)を配置します。作業時間、面積、数量、人員を事前に数値化し、計画的に作業を進めています。
これらのデータは、毎日の実績としてLINEで共有され、その日の売上算出や売上高人件費率の管理に活用しています。正社員などの直雇用は固定費として捉え、改善余地のある部分は日雇い人材の投入量を調整することで、1日単位での作業進捗の改善を可能にしています。
桂農場の生産性向上は、経験豊富で優秀な人材を集めた結果ではありません。初日に来た人でも即戦力になれる仕組みを整えた結果として、人材の幅が広がり、規模拡大と安定運営を両立できるようになったのです。