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話題 野菜情報 2026年4月号

未来の「食」をZEROからつくる 新たな鮮度保持技術「ZEROCO」  ~食の100年構想から始まるポストハーベスト革命~

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ZEROCO株式会社 代表取締役社長 楠本 修二郎
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1 いま、世界と日本の「食」はどこに立っているのか

 ZEROCO株式会社は、低温・高湿の保管環境を安定的に生み出すことで食材や食品の鮮度を長期間、高品質に保つことを可能にする鮮度保持技術「ZEROCO」を活用し、食品の「時間」と「空間」の制約を超えた新しい保存・流通のかたちに挑戦するスタートアップ企業です。
 野菜情報をご覧の皆さんは、野菜生産・流通に携わるプロフェッショナルの方々だと思います。ですから、冒頭にお話するテーマは一見「社会派」に聞こえるかもしれません。しかしながら、私どもの掲げる事業ビジョンのため、避けて通れない話でもありますので、「ZEROCO」のお話をする前にお伝えします。
 地球規模では、世界人口は2050年、約100億人と、これからの25年で約1.25倍に急増し、食料需要は1.6倍に達すると見込まれています。しかも、年間17億トンを超えるフードロスが発生し、全食料の約40%もが失われる見込みです。気候変動、農業の不安定化、地政学リスクに加え、人為的・環境破壊的な要因が重なり、食は人類史上最大級の課題になりました。
 一方、日本国内に目を転じると、世界とは逆の「人口減少社会」です。日本の人口は2050年には9300万人にまで減少し、すでに現在においても農業・漁業の担い手は急減し、70歳以上の生産者が6割を超える地域も珍しくありません(図1)。このグラフ時点から4年がたち、さらに高齢者人口比率は上がっていると思われます。2~3年半という短いスパンで、現場が立ち行かなくなるリスクが日々現実化しています。
 それでも、日本には大きなチャンスがあります。日本食は「おいしい」だけでなく、「健康的」で「環境負荷が低い」と言われ、この三要素のバランスが、世界から評価されています。だからこそ、足元の構造課題を解きほぐせば、未来は開けると私は信じています。

 
タイトル: p006b
 
 

2 フードロスは「損失」ではなく新たな「市場」だ

(1)新たな市場の創出という発想の転換
 日本の食品ロスは年間約500万トン、経済損失は約4兆円となっています。裏を返せば、「ロスを無くすことが出来れば、4兆円規模の新市場が生まれる」ということです。前述の通り、世界に目を向ければ、今後25年で人口の増加に併せ、食料需要は1.6倍に達すると見込まれています。一方で、年間17億トンという膨大な食料が失われ続けています。つまり、需要増と食品ロスは別々の問題ではなく、構造的に相殺可能な関係にあります。既に生み出していながら活かせていない資源を回収できれば、増産に頼らずとも相当部分を吸収できる可能性があるのです。ここで重要なのは、「生産量を増やす」発想から、「失わない」発想への転換です。収穫後に劣化することを前提に、組み立てられてきた流通構造そのものを変える必要があります。
 
(2)収穫と同時に始まる劣化と腐敗からの解放~「ポストハーベスト」技術という未開拓領域~
 これまで農業テックの多くは、ドローン、ロボティクス、IoTなど収穫前の作業に集中しており、収穫後(ポストハーベスト)に介入する技術は、冷蔵か冷凍しかありませんでした。ここに、新しい技術を持ち込みたいと思います。生鮮品の長年の課題である「在庫保管ができない」ということ、この課題を解決すべく、雪下野菜から着想を経て開発し、長期間の食材の品質保持を可能とする鮮度保持技術、それが「ZEROCO」です(写真1)。


3 冷蔵庫でも冷凍庫でもない、「ZEROCO」がもたらす「在庫が持てる農業」

(1)低温・高湿度の保管環境「雪下野菜」から着想
 私たち日本人は、低温で高湿度の環境が食材の保管に最適であることを、古くから知っていました。ZEROCOは、今までの冷蔵庫・冷凍庫の低温での保管技術とは異なり、温度約0度・湿度100パーセント弱の低温・高湿環境を安定的に作り出し、管理・制御することにより、野菜などの細胞破壊を起こさずに鮮度を長く保つ技術を搭載した冷却庫です。この、低温・高湿度の安定した保管環境により、結露の発生が少なくなることで、ドリップや冷凍霜焼け凍結やカビの発生、腐敗リスクを抑え、食材の品質を長期間保持することが可能になります(写真2、図2)。
 




 
 また、ZEROCOを生鮮品の長期保存を行う保管庫・冷蔵庫的な活用だけでなく、冷凍前の予備冷却として活用することで、細胞破壊を原因とするドリップを抑制し、出来立てのような冷凍食品が可能になります。この技術により、生産者は在庫を持ち、出荷時期を計画的に調整することができるようになります。
 さらに、私たちはこの技術を、単なる保管装置ではなく、流通構造を変えるインフラとして捉え、外食産業を含めたあらゆる「食関連サービス産業」の業態転換および、労務環境負荷の低減、顧客満足度向上などに貢献出来る可能性を追求しています。
 
(2)時間を味方につけ、儲かる農業へ
 これまでの農業は、「収穫した瞬間から劣化が始まる」ことを前提に、市場価格に従わざるを得ない構造でした。豊作時には価格が下落し、出荷が集中することで価値が毀損(きそん)されます。一方で、端境期には価格が高騰し、需給が不安定になります。この振れ幅の中で、生産者は価格決定権を持ちにくい立場に置かれてきました。
 実際に、柑橘類の卸売価格は、出荷最盛期には需給緩和により大きく下落し、端境期には供給量の減少に伴い上昇する傾向があります。例えば、みかんでは出荷が集中する時期と端境期とで、同一等階級であっても単価が数倍のレンジ(幅)で変動することは珍しくありません。メロンにおいても同様に、出荷ピーク時には相場が下押しされる一方、供給が絞られる時期や需要期には価格が大きく上振れします。品種・等級・産地条件を揃えた場合でも、「出荷のタイミング」によって価格差が生じてしまいます。
 しかし、保存期間を延ばし、品質を維持したまま出荷タイミングを選択できるようになれば、需給バランスを見ながら供給量を調整することが可能になります。これは単なる在庫機能ではなく、「時間を活用した価格設計」を可能にするということです。価格の急落局面で無理に売り切る必要がなくなり、適正価格での販売を選択できる。結果として、収益の平準化と利益率の改善につながります。私たちは、この技術により、農業を「量を出す産業」から、「価値を設計する産業」へと転換することが、農業を持続可能で、かつ儲かる産業へと進化させる鍵になると考えています(図3)。
 
タイトル: p009
 
(3)ニッポン中に保管拠点を、セカイへ輸出
 まず、生産の拠点となる川上(産地)にZEROCOを設置することを最優先とし、現在、北海道千歳市に約50坪(約165平方メートル:1坪=3.3058平方メートル)、熊本県熊本市植木町に約70坪(約231平方メートル)、徳島県鳴門市に約100坪(約331平方メートル)の大型ZEROCOを導入し、野菜・果物の保管と流通の実証を進めております。
 さらに、ZEROCOを搭載したトラック輸送は現在も実証実験を続けており、2026年からは九州での本格的な活用実証を迎えます。将来的にリーファーコンテナとの組み合わせにより、空輸に頼らず、海運で日本のフレッシュな青果を海外へ届ける構想です(図4、写真3、4)。




 

4 最新の実証の現場から

(1)農業生産法人JFPという「仕組み」
 ZEROCOを核に、私たちは自分たちで在庫をもてる一次産業を体現すべく農業生産法人 JAPAN FARM PARTNER(ジャパンファームパートナー)を立ち上げました(図5)。狙いは下記の通り、明確です。
 

 
〇 在庫を持てることで、価格の乱高下を抑える
〇 生産者がマーケットに直接アクセスできる
〇 外食・小売は安定価格・安定品質で調達できる
 例えば、トマトやキャベツなどの急激な暴騰・暴落、こうした現象を構造的に減らし、結果として、生活者にとっても「安心して買える価格での食」を実現します(図6)。また現在、石垣島で経産牛やジャージー牛の牧場運営(写真5)、加工食品の製造、飲食店での提供などに取り組んでいます。
 




 
(2)菊乃井、ZEROCORNERでも現在進行中
 京都の老舗料亭「菊乃井」では、ZEROCOを導入し、食材の品質を高い水準で維持しながら、安定的な仕入れと計画的な在庫管理を実現しています。これにより、旬や天候によって左右されやすかった仕入れの不確実性が軽減され、仕込みや人員配置も平準化ができました。繁忙期と閑散期の振れ幅が抑えられ、現場の労働環境やオペレーションの安定化にもつながっています(写真6)。
 また、当社は、2025年9月に体験型拠点「ZEROCORNER」を東京高輪にオープンさせました(写真7)。ここでは、生活者(消費者)に向けて実際にZEROCOを活用した冷凍食品を使い、キッチンレスで料理を提供する新しい外食モデルを実践しています。原材料の価格高騰や人材不足や人口減少といった社会課題に対応しながら、品質を維持し、持続可能な運営を可能にする外食産業のかたちを提案しています。生産者・流通・料理人・消費者をつなぐ場として実証実験および研究・開発を続けていきます。
 
タイトル: p012

5 6次産業化を、もう一度定義し直す

 私たちは、6次産業化を「加工すること」だけだとは思っていません。「技術 × デザイン × マーケティング」を農畜産業・漁業に注入し、地域に経済が循環する仕組みをつくることが6次産業化だと考えています。人口が減少していく社会は、見方を変えれば、一人当たりの国土が広がっていく新しい社会でもあります。遊び心のある農業、地域密着型の技術と実践で、レジリエンスな(困難に直面してもしなやかに乗り越える力のある)地方をつくりたいと考えています。
 
産地から海外へ、第1次産業の生産現場から国内外物流、食品流通、小売・外食など、117兆円に上る日本の食産業を21世紀の国家基幹産業に育成すべく、食の川上から川下に至るまで、1)素材の向上に貢献し、2)食の流通革命の起点となり、3)新しい食産業におけるブランド創造ーを、目指します(写真8)。
 


6 おわりに ~次の100年へ~

 収穫した瞬間から劣化と戦わなければいけない。そんな前提を、私たちは変えたい。ポストハーベストに革命を起こすことが、食の未来を変える。ZEROCOは、そのための「道具」であり、JAPAN FARM PARTNERはその「仕組み」です。 次の100年、食をつくる側が誇りを持ち、届ける側が希望を持ち、食べる側が安心できる。ファーストペンギン(リスクを恐れずに新しいことに挑戦する先駆者や勇気ある存在)として、その循環を現場から実装していきます。 

楠本 修二郎(くすもと しゅうじろう)
カフェ・カンパニー株式会社 ファウンダー兼最高顧問
ZEROCO株式会社 代表取締役社長
一般社団法人おいしい未来研究所 代表理事
農業生産法人 株式会社 JAPAN FARM PARTNER  代表取締役社長 

1964年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートコスモス、大前研一事務所、渋谷・キャットストリートの開発等を経て、2001年にカフェ・カンパニー株式会社を設立。「コミュニティの創造」をテーマに国内外でWIRED CAFEをはじめとする約90店舗の企画・運営や地域活性化事業、商業施設プロデュースなどを手掛ける。
2023年、一次生産者をはじめ食産業に携わる方々をサポートし、日本の食産業の発展を支える基盤づくりと世界の課題解決への貢献を目指すZEROCO株式会社を設立。
2024年、石垣島の広大な牧場を中心に20年以上続く農業生産法人の代表に就任。叡智と技術、コミュニティの活用により生産者が在庫を持てるバリューチェーンの構築による「次世代に堂々とつなげる一次産業」に取り組む。
その他、内閣府、経済産業省、農林水産省等の政府委員、東日本の食の復興と創造の促進および日本の食文化の世界への発信を目的として発足した(一社)東の食の会代表理事、経済戦略と社会課題解決を「おいしい」を軸に捉えて新たな循環や仕組みを生み出し持続可能な未来への貢献を目指す(一社)おいしい未来研究所 代表理事、スポーツとエンターテイメントや食の各団体が参画し地域活性化を目指す(一社)Entertainment Committee for STADIUM・ARENA 理事などをも歴任するなど、多数の組織の立ち上げも行う。
著書に『ラブ・ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』『おいしい経済』。