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話題 野菜情報 2026年4月号

鳥獣被害対策の現状~農畜産物を守るためにできること~

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農林水産省 農村振興局農村政策部 鳥獣対策・農村環境課 鳥獣対策室
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1 野生鳥獣による被害の概要

 わが国では、人間の土地利用や自然資源の利用の変化、さらには冬季の少雪などの影響により、シカやイノシシなどの野生鳥獣の生息域が広がっているといわれています。これに伴い、さまざまな社会問題が発生しており、例えば、野生鳥獣がイネ、野菜、果樹、飼料作物などを食い荒らすなどの農作物被害を引き起こしています。野生鳥獣による農作物被害額は、侵入防止柵の整備などの被害対策を講じてきた結果、令和6年度には全体で188億円と、最も被害額が多かった平成22年度と比較して約21%減少しているものの、令和5年度よりも24億円増加しており、依然として高水準となっています。内訳は、シカによるものが78億5100万円と最も多く、続いてイノシシによるものが44億5600万円であり、これら2種類の獣類による被害が全体の約65%を占めています。特に、シカによる被害額は、元年度以降上昇に転じており、シカ被害の軽減が急務となっています(図1)。
 
タイトル: p003a
 
 野菜の被害額は、品目別には集計していませんが、6年度に43億8538万円で、イネに次いで2番目に多く、農作物被害額全体の約23%を占めています。獣種別の被害額では、シカによる被害が最も多く13億3855万円(約31%)、続いて、イノシシによる被害が5億1250万円(約12%)となっています。また、野菜では、ハクビシン、カラス、ヒヨドリによる被害も多く発生しており、それぞれ野菜の総被害額の約1割を占めています。
 野生鳥獣による被害は、農家の営農意欲を減退させ、さらなる耕作放棄、離農の増加を招いたり、人身被害や家屋被害を引き起こしたりするなど、被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしています。

2 鳥獣被害対策について

 鳥獣被害対策は、(1)個体群管理(鳥獣の捕獲)、(2)侵入防止対策(柵の設置や追い払い)、(3)生息環境管理(刈払いなどによる餌場・隠れ場の管理、放任果樹の伐採)-の3本柱が基本であり、これらの対策を適切に組み合わせ、地域ぐるみで総合的に取り組むことが重要です(図2)。
 
タイトル: p003b
 
 侵入防止柵を設置する場合は、対象となる野生鳥獣に有効なものを選ぶ必要があります。例えば、木や網を登ることができる獣種に対しては金網柵による物理的な防御よりも、電気柵の電気刺激による防御が有効です。また、侵入防止柵は設置して終わりではなく、柵下部地面の掘削による侵入や倒木による損傷部分からの侵入が報告されているので、定期的に見回りを行い、必要に応じて補修・管理を行うことが重要です。
 対策を実施しているにもかかわらず被害が減らない地域では、稲刈り後の「ひこばえ(孫ばえ。樹木の根元や切り株から生えてくる若芽や枝のこと)」や野菜くずなどの収穫残さの放置といった「無意識の餌付け」が行われている、柵の設置やその後の管理が適切ではない、追い払いや捕獲が正しく行われていないなどの原因が考えられるため、対策の実践状況を点検の上、正しい知識と技術で対策を進めることが重要です。
 鳥獣被害対策の担い手の減少・高齢化により、捕獲従事者や柵の管理者などの人手不足が進む中、ICT(情報通信技術)などを活用した捕獲、追い払いなどに関する研究・開発やICT機器などの導入が進められています。ICTなどを活用した鳥獣被害対策としては、センサーカメラやドローンによる野生鳥獣の生息・被害状況調査や遠隔監視・操作システムによる檻(おり)やわなでの捕獲といった技術があり、これらを組み合わせることで、見回りなどの労力の軽減や捕獲効果の向上が図られるものと考えています。これら生息・被害状況調査や捕獲実績、さらには柵やわなの設置状況などを地図上にまとめ、関係者で共有し、鳥獣被害対策の進捗管理を行うことは、経験や勘だけではなく、農作物などに被害をもたらす加害個体の生息状況および被害発生箇所のデータの蓄積・分析に基づく計画の策定や、「計画→実行→点検→改善」(PDCAサイクル)に基づく対策の改善にも有効です(図3)。
 
タイトル: p004
 
 農林水産省では、「鳥獣による農林水産業などに係る被害の防止のための特別措置に関する法律」を踏まえ、鳥獣被害防止総合対策交付金により、市町村が作成する「被害防止計画」に基づく3本柱など、地域ぐるみの対策を支援しています。

3 クマ対策について

 令和7年には、クマによる死者数が過去最多を大幅に更新するなど、国民の安全・安心を脅かす深刻な事態となっていることを踏まえ、同年11月に関係閣僚会議を開催し、関係省庁連携による緊急的な対策を含めた総合的な施策を「クマ被害対策パッケージ」として取りまとめました。パッケージにある関連施策を推進することにより、人の生活圏からクマを排除するとともに、周辺地域などにおいて捕獲などを強化することで、増えすぎたクマの個体数の削減・管理の徹底を図り、人とクマの棲み分けの実現を図ることとしています。農林水産省としては、農林業者の安全と安心を守るため、農業集落に出没するクマへの対応を基本に、捕獲活動による「とる」、侵入防止柵の整備による「まもる」、緩衝帯の整備などによる「よせつけない」といった鳥獣被害対策の3本柱の取り組みをさらに推進しております。

4 ジビエ利用について

 捕獲した鳥獣については、ジビエ利用を推進しており、令和6年度のデータでは、シカ、イノシシの捕獲頭数約138万頭に対し、食肉処理施設で処理された頭数は約16万8000頭で、その割合は約12%となっております。食肉処理施設で処理される以外でも、捕獲者が自宅に持ち帰って食べる「自家消費」などもあるため、残りすべてが捨てられているわけではありませんが、多くの個体が焼却または埋却されています。このことは、自治体や捕獲者にとって経済的、肉体的、精神的に負担が大きく、捕獲個体をジビエ利用できれば、こうした状況も改善すると考えています。また、新たな地域資源となることで特産品が作られるなど、地域おこしに利用されることが期待されます。

5 おわりに

 農村人口の減少・高齢化が見込まれる中、持続的に鳥獣被害を低減させていくためにICTなど新技術の活用は有用な手段となり得るものの、ICT機器を導入するだけで全ての課題が解決するわけではありません。まずは、鳥獣被害対策の3本柱をきちんと理解した上で、新技術を活用することが効果的な被害対策につながるものと考えています。
 
(参考)
農林水産省 鳥獣被害の現状と対策
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/240605.html
 
タイトル: p005