以上のような情勢の中で、肥料はこれまで二度にわたる高騰を経験し、過去の経験を踏まえた対応を行っているが、国際情勢いかんによっては、三度目の高騰がある可能性は排除できないと考えるべきである。
窒素肥料は、空気中の窒素を利用するため、世界的な遍在はないが、中国の輸出の動向によっては、尿素の価格が高騰する可能性がある。実際、中国は令和7(2025)年10月半ばには、尿素の輸出を停止するなど輸出規制の動きがあった。また、表2の通り、リン鉱石はモロッコや中国など数カ国に偏在しており、可採埋蔵量に対する採掘量を比較すると、世界全体で300年ほどの埋蔵量の余裕があるが、近い将来、中国は生産減少に向かう可能性があることに留意する必要がある。塩化加里は、カナダやロシア、ベラルーシなど数カ国に資源が偏っている。可採埋蔵量に対する採掘量を比較すると世界全体で100年ほどの埋蔵量の余裕があるが、生産地に偏りがあるため、地政学的な緊張により供給が不安定となりやすく、今後も資源の安定供給のための外交努力は不可欠と考える。
他方、わが国は、穀物を大量に輸入しており、その穀物には窒素、りん酸、加里が一定量含まれている。それらの穀物を家畜や人が食べて排せつされたものは、家畜ふん尿や下水汚泥となるが、この中には窒素、りん酸、加里が含まれており、これらを肥料として再利用することは、肥料の安定供給を図る上で極めて重要なことである。
同時に、農地の土壌を知ることが重要である。過去の施肥の継続や作物栽培の変化により、農地の土壌は刻々と変化している。何も考えずに単に過去の経験に基づく施肥を継続するのではなく、土壌分析を行った上で、土壌の変化を的確に把握し、適正な施肥を行うことが重要である。
最後に、施肥バランスについて私見を述べて終わりたい。日本は、火山灰土壌が多い中で、伝統的にりん酸成分の高い肥料が好まれてきた。多くの国では、りん酸や加里の施肥量は、窒素の半分以下である(図3)。わが国の野菜畑では、りん酸の過剰な土壌が多く存在しているので、現在の施肥バランスが適正かどうか、今一度原点に返って考えても良い時期になっていると思う。
<引用文献>
・農林水産省「肥料をめぐる情勢」
・農林水産省「品目別統計」および「農業物価統計」
・USGS「MINERAL COMMODITY SUMMARIES 2025」
・ポケット肥料要覧
・FAOSTAT
春日 健二(かすが けんじ)
一般財団法人 肥料経済研究所 理事長
【略歴】
昭和59年4月 農林水産省入省
平成20年4月 農林水産省生産局生産技術課資材対策室長
平成23年9月 独立行政法人農畜産業振興機構 野菜需給部長
平成25年9月 農林水産省大臣官房統計部生産流通消費統計課長
平成29年7月 北陸農政局次長
令和元年7月 消費・安全局食品安全政策課食品安全情報分析官
令和4年3月 農林水産省定年退職
令和4年6月 全国農業協同組合連合会耕種資材部肥料課肥料技術対策室技術主管
令和5年4月 一般財団法人肥料経済研究所 専務理事
令和7年5月 同上 理事長(現職)