野菜 野菜分野の各種業務の情報、情報誌「野菜情報」の記事、統計資料など

ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 産地形成への道のりがこの1玉に詰まっている~JA鳥取西部「大山ブロッコリー®」~

話題 野菜情報 2026年1月号

産地形成への道のりがこの1玉に詰まっている~JA鳥取西部「大山ブロッコリー®」~

印刷ページ
鳥取西部農業協同組合 営農部特産園芸課 リーダー 金明 尚德
顔写真

1 産地の概要

 タイトル: p002b

 鳥取西部農業協同組合(以下「JA鳥取西部」という)は、鳥取県の西部に位置し、2市6町1村(米子市、境港市、南部町、伯耆(ほうき)町、大山町、日南町、江府(こうふ)町、日野町、()()()村)を区域とし、砂丘地帯、水田平野地帯、大山山麓中山間地帯の三地帯に大別される(図1)。耕地は標高0メートルの平地から標高600メートルの中山間地帯まで広がり、起伏に富む特色のある環境である。
 土壌は、平坦地では砂質土と黒ボク土が、中山間地は黒ボク土と砂壌土が中心である。年平均気温は15.4度であり、年間降水量は1757.2ミリメートル(米子市)で、春から秋にかけては比較的温暖である。平坦地ではほとんど積雪がない地帯もあるが、山間地では1~1.5メートルの積雪となる地帯もある。
 JA鳥取西部の令和6年度の総販売額は、92億5672万円であり、その内訳は米穀類25億円(27.0%)、特産園芸34億8836万円(37.7%)、畜産9億8133万円(10.6%)、果実10億円(10.8%)、直販12億7767万円(13.8%)となっている。特産園芸の主体は、白ねぎ(約15億円)、ブロッコリー(約12億円)、トマト(約2.2億円)、にんじん(約1.4億円)、花き類(約1.3億円)などである(図2)。ブロッコリー(写真1)は、特産園芸品目で白ねぎに次いで2位であり、当JAの総販売額の13%を占めている。
 



 

2 ブロッコリー生産の概要

 JA鳥取西部のブロッコリー栽培は、昭和46年、米の生産調整に伴い、県(普及所)、市場など、関係機関で話し合った結果、「これからは、西洋野菜ブームがくる!!」と考え、大山町(旧中山町)で転作作物として導入されたのがはじまりである。作付面積は年々増加し、60年代には初夏どり栽培も確立され、中山町農協(当時)の区域は西日本一の産地と評されるまでになった。しかし、その後は年二期作による連作で根こぶ病が多発し、出荷量は減少していった。また、平成4年以降の円高による輸入量の増加に伴い価格が下落し、作付面積は減少の一途をたどった。
 そのような低迷期の中、平成6年に県西部管内16の農協が広域合併してJA鳥取西部が誕生したのを契機に、ブロッコリー産地としての強化を目指し、共同計算(日別・市場別の価格をならすため、ある一定期間に組合員が出荷した同品質の農産物について、その期間の平均価格で精算すること)、共同販売を開始した。輸入品との差別化を図るために、全国に先駆けて葉付き出荷にも取り組み、また、ボリューム感でも差別化を図るため、Mサイズ12玉の縦詰3キログラム箱から、Lサイズ20玉横詰5キログラム(現在は6キログラム)箱へ変更した。その後、緑黄色野菜ブームと消費者の安全志向の高まりにより、産地も回復の兆しが見えた。さらに、12年にセル育苗による定植機を導入し、機械化体系としたこともあり、作付面積は飛躍的に拡大した(図3)。その後も機械導入が進み、平成29年には栽培総面積が482.1ヘクタールとなり、西日本でも有数の産地となった。
 
タイトル: p004

3 高齢化による担い手不足への取り組み~人材確保・規模拡大について~

 当JAでも、生産者の高齢化による担い手不足は大きな課題であった。ブロッコリーは、中心にできた(つぼみ)の固まりである「()(らい)」を収穫する。収穫した瞬間から鮮度が落ちるため、収穫はブロッコリーの呼吸が緩やかな気温の低い限られた時間帯に行う。JA鳥取西部では、出荷前日の午後10時から当日の午前9時までを収穫時間と決めており、個々の生産者は陽が昇る前、ヘッドライトをつけて一つ一つ丁寧に収穫を行うため、収穫出荷作業が大きな負担となっていた。この収穫出荷調製作業が規模拡大のネックとなっていたため、出荷調整用冷蔵庫の導入により、収穫時間帯の拡大を図った。また、JA全農とっとり(全国農業協同組合連合会鳥取県本部)が、令和3年に県内2JA(JA鳥取中央、JA鳥取西部)参画による共同選果場「野菜広域センター」を管内に整備し、収穫時間帯の緩和や出荷調製作業の負担軽減を図った。これにより、規模拡大に加え、それに伴い雇用の確保が進むなどの変化が起こり、ブロッコリー生産農家1戸当たりの栽培面積は、鳥取県下の平均が1.25ヘクタールとなり、北海道に次ぐ全国2位となった(農林水産省「農林業センサス2020年」より)。現在もJAによる収穫作業の支援体制の構築や選別自動収穫機の導入試験などにより、さらなる作業負担軽減を試行している。

4 「大山ブロッコリー」としてのブランド確立

 JA鳥取西部は、平成24年にブロッコリーとしては全国初となる地域団体商標(注1)(商標登録第5503402号、図4)を、平成30年には地理的表示(GI)保護制度(注2)(農林水産大臣登録第70号)の登録を受け(図5)、「大山ブロッコリー®」のブランド保護・強化を図っている(図6、7)。さらには、食味を追求し、化学肥料を7割削減したブランドブロッコリー「きらきらみどり」の商品化(写真2)や、消費者ニーズの高まりのある「JGAP」の認証生産者の育成にも積極的な取り組みを行っている。コロナ禍によりその機会が減少していた生産者と消費者のつながりを強化するため、消費者交流はもちろんのこと、デジタルサイネージ(電子看板)の活用やマスメディアを使ったPRにも力を入れている。これらの取り組みにより、生産者の生産意欲向上と、「大山ブロッコリー®」というブランドブロッコリーを栽培している意識も向上し、産地活性化につながっている。
(注1)地域の産品などについて、事業者の信用の維持を図り、「地域ブランド」の保護による地域経済の活性化を目的として、平成18(2006)年4月1日に特許庁により導入された制度。
(注2)その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度。
 
タイトル: p005
 






5 指定野菜追加に対する期待

 現在、園芸品目の生産販売状況は、厳しさを増している。物価高騰による肥料・農薬などの生産資材や段ボールなどの出荷資材、輸送費、人件費などの生産販売に必要な経費が軒並み上昇する一方で、販売単価の上昇は極めて緩やかであり、生産コストの上昇幅との乖離が大きく、生産農家の所得は減少の一途をたどっている。また、近年は、毎年のように起こる異常気象により栽培環境が厳しくなり、収穫量が少なく、供給不足となって高単価となることがある一方、生育の前進などにより供給過剰となった場合には、これまで以上に単価が下落するなど、極端な値動きとなっている。そういったことから、過去の卸売市場価格で算定される保証基準額に加えて、生産コストを考慮した再生産に必要な所得が安定的に確保できるようになることを期待する。生産農家に寄り添い、安定した再生産、消費者への安定供給・安定価格を可能にするセーフティーネットの拡充を願う。
 
 
金明 尚德(きんめい しょうとく)
鳥取西部農業協同組合 営農部特産園芸課 リーダー
【略歴】
平成19年入組。平成23年営農部特産園芸課、平成26年日野営農センター、平成29年特産園芸課、平成30年南部伯耆営農センターなどを経て令和7年4月より現職。