農作業は、私たち人間にとって、身体的にも精神的にも、非常に多岐にわたるポジティブな影響をもたらすと考えます。GFRでは、この農作業が持つ力を最大限に引き出し、患者様の回復につなげています。
(1)農作業を通じた身体的効果:課題指向型リハビリテーションの実践
農作業は、まさに「課題指向型リハビリテーション」の宝庫です。課題指向型リハビリテーションとは、日常生活で実際に必要となる目標(例えば、コップで水を飲む、ドアノブを回すなど)を設定し、その目標を達成するための動作を反復練習することで、身体機能と日常生活動作(ADL)の両方が向上することを目指すリハビリテーションの方法です。
圃場での一連の作業は、単調な反復運動ではなく、具体的な目的達成のために多様な身体活動を必要とします(写真3)。
ア 全身運動とバランス能力の向上
圃場を歩く、しゃがむ、立ち上がる、水やりをする、収穫物を運ぶといった動作は、筋力、体幹の安定性、バランス能力を自然と鍛えます。特に屋外の不整地での活動は、屋内の訓練では得られない実用的な歩行能力の向上につながります。農園は、車いすでも走行しやすいよう、全ての通路にシートが敷いてあるため、歩行が困難な患者様も安心して参加できます。
イ 手指の巧緻(こうち)性と協調性の発達
種を
蒔く、苗を植える、雑草を抜く、はさみで収穫するといった細かな作業は、手指の細かい動き(巧緻性)や、両手を同時に使う(協調性)能力を高めます。例えば、豆類の収穫では、「ぷっくり膨らんできたなあ!」「これはまだかな」と目で見て判断し(高次脳機能)、狙い定めたものを指でつまみ、手首をひねって収穫するなど、一つ一つのプロセスに目的意識を持って取り組んでいただきます。これは、日常生活動作(食事、着替えなど)の自立に直結する重要な要素です。
ウ 持久力と体力向上
圃場での作業は、楽しみながら自然に持久力や体力が向上することにつながります。患者様自身も「今日はここまでできた!」という達成感を味わいやすく、リハビリテーションへのモチベーション維持にもつながります。従来のリハビリテーションとは異なり、農作業は「野菜を育てる」「収穫する」という明確な目的があるため、患者様は自発的に身体を動かし、目標に向かって取り組む意欲が引き出されます。
(2)野菜を育てる楽しさや土や自然に触れる喜び:心理的・情緒的効果
農作業は、身体だけでなく、患者様の心にも深く働きかけるため、精神的な健康増進に寄与します。
ア ストレス軽減とリラクゼーション効果
大原の豊かな自然の中で、土の匂いを嗅ぎ、風を感じ、鳥のさえずりを聞くことは、五感を刺激し、心の緊張を和らげます。
イ 自己肯定感と達成感の醸成
自分の手で種を蒔き、水を与え、丹精込めて育てた作物が実り、収穫できた時の喜びは、何物にも代えがたい達成感と自己肯定感をもたらします。病気や障害によって失われた自信を取り戻し、「自分にもできる」という感覚を育む上で、この経験は非常に重要です。
ウ 季節感と生活リズムの回復
入院生活で単調になりがちな生活にリズムと変化をもたらし、季節感を味わうことで、社会復帰に向けた心の準備にもつながります。
エ コミュニケーションの促進
医療スタッフや他の患者様と共に作業を行う中で、自然な会話が生まれ、他者との協調性や社会性が育まれます。互いに助け合い、成長を喜び合う体験は、孤立感を解消し、新たな人間関係を築くきっかけにもなります。
このように、農作業は身体的な機能回復だけでなく、精神的な安定と回復、そして社会性の再構築に不可欠な要素を提供します。心身は密接に結びついており、農作業はその両面に良い影響を与える、相乗効果を生み出していると言えるでしょう。