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【特集】気候変動待ったなし!野菜の生産・流通現場の適応策 野菜情報 2025年8月号

気候変動に備える!農作物の在庫化を実現する長期保管技術

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株式会社福岡ソノリク 代表取締役副社長 園田 裕輔
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1 はじめに

 近年、猛暑や集中豪雨などの異常気象が頻発しており、農作物への影響が顕著となっている。
 青果物に特化した物流企業である当社は、1992年の創業以来約30年にわたり、佐賀県の鳥栖本社を含む西日本の各地の拠点を活用し、青果物の1)運送、2)保管、3)青果物調達・販売、4)小分け包装・カミサリー(食材の一次加工)業務の一貫物流に取り組み続けている。
 特に青果物の保管においては、特許を取得した冷蔵庫などの独自技術を活用し、鮮度を維持しながら長期保管を実現。それにより、青果物を「在庫化」することも可能となった。今回は、長期保管技術を活用した気候変動による不作問題への対応について考察したい。

 

2 長期保管技術で気候変動による不作に備える

(1)異常気象による野菜価格の不安定化
 もともと農作物は収穫期が限られており、鮮度を保てる期間が短いため、端境期や不作時には価格が高騰するか、供給自体が困難となる。逆に、豊作時には供給過多となって価格が下落し、廃棄に至るケースも多い。
 昨今の気候変動の激化により、かつては適地とされていた産地がそうではなくなりつつある。収穫時期が産地間で重なりやすくなり、産地リレーが成り立ち難くなっている印象を現場で感じている。
 猛暑などの気候の影響で不作や野菜価格の高騰・品薄が起きれば、当然流通する物量が減少するため、物流業者の業績にも直接的な影響が及ぶことになる。
 こうした状況下で、農作物の鮮度を保持しながら長期保管を可能とする当社の保管技術は、農作物の流通に「保存」と「貯蔵」という新たな概念を取り入れることができ、価格と供給の安定化という面で極めて重要な役割を果たしている。
 
(2)長期保管と追熟による農作物の「在庫化」
 当社独自の長期保管技術では、安納芋は1年、スナップえんどうやカラーピーマンは70日、デコポンは7カ月以上も鮮度を保つことに成功した。加えて、一部の農作物では、長期保管することで熟成されて糖度が上がった事例もあり、品質が向上するという大きなメリットもある。
 バナナやアボカド、輸入マンゴーなどは、未熟な状態で保管し、市場の需要に応じて追熟させる技術も活用している。農作物の特性を熟知し、最適な温度・湿度・エチレンガスの管理を徹底した独自技術によるものだ。
 通常、収穫した青果物は短期間で出荷せざるを得ないが、当社は収穫後の青果物の鮮度を保ったまま長期保管できるため、農作物をストックし、需要に応じて出荷調整できる「在庫化」が可能となった。収穫期が限られている中でも、需要に応じて長期間にわたり安定供給を実現し、消費者に安定した数量と価格で提供できるようになる。その結果、生産者にとっても収入の安定や生産拡大が期待できる。

3 農作物の鮮度を保持する、さまざまな長期保管技術

 ここからは農作物の在庫化を実現した、当社の保管技術について詳しく解説したい。

(1)年単位で鮮度を維持する特許取得の冷蔵庫
 当社が開発し特許を取得した冷蔵庫は(写真1)、エチレンガスの除去と加湿により、農作物の老化・腐敗を防ぐ構造となっている。植物ホルモンであるエチレンは、収穫後も農作物から放出され続けるが、このガスを強制換気で外部へ排出することで、追熟や変色、腐敗のリスクを抑制する。
 さらに、超音波加湿器を用いて庫内の乾燥を防ぎ、最適な湿度環境を維持する。これにより、安納芋の保管期間は1年まで延長され、年間を通じた出荷が可能となった。季節ごとの需要に応じた出荷調整が可能となり、生産量の拡大や販売機会の創出にもつながっている。
 特許冷蔵庫の効果は他品目にも表れている。パクチーなどの葉物野菜も、約40日間品質を保つことに成功し、シャインマスカットは4カ月経過しても外見・品質ともに良好な状態を維持している。
 
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(2)CA(Controlled Atmosphere)冷蔵庫の活用
 当社では、空気調整(CA)技術を取り入れた冷蔵庫も導入している(写真2)。温度・湿度に加え、酸素・窒素・二酸化炭素濃度を24時間365日体制でコントロールすることで、農作物の呼吸を抑制し、鮮度を保っている。この技術は特に、たまねぎ、ばれいしょ、柿、梨といった品目に有効で、例えば、ばれいしょではでん粉質が糖化して糖度が9度まで向上した。柿は2カ月後も品質を維持し、梨は保管後にしっとりした食感に改善した。
 
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4 コールドチェーンで実現する、青果物流の進化

 当社では、長期保管技術以外にも、農作物の鮮度を維持するための取り組みを行っている。この項では、青果物の鮮度を維持したまま全国へ届ける当社のコールドチェーンやその他の鮮度保持の工夫について紹介する。
 
(1)ストックポイントを有するコールドチェーンの強み
 当社は、農作物に特化した独自のコールドチェーン体制を強みに、集荷から保管・加工・配送まで一貫して担える体制を整備している。
 当社のネットワークは西日本エリアを中心に、佐賀・鹿児島・岡山・兵庫・沖縄・埼玉に大規模な保管拠点(ストックポイント)を設置している。全拠点合わせて2万トン超の農作物保管能力を有する。こうした自社ネットワークにより、九州・中四国の産地から、関東の消費地への中継輸送のコールドチェーンを実現している。
 保管拠点では、前述の特許取得の冷蔵庫やCA冷蔵庫を活用し、輸送・中継いずれのフェーズでも温度・湿度を徹底管理しており、猛暑などの気候の影響を受けずに、鮮度を保持する仕組みが整っている。
 また、全国5カ所(佐賀・鹿児島・岡山・兵庫・埼玉)に空調完備の青果加工室を設けており、水洗い・袋詰め・パック詰め・一次カットといった小分け包装・カミサリー業務に対応している。産地から出荷された青果物を搬入し、一次加工を経て、そのまま出荷まで完結できる体制が整っている。これにより、産地から消費地まで一貫した鮮度管理と加工が可能となっている。
 従来の「実需者が産地に発注し、産地から実需者へ届ける」物流では、収穫量に応じた出荷が難しく、リードタイムの長さや出荷量の不安定さが課題であった。しかし、長期保管型ストックポイントを活用することで、産地側は収穫量に応じてストックポイントへ出荷し、実需者の需要に応じてストックポイントから出荷する形に切り替えることができる。収穫も出荷も弾力的に行えるのである。これにより、納品までのリードタイムを短縮できるだけでなく、安定した供給体制の構築にもつながる。
 また、物流2024年問題など業界が直面する労働時間の制限を考慮すると、受注ごとに産地からノンストップで長距離配送を行う従来型の仕組みは、すでに持続不可能となりつつある。消費地により近いストックポイントを基点とした配送に切り替えることで、ドライバーの負担軽減と安定的な出荷体制の両立が可能となる。
 さらに、大雨や台風の発生が予測される際には被害を受ける前に農作物を一括収穫し、ストックポイントで長期保管しながら出荷していくことも、天候による被害を防ぐ有効な手段だと考えている。気象災害が多発する昨今、この重要性は高まっているのではないだろうか。一括収穫後の小分け包装・カミサリー業務を生産者がすべて負担する場合はこの手段は難しいかもしれないが、小分け包装・カミサリー業務を当社が請け負えば、生産者の作業も軽減され、収穫も柔軟に対応できる。
 こうした長期保管型のストックポイントは、物流企業が直接運用することで初めて機能する。保管と輸送を切り離すと、拠点間の二重輸送が発生し、余分な運行コストや非効率が生じてしまうためだ。当社では、保管から配送までを一体で担うことで、より効率的かつ機動的な青果物流を実現している。
 
(2)新たな産地開発で安定供給や地域振興を目指す
 当社は、新たな産地開発にも注力している。その代表例が、長崎県・五島列島におけるかんしょの産地づくりである。生産者をはじめ、長崎県五島市やJAごとう、関連企業などと連携し、2030年に4000トンの出荷量を目指すブランド産地の育成を推進している。
 また、五島では、冷蔵施設や集出荷場などのインフラ整備とともに、収穫後の保管・加工・流通を含めたバリューチェーンを一体的に構築することで、生産者の所得向上と地域活性化を実現している。さらに、ストックポイントの活用により、販路の拡大や長期安定取引への転換を図っている。
 
(3)新技術開発で物流イノベーションに挑む
 倉庫以外でも、鮮度保持への工夫は進化を続けている。輸送中の鮮度低下を防ぐため、他の民間企業と共同で「エチレン換気機能付きトラック」の開発を推進している。青果物の鮮度に影響を及ぼすエチレンガスの分解・吸着に関する研究も進めており、将来的には輸送そのものが鮮度保持の工程となる可能性もある。
 また、防菌・防カビ機能をもつ新しいパッケージ資材の開発や、長期保存に適した冷凍設備の導入も検討しており、「倉庫で鮮度保持する」という従来の考え方を超えた物流イノベーションに挑戦している。
 さらに当社では、気候変動の影響を受けにくくするため、産地と連携した新たな品目検討の取り組みや大学との産学連携による「農作物別の保管条件データベース化」プロジェクトも進行中だ。現在は、柿や梨、シャインマスカットなどの果物を対象に、外見・重量・水分量・糖度・pHなどのデータを蓄積し、最適な保管条件の実証実験を進めている。今後は野菜も、特に気候の影響を受けている品目に着目してプロジェクトに加えていきたいと考えている。

5 さいごに

 農作物の不作をもたらす異常気象は、一時的なものではなく常態化しつつあることも注視せねばならず、産地のあり方を再考する時期が来ていると考えられる。当社は、各保管拠点での長期保管施設(技術)や、コールドチェーンを駆使し、保存期間の延長や鮮度維持を実現することで青果物を「在庫化する」仕組みの確立が、気象変動への対応の一つと認識している。気候の影響を受けにくい青果物流を実現することで、生産者・流通業者・消費者すべてにとってメリットのある仕組みづくりを加速させていきたい。
 

園田 裕輔(そのだ ゆうすけ)
株式会社福岡ソノリク 代表取締役副社長
【略歴】
1982年 鹿児島県生まれ。
        公認会計士試験合格後、株式会社エスネットワークス入社。
        CFO領域のコンサルタントから副本部長を歴任。
2020年 株式会社福岡ソノリク 取締役就任。
2023年より現職。