(1)コスト面での支援
具体的には事業経費(施設改修費用や機器導入費)の3分の1以内を秋田県が助成、6分の1以内を市が助成し、事業費のおおよそ半分の負担で施設を整備することができる制度です(県補助額上限1000万円)。
また、当市では県との協調助成のほか、市独自の助成制度も設け、漬物製造のほか、今回の法改正によって届出制となった山菜の水煮製造者などに対する支援も行ってきました。
前述の通り、当初は施設整備に「数百万円かかるのではないか」と心配されていた漬物製造者の方たちも、いざ見積もりを取ってみると100万円かかる人はほとんどおらず、実際はもっと安く済むことも周知されてきました。
令和4年度から2年間実施したこの助成制度も、4年度は県・市の協調助成で18件、市単独助成で4件、5年度は県・市の協調助成で15件、市単独助成で1件の制度利用があり、法改正に対応する施設整備を着実に進めることができました。
(2)ハード面での支援~人と技術が交流する場として~
また、上記の個別製造者に対する支援のほか、当市では漬物製造を複数名で実施する団体に対する共同加工施設の整備への支援や、市営の共同加工施設の整備も実施しました(写真3)。
令和3年のアンケートで継続について悩んでいる製造者の中には、「自宅の加工施設を整備しても、あと何年続けられるかわからない」「今までは自宅の台所で作っていたため、その他の場所を確保できない」などといった意見も多くありました。
特に市の共同加工施設は、地域産業の継続を支えるといった面だけではなく、「担い手の育成」や「食文化の承継」の視点からも整備を行いました。具体的には以下の通りです。
〈1〉施設投資できない人の受け皿
1点目は、共同加工施設の主な目的である、法改正に対応できない方の受け皿になることです。自宅の構造上、物理的に整備が不可能な方や、高齢のため施設投資は無理だが販売は続けたい方を想定しています。人手が足りない部分は助け合いながら、できるだけ多くの方に販売を継続していただきたいと考えています。
〈2〉技術や味を受け継ぐ場
2点目は、代々受け継がれてきた味とその歴史や想い、技術といった「漬物力」を、新規参入者、後継者へ承継することです。横手市の漬け手は、代々味を伝える家、いわゆるエリートがほとんどです。それらの方の中から後継者がおらず、止むなく漬物製造を引退した方を講師として共同加工施設に招き、味を受け継ぐ仕組みです。上手にマッチングできれば、漬物製造を引退した方の施設を、若手がそのまま引き継ぐことも可能ではないかと考えています。
〈3〉世代を超えた地域交流の場
3点目は、地域の拠点としての役割です。80歳代以上の殿堂入りクラスのベテラン、70歳代以下のバリバリの現役(60歳代、50歳代はまだまだ若手)、そして志のあるヤング(40歳代以下)が世代を超えて集まり、交流の場になることを期待しています。漬物を持ち寄ってお茶を飲む「がっこ茶っこ」という地域の文化の場から、将来に向けた前向きな話がどんどん生まれてくることを期待しています。通年利用できる施設ですので、漬物に限らず、6次産業化の拠点としても展開が楽しみなところです。
〈4〉見えてきた課題
共同加工施設支援の初年度となった令和5年度は、準備会を立ち上げ、活動しました。製造者3人と市で、共同加工施設利用に当たっての課題を出し合い、次年度以降のルール作りを進めてきました。同年11月には初めての漬け込みを10人余りでにぎやかに行いました。
実際に運用が始まってみると、同時期に集中する漬け込み日の調整や、施設利用料の負担割合、利用者が増えた場合の対応など、今後解決すべき課題が見えてきました。利用者には会員登録してもらい、その中で漬け込み日を調整したり、利用する人数によっては、漬け込みの本数や漬け
樽を置く面積などに1人当たりの利用上限を設けたりするなどして対応していきたいと考えています。
これらのことを通じて、共同加工施設が、地域の漬物力を存分に発揮できる施設に育っていってほしいと思います。
(3)相談員の設置
また、当市では補助金や共同加工施設の整備のほか、「漬物等加工施設整備相談員(以下「相談員」という)」を令和4年度から設置し、加工施設改修に関する相談を受け付けています。漬物製造者の多くが高齢で、そのため今回の法改正で「法律の条文が難しいため理解できない」「補助金があるとは聞いたが手続きが煩雑」などといった理由から、漬物製造をやめることを検討しているという声を多く聞きました。そこで相談員を設置し、継続を悩まれている漬物製造者の現場に直接出向いて、法改正の趣旨や補助制度の説明をするほか、改修事例などを説明し、補助申請や営業許可取得までを支援しています。
この相談員制度の導入もあってか、最初は継続に対して慎重な方が多かった中、製造を継続される方が当初の予測よりも大きく増加しました。また、漬物製造者の多くは横のつながりも強いため、すでに施設改修をした漬物製造者の方々が「継続を悩んでいるなら市役所に相談したらいいよ」と助言をしてくださるケースもあり、その助言を受けて、相談員に相談や問い合わせをする継続を悩まれている方が多くありました。
(4)担い手育成面での支援
当市ではこのほか、新規就農者向けに研修を行う「横手市園芸振興拠点センター」(以下「センター」という)の農業研修事業に、令和6年度から「いぶりがっこコース」を追加しました。
現在、センターでは、園芸農業経営の後継者を育成するため、研修期間を2年間とする農業技術研修生の受け入れを行っています。「いぶりがっこコース」は、これら2年間の通常コースを基本としながら、別枠で、いぶりがっこの原料となるだいこん作りから製品製造まで学ぶことができるカリキュラムを組み入れています。
いぶりがっこの製造は、販売をリタイアしたベテラン農家の方からの協力と指導もいただきながら進めています。研修の第1段階は、8月下旬の畑づくりから始め、だいこんの
播種~栽培管理~収穫・洗浄までを行い、その後、第2段階では
燻しと漬け込みを行います。第3段階では、漬け込んでから60日以上を経たのちに樽出しをして、最終的な調整や真空パック詰め、煮沸消毒を行い、製品となります。
ほかにも、ただ作るだけではなく、食品衛生法に関すること、漬け原材料の配分と目指すべき味に関すること、販売手法に関すること、パッケージデザインに関することおよび加工所の整備、改修に関することについても、研修や学びが必要で、今後カリキュラムに組み込むことを予定しています。
「いぶりがっこコース」の初年度である6年度研修生は1人ですが、毎年1人ずつ研修生がいるとすれば、10年間では10人の担い手が生まれることになり、いぶりがっこ製造販売に取り組む方が着実に確保されると考えます。
いずれにしろ、「いぶりがっこコース」の開設は初めての取り組みであり、さまざまな課題も出てくるかもしれません。しかし、製品としてのいぶりがっこ製造までを実践的に学び、研修することができる機会を提供することで、確実に担い手が育成され、産業としてはもとより、地域の食文化としてのいぶりがっこが承継されることも期待しています。