(1)凍結速度と解凍後の品質
氷結晶のサイズは冷却速度に依存する。食品を凍結させる場合、マイナス1度程度から凍り始めてマイナス5度でほぼ凍結する。食品中の水分は、この温度帯で氷結晶となるが、この温度帯を通過する時間が長いほど(緩慢冷凍)、食品中で氷結晶が大きくなる。したがって、凍結速度が遅いほど、食品は強く損傷していると理解される場合が多い。しかしながら、損傷は必ずしも氷結晶のサイズに依存するとは限らない。
魚肉・畜肉では凍結速度が緩慢であっても、保存温度が十分に低温であれば解凍後の品質劣化は小さい。また、食品は凍結の前や後で調理される場合が多いが、調理加工の方法によっては、氷結晶サイズが品質低下に与える影響は小さくなる。
凍結速度が解凍後の品質に及ぼす影響を調べた研究は多いが、野菜については、急速凍結がドリップ(食品解凍時に流れ出る水分)抑制や軟化などの品質変化に対して、明確な効果を示している報告は少ない。急速凍結の効果としては、冷凍保存時における夏みかんの苦味低減、マッシュルームおよびバナナの褐変防止、いちごの異臭低減などの品質劣化に対する改善の報告がある。
なお、植物細胞が動物細胞に比べて凍結による損傷を受けやすい理由としては、構造の違いもあるが、根本的には細胞膜の水透過性が動物細胞に比べて低いことが挙げられる。細胞膜の透過性が低いと、凍結濃縮時に細胞内の水が脱水されず、細胞内凍結を生じて損傷することになる。しかしながら、加熱などの前処理を行うと、その時点で細胞が損傷するため、凍結→解凍による影響はわかりにくくなる。一方で、長期の保存性は不明であるが、キノコ類などはブランチング処理をせずに緩慢凍結すると、損傷によりプロテアーゼ(たんぱく質分解酵素)が活性化し、加熱調理時にアミノ酸が増え、食味が向上することなどが報告されている。
このように、冷凍野菜の品質向上のためには、対象とする野菜の特性や用途に応じて、凍結速度を選択することも必要になる。
(2)保存温度と解凍後の品質
マグロなどの赤身の魚は、マイナス30度からマイナス40度で保存すると、メト化(褐変)やたんぱく質の変性が抑制される。しかし野菜については、ブランチング処理なしで冷凍保存した場合に、特定の保存温度から品質劣化が進行しにくくなるのかは明らかではない。
図3はブランチング処理なしのキャベツを、異なる保存温度で6週間(42日間)保存した場合の写真である(2)。変色(褐変)は保存温度で異なり、マイナス30度を境にして高温側では褐変が進行しているが、低温側では変化は小さいように見える。また、保存温度の影響は変色だけではなく、例えばビタミンCなどの栄養成分も、マイナス30度より低温で保存すると減少は抑制される傾向にある(2)。
このように冷凍保存の場合も、低温で保存するほど品質変化は抑制されることがわかる。しかしながら、マイナス30度で保存した場合であっても、食味や風味など保持されにくい品質があることにも注意しなくてはならない。