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【特集】「国産冷凍野菜」の拡大に向けて 野菜情報 2024年8月号

これからの冷凍野菜~「国産冷凍野菜」の拡大に向けて~

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国立大学法人 弘前大学 農学生命科学部 食料資源学科 食品科学コース 准教授 君塚 道史
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1 はじめに

 日本国内で消費される冷凍野菜の9割以上(100万トン/年)が輸入品である。一方で国産冷凍野菜の生産量は平成初期に10万トンを超えたが、近年では7万トン程度にとどまっている。冷凍野菜の需要は今後も堅調に推移するとみられるが、食料を安定的に確保するためには国産品の生産を促進する必要がある。国産冷凍野菜の拡大には、これまで当たり前に行ってきた冷凍方法、ブランチング処理、解凍方法などについても、改めて知り、考え直す必要があると思われる。

2 冷凍野菜の素材の鮮度

 図1は冷凍野菜の一般的な製造工程である。通常、冷凍野菜の製造では冷凍方法が注目される場合が多いため、品質向上を検討する際には凍結速度を見直す傾向が強い。しかしながら、冷凍野菜の品質は「素材の鮮度」や「冷凍前の加熱処理(ブランチング処理)」も関係する。
 現在、市販されている主な冷凍野菜には、えだまめ、ほうれんそう、スイートコーン、かぼちゃなどさまざまあるが、このうちえだまめ、アスパラガス、ブロッコリーなどは収穫直後から急速に品質が低下するため、加工開始までの鮮度保持が冷凍野菜の品質に強く影響する。特にえだまめは品質の低下が顕著なため、各社とも収穫からブランチング処理まで厳密に鮮度管理している場合が多い。
  一方で、にんじんやばれいしょなどは生鮮でも長期保存が可能であるため、冷凍保存する場合も収穫後の鮮度管理は容易である。したがって、素材の鮮度が冷凍野菜の品質を左右する品目については、特にその管理方法を見直すことでも、食味や食感などの向上により新たな価値を付与することが可能になると思われる。

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3 冷凍前の加熱処理(ブランチング処理)について

 野菜の組織に存在する酵素は、冷凍保存中も活性が保持されている。また、これらの酵素の働きにより、冷凍保存中も緩やかではあるがさまざまな反応は進行している。したがって、生のまま(未加熱)で冷凍保存すると、保管中に品質(味、風味、色調)が低下するため、冷凍保存の前には酵素失活を目的としたブランチング処理が必要となる。実際、市販されている冷凍野菜はいずれもブランチング処理(例えば、100度の熱湯で2~5分程度の加熱)が行われている。
 冷凍保存中や解凍中の品質に影響する酵素には、リポキシゲナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどがあるが、これらの酵素はいずれも60~70度で失活する。一方で、必要以上の加熱は野菜に含まれる栄養素や色素が分解するため、過不足のない加熱が高品質化には必要となる。理想的なブランチング処理は高温短時間加熱が基本となるため、これを再現すべく最近では熱湯浸漬による加熱から、スチームコンベクション(熱風と蒸気を利用した加熱)、過熱水蒸気(100度以上の水蒸気を使用した加熱)、マイクロウエーブ(水分子などがマイクロ波のエネルギーを吸収して振動・回転することで加熱)など、さまざまな加熱様式によるブランチング処理が行われている。
 このように、ブランチング処理が必要な野菜については、加熱条件の再考や新たな酵素失活の方法を検討することも、冷凍野菜の品質向上につながる。

4 ブランチング処理の必要性の有無  ~急速解凍がポイント~

 ブランチング処理をせずに冷凍保存すると品質が低下する野菜は多い。しかしながら、必ずしもすべての野菜で冷凍保存中に品質変化を生じるわけではない。例えば、しょうが、ねぎ、キノコ類などは、ブランチング処理を行わずに冷凍しても、色調や風味を損ねることなく長期間冷凍保存が可能である。また、近年では家庭でも野菜を冷凍する場面(ホームフリージング)が増えているが、調理方法を工夫すれば、ブランチング処理をしなくても冷凍保存が可能な野菜は数多く存在するため、これらのノウハウを紹介する書籍が多数出版されている。
 したがって、これまで必須とされていたブランチング処理についても、野菜の種類や用途に合わせてその必要性を見直すことで、新たな冷凍野菜の提案につながる可能性がある。
 図2はブランチング処理をせずに冷凍保存しても品質の低下が小さいだいこん、かぶ、ながいも、にんじん、ばれいしょ、かぼちゃについて、緩慢に凍結後、マイナス20度で2カ月間保存し、スチームコンベクションオーブンにて凍結状態のまま加熱調理(蒸気加熱)した後の写真である(1)。にんじんとかぼちゃについては、冷凍保存によりカロテノイド色素の退色が確認できるが、ほかの野菜では変色・退色は見られなかった。また、官能による品質評価についても、味・風味・食感は生鮮品を加熱調理したものと大差はなかった。特にばれいしょは、加熱調理(煮調理)後に冷凍すると、解凍後にス(氷結晶の痕)が入るとされているが、ブランチング処理なしで凍結した場合も、そのような品質低下は見られず、生鮮品を加熱調理したものと遜色(そんしょく)はほとんどない。
 これらの野菜が、ブランチング処理なしでも冷凍保存中に顕著な品質低下が見られなかった要因は、野菜の種類も関係するが、凍結状態のまま加熱調理(急速解凍)しているため、解凍時の酵素反応が抑制されている点が大きい。

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5 冷凍条件・保存条件

(1)凍結速度と解凍後の品質
 氷結晶のサイズは冷却速度に依存する。食品を凍結させる場合、マイナス1度程度から凍り始めてマイナス5度でほぼ凍結する。食品中の水分は、この温度帯で氷結晶となるが、この温度帯を通過する時間が長いほど(緩慢冷凍)、食品中で氷結晶が大きくなる。したがって、凍結速度が遅いほど、食品は強く損傷していると理解される場合が多い。しかしながら、損傷は必ずしも氷結晶のサイズに依存するとは限らない。
 魚肉・畜肉では凍結速度が緩慢であっても、保存温度が十分に低温であれば解凍後の品質劣化は小さい。また、食品は凍結の前や後で調理される場合が多いが、調理加工の方法によっては、氷結晶サイズが品質低下に与える影響は小さくなる。
 凍結速度が解凍後の品質に及ぼす影響を調べた研究は多いが、野菜については、急速凍結がドリップ(食品解凍時に流れ出る水分)抑制や軟化などの品質変化に対して、明確な効果を示している報告は少ない。急速凍結の効果としては、冷凍保存時における夏みかんの苦味低減、マッシュルームおよびバナナの褐変防止、いちごの異臭低減などの品質劣化に対する改善の報告がある。
 なお、植物細胞が動物細胞に比べて凍結による損傷を受けやすい理由としては、構造の違いもあるが、根本的には細胞膜の水透過性が動物細胞に比べて低いことが挙げられる。細胞膜の透過性が低いと、凍結濃縮時に細胞内の水が脱水されず、細胞内凍結を生じて損傷することになる。しかしながら、加熱などの前処理を行うと、その時点で細胞が損傷するため、凍結→解凍による影響はわかりにくくなる。一方で、長期の保存性は不明であるが、キノコ類などはブランチング処理をせずに緩慢凍結すると、損傷によりプロテアーゼ(たんぱく質分解酵素)が活性化し、加熱調理時にアミノ酸が増え、食味が向上することなどが報告されている。
 このように、冷凍野菜の品質向上のためには、対象とする野菜の特性や用途に応じて、凍結速度を選択することも必要になる。
 
(2)保存温度と解凍後の品質
 マグロなどの赤身の魚は、マイナス30度からマイナス40度で保存すると、メト化(褐変)やたんぱく質の変性が抑制される。しかし野菜については、ブランチング処理なしで冷凍保存した場合に、特定の保存温度から品質劣化が進行しにくくなるのかは明らかではない。
 図3はブランチング処理なしのキャベツを、異なる保存温度で6週間(42日間)保存した場合の写真である(2)。変色(褐変)は保存温度で異なり、マイナス30度を境にして高温側では褐変が進行しているが、低温側では変化は小さいように見える。また、保存温度の影響は変色だけではなく、例えばビタミンCなどの栄養成分も、マイナス30度より低温で保存すると減少は抑制される傾向にある(2)。
 このように冷凍保存の場合も、低温で保存するほど品質変化は抑制されることがわかる。しかしながら、マイナス30度で保存した場合であっても、食味や風味など保持されにくい品質があることにも注意しなくてはならない。

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6 解凍条件

 冷凍した野菜は組織が損傷しているため、生鮮野菜と比べて酵素による品質変化が激しい。特に酵素活性は15~40度で高くなるため、短時間であってもこの温度にさらされると、色や風味は大きく変化する。したがって、解凍時の温度条件は可能な限り低温とするか、15~40度を速やかに通過して、酵素が失活する60度付近まで加熱する条件が望ましい。
 ブランチング処理した冷凍野菜はほとんど酵素失活しているため解凍時の変化は小さいが、ブランチング処理なしで冷凍保存した場合は、凍結状態のまま加熱調理(高温短時間解凍)することで、解凍中の品質変化は抑制される。一方で、加熱解凍が難しい場合は氷水(0度)を使用すると、冷蔵庫よりも低温でありながら、速やかにかつ品質を保持したまま解凍できる。

7 まとめ

 野菜の冷凍保存はすでに確立された技術と思われがちである。しかしながら、食品加工技術の発達や食の多様化により、新たに開発すべきことは増してきていると思われる。国産冷凍野菜の拡大には、これまでの冷凍野菜に対する固定観念を払拭することが必要である。
 



君塚 道史(きみづか のりひと)
国立大学法人 弘前大学 農学生命科学部 
食料資源学科 食品科学コース 准教授
【略歴】
味の素冷凍食品株式会社(商品開発センター 研究グループ)、宮城大学(食産業学部フードビジネス学科)を経て現在に至る。
 
引用文献
(1)君塚 道史・高橋 匡,青森県事業「地域で作る冷凍食品産業振興事業」,2023年報告書より抜粋
(2)君塚 道史・石黒 寛,凍結された青果物の保存温度と品質の関係,2019年日本食品工学会(香川)資料より抜粋