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【特集】「国産冷凍野菜」の拡大に向けて 野菜情報 2024年8月号

「地産地工」の強みを生かし、熊本県産冷凍ほうれんそうを生産~熊本大同フーズ株式会社~

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熊本大同フーズ株式会社 常務取締役 白石 芳久
かお

1 はじめに

 当社は、青果卸売市場の熊本大同青果株式会社(以下「熊本大同青果」という)と、冷凍食品卸の株式会社ノースイ(以下「ノースイ」という)との合弁会社で、2021年3月から冷凍野菜の生産を開始した工場です(写真1)。年間生産量は、冷凍ほうれんそう800トン、ほか冷凍葉物野菜300トン、冷凍果実類200トンです。
 原料野菜の99%が熊本県産であり、一部隣接している大分県産、宮崎県産も取り扱っています。
 弊社の主力商品である冷凍ほうれんそうは、あえ物や付け合わせなど幅広い料理に使われています(写真2)。また、円安の進行や国際情勢により国産冷凍野菜・果実を見直す動きが進んでいることから、冷凍ほうれんそう以外の冷凍商品の需要も高まっていると感じます。
 そもそも、青果卸売市場が冷凍野菜工場を設立した経緯は、昨今の国産冷凍野菜の需要の伸長に着目した点もありますが、それ以外にも、熊本県は野菜と果実の生産量が九州1位であるため、原料となる青果物が身近に豊富にあるというメリットを生かしたいという思いがありました。さらに新規事業を模索している際、取引先の量販店様から「地産地工」がキーワードになるというヒントを頂いたことにも起因しています。
 当社のように産地の中に工場があると、収穫から工場への持ち込みまでの時間が短縮できます。野菜や果物は収穫した瞬間から鮮度が落ち始めるため、冷凍野菜・冷凍果実は、いかに鮮度の良い原料を早く加工できるかで味が決まります。また、コスト的にも、輸送距離が短ければ輸送費用や投入人員数を抑えられるため、販売価格の上昇も抑えられるというメリットがあります。





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2 冷凍用原料ほうれんそうの生産現場について

 当工場は食品安全規格の衛生管理ISO22000を取得しており(図1)、原料の生産履歴が明らかな契約生産者のほうれんそうを使用しています。地元のJA熊本市や個人生産者約30人、熊本大同青果農産部・営農部(自社栽培面積約30ヘクタール)らと、年間の作付け計画を打ち合わせ、収穫時期と予定収量(単収×面積)を決めますが、工場には定時、定量での入荷が必要なため、播種(はしゅ)の時期を当社で調整し、生産者に伝えています。ただ、どんなに綿密な計画を立てても、播種後の降雨がなければ結局は発芽の時期が重なってしまい、収穫時期や収穫量にばらつきが生じてしまうことが悩みの種です。そのため、契約産地の圃場(ほじょう)巡回を重視し(写真3)、生育確認、防除指導、他圃場の情報提供などを行っています。それでも、露地栽培のため天候次第では1週間で病害のまん延や虫の大量発生が起こり、そのほかにも高温・低温障害・集中豪雨・台風・降雪・霜害など、ありとあらゆる問題が発生し、その都度現実的な対応策が求められます。これらの解決には、品種選定や防除方法などの栽培技術の一層の向上も必要だと考えて取り組んでいます。
 生産コストの削減や効率化の取り組みとして、まず、圃場の選定は工場の近くであることを重視しています。現状では平均すると車で片道30分程度の場所にある圃場が大半を占めていますが、一層の効率化のため、今後は15分程度の場所に増やしたいと考えています。また、圃場は公益財団法人熊本県農業公社と連携して、農地集約を進めています。
 収穫は自社所有の乗用型収穫機を持ち込んで行っています(写真4)。10アールのほうれんそうを、手収穫であれば通常7人で2日半かかるところ、収穫機を使って4人で1時間で収穫できる体制を構築し、生産者の作業負担を軽減しています。特に露地栽培のほうれんそうは、耕うん・施肥から、収穫・出荷までにかかる総労働時間の約85%を収穫以降の作業に費やします。そこで、収穫機械の持ち込みとオペレーション、工場までのトラック輸送といった収穫以降の作業をすべて当社が請け負い、代行することで、生産者は収穫作業や人の手配に煩わされることなく栽培に専念することができるため、作付面積の拡大を実現しています。
 
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3 冷凍工場について

 当社工場の敷地面積は約5000坪あり、年間約2000トンの生産能力を有します。本社の熊本大同青果(熊本卸売市場内)からは車で約3分、JR九州熊本駅からは車で約5分という好立地にあるため、県外からの視察や商談のお客様が多数いらっしゃいます(図2)。
 ここ数年は猛暑などの異常気象による野菜の生育不足が起こり、計画通りの商品の生産が出来ていないため、その対策として(1)()()品種・晩生(おくて)品種の使い分けの工夫(2)「大規模契約栽培産地育成強化事業(https://www.alic.go.jp/y-josei/yajukyu03_000138.html)」の取り組みの一環として行う土づくり(3)生育不足を見越した余裕のある作付け(4)熊本県内の高冷地での栽培計画の策定-などに取り組んでいます。原料の生産現場との連携がとりやすいのは、一貫生産体制の強みでもあります。逆に豊作時には、工場の稼働時間延長や休日稼働を検討し、工場内における原料処理能力を向上させることで対応することとしています。稼働時間を延長する際には、労働力確保が必須となりますが、特定技能外国人の受け入れ手続きを進めることにしています。
 物流面においては、機械で収穫したほうれんそうをステンレス製の大型コンテナに入れ、自社便やチャーター便を使って運搬し、フォークリフトを使い人が手降ろしすることなく工場に運び入れています(写真5)。また、販売先への輸送は、提携する冷凍輸送会社や販売先と協議し、段ボール箱の縦・横・奥行の長さを決め、積載効率や保管効率が良くなるよう工夫しています。

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4 販路について

 販路については大きく分けて二つのルートを持っています。出資元でもあるノースイと親会社である熊本大同青果のルートです。ノースイは冷凍野菜・冷凍果実の国内トップ企業で、業務用・家庭用の両方の販売に強みを持っています。熊本大同青果は、青果の販売ルートに乗せて販売しています。調理の簡便化や省人化が進む中、生協や惣菜製造メーカー、量販店をはじめ、学校給食や通信販売会社などからのご注文も増えてきています。輸出に関しては、円安の進行や、メイドインジャパンの商品価値が上がる中、案件は出てきていますが、実際の販売までには至ってはいません。国内需要にも応えきれていない現状を考えると、まずは輸入品の代替としての国内シェア向上が優先事項だと考えています。

5 まとめ

 今後の目標として、まずは、工場をフル稼働して、年間2000トンの生産量を達成したいと思います。
 そのためには、調達面では、良い原料を、外部要因の影響を受けることなく、計画通りに集める仕組み作りが必要です。また、機械収穫のデメリットである、雑草や圃場由来の虫などの(きょう)雑物(ざつぶつ)の混入を、収穫時にどう防いでいくかが課題です。新しい機械の導入などによる技術向上のほか、圃場巡回やJA・生産者とのコミュニケーションを強化し、原料野菜のレベルを向上させていきたいと考えています。
 製造から販売面では、同一社内に原料野菜を生産する「営農部」と、その原料で冷凍野菜を製造する「生産部」をもつ強みを生かし(写真6)、生産から製造、流通、販売の全体の流れの中で無駄を省いて利益水準を高めることにより、生産者の所得向上につなげていきたいと考えています。また、販売先との連携強化を図り、消費者への安全・安心な国産冷凍野菜の供給を拡大することで、国産シェア奪回の一助になれればと思います。

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白石 芳久(しらいし よしひさ)
熊本大同フーズ株式会社 常務取締役
【略歴】
1994年 熊本大同青果株式会社へ入社
     経理部次長
1996年 総務部次長
1998年 青果センター部長
2011年 特販部(新設)部長
2015年 常務取締役(特販部・青果センター担当)
2018年 新分野開発室室長兼任
2019年 熊本大同フーズ株式会社(新会社)常務取締役
2021年 冷凍ほうれんそう生産開始、現在へ