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【特集】「国産冷凍野菜」の拡大に向けて 野菜情報 2024年8月号

冷凍野菜の魅力と国産冷凍野菜に期待すること

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冷凍食品ジャーナリスト
「冷凍食品エフエフプレス」取締役編集長 山本 純子
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1 はじめに

 ちょうど2年前の8月、NHKの朝の番組の冷凍食品特集に出演した時のこと。冷凍食品の栄養価についての疑問に対し、出演者(業界関係者)が皆「変わらない」と答え、東京海洋大学の鈴木徹先生(現名誉教授)が同月に実測した、ほうれん草のビタミンC含有量についての結果(図)が映し出されたところ、スタジオ中に「えー!」とどよめきが起こった。
 生鮮品、冷凍品のサンプルをそれぞれ「おひたし」で食べる程度の加熱状態にして、計測したところ、生鮮のほうれん草より、冷凍ほうれん草の方が、圧倒的にビタミンCの含有量が高かったのである。
 シニア層を中心に視聴率が高い朝の情報番組で、この「事実」が紹介されて、スタジオ同様、全国各地の視聴者からも驚きの声があがり、冷凍野菜に対するメディアの認識が変わるきっかけを作った。冷凍野菜が持つ「旬の味わいと栄養を閉じ込められる」というメリットについて、認知が広がったと思う。まずは知ってもらう、というところから、新たな世界が広がりそうなのが冷凍野菜の魅力である。

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2 栄養に関する漠然とした不安を払拭すること

 野菜に詳しい読者は、もうお分かりと思うが、大きな差が出た原因は、計測した時期がほうれん草の端境期、真夏の8月だったからだ。一方、冷凍野菜は、ほうれん草の旬の時期、最も出荷量が多く、価格がリーズナブル、栄養価も高い時期に1年分の流通量を製造しているものがほとんどである。急速凍結という冷凍食品の「肝」と言える技術は、食品の組織がなるべく壊れないように食品中の水分を細かな結晶にして凍らせる技術である。組織が壊れていないということは、適切な解凍調理を行えば、味わいも栄養もよみがえるのである。
 冷凍したら栄養が低下するだろう、と漠然と感じている消費者は多い。しかし、丁寧な説明を受け、その誤解がなくなったら、一転、冷凍野菜を積極的に取り入れようとする。冷凍野菜が持つ以下のメリットが、今どきの消費行動にマッチするのである。
 
★冷凍野菜のメリット★
・いつでも「旬」:最もおいしい時期の原材料を使い、時間を止め、空間を超越する。
・生ごみが出ない:可食部だけ。ごみは包装のみ。家庭内に生ごみを置かずに済む。
・無駄がない:マイナス18℃以下の保存温度帯では腐らない。食品ロスゼロに高い評価。
・時短調理:下ゆでしてあるので短時間の加熱で良い。自然解凍OKの商品もある。
・小分け利用:単身世帯の少量需要にマッチ。少量利用の薬味などに便利な刻みねぎ・オクラも定着。
・価格安定:天候不順による価格変動とはほぼ無縁。周年安定価格の供給ができる。
・フルーツは適熟:皮むき、カット不要。いつでも最適の熟度で手間なし、無駄なし。

3 輸入冷凍野菜動向~実は冷凍食品消費量ナンバー1はポテト(ばれいしょ)

 一般社団法人日本冷凍食品協会(以下「冷食協」という)は、国内生産量に冷凍野菜輸入量(財務省貿易統計)、さらに調理冷凍野菜輸入量(協会員のみ33社分)を合算して、「冷凍食品国内消費量」としている(表1、参考)。国内生産量は、2017年に160万トンを超過したものの、これ以降は、一度もそれを上回ることなく推移している。これに対し、同年に100万トンを超えた輸入冷凍野菜は、コロナ禍を背景に業務用需要が落ち込んだ時期もあったが、全体としては伸長して22年には110万トンを上回った。
 23年の実績で、国内生産154万5000トン、輸入冷凍野菜111万9000トン、輸入調理冷凍食品21万5000トン、合計の消費量は288万トンである。これを人口で割った国民1人当たり年間消費量は23.2キログラムとなる。
 ちなみに、2022年の統計による国民1人当たりの年間消費量は、1位米国43.5キログラム、2位ドイツ39.8キログラム、3位英国38.5キログラム、4位豪州35.2キログラム(冷食協「令和4年冷凍食品に関する諸統計」より、資料はユーロモニターインターナショナル)で、日本は23.9キログラムで世界第5位だ。
 


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 冷凍食品の品目別ランキングは、冷食協の統計では国内生産のみを一覧にしていて、うどん、コロッケ、ギョーザ、チャーハン、ラーメンなどの順になっている。では、これを消費量で見た場合の順位はどうかというと表2の通りである。

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 ダントツは41万5627トンのポテトだ。主に北米産だが、近年輸入先国が広がりつつある。ベルギー、オランダ、中国、さらに新興のインドも話題である。ハンバーガーチェーンをはじめとするファストフード、居酒屋おつまみとしてもよく食べているポテト(写真1)。一時期、コンテナ不足や港湾ストの影響もあって、供給不安になった際には、消費者も不安に巻き込むほどの大事件的な扱いだったことは、記憶に新しいことと思う。家庭用でも、冷凍食品のショーケースに必ず定番として品揃えされているフライドポテト。今や必要不可欠の食品と言っても過言ではない。実に、冷凍野菜輸入量の37%を占めている。
 消費量上位品目を見ると、1位ポテト、7位ブロッコリー、8位えだまめとベスト10内に冷凍野菜3品目が入る。表には6万トン以上の品目を挙げているが、そのすぐ下に、5万トン超のカツ、ほうれん草(輸入)が続いている。冷凍食品の消費の中で、冷凍野菜はかなり存在感のあるジャンルである。もちろん主力は業務用である。加工品製造工場の原材料としても不可欠の存在だ。
 輸入冷凍野菜の順位では、ポテトは常に1位だが、2位はかつて長らくえだまめだった。ところが21年、ブロッコリー輸入量がえだまめを抜いて2位に浮上、という交代劇があった。ブロッコリーの輸入先は今も中国が1位だが、エクアドル産が急伸している。南米エクアドルの高原で、太陽光が降り注ぐ良い環境で育つブロッコリー。標高が高いため虫が少なく、農薬は控えめに、(きょう)雑物(ざつぶつ)(混ざりもの)も少なく、品質の良いブロッコリーが生産され、高い評価を得て伸びている。
 直近のトピックスは、「ささみブロッコリー」「えだまめコーン」(写真2)など、新タイプのミックスものの商品が注目を集めていることである。自然解凍OKのミックス商品などが期待されるジャンルで、まだまだ新発想の新アイテムが生まれてきそうだ。

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4 国産冷凍野菜~数年後に現状の倍を予測する声も~

 国内産の冷凍野菜も近年動きが活発になってきた。九州産ほうれん草、北海道産えだまめ、全国に産地が広がりつつあるブロッコリーなどがベスト3アイテムとなっている。円安基調もあって、輸入品との価格差が縮まれば需要が伸びるだろうと、ますます国産冷凍野菜への関心が高まっているようだ。
 輸入冷凍野菜がなぜ着実に量を伸ばしてきたのかというと、価格的なメリットにほかならない。また、現地に日本企業が進出して、契約農場への栽培指導から加工場設立まで手がけて品質を高めてきたことも伸長の要因である。
 過去には、残留農薬問題が発覚した中国産冷凍ほうれん草において、輸入自粛措置などもあったが、それを機に冷凍野菜業界は一致団結した。20年前に輸入冷凍野菜品質安全協議会(通称:凍菜協)を組織し、産地指導、コミュニケーション強化に努めて、品質と安全性が十分担保できるレベルに到達した。今年度の凍菜協総会では、安全・安心問題をクリアしての新たな活動として、対消費者向けのPRに取り組む方針を決めている。
 一方で、輸入品を主体にしていた大手メーカー・商社も、近年は国産アイテムの開発に活発に動いている。産地のJAが積極的に取り組む事例も増えてきた。生協コープ商品の国産冷凍野菜開発も拡大が続いている。
 生鮮野菜の卸企業も冷凍野菜について関心が高い。流通段階で発生する傷もの、端材などを活用してカット野菜事業を手がけてきたが、さらに一歩進んで、野菜を使った加工品を開発することにより、賞味期限の長い製品を展開するという戦略だ。
 既存大手ばかりでなく、この数年は、家庭用需要をターゲットとした新規参入企業も目立つ。7周年を迎えている楽天グループの楽天ファーム事業は、オーガニック冷凍野菜をEC(インターネットショッピング)で展開している。茨城に本社を置く業務用野菜などの加工と原材料販売を行う株式会社せきは、販売子会社の株式会社ニチノウ(以下「ニチノウ」という)で手がけた家庭用冷凍野菜「mikata」ブランドの展開が3年目だが、生産者と結びついた国産冷凍野菜(写真3)、アイデアが光るミックス野菜(写真4)などが高評価を得て、今期販売高は4億円弱の見込み(8月期)と急伸してきた。同社は業務用国産冷凍野菜の需要開拓にも乗り出している。
 冷凍野菜市場の中で国産は1割程度であろう。つまり生産量で11万トンは下らない、というのが業界人の大方の推察であるが、はっきりとした数値はつかめていない状況だ。ニチノウによると、需要の盛り上がりは確かにあり、「現状の倍の規模に4~5年のうちにはなるのでは」と予測する。
 事実、某企業より、北海道産えだまめのメディア視察企画を実施するとの連絡が入ったばかりだ。また、先日視察したニューヨークでの食品展示会では、日本企業ブースで甘味の強いさつまいもの品種を加工した焼きいもや干しいもを試食紹介していて、人だかりができていた。

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5 まとめ

 今回、国産冷凍野菜新規参入の「mikata」ブランドを取材して、その勢いに驚き、成長市場であることを実感した。つまり、九州や北海道で以前より培ってきている加工を前提とした品種選定、栽培、加工・販売業者との連携が、各地でもその気運が高まり、そこに店頭の理解、ECの活用などが結びつくと、新しいサプライチェーンが築けるということだ。日本の農業の復興に役立つ事業展開に期待がかかる。特長ある製品による「輸出」という芽も、野菜、フルーツ両面で可能性がある。
 しかし一方で、円安を背景とした光熱費の高騰や、物流業界の2024年問題などを受けた流通経費の増大などにより、保管・流通に掛かるコストは今後も高くなるだろう。うまくマネジメントをしていく知恵が求められている。

山本 純子(やまもと じゅんこ)
有限会社冷凍食品エフエフプレス 取締役編集長
(元 「冷凍食品新聞」編集長、主幹)
 
【略歴】
大阪生まれ、東京育ち
1981年 冷凍食品新聞 記者
1998年 同 編集長
2015年 同 主幹
2015年 10月独立 
冷凍食品専門情報サイト「エフエフプレス」を立ち上げる
2016年4月~ 「エフエフプレス」情報発信 本格展開(現)
その他
2007年 7月~ ピザ協議会事務局長(現)
 
【概略】
冷凍食品の報道に携わり42年の冷凍食品ジャーナリスト。
専門紙「冷凍食品新聞」記者、編集長、主幹として34年。
2015年10月に独立し、以降、専門サイト「エフエフプレス」を通じ、一般消費者に冷凍食品の真実を伝えることをライフワークとする。メディア出演、協力など多数。
【冷凍食品情報サイト「エフエフプレス」】
https://frozenfoodpress.com