野菜 野菜分野の各種業務の情報、情報誌「野菜情報」の記事、統計資料など

ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > 国産野菜シェア奪還プロジェクトのご紹介

【特集】「国産冷凍野菜」の拡大に向けて 野菜情報 2024年8月号

国産野菜シェア奪還プロジェクトのご紹介

印刷ページ
農林水産省 農産局 園芸作物課 園芸流通加工対策室 
課長補佐 坂東 樹

1 はじめに

 現在、農林水産省では、食料安全保障の観点から、加工・業務用を中心とした野菜の国産シェア拡大に取り組んでいます。
 昨年12月、岸田内閣総理大臣を本部長とする食料安定供給・農林水産業基盤強化本部において「食料安全保障強化政策大綱」が改訂され、食料安全保障の強化のための重点対策の1つとして、加工・業務用野菜の国産転換が掲げられました。これを踏まえ、当省では、本年4月、「国産野菜シェア奪還プロジェクト」をスタートさせたところです。ここでは、加工・業務用野菜をめぐる情勢や、本プロジェクトについてご紹介させていただきます。

2 野菜のニーズの動向

 我が国で流通する野菜については、需要量の約4割が家計消費用(スーパーマーケット等で販売される生鮮野菜)で、約6割が加工・業務用(加工食品等の原料として、又は飲食店等において食材として使用される野菜)であると推計されていますが、日本人のライフスタイルの変化等に伴い、より簡便に利用することができる加工・業務用の割合が年々増加する傾向にあると考えられています。
 その原産地に目を向けますと、家計消費用についてはほぼ100%が国産で賄われているのに対し、加工・業務用については約3割が輸入品であると推計されています。
 野菜自体は低カロリーであり、カロリーベースの食料自給率の議論にあまり関与しないと考えられがちですが、栄養価の面等から、生活に不可欠であることは言うまでもありません。このため、食料安全保障の観点から、約3割の輸入分について、国産への切替えを進めることが重要であると、「食料安全保障強化政策大綱」に位置付けられたのです。
 なお、上記のとおり、家計消費用野菜はほぼ全量が国産であることから、多くの品目について、これ以上増産すれば市場が飽和して値崩れしてしまうリスクがあります。よって、今後新たに野菜を生産なさる場合、産地の方々におかれては、加工・業務用の約3割の輸入分をターゲットとして取り組んでいただくべきと考えられます。
 加工・業務用野菜には冷凍野菜も含まれます(冷凍野菜には、小売されるものもあれば、外食産業等における原料用のものもありますが、ここではまとめて冷凍野菜と表記します。)。新型コロナウイルス感染症拡大時の、いわゆる巣ごもり需要等を経て、冷凍野菜のニーズは増加傾向にありますが、関係団体のデータによれば、流通量の9割以上が輸入野菜を原料としていると推測されます。よって、冷凍野菜における国産原料の利用拡大を進めることができれば、産地の方々にとって、有力な販売先の確保に繋がる可能性があると言えるでしょう。

3 輸入される野菜の概況

 それでは、実際に輸入される野菜はどのような状況にあるのでしょうか。以下の図1は、貿易統計等を基に、野菜の輸入量を、次の3つに分類して整理したものです。
(1)たまねぎ、かぼちゃ等、生鮮状態で輸入されるもの
(2)ブロッコリー、えだまめ等、冷凍状態で輸入されるもの
(3)トマト等、ピューレのような加工度が高い状態で輸入されるもの
 ここで食料安全保障の観点から特に注目されるのが(1)と(2)です。なぜならば、特定の輸入元に大きく依存する状況になっているためです。これについては、安価な労働力や、広大なほ場を求めて、日系企業が時間をかけて海外産地を開拓してきた結果でもあるのでしょう。ただ、新型コロナウイルス感染症拡大時の輸入元のロックダウン等により、一時的に輸入が滞ってしまったこともありました。
 このような背景から、輸入元の多様化や、原料の国産化を求める声が、実需者の方々から一層高まっているものと考えられます。

タイトル: p003

4 国産加工・業務用野菜の活用に向けた課題

 農林水産省では、国産加工・業務用野菜の活用のための方策を分析、検討してきました。現場の方々からのヒアリング等を通じて浮かび上がってきた国産への切替えのための要件として、例えば、次の(1)~(3)が挙げられます。
 
(1) 国内外の野菜の価格差
 多くの品目において内外価格差が課題となっていますが、中国等の経済成長により、その差は徐々に縮まりつつあります。加えて、現在の急激な円安の影響もあり、さらに差が小さくなっているところです。ある意味、今こそ国産原料に目を向けるべき時であると言えそうです。
 
(2) 異物混入対策
 実需者の方々にとって、商品への、害虫等の異物の混入は絶対に避けなければならないことです。このため、国内外を問わず、サプライチェーン全体における対策が求められますが、一部の国内産地では、異物を除去するための人員が不足しがちであると言われています。一方、海外産地では、豊富な労働力により、異物対策が徹底されているとの声も聞かれます。今後、国内のサプライチェーンにおいて、高精度な異物選別装置の導入等といった投資を進められるかどうかが一層重要となるでしょう。
 
(3) 周年安定供給
 実需者の方々にとって、商品の欠品もまた、あってはならないことです。加えて、商品の小売価格が年間を通じてほぼ一定である以上、原料の調達価格の季節変動も避けたいところです。しかし、産地の方々にとって、四季の変化があり、台風等の自然災害が多い我が国で、定時、定量、定価格、定品質のいわゆる「4定」を満たして野菜を供給すること(表)は容易ではありません。どうしても端境期が生じてしまうといった課題があるため、多くの実需者の方々は輸入品も使わざるを得ないのが実態であると考えられます。

タイトル: p004

5 国産野菜シェア奪還プロジェクト

 農林水産省では、これらの課題を克服し、加工・業務用を中心とした国産野菜の新たなサプライチェーンを構築するため、本年4月、「国産野菜シェア奪還プロジェクト」をスタートさせました(図2)。園芸作物課に事務局を設置し、4月26日、当省において本プロジェクトの推進協議会の設立シンポジウムを開催し、300人近い生産者、実需者、流通関係者、報道機関の方々等にお集まりいただいたところです。
 当日は、坂本農林水産大臣による協議会の設立宣言に続き、加工・業務用野菜に携わっておられる生産者の方々、団体の方々から最新の取組をご紹介いただきました。
 現在は、数百に上る協議会員の方々から順次ニーズを聞き取らせていただいているところであり、速やかに、新たな契約取引の成立事例を創出することを目指しています。
 また、今後、国産加工・業務用野菜の生産拡大や需要拡大等に向けて、協議会員の方々と、最新の急速冷凍技術や、新たなブランチング技術、加工適性の高い品種等について、情報を共有するための機会を設けることも検討しています。
 上記4の(3)周年安定供給の実現には様々なハードルがありますが、当省では、1つの出荷先と複数の産地の方々が結び付いた新たな加工・業務用野菜のリレー出荷の実施や、冷凍貯蔵技術の活用による出荷時期の拡張等により、これらをクリアできるのではないかと考えています。

6 終わりに

 本プロジェクトは、農林水産省自ら、国産加工・業務用野菜の契約取引の拡大等に取り組もうとするものであり、行政機関の動きとしてはやや特殊なものと言えるかもしれません。逆に言えば、それほどにも、国産野菜シェアの奪還が重要だということでもあります。
 当省では、引き続き、協議会員を募集しています。全国の産地の方々、実需者の方々をはじめ、ご関心をお持ちの方々におかれては、是非ご加入の上、私どもとともに国産野菜の一層の活用に向けたチャレンジを始めていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
 
(ご参考)
「国産野菜シェア奪還プロジェクト」の詳細については、以下の当省ホームページにてご紹介しています。ご不明な点等、お気軽にお問合せください。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/kokusan_shea_dakkan.html