キャベツの拾い採りにおける収穫回数を減らして作業を省力化するため、ドローンによる空撮画像から圃場内のキャベツの生育のバラツキを把握するとともに、生育のバラツキ低減に向けた栽培技術の提案を行っています。
ドローンによる空撮画像から定量的なデータを安定して取得するために、画像の取得方法の最適化と、開張(生育の指標となる葉の開き具合)と類似した値を抽出する技術を開発しました。その結果、採用したドローン機器(Matrice300+P1)であれば、晴れもしくは曇りの日の太陽高度が30度以上の時間帯で、撮影高度20メートルで2ミリメートル、40メートルで4ミリメートル程度の解像度の画像が、安定的に取得可能であることが分かりました。これにドローン本体の高精度GPS(RTK-GPS)を用いた位置決め精度(XY水平方向:2センチメートル程度)を加味すると、フライト高度を50メートルとした場合、水平方向の誤差は最大5センチ以下で位置決めが可能だと明らかになりました。
また、生育状態の指標となる開張は、キャベツの葉領域を抽出後、多角形で近似し、その多角形の頂点を内側に含む最小円の直径としました。これにより、生育初期から中期であれば、高精度(決定係数
※0.65~0.77)な推定が可能であることも明らかになりました。AI技術(物体検知技術Mask R-CNN)を用いた場合にも、同様の精度での計測が可能であり、空撮や近接画像から、生育初~中期の開張の誤差を13%以下で高精度に推定することができました。また、空撮による球径(外葉を含まないキャベツの結球部分の直径)の推定も高い精度(決定係数 0.719)で可能だと分かりました。さらに、球径と結球重の間には強い相関(決定係数 0.894)があるため、球径を利用した収量の推定も可能であるという見込みも得られました(図1)。
※予測式の精度を表す値で、1に近いほど予測モデルの説得力を持つ。
以上の方法により、生育状況を把握する見込みは立ちました。次に必要なのは、生育状況が悪い株の生育を回復して生育をそろえる技術です。これには適度な追肥が効果的であろうと仮説を立てました。その仮説を検証するために、追肥の時期や量を変えることにより、生育状況をそろえる(斉一性向上)効果を実験しました。まず初年度には、追肥量に応じてキャベツの生育が向上することを確認し、次年度は、キャベツの生育に応じて追肥量を変える試験をし、追肥制御による斉一性向上効果を検証しました。
その結果、開張を指標としてキャベツの追肥量を3段階に分け、生育度合いに応じて追肥量を増減させる追肥制御を行うことで、結球のそろいが良くなることを確認しました(図2)。
このグラフは、キャベツの生育に合わせて施肥の量を変える可変施肥の効果を調べる可変施肥試験の結果を表しています。通常の栽培では、施肥量はキャベツの大きさによらず10アール当たり60キログラムなのですが、可変施肥試験ではその量を変更し、小さいキャベツには多めに、大きいキャベツには少なめに、施肥を行っています。
右のグラフは収穫したキャベツの大きさの分布を表しています。真ん中のピークを見ると、青線の慣行区に比べて、それ以外の追肥量を変えた区画の線が上にきていることが分かります。これは、可変施肥により1400グラムくらいのちょうど良い大きさのキャベツが増えた、ということを意味しています。
同様に、開張に基づいて追肥量を2段階(多い/少ない)に分けた場合では、多くの追肥を行った場合の方が斉一化効果が高いことが分かりました(図3)。
これは図2と類似した試験を実施し、肥料を増やすべきか減らすべきか、という点について検証したものです。こちらの試験では、定植時期の異なる2種類の苗を用意し、生育の違いを人為的に作っています。黄色のグラフを見ると、2つピークが出来ています。これは最初の生育が異なる2種類の苗を混ぜているので、収穫したキャベツの大きさも、初期の生育を反映して大小の2つに分かれる傾向があることを示しています。そして残りの3つのグラフから、生育に合わせて施肥量を変えることによって、収穫するキャベツの大きさがそろってくることが分かります。オレンジ色のグラフにあるように、小さいキャベツの施肥量を増やすという条件で、特にキャベツの大きさがそろうことが分かりました。
これらの圃場試験の結果から、キャベツの大きさを元に生育を判断し、その生育に合わせた施肥を行うことで、収穫時のキャベツの玉の大きさをそろえることができることが分かりました。
しかし、営農現場において施肥量は削減することが好ましいことから、斉一化への寄与率は劣りますが、肥料を削減する減肥主体の可変施肥の検証が必要だと考えています。
さらに、開発中の技術を広く活用してもらうために、フリーのソフトウェアを組み合わせ、生育診断・管理用アプリケーションソフトウェア「生育診断アドバイスシステム」を試作しました。これは、(1)ドローンで個別に撮像した画像を統合する画像オルソ化(地形の凹凸や画像の傾きの影響を取り除き、位置、面積、距離を正確に表示する補正)処理プログラム(2)統合した画像から開張を計測して生育把握・診断を行う生育診断・診断用画像解析プログラム(3)診断結果を分かりやすく表示するための地図表示プログラム-の3つのプログラムから構成されています(図4)。クラウド上で運用可能な構成となっており、利用者数やタスク数に合わせた拡張可能なサービスの提供を見込んでいます。クラウド運用時に複数のプラットフォームを利用することにより、高速処理(処理速度 3000株/時間)も達成できる見込みであり、今後、試験運用を実施し、評価を行う予定です。
また、自動施肥技術の開発も行っています。これは常用管理機に搭載した施肥機能に、生育状況に応じた施肥量の制御機能を追加したシステムです。具体的には、
畝上を移動する管理機の前方に畝を撮影するカメラを取り付けて株毎に画像を撮影します。その画像から株毎の開張を計測して生育状況を把握し、生育状況に応じた量の施肥を行う仕組みです(図5)。これまでに、生育に応じた量の施肥ができるところまでの確認を終え、現在は最適な施肥量の設定に取り組んでいるところです。