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話題 野菜情報 2024年4月号

「農業」×「音楽」に真剣に取り組む3人組ミュージシャン~田田(でんでん)~

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田田 岡田 陽平
かおしゃしん

1 はじめに

 はじめまして、私たちは群馬県伊勢崎市(さかい)(しま)村で農業と音楽活動を行っている3人組「田田(でんでん)」です(写真1)。メンバーは田島敬弘(34)、岡田陽平(33・兄)、岡田広輝(28・弟)の3人で、名字にそれぞれ「田」があることと、どの年齢層にも覚えやすいキャッチーな響きであることから、グループ名を「田田」と名付けました。
 境島村には、伊勢崎市を流れる利根川を挟んで北側と南側のエリアがあります。私たちは南側にある世界遺産「田島(たじま)()(へい)旧宅」の周辺で農業を営んでいます。利根川の豊かな水流でできた土は水はけが良く、かつての境島村は桑畑が広がり、養蚕が盛んに行われていました。そして、平成24年に近代養蚕農家建築の原点として、田島弥平旧宅が世界遺産に登録されました。桑畑の跡を受け継いだ水はけの良い土地は、野菜作りに適した土質でもあります。私たちは、養蚕にゆかりのある場所で農業をするに当たり、養蚕の絹をイメージした「白い野菜」の栽培にチャレンジしています。具体的には、白いとうもろこし(スイートコーン。以下「白とうもろこし」という)に「絹」、白なすに「(まゆ)」と名付け、田田のオリジナルブランドとして販売を開始しました。特に白とうもろこしは純白の絹のように(つや)やかで、その甘さと品質の高さから、食べた方から高評価をいただいています。

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 まだ就農して1年半ほどのため、どの野菜が栽培しやすいか、売れるかなど、現在は試行錯誤しながら多品目栽培に取り組んでいます(図1)。田田は、野菜販売促進の工夫として、音楽活動にも力を入れています。田島と岡田(広)は、高校で軽音楽部に所属した岡田(陽)の影響で10代の頃からギターを弾き始めました。その後それぞれ音楽活動を続けていた3人が、田田としてバンドを結成するにあたり、他にはない野菜のPRとして、農業と音楽を融合させるアイディアが浮かびました。オリジナル曲やカバー曲をYouTubeや各SNSで配信することにより、田田をさまざまな層に認知してもらうのが目的です。昨年はテレビやラジオ、隣接する埼玉県深谷市のライブイベントなどに参加して、演奏と野菜のPRを行いました。どの野菜を買うかより、誰の野菜を買うかという消費者目線でPRすることが大事だと考え、積極的にメディアやイベントに顔を出すよう心掛けています。

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2 「農業」×「音楽」のはじまり

 私たちは過去にも3人でバンドを組んでいましたが、仕事の都合で住む場所もばらばらになってしまったためバンドは解散し、それぞれが会社員として働いていました。その後のそれぞれの音楽活動は、田島は仕事の傍ら作曲家として活動し、岡田(陽)は趣味程度にベースを弾き、岡田(広)はギターの演奏動画を頻繁に動画投稿サイトにアップするといった感じでした。そんな生活の中で田島は、「本気で音楽に挑戦したい」という気持ちから会社を辞めました。その話を聞いた岡田(陽)は、自身ももう一度田島と音楽がやりたいという想いから、田島に連絡をとりバンドをやろうと話をしました。
 私たちは過去の経験から、会社員として働きながら音楽活動をすることがなかなか難しいということを知っていたため、仕事(収入)はどうするかという壁にぶつかりました。最初はアルバイトや、時間の融通が利きそうな職を探そうと話し合っていましたが、田島から「農業はどうか」という提案がありました。メンバーで共同で農業をやれば、時間の融通も利き、自分たちの裁量で作業や販売、生活の計画を立てられるため、音楽活動との両立も可能だと考えました。それに私たちの地元の伊勢崎市境島村は野菜の栽培も盛んで、圃場(ほじょう)もたくさんありました。さらに農業と音楽活動を別々にするのではなく、音楽から野菜販売への誘導、あるいは野菜販売から音楽への誘導というように、それぞれの特性を生かせるのではないかと考えました。しかし田島家、岡田家はどちらも農家の家庭ではなく、農業について教えてもらえる人も身近にいなかったため、ほぼゼロからのスタートでした。唯一、田島家が圃場として利用できる土地を5アールほどと、土地の整備のための13馬力のトラクターを持っていたため、そこから始められないかと計画を練りました。

3 野菜栽培の知識や技術の習得について

 私たちの野菜栽培の情報は、そのほとんどがインターネットから得たものです。計画を練り始めてから実際に農業を始めるまでのおよそ1年間は、YouTubeや、栽培方法などを掲載しているサイトから情報収集をし、自分たちなりに栽培計画をまとめ、どのくらいの売上になりそうか試算していました。そして、実際に農家としての生活がスタートするわけですが、インターネットで得た情報だけでは分からなかった問題にたくさんぶつかりました。例えば、初年度の夏に白とうもろこしを栽培したところ、私たちの地域ではハクビシンやタヌキなどの害獣が出没するため、ある圃場では半分以上が食べられてしまい、廃棄しなければなりませんでした。また、冬の収穫に向けて夏に定植する予定だったブロッコリーは、夏野菜の収穫作業で手いっぱいになってしまい、定植時期が遅くなってしまったため、すべて生育途中で終わってしまいました。さらに、肥料や農薬の使用についてもそれぞれの野菜に適合しているものを使用するというのは当たり前ですが、野菜の問題解決に有効なものを選ぶというのがけっこう難しく、肥料や農薬を使用しても期待していた効果が現れなかったというようなことも多くありました。今でも失敗ばかりしている私たちですが、失敗の原因と解決策をしっかりと次作に生かし、栽培技術をブラッシュアップしていくことで、自分たちにのやり方に合った野菜や品種、その栽培方法を見極めながら取り組んでいます(写真2)。
 
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4 農業のやりがい

 何もない圃場に種を()き、野菜を育て、収穫して販売する。その一連の作業の対価として収入を得られるのが、農業の最大のやりがいだと感じています。また、自分たちの働き方(働く時間や効率化など)次第で収入が大きく変わってしまうのも大変な事ではありますが、会社員時代では味わう事の出来なかった面白さでもあります。
 私たちは音楽という自分たちの持ち味を生かしながら、SNSを使ってさまざまな活動を発信することで、田田のファンを増やしていき、野菜の販売にもつなげ、私たちの人柄も含めて田田の作った野菜を楽しんでもらいたいと考えています。SNSでは、視聴してくれた方々の感想や意見をダイレクトに受け取ることができます。野菜を買って食べてくれた方が、私たちの投稿した動画に「おいしかったよ」とコメントしてくれたり、圃場での作業風景の動画を視聴したほかの農家さんが作業に関するアドバイスをしてくれたりと、さまざまな反響があり、その度に、もっと良いものを作ろう、もっといい仕事をしようというモチベーションアップにつながっています。
 そしてなによりも、計画的に栽培した野菜が無事に収穫、出荷できた時には、本当にうれしい気持ちになります。逆に言えば、計画通りに栽培ができず、異常気象や害獣、虫や病気の被害で思ったように生育せず、途中で断念せざるを得ない野菜もたくさんあるということです。しかし、良いものができれば、確実に売れ、収入につながるということがわかったので、失敗を繰り返さないよう常に改善していくことが大切だと考えています。
 また、SNSを通じて、私たちもそうだったように、今の職業や働き方に疑問を感じている人たちに対して、農業がその解決のための一つの選択肢になるような発信ができればという想いもあります。年齢を重ねるに連れて、夢や趣味、プライベートの時間を諦めなければいけない状況が多くあると思います。それを農業という職業でなら、両立できるのではないかという理想をもって田田は活動しています。今はまだ発展途中ですが、新しい仕事の形として体現できたらと思っています。

5 田田のオリジナルの農業スタイル

(1)農業と音楽の相乗効果
 農業と音楽活動を両立させることにより、老若男女問わず幅広い世代に田田を認知、宣伝できるのではないかと考えています。生産した野菜は主にスーパーで販売しており、野菜を頻繁に購入する40歳代以上の中高年層には農家としての田田をいち早く認知してもらえます。一方で、音楽活動は、ミュージックビデオの作成、ライブ、動画投稿など若年層に向けて行っています(写真3)。2023年11月に行われた深谷市の産業祭にて、野菜販売の出店と音楽のライブをさせていただいたことは、野菜を購入してくれた多くの中高年層の方々に、私たちが音楽ライブを行うことや、オリジナルのCDを販売していることなどを知っていただける機会となりました。また、ライブを観た方が野菜を買いに来てくださることもありました。このように、農業から音楽へ、音楽から農業へと、双方向に影響があり、相乗効果を生んでいることを実感しました。
 また、バンドをやりながら農業をしているグループとしてテレビ番組に出演させていただき、放送後に、番組を見たよと言って野菜の無人販売所に足を運んでくれた方もいました。集荷場で顔を合わせる農家の方たちにも、私たちが音楽もやっていることを知っていただけました。二つの活動を通して、幅広い年齢層の方々に知ってもらえる機会が増えたと感じます。



(2)白野菜シリーズ
 現在、田田が栽培している白野菜シリーズは二つあります。白とうもろこしの「絹」(写真4)、白なすの「繭」(写真5)です。
 私たちの地元で活動拠点でもある群馬県伊勢崎市境島村は、養蚕が栄えていた地域で、世界遺産「田島弥平旧宅」があります。自分たちが栽培する野菜のブランド化を計画した時に、世界遺産がある境島村を盛り上げたいという気持ちから「養蚕と紐付けたい」と思いました。まず白く滑らかな絹が思い浮かび、同じような白く美しい野菜を栽培したいと考えていた時、北海道で食べた白とうもろこしのおいしさに感動したことを思い出し、私たちも栽培にチャレンジしてみることにしました。次に、群馬はなすの生産量が全国3位と多いため、養蚕のイメージとなすを組み合わせられないかと考え、白いなすがあることを知り、栽培を始めました。白なすが田島弥平旧宅PRキャラクター「くわまる」に似ているので、コラボできないかとも考えています。この他にも今後、養蚕に関連した白野菜シリーズは増やしていきたいと思っています。

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(3)田田のオリジナルシール
 田田の多岐にわたる活動を宣伝できないかと考えた時に、野菜のパッケージに何かシールを貼りたいという案が出ました。同じ頃「生産者の顔が見える化」というものがあり、生産者の想いを伝える効果、消費者に安心感や信頼感を与える効果があることを知り、われわれもその実現にシールを活用することを考えました。
 シールには田田のロゴとYouTubeの二次元コードを印字しています(図2、写真6)。ロゴがあることで田田の野菜であることが一目でわかります。また、YouTubeには私たちが野菜を栽培している様子の動画があり、田田の「顔が見える化」につなげています。ほかにも、音楽活動や日常の様子などの動画も配信しているので、野菜をきっかけに、田田の活動をより知ってもらえたらと思っています。テレビ出演後から知名度も上がり、田田を認知してくださった方々から、ロゴがわかりやすいと言う声もいただいています。

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6 おわりに

 田田の掲げる最終目標は、世界遺産「田島弥平旧宅」を中心に観光農園を作ることです。その目玉として、今後アボカドの生産や古民家カフェ開業などにチャレンジしていく予定です。
 アボカドを選んだのは、境島村の新しい名産物を作りたいこと、国産アボカドの希少性、温度管理などが比較的容易であるところに目を付けたからです。
 また、観光資源のない境島村に古民家カフェやお土産屋を開業することで、観光客の方がリピートしたくなる世界遺産のまちを目指し、観光客の増加やそれに伴う雇用創出をすることで、田田の活動範囲や認知度を同時に拡大させて、故郷境島村を盛り上げていきたいです。
 これから農業を始める方、始めたばかりの方も、夢や目標がある反面、不安や心配もたくさんあると思います。同じ境遇にある身として、田田も心から応援しています。相談や仕事の愚痴など、何かございましたらお気軽にYouTubeやSNSにコメントください。私たちもこうした媒体を通じて多くの方に助けられ、ここまでやってきました。皆さまとの交流を楽しみにしています。

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田島 敬弘(たじま たかひろ)
【略歴】
1989年まれ。
日本大学工学部卒。
不動産会社、鉄道会社を経て2022年に就農。
田田のオリジナルソングの作詞・作曲、レコーディングを担当。
 
岡田 陽平(おかだ ようへい)
【略歴】
1990年生まれ。
宇都宮大学工学部卒。
現場監督を5年間、ベトナムで建築設計として3年間働き、2022年に帰国し就農。
古民家の改修を担当し、スタジオやオフィスとした。
 
岡田 広輝(おかだ ひろき)
【略歴】
1994年生まれ。
情報系専門学校卒。
IT系企業、組み込み系メーカーを経て、2022年に就農
岡田陽平の弟。田田のホームページ作成などを担当。