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話題 野菜情報 2024年3月号

宮城県RTKシステムにより農業の維持・発展を目指す ~高精度測位システムの全県域展開~

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宮城県 農政部 農業振興課 先進的経営体支援班 小野寺 和博
※RTK(Real Time Kinematic):衛星から送られる測位情報の誤差を基地局で補正することで、高精度に位置計測するシステム。

Q1.RTK基地局の設置に至った背景や経緯、目的や概要などを教えてください。

(1)宮城県農業に関する情勢
 宮城県(以下「本県」という)の農業は、東日本大震災からの創造的な復興により、大区画農地の整備が進むとともに、100ヘクタールを超える大規模な土地利用型農業法人や、高度な環境制御技術を導入した先進的施設園芸法人が誕生してきました。一方で、農家数の減少と高齢化は進行しており、新型コロナウイルス感染症拡大による需要の低迷に加え、国際情勢などを背景とした資源高や円安などによる資材価格の高騰により、農業を取り巻く情勢は厳しさを増しています。
 本県の農業産出額は、東日本大震災が発生した平成23年までは減少傾向にありましたが、現在では震災前を上回る水準まで回復しています。産出額の構成比では、「ひとめぼれ」「ササニシキ」「だて正夢」「金のいぶき」などのみやぎ米と、全国で唯一肉質等級が最高ランクの5等級のみという厳しい基準を持つブランド牛である「仙台牛」に代表されるように、米と畜産の割合が多く、この2分野で農業産出額の8割を占めています(図1)。

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(2)宮城の農業の将来像
 本県の農業・農村の振興に関する基本的な計画である「みやぎ食と農の県民条例基本計画(第3期:令和3~12年度)」においては、全国トップクラスの大区画水田整備率や、春先の日射量が豊富で気温が低く、夏場も涼しい気候・立地条件を生かし、アグリテック(注)による労働生産性の高い水田農業や畜産経営を展開するとともに、食品産業と連携しながら園芸の生産を拡大することとしています。

注:農業に導入されるスマート農業技術を含むICT(情報通信技術)などの先進技術。農作業の省力化、軽労化を図る。
 
 水稲については、今後も主食用米の需要の減少が見込まれることから、その栽培面積を縮小する一方で、主食用米以外の加工用米、備蓄米、新規需要米(飼料用米や米粉用米、輸出向けなどの新市場開拓米)の栽培面積を拡大し、実需者のニーズに対応した米づくりを推進しています。
 また、水田のフル活用を図るため、暗渠(あんきょ)排水を整備した汎用化水田において、麦類や大豆のほか、加工・業務用ばれいしょやたまねぎ、キャベツなどの園芸作物への作付け転換を図るとともに、いちごやトマト、きゅうりなどの施設園芸において、高度な環境制御技術の取り組み拡大による単収の増加を推進し、園芸産出額の倍増を目指しています。

(3)農業分野における技術革新
 農家数の減少など生産現場での人手不足が深刻となる中で、本県においても、農業にAI、IoTといったテクノロジーを導入して課題を解決するアグリテックの取り組みが進んでいます。例えば水田作では、営農データを管理・分析することにより、栽培管理を高度化・最適化できる「経営・ほ場管理システム」や、水田の水管理を遠隔または自動制御できる「水管理システム」などの技術が、大規模な土地利用型農業法人を中心に導入されています。
 また、傾斜地でも利用可能な草刈機や、ドローンによる防除などの技術は、平坦地域だけでなく、中山間地域における農作業の負担軽減や作業時間の削減などの効果が期待されています。
 さらに、夏季は比較的冷涼ですが冬季は温暖で降雪が少ない宮城県の気象条件が施設園芸に適していることから、本県は、養液栽培面積、環境制御装置設置面積とも全国トップレベルです(写真1)。東日本大震災からの復興を成し遂げたいちごや、全国1位の生産量を誇るパプリカ(写真2)などで実証されている通り、高度な環境制御技術の普及・拡大と定着により、先進技術を駆使した施設園芸を推進しています。

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(4)「宮城県RTKシステム」の整備
 農業者の減少や高齢化が進む中で、労働生産性の向上や後継者などへの円滑な技術継承を進めるため、さらなるアグリテックの推進に当たり、本県は令和4年度にデジタル田園都市国家構想推進交付金を活用して、ほぼ県全域を受信範囲とするRTK基地局を7カ所に整備し、令和5年4月1日から運用を開始しました(図2、写真3)。RTKシステムは、GPSなどの人工衛星から得られる位置情報を、より精度の高い情報に補正し、数センチ単位で機械作業ができるシステムです。農業分野では、トラクターや田植機などの自動操舵や、ドローンの自動飛行などで利用されています。RTKシステムでは、これまでよりも高精度な作業ができるため(写真4)、作業の省力化や負担軽減、生産性の向上につながります。RTKを利用したスマート農業に取り組むに当たっては、情報通信のインフラ整備が不可欠で、自費で基地局を設置するか、民間通信サービスを利用する必要がありましたが、農家の費用負担軽減や事務手続きなどを減らしてスマート農業の普及を加速化させるため、本県が基地局を設置することとしました。本県全域をカバーするRTK基地局の整備は全国的にも珍しい取り組みで、現在の利用者は農業法人を中心に130者を超え、トラクターや田植機、ドローンなどの自動運転に利用されています。自動操蛇システム導入により耕起作業時間が2割削減され、また、直線的な(うね)立てによる中耕などの管理作業のしやすさや、肥料や農薬の重複散布回避によるコスト削減が実現したことで、利用者からは「省力化や効率化が図られ、心身ともに楽になった」「農業法人の若手社員のやりがいにつながっている」との声もいただいています。なお、年間の利用料金は1件当たり税込2万円(2件目以降は税込1万円)です。

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(5)スマート農機の導入支援
 アグリテックの普及・拡大に当たっては、スマート農機の導入コストが課題となっており、これまで国庫補助事業などを活用しながら導入を支援してきました。令和4年度にはこのRTK基地局の整備と併せて、約80経営体に対し、自動操縦システムやドローン(写真5)などの導入補助も行い、県内におけるスマート農機導入件数の増加につなげました。補助に当たっては、RTKシステムの利用を事業要件にするとともに、導入後3年間の取組状況報告を求め、作業時間の短縮や作業負担の軽減度合いなどを確認することとしています。

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Q2.RTKシステムの利用拡大を図るために設立された「みやぎRTK利用拡大コンソーシアム」について教えてください。

 令和4年度に整備したRTKシステムの利用拡大を図り、県内でスマート農業を普及させるため、農業機械メーカーや農業関係団体、農業者などで構成する「みやぎRTK利用拡大コンソーシアム」を令和5年9月に設立しました。当コンソーシアムでは、活用事例の把握や改善策の検討、実証モデル設置による技術実証、情報発信などを行っていきます。コンソーシアムの事務局(代表機関)は、スマート農業技術などに専門的な知見を有する東北大学大学院農学研究科に担っていただき、産学官連携のもと、各構成員が持っているノウハウや情報などを共有しながら、技術実証などに取り組んでいきたいと考えています。また、令和5年9月4日の設立総会と併せて開催したシンポジウム(写真6)では、実際にRTKシステムを利用したスマート農業を実践し、昨年度の第52回日本農業賞個別経営の部で大賞を受賞された、宮城県登米市の有限会社エヌ・オー・エー様の講演も行われました。同社では、2ヘクタールほどの大区画圃場(ほじょう)に自動操舵システムやロボットトラクターなどを導入しています。圃場マップを連動させることによる肥料の重複散布回避とそれによるコスト削減のほか、悪天候前の集中作業や風の影響を受けにくい夜間時における高精度作業など、システム利用による作業効率向上の実績についての報告がありました。

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Q3.露地野菜の現場ではRTKシステムはどのように利用(実装に向けた調査分析)がされるのでしょうか?

 本県では、担い手の減少に加えて米の消費量が減少する中、バランスのとれた農業生産を目指しています。全国トップクラスの圃場整備率の強みを生かしながら、米から園芸作物への生産転換を強化し、大区画圃場などを活用した、収益性の高い大規模露地園芸を推進しています(写真7)。
 水稲や大豆に比べて、露地野菜は作業工程が多く、労働生産性が低いことなどから、担い手への農地集積などを進めながら、機械化一貫体系やICTなどを活用したアグリテックにより、効率的な生産・供給体制の整備をしていく必要があります。そのため、モデル実証圃を活用しながら、露地園芸に取り組む生産者への導入支援を行うとともに、試験研究機関などによる技術開発や経営モデルの策定などを進めてきました。
 これまで県内では、水田での園芸品目として、ねぎ、たまねぎ、キャベツ、えだまめ、加工用ばれいしょなどが栽培され、加工・業務用野菜の生産拡大の動きも出てきています。
 今後も需要が見込める加工・業務用野菜ですが、実需者ニーズとして定時、定量、定価格、定品質が必要とされており、安定生産と安定供給の体制を整備していく必要があります。
 RTKシステムの利用により、高精度な作業が可能になったことは、機械化一貫体系導入による省力化や生産性の向上だけでなく、出荷予測などの販売面でも有利に働くと考えています。

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Q4.RTKシステム以外のスマート農業に関する取り組みも教えてください。

(1)「みやぎスマート農業推進ネットワーク」による情報共有
 当該組織は、スマート農業に係る情報交換・情報共有を目的として令和元年度に設置し、スマート農機体験試乗会(写真8)や現地セミナー(写真9)の開催などを行っています。現在、会員数は農業者を中心に200人を超えており、実際にスマート農機に触れる機会を作っています。
 
(2)みやぎアグリテックアドバイザーの派遣
 ICTなどの先端技術を活用したアグリテックの普及推進に当たり、その効果的な活用を助言・指導する専門家(アグリテックアドバイザー)を、県の費用負担により派遣しています。アドバイザーには、農業機械メーカーや既に実践している農業者など、20人ほどが登録しています。
 
(3)宮城県と農業機械メーカーとの農業分野における包括連携協定
 本県では、地域農業が抱える諸課題に迅速かつ適切に対応し、生産性向上などによる持続可能な農業・農村の発展および県産農産物の新たな需要の創出を図るため、株式会社クボタ様、ヤンマーアグリジャパン株式会社様と、包括連携協定を締結しています。当協定では、農業機械メーカーの有する優れた製品・技術・サービスを活用する密接な相互連携と、協働で活動を推進することを掲げており、具体的には、試験研究や技術実証でのスマート農業機械の提供協力や、宮城県農業大学校での技術習得などの人材育成にご支援いただいています。

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Q5.さらなるスマート農業推進に向けて今後の課題や目標を教えてください。

 スマート農業関連の目標指標として、「みやぎ食と農の県民条例基本計画(第3期:令和3~12年度)」では、80ヘクタール以上の土地利用型農業法人のアグリテック導入者数を、80経営体(12年度)、「宮城県みどりの食料システム戦略推進ビジョン(令和5~12年度)」では、自動操舵システムなどによる省力化および作業精度向上に取り組む経営体数を250経営体(12年度)と設定しており、補助事業などを活用しながら、達成に向けて支援を行っているところです。
 農業の担い手不足や高齢化が急速に進む中で、ロボット、AI、IoTなどの先端技術を活用したスマート農業は、現場の課題を技術で解決し、次代を担う若者が憧れる新しい農業の形として期待されています。県内ではRTK基地局による通信環境が整備されたことにより、生産現場でのスマート農機の導入も増えてきています。農作業の自動化による省力化や負担の軽減、データ共有などによって、スマート農業の効果が実感されています。一方、スマート農機の導入コストの回収には一定規模以上の面積が必要であり、農業機械のシェアリングや各メーカー機種の互換性を望む声も聞かれます。先端技術は日進月歩で発展し、そのスピードに対応していくことも重要であることから、スマート農業を実践できる気運醸成や、積極的に人材育成を行う産地づくりも必要と考えています。
 
小野寺 和博(おのでら かずひろ)
宮城県 農政部 農業振興課 先進的経営体支援班
【略歴】
平成12年 宮城県入庁
石巻農業改良普及センターなどを経て、現職に至る。