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話題 野菜情報 2024年2月号

日本の野菜生産者とともに歩んでいく~株式会社リンガーハットの取り組み~

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株式会社リンガーハット 総務人事チーム 広報担当 課長 三宅 久美子
顔写真

1 はじめに

 株式会社リンガーハット(以下「当社」という)の企業使命観に「すべてのお客さまに楽しい食事のひとときを心と技術でつくる」とあります。私たちは創業以来、食の安全・安心・健康づくりに努め、生産者や取引先をはじめとするステークホルダーの皆さまとの対話を大切にしてきました。

2 リンガーハットグループの野菜国産化の歩み

(1)野菜国産化のはじまり
 野菜国産化の大きなきっかけとなったのは2008年9月、米濵和英(現名誉会長)の社長復帰でした。その翌年の2009年、当時、外食業界はデフレの影響で低価格競争が(ぼっ)(ぱつ)、リーマンショックの追い打ちもあり、当社の経営は創業以来最も大きな負債を背負いました。
 その状況下で打ち出した改革が、デフレの流れとは真逆を行く「野菜の国産化」です。当時当社では、キャベツや自社工場栽培のモヤシ以外の野菜は輸入物を使用していました。2008年9月に社長復帰するまで、米濵は一般社団法人日本フードサービス協会の会長を務めており、全国のさまざまな産地を巡り、多くの地方の農家から国産野菜を紹介される機会に恵まれました。そこで国産野菜のおいしさに改めて驚かされた米濵は、日本の野菜のすばらしさを痛感し、何とかリンガーハットでも使えないものかと考えていました。社長に復帰してすぐ、「社運をかけてリンガーハットで使用する野菜の国産化に取り組もう!本当においしいものをお客さまに食べていただこう!全社一丸となって取り組もう!!」というメッセージとともに、この取り組みは始まりました。
 国産化に当たり、扱う野菜の変更だけでなく、工場の設備も一新しなければならなかったため、相当なコストがかかりました。不採算店舗の約50店舗を閉める、自社工場の内製化率の向上、といった対策を徹底したものの、商品価格を見直さざるを得ない程のコストアップとなりました。しかし、当時は食品から有害物質が見つかるなど「食の安全」が脅かされた時期でもあったため、すべての生産過程がはっきりとした食材だけを使う「安全、安心、健康」を進めたことで、お客さまにその付加価値を受け入れていただき、翌年には業績のV字回復を果たすことができました。
 2008年1月には、「中国製冷凍ぎょうざ中毒事件」が起こり、食の安全・安心に対する国民の関心が高まりをみせており、日本の食料自給率の低さや、フード・マイレージ(注1)にも注目が集まり始めました。そうした潮流に、「日本の野菜を食べる」とうたった当社の「国産野菜の長崎ちゃんぽん」は大きなインパクトを与えました。
  また、従業員の意識にも大きな変化があり、「さらに自信を持って商品を提供することができる」と、会社が一丸となった瞬間でした。

注1:食料の輸送量と輸送距離を定量的に把握することを目的とした考え方。食品の生産地と消費地が近ければフード・マイレージは小さくなり、CO2排出量削減につながる。
 
 また、さらなる国産化の取り組みとして、2010年にちゃんぽん麺に使っている小麦粉を、2011年には皿うどんの麺の小麦粉を国産にしているほか、2013年からは野菜、肉、皮の小麦粉・米粉などのぎょうざの主要材料も国産化を実現しています。
 2009年時点では、国産きくらげの国内流通量はわずか3パーセントしかなく、安定確保が難しいため、やむを得ず使用食材から外していました。しかし、鳥取県をはじめとした日本各地のきくらげ産地の方々の協力を得て、2015年から当社のちゃんぽんには念願のきくらげを国産で復活させることができました。そしてきくらげの国内流通量は8パーセント近くまで上がっています(表)。

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(2)国産化を象徴するフラッグシップ商品「野菜たっぷりちゃんぽん」の誕生
 野菜国産化開始に伴い、フラッグシップ商品(注2)として、国産野菜を480グラム使用した「野菜たっぷりちゃんぽん」を開発、発売しました。
 「野菜たっぷりちゃんぽん」は、通常の「長崎ちゃんぽん」よりキャベツ・モヤシ・たまねぎを2倍増量し、1食で480グラムもの野菜を使用しています。厚生労働省が推進する健康作り「健康日本21」で目標とされる「成人が摂取する1日の野菜摂取量350グラム」を上回る量で、1杯で1日の必要量以上の野菜を摂取することができます。
 また、たっぷりの野菜を最後まで飽きずに食べられるように、原料に使用する野菜にもこだわった2種類のちゃんぽんドレッシング(しょうが風味、ゆず胡椒(こしょう)風味)も開発し、「野菜をさまざまな味で楽しめる」と健康志向の強い方や女性、若いビジネスパーソンを中心に受け入れていただきました。
 この新メニューは大ヒット商品となり、当社の業績を大きく押し上げました(写真1)。
 
注2:最も力を入れている商品のこと。

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(3)「国産化」が成功した瞬間
 プロジェクト開始から半年後の2009年4月、まず初めに静岡県、鹿児島県内の18店舗で、野菜を完全国産化した新「長崎ちゃんぽん」などの新メニューを、全国に先駆けてスタートさせました。
 お客さまに本当に喜んでもらえるのか不安な中、この段階では「売れる」という確信はありませんでした。しかし、国産野菜の新ちゃんぽんを先行販売する静岡県の店舗を米濵が視察した際、お客さまが店に入って来るなり「野菜たっぷりちゃんぽん!」と大きな声で注文した場面を見た時、胸をなで下ろしました。提供された野菜たっぷりちゃんぽんを前に、お客さまの目元がほころんだ様子を見て、米濵はさらに確信を持ちました。
 
 米濵の改革は成功し、野菜を国産化して以降、客数、売り上げはともに月次ベースで10パーセント以上上昇し、原材料費の上昇分は、客単価のアップで吸収できました。「数十円の安さ」より「国産に対する安心感」「国産のおいしさ」をお客さまが選択したのは明らかでした。

3 野菜の安定供給に関する取り組み

(1)安定供給を果たす産地リレーの仕組み
 すべての野菜を国産化するには、安定した供給体制を構築することも大きな課題となります。大量の国産野菜を年間を通して安定的に確保するのは容易ではありません。
 現在「長崎ちゃんぽん」にはキャベツ、たまねぎ、にんじん、いんげん(さやいんげん)、スイートコーン、モヤシ、きくらげの7種類の野菜ときのこを使っています。2008年時点ですでに契約栽培を行い、国産化していたキャベツと、自社工場で生産しているモヤシ以外の5種の野菜およびきのこについても、使用量を問わずすべて国産で提供しています。
 ただ、これらが天候不順で収穫できない場合なども考えると、一部の産地だけには頼れません。そのため、北から南まで全国に産地を求め、購買部門を中心に東奔西走する日々が続いています。
 野菜国産化プロジェクト開始当時の計画に伴って契約した産地は、北海道から九州まで15道県、約40産地に上りました。「野菜国産化」を決めてからわずか1年足らずで、ぎょうざの具からちゃんぽんに添えるドレッシングの原料に使用する野菜に至るまで、すべての野菜を国産化できたのは、全国の生産者の方々の協力があってこそです。現在、キャベツだけでも約70産地と契約し、これらの産地をリレーしながら安定供給を実現しています(図1)。各産地で収穫した野菜は、各工場へ納品・加工され、店舗へ配送されるため、新鮮なおいしい野菜がお客さまへ届きます。

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 原料に使用する野菜の調達は、当社の購買チームが直接、各地の納入業者とのやり取りを行っています。その納入業者の役割としては、契約産地の選定・提案、各産地への栽培量の割り当て、栽培管理情報の集約・報告、安定供給への努力、収穫物の品質チェック、産地へのフォローなどが挙げられます。
 こうしたサプライヤーのご努力により、キャベツでいえば糖度は11月~翌4月の間は7度以上、5~10月の間は5度以上といった品質基準を設けて品質の安定が図られ、よりおいしいキャベツを提供しています。

(2)野菜の契約取引に伴うリスク対策
 契約取引にはいくつかリスクがありますが、まず一つ目は、サプライチェーンリスクです。世界的な調達活動において、サプライヤーの事情や天候、自然災害などの要因により、原料や製品の供給に遅れや中断が生じる恐れがあります。
 当社の購買担当者は、こうしたリスクに備え、各所へ情報収集をかけたり、取引先から情報提供いただくなど、常にアンテナを張って対応できるよう準備をしています。野菜については、3カ月先の収穫の見通しを立てて取引を行い、リスクに備えます。1社だけからの購入はリスクも高くなることから、複数購買を原則としています。
 二つ目は、品質リスクです。サプライヤーの品質管理体制の不備や不正行為、品質検査の不備などにより、品質に関する問題が生じることがあります。
 これらの問題に対しては、まず、生産者ごとの月別の作付け予定を情報収集するための「生産者名簿(図2)」を作成し、さらに生産者ごとに「栽培計画書(図3)」も提出して頂いています。それらを基に「キャベツカレンダー(図4)」を作成し、産地ごとの主要な品種と月別の予定収穫量の情報を収集して、記入します。さらに、出荷前の検品チェックの場で、生産者との間で品質基準の確認を行うなど定期的な品質検査も欠かせません。
 シーズンの初出荷前には、圃場の確認と糖度・品質チェックを、購買担当が全国へ足を運んで行っています(写真2)。
 厳しい品質管理で品質基準を満たすと同時に、トレーサビリティシステムを導入し、生産から流通までのプロセスを追跡可能にしています。これにより、品質問題が発生した際に素早く商品の特定と対応ができます。
 また、キャベツは鮮度保持のため、輸送前に冷蔵庫で10度以下に冷やして芯温を冷やします。その後輸送の際には、適正な温度管理のもと、チルドで運んでいます。
 
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(3)物流の工夫
 トラックドライバーの残業規制が強化される「物流の2024年問題」にも対応を急ぎました。施行後を試算すると、当社の東日本の店舗は、静岡からの配送だけで、数億円のコスト増となります。このため静岡から細分化した配送ルートを維持するのではなく、いったん神奈川、埼玉、千葉の3拠点(工場)へ送る方式に変えました。これにより、輸送ルートも短縮され、より鮮度の高い食材を店舗へ届けることができるようになった上、物流コスト増の圧縮に成功し、商品を安定的に店舗へ運ぶ仕組みを作ることができました。さらに、荷姿の見直しなども行うなどして、引き続きコスト抑制に努めています。

4 契約農家との関係構築

 当社の担当者は毎月、各産地を訪問し、生産者の方々の生の声を聞いて意見交換し、相互理解を深めています。当社のホームページでは、その月の野菜生産をしている農家の方を写真付きで紹介しています(写真3)
https://www.ringerhut.jp/quality/place_origin/top.php)。
 当社は生産者の方々との関係づくりを重視しており、購買担当者は収穫時に全産地を訪ねています。その際に生産者の方々との交流を深めるほか、産地によっては次年度の生産に向けた勉強会などを開くこともあります。風水害などの自然災害で産地が大きな被害に遭った際にも訪問し、出来る限りの相談に乗るようにしています。当社と契約してすでに3代目になる生産者の方もいらっしゃり、購買業務に長く携わる担当者の中には、世代交代の話や相談を受けてアドバイスを送ることもあるなど、長年に渡る信頼関係を築いてきました。また、生産者向けの工場見学会では、育てた野菜が当社の工場でどのように加工されるかを見てもらう機会も設けています。
 当社は、生産者の方々と栽培段階から関わっており、先に挙げた年間栽培計画書をもとに1年間のローテーションを組んでいます。
 また、キャベツについてはJGAP(注3)の取り組みを推奨しています。購買担当者がJGAP指導員の資格を取得し、生産者の方へ広めることで、より安全・安心な野菜生産につなげています。
 契約栽培は、生産者の方にとっては安定した販売につながるため、「これだけ作ればいくらになる」という安定収入が見込めます。また、当社にとっては、安定した数量が確保でき、相場に左右されない統一価格で、安定した品質の野菜を利用できます。契約取引には、友好な関係構築に基づいた、相互利益を実感できる関係であることが重要と考えます。

注3:食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証で、農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法の1つ。

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5 今後、持続的に安全・安心な野菜を消費者に提供するために

 コロナ禍を経て、健康志向の高まりや冷凍食品などのネット通販、宅配事業など、消費動向に大きな変化がありました。それらにも対応しつつ、現在の品目から、より幅広い国産野菜を使用できるメニュー開発に取り組んでいきたいと考えています。
 今後も野菜に限らず「国産」にはとことんこだわる企業として、お客さまから信頼され、安心してご来店いただける企業になりたいと考えます。また、安全・安心でおいしい商品を持続的にお客さまへ提供できるよう、生産者の方と力を合わせて取り組んでまいりたいと考えています。
 
三宅 久美子(みやけ くみこ)
株式会社リンガーハット 総務人事チーム 広報担当 課長
【略歴】
1998年 株式会社リンガーハットへ入社 福岡・佐賀での店舗勤務
2000年 福岡本社へ異動 現名誉会長秘書 兼総務6年
2002年 本社機能が東京に移るのを機に東京本社へ異動 秘書兼総務
2008年 広報担当、現在へ