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話題 野菜情報 2023年12月号

おいしくて低価格の浅漬けの秘訣は「自社農園」 ~浅漬けメーカー  サークルツー食品株式会社の取り組み~

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サークルツー食品株式会社 経理部長 白澤 あかね
経理部長

1 はじめに

 サークルツー食品株式会社(以下「当社」という)は、埼玉県鴻巣市において、1979年の創業以来、浅漬けメーカーとして多くの皆さまに愛される商品を作り続けてまいりました(写真1)。現在の本社社員数は36人で、年間の浅漬けの製造量は約400万パック、原料にして1200トンです。
 当社は、2001年頃まで浅漬けの製造・販売業務を主に行っていましたが、食の安全・安心がますます重要になる中で、「安全・安心な商品作り」の必要性を感じ、原料野菜を自社で生産するため、2000年に自社農場「農業法人 仙寿庵」を立ち上げました(写真2)。自社農場は現在、埼玉県の鴻巣市、桶川市、北本市にあり、合計8人の職員が野菜生産に従事しています。浅漬けに欠かせない当社の主力野菜であるはくさいは、自社農場で栽培できない夏場は国内の高地産地から調達していますが、それ以外の季節や品目は、自ら栽培しています。そうすることでより新鮮で安全な野菜を使用した浅漬けを、低価格でご提供できるようにと取り組んできました。

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2 自社農場での野菜生産について

 昨今の世界情勢などをみても諸経費などの高騰は止まらず、また安定した原料の確保も難しくなっています。従来と同水準の商品を供給するために、これまでより多くのコストが必要となることは当面払拭されないと考えられます。今の時世ほどではありませんが、原料などの高騰に備える必要はこれまでも常にあったため、また、品質を落とさずより良い商品を安定的に提供するために、当社は早くから自社農場での原料野菜の生産を始めました。
 当初は鴻巣市と群馬県内に、合わせて約2ヘクタールの小さい農場から始まりました。低価格で商品を提供するためには、自社農場でも低コストで原料野菜を生産する必要があります。それにはまず()場の規模を拡大し、そこでの作業効率を高めるために、農業機械の導入は必須でした。最初はトラクターから始め、徐々に収穫機や播種(はしゅ)機などを導入して規模拡大や労働時間と人員の削減につなげてきました。現在の価格で商品を販売できているのは、自社農場と機械化のおかげであると感じています。今後はにんじんなどの栽培品目の拡大も考えており、それに必要な農業機械を県の補助金などを使って導入する予定です。
 また、規模拡大における圃場の確保は、近隣の耕作放棄地を借りたり買い取ったりして進めてきました。県や市から農地を紹介される場合もあれば、離農した個人の生産者から、圃場の管理を直接依頼される場合もあります。いずれも日頃から地域とのコミュニケーションを図ってきたことが背景にあり、今後も地元とのつながりを大事にしたいと考えています。
 現在の自社農場は約12ヘクタールで、はくさい、だいこん、キャベツ、きゅうり、ブロッコリー、みずななどを栽培しています。播種から収穫まで当社従業員が一括管理し、原料野菜の生産段階から品質管理に責任を持って取り組んでいます(写真3)。

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 また、当社では土壌分析を行い、有機施肥の使用や最低限の消毒回数を心掛け、環境に配慮した循環型農業に取り組んでいます。平成17年にはエコファーマー資格(埼玉県H1710018号)を取得し、土作り、減化学肥料、減農薬の3つの技術に取り組む計画を立て、より安全・安心な野菜生産に励んでいます。
 野菜の作付けは、本社が商品製造とのバランスを見ながら必要数量を決めています。野菜の生育は天候に大きく左右されるため、不作に備えて多めに作付けしますが、同一品目でも、複数の品種を栽培しています。病気に強い品種、収穫時期に応じた品種などを組み合わせて、作期の分散や安定的な収量の確保に努めています。当社の主力野菜であるはくさいは、生育期間が短いミニはくさいのような小さいサイズの品種も作付けて、収穫時期の調整をしています。
 逆に豊作の時などは、地元スーパーの産直コーナーに原体のまま並べたり、品質の高い野菜を仕入れたいという外食チェーンなどに卸したりしています。当社の品質の高い野菜はこのようなニーズにも応えることができ、また大規模農場ならではの低コストを実現しているからこそ、柔軟にそして安定的に対応できています。

3 自社農場で栽培した野菜を使用した浅漬け加工について

 自社栽培野菜を使用することのメリットはいくつかありますが、まずはなんといっても鮮度です。当社は浅漬けメーカーなので、原料野菜の鮮度が商品に大きく影響します。自社農場で採れた野菜は工場に直送しているため、生で食べてもおいしい新鮮な野菜をすぐに加工することで、野菜本来の味や食感が味わえる浅漬けが製造できます(写真4)。鮮度にこだわっているため、農場も工場の近くにあります。
 次に、流通面でのリスクを回避できます。原料を他から調達すると、輸送の遅れが生じた場合、鮮度や製造計画に影響が及びます。その点、当社は自社調達で輸送も自社で行っているため、原料を計画的に工場まで届けることができ、余裕を持った商品製造計画が立てられ、従業員の負担軽減にもつながっています。
 また、漬物などの加工用野菜は、原料を海外から輸入するケースも多いと思います。その場合、昨今の円安といった為替や、不安定な海外情勢に大きく左右されます。当社の原料は自社農場で賄っているため、生産から製造まで比較的安定したコスト設定と供給が実現できています。
 一方で、野菜の市場価格が高いとき、当社の浅漬けの売り上げが伸びるという動きがあります。生の野菜に近い、野菜本来の味や食感を持つ当社の商品が、生野菜の代替えとして購入されていると考えられます。野菜が高値の際、市場調達ではコストも上がってしまいますが、自社農場で栽培した野菜を使用した当社の商品は、安定したコストにより商品の価格も安定しています。さらにこのような需要増の場合には、収穫時期を前倒すなどして迅速に対応できるのも当社の強みであります。
 当社は、他社のプライベートブランドの開発のお手伝いも行っています。栽培品目数が多く、原料野菜の生産量や収穫時期を把握しているため、原料や生産工程を細かく提示できることで、他社の商品開発にも具体的提案ができます。要望があれば、既存の野菜だけでなく、当社の圃場と技術を活用して新規品目を苗から生産することも可能です。

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​4 カット野菜・惣菜事業への参入(株式会社ベジミール)

 昨今の生活様式は大きく変化しています。それは食生活においても同様で、食の簡便化や合理化と同時に、健康志向やおいしさを求める方が増えているのではないかと考えました。そのような消費者の動向から、家族にも独り暮らしの方にも喜ばれるのはどのような商品だろうと考えた時、安全・安心に寄与した、調理のしやすいカット野菜と惣菜の市場が目に留まりました。新規事業への参入ですが、カット野菜も惣菜用の野菜も、浅漬けメーカーとして培ったカット技術のノウハウを生かすことができると考えました。そこで当社は2013年、埼玉県の深谷市に、カット野菜と惣菜の製造・販売会社、株式会社ベジミール(以下「ベジミール」という)を設立しました。浅漬けと同じ自社農場で原料野菜を栽培し、ここでも生産から製造までの一貫体制を構築するなど、浅漬け製造と同様の管理体制で取り組むことができたのは大きな強みでした(写真5)。

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5 今後について

 当社では、焼きいもの製造・販売を始めようと考えています。近年、商品開発についてバイヤーなどと話をしていると、焼きいものニーズが非常に高いと感じるからです。真空パックにした焼きいもを冷凍することで、日持ちもして輸送の問題もないため、将来的には輸出も考えています。現在、当社は海外にも店舗を展開するとんかつチェーンにたくあん漬けを販売しており、その販路を利用して焼きいもを海外へ売り出すことを計画しています。
 近年、排水施設の不備などから経営が続けられず、廃業する漬物メーカーが増加しています。メーカーが減少した分、当社に引き合いが強まっているのは確かですが、そのニーズに応えられるよう、安全・安心な商品を製造し続けるのはもちろんのこと、一層の効率化を図っていく必要があります。当社は、来年1月の稼働を目指し、同じ鴻巣市内に新工場を設立しました(写真6)。ハード面を充実させ、既存の工場より高い処理能力を持つ新工場では、新商品の製造も考えています。それは一次塩蔵加工の工程を省いた、よりフレッシュな漬物です。自社農場で栽培した高品質の野菜を、より生に近い形で商品化することができるほか、1つの工程を省くことで人員の削減や製造時間の短縮につながります。
 工場の処理能力の向上や焼きいも製造に向けたかんしょの栽培に伴い、自社農場の規模も30ヘクタールまで拡大したいと考えています。
 今後も、時代に即した「食」を常に考え、ニーズに沿った開発をし、消費者の健康に寄与するおいしい商品を皆さまの元にお届けできるよう努めていきます。

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白澤 あかね (しらさわ あかね)
サークルツー食品株式会社 経理部長
【略歴】
2000年の入社以来、経理部門を担当し、現在は経理部長としての業務の傍ら、HACCP責任者やPCQI(※)の資格を取得し、より多くの皆さまに求められ、喜んでいただける安全・安心・おいしい商品を食卓にお届けできるよう日夜努めている。

(※)PCQIとは・・・予防管理適格者(Preventive Controls Qualified Individual)のことで、米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)によって義務付けられた「ヒト向け食品に対する予防コントロール」を適切に行う役割。米国に食品を輸出する食品製造事業者に必要な資格でもある。