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話題 野菜情報 2023年11月号

日本の農業をアグレッシブにリフレッシュする ~カゴメアグリフレッシュ株式会社の持続可能な農業ビジネスモデルの構築~

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カゴメアグリフレッシュ株式会社 経営企画部 担当課長 菅 史乃
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1 はじめに

 カゴメアグリフレッシュ株式会社(以下「当社」という)は、トマトやベビーリーフなどの生鮮野菜、苗や土などの家庭園芸商品の仕入れ販売、生産者向けの栽培コンサルティング、および菜園向け資材販売などのアグリサポートを行っています。
 売上規模は100億円ほどで、そのほとんどを生鮮トマト関連事業が占めています。親会社であるカゴメ株式会社(以下「カゴメ」という)において、「生鮮野菜の生産の革新、流通の革新、消費の革新」という3つの革新を目指して1998年から生鮮トマト関連事業を開始し、2020年に意思決定の迅速化などを目的として国内農事業を分社化したのが当社設立の背景です。

 さらに歴史をさかのぼると、カゴメの創業は、農家であった蟹江一太郎(創業者)が明治時代にトマトの栽培を始めたのがきっかけです。農業から始まって120余年、カゴメは、種から、土づくり、栽培、収穫、加工、販売まで自ら携わり、今や7500種ほどのトマト遺伝資源を保有し、日々新しい品種開発も行っています。カゴメが国内外で農からの価値形成にこだわっているのは、農家からスタートした会社だからこその、農業への強い想いが根底にあります。

2 当社の企業ミッション

 「先進的で持続可能な農ビジネスモデルを構築し、日本の農業をアグレッシブにリフレッシュする!」。これは当社の企業ミッションです。農業就労人口の減少、耕作放棄地の増加、食料自給率低下などの社会問題を、最新の科学とテクノロジーを活用した次世代農業で解決することを目指しています。また、野菜の生産から販売まで一気通貫で行っている独自のバリューチェーンで価値創造を図り、「生産者・流通業者・消費者」すべての方々の満足度向上を目指しています。そのために「品種開発力×技術力×調達力×営業力」の強化に努めており、高付加価値化した生鮮野菜や、関連商品の拡充によって、消費者の多様化する健康ニーズに応えていきたいと考えています。
 
 そんな健康ニーズに応える商品として、主力商品の「高リコピントマト」をはじめ、機能性表示食品の「高GABAトマト」や栄養成分豊富な「高β-カロテントマト」「ビタミンCトマト」など、高機能トマトを中心に販売しています。また、「トマトの会社から野菜の会社」になることを長期ビジョンとしている我々は、トマト以外にベビーリーフも生産しています。当社のベビーリーフ「洗わないでそのまま使える国産ベビーリーフミックス」は、緑黄色野菜の幼葉であることから淡色野菜と比べてベータカロテンが豊富です。洗う手間が掛からないため、健康ニーズと併せて簡便ニーズにも応える商品です(写真1)。

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3 環境に配慮し最先端技術を駆使した生鮮トマト栽培

 全国に10カ所以上ある当社のトマト菜園のうち、大型菜園の一つである「いわき小名浜菜園(福島県)」は、およそ東京ドーム2個分の規模です。安全・安心でおいしい生鮮トマトを1年中お届けするために、温室で栽培しています。天井までの高さが5~6メートルにもなるオランダ式のガラス温室は、採光性や換気に優れ、長期間の栽培が可能です。1年間栽培すると、樹の高さは15~20メートルまで成長し、1本の樹から収穫できるトマトは、150~200個ほどになります(写真2)。

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 大型菜園では、養分を含んだ水で育てる「養液栽培」を採用しています。トマトの状態に合わせて必要成分を調整し、年間を通して品質のバラつきを少なくするために、天候により給液量などをコンピューターで管理しています。温室内外の温湿度・日射量・風向・風速をモニタリングし、天窓換気、温湯暖房、遮光カーテン、細霧によってトマトに適した環境になるようにコントロールしています(写真3)。

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 栽培に適切な温度を保つための暖房に使う熱源には、環境に優しいLPガスを使用しています。燃焼時に発生するCO2を回収して、トマトの生育に必要な光合成に有効利用しています。また、「響灘ひびきなだ菜園(福岡県)」では、近隣の陸上風力や、大規模太陽光発電所から一部電力を受電するなど、自然エネルギーを積極的に活用し、使用するLPガス自体を削減し、化石燃料の使用量低減にも取り組んでいます。
 さらに、「八ヶ岳みらい菜園(長野県)」と隣接するカゴメ富士見工場では、工場の排出CO2および排熱を、菜園のトマトの光合成や温度管理に活用しています。また、菜園と工場で発生する植物性残渣を基に発生させたバイオメタンガスを、再生可能エネルギーとして、工場における野菜飲料の加熱・殺菌工程で使用しています(図)。


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 トマト栽培で発生するトマトの葉や茎などは、廃棄せず自社処理施設にて堆肥にしています。響灘菜園では、毎年発生するトマトの葉に、コーヒーかすを混ぜて堆肥化を促進しています。このように効率的に有効利用することで、トマトの葉などの廃棄量を年間2500トンから250トンにまで削減しています。また、最小限の水で生産できるトマト栽培システムの開発のほか、ハウスの屋根に降った雨水を収集・貯水し、(かん)(すい)に利用しています。さらに、前述の八ヶ岳みらい菜園と富士見工場では、富士見町内の(にゅう)(かさ)(やま)を水源とする井戸水を使用しており、カゴメグループでは2015年から、当該区域の約150ヘクタールを「カゴメの森」と命名し、水源涵養林の保全に努めるなど、水資源の有効利用や保全活動を通じて、資源循環型農業に取り組んでいます(写真4)。

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 トマトを栽培する上で、必要最低限の農薬は使用しますが、生態系を崩さないための当社のこだわりがあります。化学化合農薬の使用を抑えるために、外部からの虫の侵入防止や、虫の発生状況を毎日モニタリングして早期対応しています。さらに害虫の天敵を導入したり、微生物防除剤や電解水を利用するなど、生き物と共生する農業を目指しています。

4 収量予測システムについて

 当社では、農業とテクノロジーを組み合わせる「アグリテック」に取り組んでいます。昨年、AIや機械学習技術を専門とする株式会社エイゾスと共同で、AIを活用した生鮮トマトの収量予測システムを開発・導入しました。従来、担当者の経験や感覚に依存していた収量予測を、AIの活用によりその精度を高めることで、小売店などへの安定供給を可能にするものです。予測と実際の収量にブレが生じると、販売計画に影響し、欠品や廃棄につながってしまうなどの問題があり、食品ロス削減といった面でも、予測の精度を高めることが喫緊の課題となっていました。今回のシステムでは、予測精度の担保には一定量の過去データが必要であるため、データ蓄積の多い菜園から導入を進めてきました。今後は、1年分の新しいデータが蓄積された時点でシステム学習を検討し、導入菜園を増やすとともに、予測精度をさらに高めていく予定です。

 また、食品ロス削減の取り組みは収量予測システムによるものだけでなく、産官学連携でも行っています。響灘菜園で発生する、食べられるのに表面の傷などで店頭に並ぶことのないトマトを有効活用したレトルトカレーを、北九州市、九州栄養福祉大学、西日本工業大学などと共同で開発しました。「トマトのおんがえしカレー」(写真5)として、今年5月に福岡県内外で展開するスーパーで発売しました。その後、小売業からの引き合いもあったことから販路を拡大する予定で、現在も、収益の一部を活用して同カレーを北九州市内の子ども食堂に無償配布する活動も行っています。

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5 アグリサポート事業について

 国内におけるトマトの作付面積は、1980年をピークに減少傾向にあり、その要因の一つに担い手の減少が挙げられます。
 過去、一定の規模で企業の農業参入が進んだ一方で、大規模施設園芸の経営の安定化のためには、栽培技術、経営ノウハウ、販売先の開拓などが大きな課題となっています。
 カゴメグループがこれまでの経験で培った「菜園開発力・栽培技術力・菜園運営力」を通じて、生鮮トマト生産者が抱える課題を解決することを目的に、計画策定、施工管理、栽培技術、菜園経営などのコンサルティングおよび温室向けの資材販売を行っています。現在は、当社の生鮮トマトの契約菜園を対象にしていますが、将来的には契約菜園に限らず、コンサルティングや資材調達サポートを行うことも視野に入れています。カゴメ創業以来、農業に関わり続けることで得たノウハウを活用し、農業の成長産業化、地方創生に貢献していきます。

6 家庭用園芸事業について

 家庭でも手軽に野菜栽培を楽しんで頂きたいという想いから、家庭用園芸事業も展開しています。野菜を栽培する、収穫する、収穫した野菜を調理するといった一連の 「植育」 体験は、自然や食への知的好奇心や感謝の気持ちを育み、私たちの心と体を豊かにするさまざまな可能性を秘めています。「植育」を通して感じる喜びが、食への関心を培い、生きる力を養う「食育」の始まりとの考えから、「植育からはじまる食育」を掲げています。
 色・大きさの違い、うす皮、高リコピンなど個性豊かなトマト苗のほか、ミニパプリカ、なす、芽キャベツなどの幅広い品種を、主にホームセンターを通じて販売しています。また、ヤシ繊維100%の培養土は大変軽く、肥料も配合済みで、水やりだけで手軽にトマトが育てられ、栽培後は燃えるごみ(自治体によって異なる場合があります)として捨てることができます(写真6)。

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 カゴメグループでは、2019年4月に野菜の収穫体験、食や地域の魅力を体験できる施設として、長野県富士見町に「カゴメ野菜生活ファーム富士見」を開業しました(写真7)。体験型のイベントを通じて生活者との接点を広げると共に、「植育からはじまる食育」の取り組みを続けています。
 また、豊かな植育体験をサポートするツールとして、トマト栽培のWEBコミュニティ「トマコミ (https://and.kagome.co.jp/tomacomi)」、栽培支援アプリ「トマサポ」も展開しています。「トマコミ」では、トマトを育てている方同士が、「花が咲いたこと」「実が赤くなったこと」「収穫しておいしく料理したこと」などを気軽に対話したり、写真を投稿したりして楽しんで頂いています。「トマサポ」では、トマト栽培が初めての方でも安心して育てて頂けるよう、栽培のコツを分かりやすくお伝えしています。

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7 おわりに

 燃料・肥料をはじめとする各種の生産資材コスト上昇により、2024年計画の当社原価は、21年対比で約2割上昇しています。バリューチェーン全体でコスト削減を積み上げ、燃料費などの補助金を活用しているものの、加工食品とは異なり小売価格に転嫁しにくい農作物(生鮮野菜)においては、原価上昇分の多くを生産側が負担する構造にあります。当社同様、他の生産者も厳しい局面に置かれていると思われます。食料安全保障の観点から、国内農業の重要性が高まっている一方、このままでは離農が加速するのではと危惧しています。当社としても高付加価値の生鮮野菜の売上比率を高めるなどの取り組みを継続していますが、生鮮野菜における適切な価格転嫁を促すための仕組み作りを、官民一体となって構築していきたいと考えています。
 また、AI収量予測システムの事例の通り、技術革新においては異業種との協業が鍵となり、今後は持続可能な地球環境の実現に向けて、業界を超えた未利用熱の有効利用や、CO2排出源に好適な回収技術の開発・実装化など、熱およびCO2管理の向上にアグリテックの重要性が高まってきます。
 持続可能な農業ビジネスモデル構築を加速させるために、これからも異業種の皆さまとの協業を幅広く探索していきたいと考えています。

菅 史乃(すが ふみの)
カゴメアグリフレッシュ株式会社 経営企画部 担当課長
【略歴】
1997年 カゴメ株式会社入社後、営業・企画・自治体や異業種との連携による食育活動・広報などを担当
2014年 メディアコミュニケーション部 広報グループ課長
2022年 より現職